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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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崩壊-このせかい-

 
前書き
例えるのなら、それは夢のようでいて、それと同時に恥ずかしくて 

 
崩壊世界。
こうなってしまった世界をいつしか人はそう呼んだ。
原因は不明。なんの前触れもなくかつての日常は消え去った。
どこから湧いて出てきたのか分からないモンスターの数々、
我々一般人はなすすべもなく蹂躙され、人類は一気に弱者へと成り下がった。
おかしくなったこの世界。
けど、おかしくなったのは

「な、なんだこれ!?」

俺もだった。

「か、髪が…白く…!?」

伸ばし放題でボサボサだった髪は白くなっていた。
まだ黒かったし、若ハゲの心配もなかったのにまさか知らない間に白髪になっていたなんて。
いやまぁ、起きた時から目の前にチラチラ白いのが映るなぁとは思っていたよ。
それがまさか自分の前髪だったなんて…。

「目も…変だ。」

目もそうだ。
黒かった瞳は紅く染まっている。
おかしいのはそこだけじゃない。
クマもなくなってる。やつれた頬もいつの間にか元に戻ってる。
そもそもあれだ。
眼鏡がなくても遠くまで見渡せる目、いくら走っても疲れないこの身体。
何もかもがおかしい。
これは本当に…俺の身体なのか…?

「ごめんなさい。私が見つけた時はもうそうなってて…。」
「じゃあその…全然分からないと…?」

こくりと頷く宮本武蔵。
あれから俺は武蔵ちゃんに助けてもらい、またあの眠っていた廃墟ビルに戻ってきた。
そして偶然近くに落ちていた鏡の破片をチラッと覗き込み、今に至る。

「ただ分かるのは…あの後あそこから"魔力"が溢れ出たこと。マスターはそれに呑まれてたの。」
「ま、魔力…?」

武蔵ちゃんいわく、あの会社のビルの真下からいきなり魔力が噴出したとの事。
瀕死の俺はそれに呑まれ、そして崩れたビルの中から発見した時にはもう今の状態になり、怪我も完治していたとかなんとか。

つまりあれ?怪我治ったのも身体が元気なのももしかして魔力浴びたせい?
いや、待て。
まだおかしいことがあることを思い出した。
何よりもまず…

「ところで…キミは?」

この宮本武蔵を名乗る謎の女性が何者なのかだ。

「キミって…宮本武蔵だけど?」
「いやそうなんだけどそうじゃなくて。」

ただのコスプレ…にしてはやはりクオリティが高過ぎる。
それに声も、ゲームのものと全く一緒だ。
さらに極めつけにさっき見せた戦い方。
二刀流を用い、並の人間じゃかなわなかったモンスター達をバッサバッサと斬り捨てた。
あれは素人ではない。達人の域だ。
とすると彼女は本当に…宮本武蔵なのか?

「まぁ…覚えてないのも無理はないかー。半年間来なかったものね。」
「半年間…?」

半年間…と言えばあるものが思いつく。

「そういえば…。」

彼女の登場するゲーム、FGO。
やってはいるのだがここのところ仕事が忙し過ぎて半年ログインしていなかった。
じゃあまさか…
いや、早合点は良くない。

「まさか…ゲームの世界から来ました。とか言わないです…よね?」

確認のため恐る恐る聞く。
その問いに対し彼女は淡々と答えた。

「ええ。あなた達の言う"FGO"…私はあなたのカルデアからやって来ました。」

マジだった。

「ど、どういうことなの…?」
「突然ゲーム(あっち)現実(こっち)の境界線があやふやになって、平行線を跨いで来られるようになった。漂流(ドリフト)とは異なるし、今のところそれしか分からなくて。」
「そう…なんだね。」

この武蔵は俺のカルデアの武蔵と名乗った。
余談だが俺のカルデアには聖杯を捧げ、限界まで強くなった武蔵がいる。
つまり、この武蔵がそうなんだ…と思う。
だって半年間ログインしなかったこと知ってるし。

「どうやって来れたのかは不明ですが、こうしてマスターのところに来られてピンチは救えたわけだし、何よりこうして会えることが嬉しいです。うん。」
「あ、ああ…うん。」

ここは俺も会えて嬉しいよと言うべきなのだろうか…?
いや、俺のような男がそんなイカしたセリフ吐いたとしてもキモがられるだけなのは目に見えてる。
軽い会釈と笑顔で乗り切るとしよう。

「と、ともかく…俺はどうしたらいいんですかね?武蔵…さん。」

女性との接し方は距離感が大事。
そう思い、わざわざさん付けで呼んでしまった俺に対して彼女は不機嫌そうな顔をする。

「その呼び方は…変じゃない?」
「あ、そ、そうですよね。ここはやっぱりfateらしくセイバーって呼ぶべきで」
「そうじゃなくて!」

言葉を遮られる。

「別に聖杯戦争してるわけじゃないから真名隠す必要もないし、ここはやっぱり"武蔵"って呼んでほしいところね。マスター。」
「え…ええ?」

女性への名前呼び。
俺にとってそれは難しすぎる。
笑顔のままハードルの高いことを要求してきたこの宮本武蔵は今か今かと俺の返事を待っている。

「その…宮本さんとかじゃ…ダメですか?」
「だめだめ。そしたら他人みたいじゃない!」

苗字呼びは封じられてしまった。
てかなんだよ!呼び捨てって友達通り越して恋人か!
あ、そうだ!

