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Fate/imMoral foreignerS

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始まりから夏休みまで
  神父は決まって悪いやつって話

 
前書き
どうも、クソ作者です。
Fateにおいて神父はなんか良くないイメージがあったりします。
staynightしかりApocryphaしかり、なんかロクでもねぇといいますか悪役と言いますか、ともかく神父はなんか悪者ってイメージがあります。
この作品もまぁ、ネタバレになりますが神父が悪役です。
なんなら諸悪の根源です。
それでは本編、行ってみましょう。 

 
へシアン・ロボと桐生による連続殺人事件から1週間…。
あの時のことがとっくの昔のように思えるほど街は活気を取り戻したし学校もいつもの雰囲気に戻りつつあった。

それで僕らも、

「なーんだよ!お前も俺達側ってワケかよ!そういうのは最初に言えよなー!」
「いっつも話しかけるたび喧嘩腰だったじゃないですかあなた。」

なんだかんだありつつこうして友達と他愛ないお喋りをしている。
でもそこのいつものメンバーに新しい人が加わった。

「で、どうよ?お前推し鯖なに?」
「いやー、巴御前かなーって。」
「あー巴御前かぁ…。」
「こう…なんていうかさ、太腿見えてんのが好きでいつも第一再臨にしてんだけど…。」
「おーなんだお前脚フェチか?」

暮馬くんだ。
あれから紆余曲折あり、違うクラスではあるものの暮馬くんも友達として休み時間にやって来て話に加わるようになったのだ。

今までパシリという上下関係でしかやって来れなかった彼に対して、これが初めての友達だろう。

「しかし葛城くん。」
「ん?」
「それ、大丈夫なんですか?」
「あ、これ?」

平野くんが僕の右手を指差す。
ギプスはとれたが、未だに包帯でぐるぐる巻きにされた右腕。
利き腕が使えないせいで授業のノートをとる際は大苦戦してるが、もう慣れた。
ちなみにこの傷は、バイト通勤中自転車で派手に転んだと嘘の言い訳をしている。

「たまに痛むのか顔をしかめてたりしてますよね?やはりもう一度病院で診てもらった方が…。」
「ううん、大丈夫、大丈夫だよ。」

確かに、平野くんの言う通りだった。
実は僕の腕、日々感覚がなくなっている。
しかしそれとは裏腹に、感覚がないのにも関わらず痛む時がある。
ズキズキとしたものではなく…なんだろう
何かが…無理やり入り込んで蠢いてるような…そんな不快感と痛みが定期的に訪れる。
へシアン・ロボの呪いみたいなものなのだろうか?

そう思い、友作くんのキルケーに1度診てもらった事はあるのだけれど、特に異常はないという。
その際貰った薬も服用してるが、謎の痛みは未だになくならない。

「葛城、暮馬、ちょっといいか?」
「?」

と、会話している中友作くんが僕ら2人の名前を呼ぶ。

「友作くん?」
「話したいことがある。屋上に来てくれ。」
「…。」

屋上に来い、という事はここでは話せない理由だ。
つまり、何かある。
サーヴァント絡みの"何か"が




「どうしたんだよいきなり。」

屋上に来た僕ら三人。
理由を説明してくれと暮馬くんが彼に問うと、

「2人共…町外れの教会を知ってるか?」
「…教会?」
「いや、知らないけど。」

この町、螺歩蔵町に教会があったなんて…。
僕は越してきて半年ちょっとだけれど、
昔からこの町に住んでいる暮馬くんも教会に関してはまるで知らなかったらしい。

「キルケーが調べて分かったんだがな。妙な教会があるらしい。」
「妙ってなんだよ。」
「ただならぬ気配を、感じるんだとさ。」
「…?」

腕を組み、深刻そうな顔をしながらそう言う友作くん。
キャスターのキルケーがそう言ってるんだし、確かめる必要があるのかもしれない。
それに

「もしかしたら…。」
「ああ、桐生の件もある。サーヴァント絡みの可能性も充分あるってコトだ。」

また桐生の時のようにサーヴァントによるものかもしれない。
ことが大きくなる前に、僕らで何とかする必要がありそうだ。



それから

「自然公園に集合、か。」

授業が終わり、僕らはそそくさと下校する。
友作くんの指示で、学校が終わり次第自然公園に集合するように言われた。
勿論、サーヴァントを連れてだ。
三十分以内には集合できるようにと言われたので、僕はなるべく早足で自宅へと向かっているのだが

