『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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人間-ころせぬもの-
前書き
人を殺す。
魔物を殺す。
生き物を殺すことに線引きは必要だろうか?
俺は俺に対して殺意を持った人間を、殺せるだろうか?
翌日のこと。
起きるなり武蔵ちゃんは着替えており、俺は叩き起された。
まだ外は薄暗く、朝靄がかかっている。
デジタル時計に目をやるとまだ5時だった。
一体なんなんだと思うと
「稽古しましょう。」
とだけ言い、1人だけさっさと外に出ていく武蔵ちゃん。
まるで何かを忘れたいとでも言いたげな…。
ああ、そうだった。
「…。」
何も着ていない自分の身体を見て思い出す。
俺は昨日、武蔵ちゃんを抱いた。
身体の温もり、そして膣内の感触は今でも思い出せる。
だめだ…昨日のことを思い出すとまた勃ってきてしまう。
だが、身体が軽い。
溜まっていた重いものがなくなったかのように、軽い。
気分もなんだか清々しい。稽古にはうってつけの絶好調な体調だ。
よし、早く着替えて向かうとしよう。
⚫
「だいぶキレも良くなってきたわね。」
昨日のことを忘れたワケじゃない。
酔ってはいたけど、あの事は鮮明に覚えている。
あと
「ところでさ…武蔵ちゃん。」
「ん、なに?稽古中に無駄口叩かないの。」
「いや…いつ、着替えたんだろうなって…。」
大和くんとの魔力供給を済ませた後、私の霊基に異変が起きていた。
まず見た目。
パワーアップしたというか、分かりやすくいえば第一再臨のものから第二再臨のものに変わったこと。
朝起きて着替えたらこの格好になってた。理屈は分からない。
それと
「別にそんなことどうでもいいでしょ?にしても…そんなこと聞けるくらい余裕が出てきたってカンジ?」
「あ、あぁいやそうじゃなく…。」
「じゃあ霊基も変わったことですし、"もう一本"追加といたしましょう。」
身体が軽い。
目覚めもスッキリだし、今なら何でも斬れそうな気さえしてくる。
大和くんと魔力供給したから?彼の魔力が身体に入ったから?
いやいやいやいや!そんなの有り得ないから!
するたび強くなる?おかしくて笑えてくるし呆れてくる。
「今回から、両手で相手してあげます。」
さて、万全の状態かつ絶好調な私は機嫌がいいので両手を使うことにした。
今までの稽古は大和くんが私に一本でも取れたら勝ちというもの。
しかし私が動かしていいのは腕一本というハンデ付き。
けど、大和くん自身もイイ感じになってきたし、ここはついに二刀流を解禁。
霊基も改まってるし、ちょうどいいでしょう。
「…ッ!」
大和くんが歯を食いしばり、赤く光る刀を握る。
「いいのよ?別に鎚矛使っても。」
木に立てかけてある鞘変わりのそれに目をやるが、彼は断固として首を横に振った。
「そんなの…ズルになるだろ。」
「生きるためならズルでも何でもいいと思うけど、ね!」
かまえている大和くんに踏み込む。
ごめん。脚は動かさない約束だけど身体がうずうずして仕方がないの。
「そっ、それは…ッ!?」
咄嗟の判断で、振り下ろされた二刀を受け止める。
静かな早朝に金属同士がぶつかった弟が反響し、火花が散る。
「大丈夫大丈夫!大和くんなら平気ですって!」
「平気じゃないし…それに今本気で取りに来ただろ…!!」
「バレたか。」
刀を弾き、大和くんはかまえ直す。
刃にはバチバチと小さく電撃が迸り、彼も本気で行くということが窺えた。
「じゃあやってやる…!そっちがその気なら…こっちも本気で一本取りに行くからな…!!」
「ふん…望むところ。」
⚫
場所は戻り、ホテルの中。
「いった…。」
全身打撲痕だらけの俺はシャワーを浴びた後、痛む身体に顔をしかめながら朝食を頂いていた。
要は、完膚無きまでにやられた。
「いやー気分がいいわね!これでうどんが食べられれば文句ナシなんだけど!!」
晴れやかな笑顔で白米を頬張るのは武蔵ちゃん。
両手を使い始めた彼女はあまりの速さにこちらは手も足も出ず、防戦一方だった。
やがて疲れから防御も間に合わなくなり、こうして峰打ちでボコボコにされたわけだ。
「でも、悪くなかったわね。」
「何が?」
