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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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なんにせよあたしは 旧友から託される

「葵…そうだよな!葵だよな!!」
「葵様…彼は一体…」

親しげに話しかけてくるアヴィケブロンのマスターに紫式部は不審感を覚える。
だけど安心して欲しい。

「大丈夫だよ紫式部。あいつは宮本、あたしの高校の友達。」
「宮本様…もしかして葵様にげえむを教えてくださったあの…?」

香子には少し前、宮本のことを説明してはいる。
そして紹介された宮本はというと

「もしかしてその紫式部…葵の?」
「うん、まぁ。」
「やべぇ!てかそうなるよな!お前紫式部にかなり入れ込んでたし!!」

終始ハイテンション。
彼は昔からそうだったなぁと一種の懐かしさすら感じる。
でも、

「でも宮本、どうしてここにいるのさ?」
「どうしてって…あーそうだな。卒業して俺東京行ったんだもんな。」

確か彼は高校卒業後、家業である建築関係の仕事を継ぐための勉強として1人東京へと引っ越した。
本来なら横浜には居ないはずなのだが

「いやぁ、こうして世界ヤバくなったじゃん?だったら地元に戻ろうかなーって。」

幸い、友達も同じ考えの持ち主だったみたいだし!と笑い飛ばす。

「偶然先生の召喚も成功して、ゴーレムを駆使してなんとかここまで戻ってこれたんだけどさ…見たか?住宅街?」
「いや、全然。」

宮本いわく、かつてあたし達が住んでいた所は凄惨なものとなっていたという。
家は跡形もなく崩れ去り、そこら中に人の死体が転がっている。
複数の小型ゴーレムを使役して瓦礫の隅々まで探したが、"生存者"はいなかった。

「じゃあ今住宅街は…」
「そこんとこは平気だよ。野晒しなのも可哀想だし、化けて出てこられても困るから死体はみーんな供養した。」

確かにこの世界だ。
化けて出たりグールとなって徘徊し始めてもおかしくない。

「そんなこんなで立ち話もあれだしさ、良かったら俺と先生の工房(ラボ)行かね?」
「ら、らぼですか…?」
「そ。歩けば20分以上かかるけど…先生、ゴーレムお願いします!」

宮本がそういうとアヴィケブロンがゴーレムを作り出す。
人型ではなく四足歩行型の、獣のようなゴーレムだ。

「乗り心地は良いものでは無いが速さは保証しよう。五分以内で着くさ。」
「どうだいお二人さん。お茶くらいは出すぜ。」

確かに、歩き詰めで多少は疲れている。
この図書館の掃除は後にするとして、今は宮本の好意に存分に甘えるとしよう。



それから、ゴーレムに揺られること二、三分。

「着いたぜ。ここが俺と先生の魔術工房…もといラボだ。」

四角い無骨な建物に案内される。

入口にはさらに頑丈そうな2体のゴーレムが警備しており、そう簡単には侵入できないことは嫌でもわかった。

「元はスーパーでさ、そんで改造した。」
「改造…ね。」

門番ゴーレムが守る自動ドアをくぐり、中へと案内される。
そこはもう、言われなければ元はスーパーでしたと気付かない程の魔改造っぷりだった。

「なにこれ…。」
「すげーだろ!これぞTHE男のロマンって感じだろ?」

男のロマンってあたしは男ではないからよく分からないけど。

広いスーパーの内部は薄暗いが、何かしらの機械の駆動音や明かりがついており、さながら秘密基地のようだ。
そしていくつかの部屋に区切られており、それぞれ各自室、研究部屋、制作部屋、趣味の部屋など様々な部屋がある。

「相変わらずだね宮本。」

あといたるところに飾られている、模型の数々。
戦闘機、ロボット、城、果てはザリガニのプラモデルまで、
学生時代から彼は無類の模型好きであり、過去に彼の家に遊びに行った時もガラスケースにたくさん飾られていたことを思い出した。

「模型というのは言わば現代のゴーレムだ。バン〇イ…コト〇キヤ…ア〇シマ…そういった企業からは様々なモノを学ばせてもらったよ。」

そして彼のサーヴァントも、見事に模型にハマったらしい。

「じゃあ先生!今度是非ゲッターゴーレムなるものを…!」
「それはダメだ。ゴーレムの3体合体はまだ成功した試しがないし、まずは72体のゴーレム・フレームから片付けるべきだ。」