「!」

急いでいたせいか、ちょうど曲がり角から出てきた人とぶつかってしまった。

「いったぁ…。」

非力な僕は転び尻もちをついてしまうのだけれど

「大丈夫かい?キミ。」

僕がぶつかってしまった人はにこやかな笑顔を浮かべてこちらに手を差し伸べてきた。

「あ、あの…すいません…。」
「いいよ。それよりも怪我はないかい?」

そういい男は僕の腕を引っ張り、起こしてくれた。
その男はとても背が高くて、浅黒い肌の男。
真っ黒な服に首にかけられた白いストールが目立つ。
彼は…神父?

「いえ、だ、大丈夫です。」

対人慣れしていない僕は知らない人と話すのにも一苦労する。
笑顔でコミュニケーションを取ってこようとする彼に対して僕は一種の嫌悪感みたいなものを覚え、適当に言葉を返してそそくさと帰ろうとした。

が、

「待ちたまえ、キミ。」

呼び止められた。

「な、なんですか?」
「その手、大丈夫かい?怪我に響いてなければいいが…そうだ!良ければ見せて貰えないだろうか。」

さらに右腕の心配をし始め、挙句の果てには見せろと言い出す。

「だ、大丈夫です!僕はいたって元気ですから!」
「安心したまえ。私はこう見えて医療の勉強をしていたからね…


キミの、お兄さんみたいに。」
「…!?」



今、
彼はなんて言った?

「あの…どうして…僕の家族の事を…?」
「おーっとゴメンゴメン!軽いジョークのつもりだったんだけれどもしかしてホントの事だったとは!すまない。」

そういい、神父は笑って誤魔化した後僕を引き寄せ包帯だらけの右腕を凝視した。
すると、

「キミ。」
「は、はい?」
「医者にはなんて?」

急に真面目なトーンで話し出し、右腕のことは医者にどう言われたのか尋ねられた。

「も、問題はないって…そのうち治るとは…言われましたけど。」
「じゃあ、その医者、ヤブ医者だよ。」
「え…。」
「キミの腕は治らない。このままだったら腐って根元からずるりと落ちるよ。今はそれを先延ばしにしてるだけ。何故切除しないのか不思議でならないのだけれどね。」
「…。」

いきなり、
何を言い出すんだこの人は

「ご、ごめんなさい!!」

嫌な気持ちがゾッと湧き上がって、僕は思わず神父を突き飛ばして自宅へと走って帰る。
腕は治らない?
腐って落ちる?
そんな事あるわけない。
大丈夫だってお栄ちゃんも言ってたんだ。
医者だってそのうち治るって言ってたし、
そうだ。気持ちの問題だ。
治らないなんて思っちゃダメだ。
あんな見ず知らずの神父なんて…信じちゃダメだ。
そう思い、走り続ける。
やがてアパート近くの公園まで走り続け、息を整えようと一旦止まると、

「お栄ちゃん…?」

公園のベンチにお栄ちゃんが座っているのが見えた。
彼女はたまにこうして外に出て、絵を描いていることはよくある。
しかし今は、何か違う。
膝に置かれたスケッチブックは閉じられ、頬杖をついてムスッと不機嫌な表情をしていた。
何かあったんだろうか?
気になるので僕は声をかけることにする。