「太刀筋。それに身体の動かし方。前は無駄が多かったのに今じゃ見違えました。」
「そりゃどうも。」
敗者の朝ご飯である乾パンを口に放り投げ、俺の質素な朝食は終了し、立ち上がる。
「次はどうするの?」
「ああ、実は仕事をしていく上で、欲しいものがあってさ。」
「欲しいもの?」
届け物をする俺の仕事。
名前が無いのもあれだからと言われ、武蔵ちゃんからは『竜胆急便』という企業名をつけてもらった。
それで宅配業をやっていく上で無視できないのが
「"足"だよ。」
「足?」
「乗り物。車とかさ。そういうのがあればより大きいものも届けられるし、より遠くへ行ける。」
業務の内容上、やはり徒歩では厳しいものがある。
修行にはなるかもしれないが、あくまで第一目的は人にモノを届けることだ。
だから足が欲しい。
この崩壊世界で法律は機能しているか知らないが、免許は持ってるし車は運転できる。
後は、その乗り物を探すだけだが…
「乗り物…ねぇ。アテがあるかも?」
「え?」
武蔵ちゃんが急にそんなことを言い出した。
まさか知り合いにそれに詳しい者でもいるのかと思ったが、
「前にあの人が言ってたじゃない?この前レオナルド・ダ・ヴィンチを名乗る女性に会ったって。」
「ああ、そうだけど。」
前回の依頼、人らしいものが入ったバックを運んだ時の依頼主が言っていたことだ。
確かにそれが本当にダ・ヴィンチなら、車の1台や2台、何かしら魔改造してるかもしれないがあるハズだ。
とすると、
「じゃあ…。」
「探しに行きましょ?そのダ・ヴィンチさんとやらをね。」
⚫
ホテルを出発し、また俺達の旅は始まる。
始まるのだが、
「これはマズイ…!刀じゃ分が悪すぎるかもね!!」
大変なことになった。
異常に成長した大木の根が地面を覆い尽くす熱帯雨林をしばらく歩いていると、そこに住まうモンスターに遭遇した。
翅刃虫。
こいつもまたFGOにて登場する敵であり、その歯はすさまじいものであり、猛牛の骨すら噛み砕くとの事。
つまり、一撃でも喰らえばひとたまりもない。
周囲に散乱している、"何か"に食い荒らされたであろう死体を見た時点でここは引き下がるべきだったんだろう。
そして一番の難問は、俺たちの持つ武器だ。
「これじゃキリがない!武蔵ちゃん!なんとかならないのか!」
「ならない!時間はかかるけど一匹一匹斬っていくしかないんじゃない!?」
俺と武蔵ちゃん、二人の武器は刀。
対する翅刃虫は群れで行動し、何より的が小さい。
刀を振るい、二、三匹を落としたとて彼らにはなんのダメージにもならない。
そして素早く、簡単に攻撃を避けられる。
これではジリ貧でこちらが追い込まれるのは時間の問題。
メイスもダメだ。
威力はでかいが素早さは落ち、嘲笑うかのように避けられる。
そう、"点"ではなく、"面"で攻められるものがあれば…!
「やぁッ!!」
武蔵ちゃんが飛び上がり、身体を回転させ周囲に群がった翅刃虫を切り刻むもそれは数匹で、ほとんどは散り散りになりまた集結する。
何かないか、何かないかと必死に考えを巡らせるが…。
「あった…!」
ふと、死体に目がいった。
ボロボロだがおそらく制服からかろうじて警察官だったであろう面影がある。
そして、手に握られているのは拳銃。
これだ。
「武蔵ちゃん!」
「なにか思いついたの!?」
「ああ!少し時間を稼いで欲しい!!」
そういい、翅刃虫の追跡を振り切って俺は死体から拳銃を拝借。
「刀も、メイスも生み出したんだ。ならこいつもいけるはず!」
銃をかまえた手に力を込める。
すると赤い稲妻が迸り、次第にそれは拳銃を包み込む。
拳銃は姿を変えていく。
銃身は長くなり、重くずっしりとしたメタリックなもの。
しかし銃は銃のまま、俺が変えさせたのは
「こいつでどうだ!!」
生まれ変わった銃から、弾丸が放たれる。
それは一定距離を進むと、バラバラになり翅刃虫に襲いかかった。
そう、その銃は
「散弾銃!」
そう、ショットガンだ。
「これで蹴散らす!武蔵ちゃんは避けてくれ!! 」
トリガーを引けば、電撃が迸り弾丸が放たれる。
真っ赤な弾丸はあれだけ苦戦した翅刃虫を次々と落としていった。
そして流れ弾は
「こんなの避けろって無理な話だけど、私にはなんの問題もなし!!」
防ぐ。