と、2人で何やらアツく語り合っている。
ゴーレムについてはてんでわからないので完璧に置いてけぼりだ。

「あの、宮本さ…。」
「あ、悪い!とりあえず適当に寛いでてな。」
「…。」

ロボット談義、と言うのだろうか。
2人は今後どういったゴーレムを作るか、真剣かつ熱心に話し合っている。

「何を…話しておられるのでしょうね?」
「わかんない。」

専門用語がなんかいっぱい出てくるので途中で聞くのをやめた。
ともかく適当に寛いでてくれと言われたので2人が落ち着くまでそうさせてもらうとしよう。

「…。」

ちょうど本棚が目に留まり、読書でもしようかと思う。
なのだがどうやら全て漫画本のようだ。
小説は読むが漫画には疎い。流行りの漫画もよく分からない。
けど

「やがて君になる…citrus…ってなにこれ。」

背表紙に書かれているタイトルを読み上げ、手に取る。
恋愛漫画だろうか。だとしたらあいつには似合わない気もするが。

「あ、おい!!待て!!!」
「え?なんだよ。」

あたしがその漫画を開こうとした時、それに気付いた宮本が止めに入った。

「それはだめだ、それは読んではいけない。」
「なんで…?あ!分かった!やっぱお前も男子だもんなー」
「うん。そ、そう!そうなんだよ!めっちゃエロいやつだからさ!読まない方がいいぜ!!ほら!!」

昔のようにからかってやったら案外素直にそれを認めた。
なんだ、もっと慌てるかと思ったのに。

「長旅で疲れてるだろ?ほら!シャワーでも浴びてこいよ!!」
「いや、そこまで疲れては」
「いいからいいから!そんな本読むより入ってこいよ!式部さんと一緒に!」

と、風呂場への道を教えてもらい、2人分のバスタオルを投げ渡され、部屋を強引に追い出された、

「なんだよ…余程読まれたくないものなのかよ…。」

だったら隠しとけって言いたいが、

「香子…どうする?」
「確かに歩き詰めで疲れていましたからね、折角なので入りましょうか、」

教えてもらった通り、廊下を歩いていく。
なんであんな風にしたのかはもうこの際どうでもいいや。
男だもん。えっちな漫画の一つや二つ読むもんな。




「…行ったな。」

場所は変わりラボにて。
扉に耳を当て、2人が風呂場に言ったことを確認すると宮本はふぅ、と安堵のため息をついた。

「マスター、一体どうしたんだい。」
「どうしたもなにも…いやーやばかった。先生、今度可動式の隠せる本棚作りましょうよ。」
「隠すとは…あのマスターの趣味で集められた漫画の事かい?」

アヴィケブロンは先程葵が手に取ろうとした漫画本を指さす。

「ええ、俺がそういうの好きってバレちゃ困るんで。しかし葵…まさかマジだったとはな…!俺の目に狂いはなかったワケだ…!」
「…。」

何やら独り合点しているマスターにアヴィケブロンは訳が分からず、首をかしげている。

「はて、どういうことだろう。」




それから

葵達が風呂から上がるとあの本棚は消えていた。
気になって「あそこにあった本棚は?」と聞いたが彼は適当な事を言うばかりだった。
さらに時は過ぎ、夕刻

「葵はさ、あの図書館で何しようとしてたんだよ?」

夕飯まで頂くことになり、食べながら2人は話をすることにした。

「何って…図書館経営。それと本を書く。」
「なるほど…読書好きだったもんな、お前。」

見た目は全然文学少女じゃねーのにと余計なことを付け足された。

「宮本は?」
「俺?俺はここを拠点にして先生とゴーレムの販売をやろうとしてる。」
「へー。」

このスーパーを改造して作られたここはいわばゴーレムの製造工場。
今はまだ販売していないものの、実験と試作を重ねてよりよいゴーレムを作り出し、売っていくとかなんとか。

「俺さ、見たんだ。色んなところで復旧作業してる人達。」
「うん。あたしも見た。」

田所先輩とこんちゃんの町のことを思い出す。
あそこも最初は人手が足らなかったり、現状を維持するので精一杯だった小さな集落だった。

「そんな人手不足とか、人間じゃ難しい仕事を助けるゴーレムを作るんだ。」
「工業用ゴーレムならとうに出来ていてね。そろそろ近くの集落に売り込もうと企画している。」

とまぁ、宮本のやりたいことは簡単に言えば人助けだ。
お手伝いゴーレムを作り、この崩壊した世界で困っている人達の助けとなりたい。とのことだ。

「いいね、2人の事本にしていい?」
「本…?」
「うん。この世界で生きてるサーヴァントとマスターを書き記して本にするのがあたしのやりたいこと。ある意味偉人たちの伝記だね。」
「なるほど…。」