「お栄ちゃん。」
「ん?おかえりマイ。」

声をかけたのが僕だと分かるとこちらを向いてにっと笑いかける。

「その様子だと走って帰ってきたみたいだが何かあったのかい?」

何かあったのかというのはこちらのセリフだ。
僕の顔を見るなりいつもの機嫌に戻ってはいるが、彼女は何かにイライラしていた。

「うん。怪しい教会を調べに友作くん達とこの後自然公園に集まるように言われてるんだけど…。」
「そうかい。」
「その前に、お栄ちゃんどうしたの?なんかすごく機嫌悪そうな顔してたから。」
「ああそうだ。ちょいと聞いとくれマイ。」

隣に座り、お栄ちゃんはややイライラしながらもさっきあった事を僕に一から話してくれた。

「見ず知らずの男が来て何を言い出すのかと思えばナ。いきなりお前のますたあはどうだとか、腕は治らねぇだとか抜かしやがる。むかっ腹が立ったもんだから殴りかかればひらりひらりと交わすもんで余計にイラついた…ってどうしたマイ?」

と、公園で絵を描いていたら知らない男と一悶着あったことを話してくれたが、お栄ちゃんは途中で話をやめた。
どうやら僕の表情の変化に気付いたみたいだ。

「鳩が豆鉄砲でもくらったみたいな顔してるが…」
「ねぇ、お栄ちゃん。」
「ん?」
「そいつって、すごく背が高くて、肌は黒くて、神父さんみたいな人じゃなかった?」
「…。」

少し黙るお栄ちゃん。
僕の右腕をじっと見つめてから、彼女はこちらに改めて聞いてきた。

「…神父ってのは知らないが…まさかマイはそいつに会ったのかい?」
「うん。最初は優しそうな人だなぁって思ったけど、いきなり変なこと言われて僕も少し嫌な気持ちになったよ。」
「ああそうだ。張り付いた気味の悪い笑顔を浮かべながら縁起でもねぇことをサラッと言いやがる。間違いねぇ!その神父サ!」

どうやら同一人物みたいだ。
とはいえその神父は、何故僕だけでなくお栄ちゃんまで知っていたのか?
そしてお栄ちゃんが言われた台詞。
「お前のますたあはどうだとか」
マスター。つまりは、神父はサーヴァントとマスターという関係性を知っているのだろうか?
とすると…あの神父は?

「マイ?」
「あ、ああごめん!」

少し考えすぎていたみたいだ。
お栄ちゃんが顔を覗き込んで心配そうな表情で見ている。

「そんなことよりも行かなくちゃ。お栄ちゃん。」

友作くんに集まるように言われていたことを思い出し、僕はベンチから立ち上がる。

「…っ。」

立ち上がる際、ズキリと右腕が痛む。
思わず声を上げそうになったけど、お栄ちゃんに余計な心配はかけさせたくないからそこは我慢した。

「一旦家に帰ろう。それから準備して自然公園に行くんだ。」
「面倒臭いが…分かった。マイがそうしろってんならおれも行くヨ。」





「良し、全員集まったな。」

螺歩蔵町にある自然公園。
公園と言うよりかは花壇と噴水のある広場という感じで、普段は遊ぶ子供達や散歩途中の老人などが立ち寄る憩いの場であるが、さすがに夕方近くになるとそれもまばらだった。
そして僕がやってきた時には既に、友作くんも暮馬くんも到着していた。
僕が最後だ。

「で、怪しげな気配がする教会ってのはどこなんだい?」
「ああ、それのことなんだけどね。ついてきてくれ。」

開口一番、お栄ちゃんがキルケーに尋ねると彼女は歩き出す。

ここから少し歩いたところにあるらしいが、町のガイドマップや検索サイトで調べてみても何も無かった。
本当に町外れに教会は、あるんだろうか?