武蔵ちゃんは刀で弾き、またはアクロバティックな動きで避け見事にかわしていく。
やがて銃声が何十発も森の中で響き、約十分。
「…終わった…?」
「みたいね。」
銃口から立ち上る紫煙。
熱くなった銃身。
狙うものが無くなり、静寂に包まれる森、
そう、
翅刃虫は一匹もいなくなった。
「とりあえず、一安心かな。」
「にしてもやるじゃない!大和くん!」
「え」
敵がいなくなったことを確認し、武器をしまうと武蔵ちゃんが腕を組んでくる。
「まさか今度は銃を生み出すなんてね!私はてっきり火炎放射器とかそんなんでなんとかするのかと思ったけど!」
「さ、さすがにそれはしないよ。でもいいのかなーって。」
「何が?」
俺が最初に生み出したのは刀。そして次にメイス。
自分の中にある、カッコイイなと思ったものを無意識に選択していった結果だがショットガンは…
「銃だけどいいのだろうかってさ。」
「別にいいんじゃない?」
お師匠様は寛大でした。
「生き残るためだったら何したっていいじゃない。それこそズルは必要よ?」
「生き残るためなら…か。」
第3の武器となったショットガンを眺める。
木々の合間から差す日の光に反射し、黒光りする銃身。
こうして刀、メイス、そして銃と3種類の武器が揃ったわけだ。
どこかしら満足感みたいな物も感じてたりする。
「ところでさ、大和くん。」
「?」
落ち着いたところで、武蔵ちゃんは唐突に話しかけてきた。
「昨日は…どうだった?」
「!?」
予想外のことを聞かれ銃を落としそうになるも、なんとか掴む。
昨日のこととは、つまり
「え、魔力…供給のこと、だよね?」
「…。」
黙ったまま、こくりと頷いた。
昨夜の事を忘れたいかのように稽古に付き合ってたけど、実の所彼女自身はどう思っているのか、
「それは…良かったと言うか…初めてが武蔵ちゃんで幸せ者だなぁって思えたし…それに気持ちよかったよ!ホント!」
出任せに俺は何を言ってるんだろうか。
「そう…なのね。」
「あ、あぁ、うん。」
ほら引かれた。
と思ったが、この後も武蔵ちゃんは言葉を続け
「その…またシたいとか思ったら、遠慮なく言ってよね?」
「え?」
また、予想もしないことを言う。
「大和くんの行き場の無い性欲を発散させてあげるのも、サーヴァントであり師匠である私の役目かなーって思ってさ。」
「む、武蔵ちゃん…それって…。」
「ち、違うのよ!?わたしがシたいとかそういう意味合いじゃなくてですね!!そう!仕方なく!仕方なーく大和くんに付き合ってあげるだけ!別に気持ちよかったからまたシたいとか!恋人同士だから肌を重ね合わせて大和くんの温もりを感じたいとか!決して!そんなんじゃ!ありませんから!!」
と、余計なことを口走りつつ武蔵ちゃんは念を押して言った。
顔を赤くし必死に言い訳する彼女は、いつもと違ってとても可愛く見えた。
「な、何ニヤついてんの!」
「いやごめん…つい。」
可愛いなんて言ったら怒られそうだし次の稽古も厳しくされそうだからやめておく。
で、そうやって二人で静かになった森で楽しくイチャついていた時だ。
「おうおう、お熱いねぇお二人さん。」
「…?」
木の影から何者かが現れる。
1人だけじゃない。2人、3人…
続々と現れ、数は10人以上にもなった。
「誰…?」
嫌な予感がし、刀に手をかけると武蔵ちゃんは問答無用で刀を抜く
「なぁに、命までは取らないさ。ただ俺達は人探しをしていてね。」
皆同じような白を基調とした迷彩服に、手にはマシンガンらしきもの。
ニヤけた顔にこの雰囲気、ただものじゃない。
「人探し?」
「そう、あんたのような強いやつを探してんのさ。サーヴァント、って言うのかい?」
指さした先には武蔵ちゃん。
それにコイツらは…サーヴァントを知っている…?
「へぇ…話だけは聞きましょうか?」
怪しい雰囲気満載だが、武蔵ちゃんは臆することなく彼らと対話を試みる。
強いやつをさがしてる。そう言ってはいたがどういう目的なのだろうか。
「なに、カンタンな事さ。アンタが俺達の本部まで来てくれさえすりゃいい。んで、マスターのお前は俺達にサーヴァントの所有権を渡せば済む。ほら、カンタンな話だろ?」
「大和くん…。」
「ああ…。」
さも当たり前のことのように言っているが、
要はこいつら、人のサーヴァントが欲しいだけじゃないだろうか?