うんうんと頷く宮本。
すると、彼は急に立ち上がり、

「じゃあそんな葵に礼だ、ついてきてくれ。」
「は?」

宮本とアヴィケブロンが立ち上がり、付いてくるよう促す。
まだ食べ終わってはいないが仕方ない。2人について行くことにした。

「どうしたのさ、宮本。」
「見せたいもんがある。」

そういい実験室の一つの部屋に辿り着いた。
カードキーをスキャンし、パスワードを解除し、さらに声帯や虹彩認証、やたらと厳重なその扉をくぐり、ついにその部屋へと入る。

そこには

「な、なにこれ…人?」

厳重に閉ざされていた部屋の中には数人の人が。
皆給仕の服…いわゆるメイド服を着せられており目を閉じている。
まさかこれは…人間?

「違うよ。ゴーレムだ。」
「ご、ごおれむ?これが?」

ゴーレムと言えばごつくて、岩の巨人というイメージがある。
だが目の前にある"これ"はなんだ?
全然ごつくない。スマートだし、肌の色も人間のものとほぼ変わりない。

「マスターの要望にお答えし、多額の資金を費やし、実験に実験を重ねてようやく完成に至ったメイド型ゴーレムだ。まだプロトタイプだがね。」
「な、なるほど…。」

これがゴーレムなのはわかった。
でもまだ、あたしがここに連れてこられた意味が分からない。

「なぁ、宮本。これをあたしに見せてどうすんのさ。」
「やる、お前に。」
「…は?」

今、やるって言った?

「い、いやいやいや!だってこれ作るのにお金も時間も滅茶苦茶かかってるってさっき!」
「それがどうしたよ。あげるって。」

それがどうしたで済まされる問題ではない。

「それに葵さ、あの図書館式部さんと2人で片付けるつもりだったろ?」
「まぁ…そうだけど」
「だぅたらやるよ。このゴーレム、見た目とは裏腹にパワーもある。スピードもある。図書館にメイド、いいじゃない。」

と、あたしにここメイドゴーレムをあげることを絶対に諦めない宮本。
なぜそこまでして渡したいのか、さすがにあたしは疑問に思った。

「どうして?」
「?」
「どうしてって聞いてんの。家には招く風呂は貸してくれる夕飯もご馳走になって挙句の果てにはゴーレムもくれる。なんでそこまでするの?」
「なんでって…まぁ。」

頬をかき、そっぽを向く宮本。
やがて照れくさそうにしながら、こう言った。

「友達…だろ?」
「…は?」

友達。
たったそれだけで、ここまでしてくれたっていうのだろうか。

「確かに他にも友達はいるよ。いや…"いた"って言った方が正しいだろうな。」

"いた"ということは、そういうことだろう。
それに関しては何も聞かないことにした。

「こうやってお前が生きてて良かった。そんでやりたい事あるなら、俺が出来るだけ手助けしてやりたいって思ったのさ。友達、だからな。」

確かにこいつとは、高校生活3年間よくつるんでいた。
一緒にいることもなんだかんだ多かったし、コイツの家に行ったり逆にあたしの家にも招いたりした。
まぁ、その時は異性を連れてきてどうのこうのって両親に滅茶苦茶怒られたけどね。
でも異性だけど、彼を恋愛対象として見ることはまずない。
だからこそ友達でいられた。
向こうも、あたしをまず女として見ていなさそうだし。

「友達ってだけで…いいの?」
「当たり前だろ。このメイドゴーレム、喜んで差し上げるぜ。」

この好意に、甘えていいのだろうか…。

「じゃあ…分かった。もらうよ。」

宮本が手を伸ばしたので、それを握り返す。

「ああ…!存分に使ってくれよな!」
「いいところ悪いがマスター、まだ問題がある。」
「へ?」

握手を交わす中、アヴィケブロンが割って入ってきた。

「どうしたんだよ先生。」
「それ、まだ動かないんだ。」
「…え?」

動かない…?