「桐生の件以降、実は様々な場所でサーヴァントらしき反応が感知されたんだ。」
「じゃあ…その教会も…。」
「サーヴァントの住処になっている?と言いたいのかい?」

しかしキルケーはここで、首を横に振った。

「残念ながらそれは違うよ。確かに町からサーヴァントの反応はある。でもね、今から訪れる教会。そこからは明らかに違う"何か"が感じ取れたんだ。」
「なんでい。さあばんとじゃないなら別にいいだろ。」

サーヴァント絡みではない。
そう分かるとお栄ちゃんはため息をついてキルケーにそう答えるが

「逆だよ北斎。サーヴァントじゃないから不安なんだ。遠くからでも感じられた魔力の気配。でもそれはサーヴァントのものとは根本的に違うし量も桁違い。気配も嫌悪感や悪寒。そういったおぞましさを感じられるんだ。」

キルケーの説明した教会から漂う何か。
それは僕達にはよく分からないが、サーヴァントには感じ取れるらしい。

「ええ、そうですね。この辺りに来ると巴もそれを感じておりました。」

巴御前がそうだったからだ。

「巴さん、何か感じるの?」
「確かとは言えません。ですが、明らかにおかしいものを感じるのです。なんと言えばよろしいのでしょう?例えるなら…"狂気"とでも言いましょうか…。」
「狂気…か。」

歩きながら話を続ける一同。
サーヴァント達はその"何か"を感じ取るが、友作くんや暮馬くんもまた、

「確かになんか…寒いな。」
「俺もだ。なんて言うの?嫌な予感?みたいなのがする。」

例えがたい何かを感じ取っていた。
しかしお栄ちゃんは

「…。」
「北斎、何か感じないのかい?」
「いや、なーんにも。」

近づく事に強くなる何か。
お栄ちゃんはそれを少しも感じないのだった。
だけど、マスターである僕は

「…っ。」
「マイ?」

分からない。
寒気とか、おぞましさとか、みんなが感じてるものはお栄ちゃんと同様感じ取れないのだけれど、
痛みが、右腕の痛みがどんどん増していってる気がする。

「どうしたマイ!腕が痛むのかい!?」
「だ、大丈夫。大丈夫だから…。」

うぞうぞと何かが肌の内側で蠢くような感触。
今にも肌を突き破りそうな、内側から貫くような痛み。
鋭い痛み、鈍い痛み、色んな痛みが僕の右腕を蝕んでいる。
これはなんだ?タダの怪我なんかじゃない。
やっぱりロボの呪い?でもキルケーは何の異常もないって言ってたし…。

「マイ!しっかりしろ!おい!」
「大丈夫か葛城!」

汗もでてきた。
さすがにやばい僕の様子を見て友作くんも声をかけてきた。

「ううん…大丈夫。それよりも早く、教会の調査を終わらせよう。」
「そうだが…ほんとに大丈夫なのか?」

とりあえず大丈夫であることを伝えたけど、それでも心配した友作くんはキルケーに頼み、痛み止めの魔術をかけてもらった。
けど、ほんの気休めにしかならない。
まだ僕の腕は痛むし、何なら勝手に動き出そうとしている。
最近は動かなくなり、感覚も感じなくなり魔力供給の際も左手に頼りきりだったんだけど、まるで右腕は誰かに操られてるみたいに動こうとしている。
片手でグッとおさえ、痛みと戦いながら僕は皆の後をなんとかついていく。
そうして歩き続けること10分。
お目当ての教会はそこにあった。

「見た目は何の変哲もない。だが…。」
「なんか…やばくね?」

2人は、何かを感じている。

「…高校生にもなって言うのも恥ずかしいが…正直俺はこの教会が"怖い"。」
「別に恥ずかしい事じゃないと思う。現に俺も震えが止まらなくってさ。」

その2人のサーヴァント、キルケーや巴御前もだ。

「おかしいな…身体が警告しているような気がする。ここからは一歩も進むなと、ここに立ち入ってはならないとね。」
「ですが、行かなければ。行ってこの気配の正体を突き止めなければ…!」