「サーヴァントを渡してくれさえすりゃ、俺達は何もしない。それに見返りとして多額の報酬金も出す。ほら、コレだ。」
そういい、話していた男が隣りの部下らしき隊員を顎で使い、部下は俺達に向かってアタッシューケースを投げた。
「こんな世の中だ。金は何かと必要だろ?ほら、お前がそれを取れば契約成立だ。賢いやつはみんなそうして来たぜ?後は…分かるよな。」
「ああ、分かるとも。」
こいつらは、だめだ。
「お前達がただの悪党ってことはな!!」
鞘ごと振り抜き、そのままメイスを振り下ろして地面に投げ捨てられたアタッシューケースを粉砕する。
「なっ…!」
「こいつ…!!」
衝撃で舞い上がる何百枚もの札束。
しかしこんなものに興味はない。
ただ、
「悪いな…こんな"はした金"で買えるほど、俺の武蔵は安くはないんだ。」
散っていくお札の枚数からとんでもない値段ということは分かる。
しかしいくら積まれたとて、武蔵ちゃんは渡せない。
「野郎!後悔させてやる!!」
奴らが一斉にマシンガンをかまえ、火を吹く。
短い間隔で連続して響く発砲音。
俺と武蔵ちゃんに襲いかかる、何百もの鉛玉。
だがこの程度
「大和くん!!」
「ああ!斬り伏せる!!」
遅い。
弾丸の隙間をくぐり抜け、2人は走る。
確かに弾丸は速い。
しかしこれくらいなら武蔵ちゃんの剣さばきの方がずっと速い。
「修行の成果…かもな!!」
「じゃあ感謝してね!出来れば気持ちじゃなく物で!!」
メイスから刀を引き抜き、避けられない弾丸は瞬時に真っ二つにする。
武蔵ちゃんもそうだ。
必要最低限の動きでかわし、両手の二刀で弾き、斬っていく。
「こいつ…速」
「ッ!」
一気に懐に飛び込み、すれ違いざまに銃を斬り裂いて無力化。
ついでに隣にいた者の銃も斬っていく。
「なんだこいつ!?マスターは弱いんじゃないのか!!」
「生憎俺は、少し特殊なマスターなんでね!!」
空中で身を翻し、離れた奴のところへ着地すると銃口からを蹴り上げ、峰打ちで戦闘不能にする。
そして、一方武蔵ちゃんは
「遅い!!」
容赦なく斬る。
銃を持っているならそれを持つ腕ごとはね飛ばし、襲い来るのなら胴を斬り裂く。
数秒と経たないうちに、物言わぬ死体をそこらに転がしていった。
「ダメだ!!やっぱサーヴァントには適わねぇ!!」
「近づけなきゃ洗脳薬も飲ませられねぇ!撤退だ!!ただちに撤退だ!!」
生き残った奴らは脅え、慌てながらもどこかへと逃げ去っていく。
終わった。だがあいつらはなんなんだ?
それと
「…っ!」
武蔵ちゃんが斬った死体。
それを見ると、吐き気が込み上げ思わずその場で戻しそうになる。
「大丈夫?」
それを心配して武蔵ちゃんが近寄るが、手を振って問題ないという意思を伝え、込み上げてきたものをグッと抑え込んだ。
「人を…斬る…。」
初めて人を斬った時のことを思い出す。
あの時は必死だったけど、感触は鮮明に思い出せた。
肉を裂いていく手応え、ほとばしる鮮血。
ゲームやネットではそう見れない、リアルな死。
俺は人の死が怖い。
いや、自分が人を殺しているという実感が怖い。
だからさっきも、無意識で人を殺さずあくまで無力化したんだ。
「ホントに大丈夫?なんだか顔色悪いけど?」
「大丈夫…本当に、心配ないよ。」
しかし、彼女は顔色1つ変えず斬った。
人を殺すことに、躊躇しなかった。
いや、それはそれと割り切っているのかもしれない。
「…。」
でも…俺は…。
魔物やそういったものは斬れるのに、人となると斬れなくなる。
いつか俺に対し殺意を持った人間が現れたとして、
俺はそれをどうできるのだろうか。
後書き
人を殺すことはいいことか、悪いことか、
それが彼のこれからの悩みとなります。
そして次回からはほかの作者様方とコラボしていく予定です。
ハーメルンでの連載をご存知の方はこの後ダレとコラボするかは知っているかもしれません。
では、次回もお楽しみに。
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