「え?先生…動かないって…?え?」
「メイド型ゴーレム用の魔力炉…すなわちエンジンがまだ完成していない。スピードとパワーがあるがそれを補いきれる魔力炉が完成していないんだ。」

と、深刻そうに解説する先生。
つまり

「あげても…動かないと?」
「ああ。」

問題点としてまず、先程言ったようにメイド型ゴーレムには見た目以上の出力がある。
だが、そのパワーを発揮出来る魔力炉が開発できていないのだ。
相当の出力を生み出すのならば、当然魔力炉は大きくなる。
だがこのメイド型ゴーレム。見た目通り従来のゴーレムと比べ非常に小さく、それに搭載する魔力炉となるとどうにも小さく、出力もそれなりしか出なくなってしまう。
つまり、このゴーレムの性能を100パーセント出し切れる魔力炉がないのだ。

「小型の魔力炉で100パーセント出そうとしても、すぐに尽きてしまう。言うならばすごく燃費が悪くなる。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ先生!かっこつけた手前でそりゃないじゃないですか!!」

あれだけ粋な事言っていた宮本だが今は情けない表情をし、先生に助けを求めていた。
だが、どうしようもない。

「魔力炉の小型化は未だ開発中だ。少なく見積もってもあと3年の月日が必要になる。」
「じゃあ葵に3年待てって言うんですか!?」
「キミがいきなりあげると言わなければ良かっただろう。」
「だってぇ!!!」

まぁ…かっこつけたかったんだろうな。

「い、いいよ宮本。なんならフツーに手伝ってくれれば問題ないし…。」
「あの…。」

その時だった。
振り向けばそこには控えめに手を挙げた香子が。

「おや、どうしたのかね?」
「その問題…私になら解決できるかもしれません…。」
「え…?」

宮本の顔に希望の2文字が刻まれた。
パアァと笑顔になり、彼は無我夢中で紫式部の手を握る。

「マ…マジすか!?」
「はい…おそらくなのですが…。」



それから翌日。
場所は移り図書館。

「うん。問題なく動いている。各部異常もない。完璧だ。」

図書館を片付けているのはあたしや香子、ましてや宮本でもない。
なんの問題もなく駆動している、6機のメイド型ゴーレムだ。

「しかし驚いたよ。まさかゴーレムを"式神"として扱うなんてね。」

式神。
陰陽道などで使われる使役神のこと。
陰陽師と言えば安倍晴明。そんな晴明から陰陽術を教わっていた香子はそれを応用し、メイド型ゴーレムを式神ととらえ、使役することにしたのだ。

「活動範囲はこの図書館内に限られますが、これなら本来の性能を発揮出来るはずです。」

倒れた本棚を直し、ほこりのたまった図書館をみるみるうちに綺麗にしていく。
テキパキと掃除や修復作業を進めていくメイド型ゴーレムは見ての通り完璧に動いていた。

「ふむ…東洋の魔術とのハイブリットゴーレム…ならば式神ゴーレムと名付けよう。」
「なるほど…!」

人差し指をぴんと上げ、アヴィケブロンはそのメイド型ゴーレムに新たな名前を付けた。

「良かったな葵!」
「それはこっちのセリフ。良かったね宮本。大恥かかなくてさ。」

気前よくくれたゴーレムはこうして無事駆動。
これから彼女達(?)はこの図書館の一員として働いてくれるだろう。
そして

「ほんと…ありがとな。」
「いいってことよ。」

こいつには、本当に感謝しなきゃならない。

「じゃあその式神ゴーレムはありがたく使わせてもらうよ。後で返せって言っても…返さないからな!」
「かまわねぇよ。」

そうして宮本はフッと笑い、踵を返す。

「帰んの?」
「ああ。きっと誰かが先生のゴーレムを待ってる。いち早く商品化して…1秒でも早く届けてやりたいのさ。」

それじゃ動作確認もしたし、行こうぜ先生と言い宮本は図書館を去っていく。
ああやって無駄にかっこつけるのも、昔と変わらない。

「じゃあな!」
「おう、式部さんと幸せにな…宮本圭一はクールに去るぜ…。」
(幸せに…?)