彼らは、一歩も踏み出せないでいた。
何かを感じとり、身体が本能的にそれを拒絶し、動かない。
それほどに恐ろしい何かがこの教会の中にあるのだろうか?
だけど、

「…!?」
「中に入らないのかい?」

僕、そしてお栄ちゃんはなんの問題もなく進めた。
なんならお栄ちゃんはスタスタと歩き、入口のドアノブに手をかけている。
僕も腕の痛みが強くなるが、それ以外は問題なく進めた。

「ま、待て北斎!」
「よっ、と。」

キルケーが止めに入るも、お栄ちゃんはそのまま取っ手を引き、ついにその教会の扉が開かれた。

「…?」

どんなものがあるのか、
何が待っているのか。
そういった想像をしていた僕らだったけど、その中にあったのは何の変哲もない、ただの寂れた教会だった。

「これは…。」

僕とお栄ちゃんが入り、続けて友作くん達も中へと入っていく。
薄暗く、埃っぽい気がする。
長い間掃除をしていないのか、天井を見上げるといくつもの蜘蛛の巣が張られていた。

左右に等間隔に並べられた長椅子には、何人かの人が座り両手を組んで祈りを捧げている。
そう、
ここはただ単に、町外れにある教会であった。

「何にも…ないみたいだな。」
「おや、学生さんかな?」

辺りを見回す友作くん。
だがそんな時、ついさっき聞いたような声が静かな教会に響いた。

「…!!」
「熱心だね。若いのにこうして祈りを捧げ来るのはいい事だ。にしても…おや?」

前からそこにいた、とでも言わんばかりに現れたその男は僕らと目が合う。
そうだ…この男…!

「てんめぇ!さっきはよくもマイを好き勝手言ってくれやがったナ!!」

あの時会った、神父!?

「お栄ちゃん待って!!」

あの神父だと気付くとお栄ちゃんは足早に歩き出し、神父へと近付く。
腕をまくり、拳をぐっと握りしめて殴りかかろうとしたが

「なっ…!!」

その拳は受け流され、さらにお栄ちゃんは投げ飛ばされ背中を床に叩きつけられてしまった。

「ってぇ…!」
「まったくいけないね。最近の若者は手が早くてダメだ。もう少し大人しくなることをオススメするよ。」
「あなたは…!」
「ああ、さっきの。」

手をパンパンとはらう神父。
間違いない。この人だ。
まさかこの神父が…教会の…?

「自己紹介が遅れたね。私はナイ神父。この教会で神父をやらせてもらっているただのしがない人間さ。」
「…。」

と、ニコニコしながら僕に手を差し伸べてきた。
握手のつもりだろうが、お栄ちゃんの言っていたその張り付くような笑顔がどこか嫌悪感を感じさせる。
嫌な人では無いのだろうけど…この人はどこか変だ。

「…っ!」
「おや、大丈夫かい?」

彼と目が合うと、より一層腕が強く痛む。
思わずかがんでしまうと、神父は僕を心配し優しく肩を叩いた。

「大丈夫。私と会って暴れてるみたいだ。うん。それに中々抵抗するものだから取り憑くのに手こずってるみたいだね。少し大人しくさせて"入りやすくしてあげよう"。」
「今…なんて?」