なんなんだそのセリフ、
さて、こうして清掃作業はこのメイド型ゴーレムもとい式神ゴーレムに任せるとしてだ。

「夢…叶いそう。」
「ですね。」

ソファに腰掛ける香子の隣に座る。
肩によりかかると、花のような優しいにおいがした。

「図書館が出来たら…まずなにしよっか。」
「やはり本の貸し出し…でしょうか?」
「客来ないんじゃない?」

その通りですね、と香子は笑う。
手と手が触れて、互いに握り合う。

「でもしばらくは来なくていいや。」
「本を…お書きになるからでしょうか?」
「ううん…違うかな。」

この図書館には、誰もいない。
そう、式神ゴーレムはただのゴーレムだし、あたしと香子の2人だけの時間を邪魔するものは…ここにはいない。

「こうやって2人きりの時間を…過ごしたいから。」
「…。」

香子は何も答えなかった。
でも、あたしの肩に寄り添い、互いによりかかる形になる。

「名前…考えなきゃね…。」
「ええ…どうしましょうか?」

小さい頃から利用していたこの図書館。
けど、今日からここはあたしの図書館になった。
いや、違うかな。
あたしと香子の図書館

「"葵紫"…。」
「"きし"…ですか?」
「うん…すっごく単純だけど、あたしの葵と香子の紫で"葵紫"。葵紫図書館」

2人だけの図書館なんだ。
せっかくだから2人の名前を刻む。
葵紫図書館。うん。悪くない。
そう思いながら、ただあたしは何もせず香子と一緒にただ過ぎ行く時間を過ごすことにした。




一方その頃。

「マスター。」
「え、なんすか先生。」

帰路についていた宮本とアヴィケブロンの2人。
しばらくは何も話さず歩いていたがアヴィケブロンが口を開いた。

「僕も気になったのだが、どうして彼女にあそこまで優しくするんだい?」
「まぁ、友達だからっすかねぇ…。」

と、当たり前のように答える宮本。
だが、

「というのは建前でして。」
「建前…?友達というのがかい?」
「んまぁなんといいますか…俺は…女の子は好きですけどそうじゃないんすよ。」
「?」
「女の子同士がいちゃついてるのが…大好きなんですよ。」
「…なるほど。」

友達だからというのはあくまで表の理由。
本来の理由は別にあった。

「俺が好きなのは葵じゃない。女の子と仲良くしてる葵が好きだったんですよ。」
「うん。合点がいった。だからマスターは女性同士の恋愛漫画をコレクションしていたわけか。」
「まぁそうです。」

そう、宮本圭一はとうの昔から見抜いていたのだ。

「2人には平和で楽しくイチャイチャしていて欲しい。だからメイドゴーレムもプレゼントした。そうすりゃ仕事の負担も減るし、2人でいられる尊い時間も増えますし。」

源葵が、同性愛者であることを。

「"尊い"…この言葉の意味が分かりますか?先生。」
「価値が高く、大切にするべき…貴重なものだという意味だが?」
「その通りなんすよ。百合は尊いんです。」

自分は恋愛なんてできなくていい。
ただ、女の子同士が仲良くしているのが見たいだけ。
それさえあれば恋人なんていらないし何も必要ない。
そういった信念が、彼の根底にはあったのだ。

「女の子の接する時、昔だと葵はどこか恥じらうような仕草があってそれはそれでめっちゃ尊かったんですがオープンになった今もまた良かった。ああそうか…これがいとをかし…いとエモしという感情…!」

1人で勝手に涙を流して感動するマスターを傍らに、イマイチ百合というものが理解できないアヴィケブロンは次のゴーレムのプランを1人考えるのであった。
 
 

 
後書き
登場人物紹介

⚫宮本 圭一(みやもと けいいち)
アヴィケブロンと共にゴーレム販売をしているマスター。
ロボット談義にあつくなり、ついつい一日中語り合ってしまうほど生粋のロボットアニメ好き。
葵とは高校時代からの友達。
だが恋愛感情とかそういったものはなく、彼女とは3年間ずっと普通の友達として過ごしてきた。
向こうが女性にしか興味がなかったのもあるが、それ以前に彼は百合好き男子であり、女の子同士がイチャイチャしていることに喜びと感動を見出す男であった。
こうして大人となり、葵と再会した彼だが彼女がレズであることを確信した今、全力でそれを応援すると心に誓った。

⚫式神ゴーレム
アヴィケブロンがマスターからの要望で作ったメイド型ゴーレムを式神として使役したもの。
どう見てもゴーレムには見えず一瞬人間のようにも見えるが、これはアヴィケブロンがバン〇イやコトブ〇ヤの変態技術を学んだ結果とのこと。
言葉は発さないが命令されたことは複雑でなければ実行が可能であり、図書館内ならば常に魔力が補充されるため理論上永久的に稼働し続ける事ができる。
ちなみに6機の式神ゴーレムには『尊いカメラ』なるものが搭載されており、2人が百合百合しい尊い雰囲気になると自動で録画を開始し、それはリアルタイムで宮本の所へ送られる。
(プライバシー保護のためえっちなシーンは自動でカットされる。後は彼の妄想力で補うのだ) 
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