痛くて話が聞ける状態じゃない。
だけどこの神父はなんて言った?
取り憑くのに手こずってる?入りやすくする?
何を言ってるのか全然分からない。

「…。」
「あっ、が…あぁぁ!!!」

そうしていると神父は怪我をした僕の右腕をスっと撫でた。
すると今まで以上の痛みが襲い、僕は思わず倒れ、じたばたともがき苦しむ。

「おい!葛城!!」
「お前…彼に何をした!?」

友作くんが僕を押さえ、必死に呼びかける。
そしてキルケーは神父に怒鳴り、巴御前は思わず身構える。

「人聞きの悪いなぁ。何をしたって、良くないものが憑いてたからね。悪魔祓いとして祓ってあげただけだよ。」
「祓う…だって?」

だとしたら、それは本当なんだろう。
だって。

「葛城…?」
「なんとも…ない?」

痛みは、消え去ったから。

「あんなに痛かったのに…どうして?」
「辛かったろう。悪魔が君の右腕を引きちぎらんとずっと憑いてたからね。でも、これでもう安心さ。」

そういい神父は僕の肩をトントンと優しく叩き、ニッコリと笑顔を向ける。

「さて、君達はここにお祈りをしに来たのかな?ならもう日が暮れる。早く済ませて帰りなさい。」
「え、ああ、はい…。」

優しい人なのかもしれない。
いい人なのかもしれない。
それでも僕は、僕達は…

彼に得体の知れない何かを感じざるを得なかった。





「あんの野郎…!次会ったらただじゃおかねぇ…!」
「もういいよお栄ちゃん。あの人はただの神父みたいだったし」

それから僕達は何かから逃げるようにしてそそくさとあの教会を出てきた。
今は商店街を歩きながら話し合ってはいるがこうしてここに来るまでは全員一言も喋らなかった。

「キルケー。」
「ああ、やっぱり変だ。」

未だ謎の残る教会。
みんなが感じていた、謎の気配。あれはなんだったのだろうか。

「でも俺、あそこには長くいられない気がする。なんか…狂うっていうの?おかしくなりそうなんだ。」
「実際…そうだな。それが恐ろしくて俺達はこうして逃げるように帰ってきたわけだ。」

調査をしなければならない。
けど、友作くんや暮馬くんはそれを断念した。
あそこに長くいるとおかしくなりそうだから。
例えがたい何かが自分を侵略し、正気が保てなくなる。
不気味さを感じさせるあの教会は、出来れば二度と行きたくない。
それが友作くんと暮馬くんの正直な感想だった。

「お前は何ともないのか?」

友作くんが振り向き、僕の心配をする。

「うん。そういうのも何も感じなかったんだ。友作くんや暮馬くんみたいに、怖いとも思わなかった。それとは逆に…」
「逆に?」
「ううん…なんでもない。ごめん。」

あそこには恐ろしい何かがある。
キルケーはそう言っていた。

人間達は恐れをなし、サーヴァントすら畏怖する謎の教会。
そして思わず僕は言いそうになったけど、止めた言葉。
みんなはあそこが怖いって言ってたけど、
何故か僕は逆に、どこか安心感を抱き落ち着く場所のような気がした。

「ともかくだ。キルケーの調査でこの町には俺達以外にもサーヴァントがいることが分かってる。引き続き調査をしよう。」
「うん。調査を進めれば、あの教会の正体もわかるかもしれないからね。」

友作くんとキルケーがそう言う。
話題を変えた、と言うべきか。
ともかく全員は、一刻も早くあの教会のことを忘れたいのだろうということは感じ取れた。

「…。」
「腕は大丈夫なのかい?」
「うん。全然痛くない。何でかあの神父に撫でられてから、変に調子がいいんだ。」

いつの間にか感覚が戻りつつある右手を優しく撫でながら、僕は思う。


あの神父は、
本当に何者なんだろうと。 
 

 
後書き
はい。
ナイ神父なるものが登場しましたね。
ちなみにハーメルン連載当時では多くの読者様が彼を見て「あっ(察し)」状態になってて正体がバレまくってました。
はい、知ってる人は知ってるでしょうね。
クトゥルフ神話におけるトリックスターなあの方です。
とはいえ、なぜそんな存在がこの町、螺歩蔵町にいるのか、目的は定かではありません。
何をしたいのか、何かなすべき目標があるのか、
正体が分かったとしても、その多くはまだ謎のままです。
これから徐々に明かされていく真相に期待しつつ、次回もお楽しみください。
それでは、また。 
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