「武蔵…ちゃん?」
「ちゃん?」

ちゃんを付けよう。
やや恥ずかしいけれど、呼び捨てよりかはいくらかマシだ。

「まぁ…それもヨシとしましょう…えーと」
「竜胆…竜胆大和って言うんだ。竜の胆に戦艦の大和。」
「THE日本人みたいな名前なのね。それじゃあよろしく!大和くん!」

そっちがちゃん付けするならこっちもと、武蔵ちゃんはくん付けで呼び右手を差し出してきた。

「え…?」
「え?って、握手よ握手。」

なんでこの人は最初からそんなハードルの高いことばかり要求してくるんだろう。
だ、大丈夫かな…俺の手汚くない?菌がうつりそうとか言われない?
ともかくズボンにこすってなるべく綺麗にしてから、恐る恐る武蔵ちゃんの手を握った。

細くて綺麗な、柔らかな女性の手。
こんな手をした人が、さっきあんなモンスター達をやっつけたんだ…。

そして

「あっつ!?」

手の甲に焼け付くような痛みを感じ、慌てて手を離す。
するとそこにはお約束と言うのだろうか

「これってまさか…令呪?」
「当たり。これで私と大和くんは、正式にマスターとサーヴァントっていう主従関係として成立しました!」

赤い、剣のようにも雷のようにも見える紋章。
これが…俺の令呪…。

1度離した手をまた握り返される。
こうして、俺は1度は死んだものの何故か行き返り、宮本武蔵のマスターとなった。

こんな世界で、面白おかしく生きられるのはよく分からないけど…。



「世界がこうなった原因も…よく分かってないんだよな…。」

それから、
武蔵ちゃんからは彼女がわかる限りの事を聞いた。
世界はどうにかなってしまったこと。
俺の会社に生き残りはいなかったこと。
そして…なんと俺は1週間も昏睡状態だったということ。
眠っているうちに身体がこのようになってしまったらしい。
そして一箇所に留まるのも良くないと思い、俺と武蔵ちゃんは外に出ることにした。

「ええ、私もよく分からない。それに、前触れも何も無かったんでしょう?」
「うん…本当に突然だった。」

前触れ…強いて言うなら地震だろうか。
それから窓を見てみたら異様な光景が広がっていたわけだし。

「にしてもすごいわね…どこも魔力だとか神秘で溢れてる…。」
「それって…すごいことなの?」
「そうね…言ってしまえば神代のそれとほぼ変わりないくらい。」

というと…FGOでいうバビロニアだとかそこら辺くらいということなのだろうか?
なるほど、魔力が満ちてるからこうしてモンスターがいるんだね。
納得。

「ところで大和くん。」
「はい?」

歩きながら話をしていた中、武蔵ちゃんがこちらを振り向いた。

「それ…なに?」
「何って…竹刀だよ。」
「それは見れば分かります。」

遺品とでも言っておこうか。知らない人のだけど。
俺が武蔵ちゃんと初めて会った時、偶然拾った竹刀だ。

「いやその…護身用に持っておこうかなーと。」
「護身用って…大和くんは私のマスター。剣となり守るのがサーヴァントである私の役目。護身用なんて必要ないと思うけど?それとも私じゃ不安?」
「いや…決してそういう意味じゃなく…。」

何かの縁があるかも…。
そう思ってなんだかんだ持っている。
しかしそれでは武蔵ちゃん的には良くないらしい。

「その…ある程度自分でもやらなきゃなってさ…む、昔剣道やってたから腕にはそれなりに自信もあるよ…は、はは。」

苦笑いで誤魔化すも、彼女はムッとしていた。
けど

「まぁ…いいでしょう。でも大和くんは"戦う"のでは無くあくまで"守る"ために使うこと!いいわね?」

当然だ。
俺なんかが竹刀一本手にしたところでモンスターに勝てるわけがない。
あれだってムシュフシュが手負いだったからだし何よりただ気絶させただけだ。
思い上がっちゃいけない。

「おい、ちょっとそこの白髪のカップル」

そう気を引き締めた時、いきなり後ろから声をかけられた。

「え、えぇ?カップルって」
「そう、そこのあんたらだよ。」

振り向いてみればいかにもな強面の男。
そしてカップルと呼ばれ何度も確認して自分を指さす武蔵ちゃん。
あ、そうか。俺今白髪なんだっけ。

「随分と派手なカッコだな姉ちゃんよ、えぇ?」
「そう?これはまだ控えめな方なんだけど…?」

品定めするかのように武蔵ちゃんを見る強面の男。
筋骨隆々であり、この世界を生き抜いていくには充分な体格をしていた。
彼は生存者だろう。
だが、

「んじゃその腰にぶら下げてるモンと有り金、全部置いてけや。」
「はい?」

生存者だからといって、いい人とは限らない。
嫌な予感が的中した。
彼は俗に言う、追い剥ぎだ。

「だろうと思った。」

大して慌てもせず、武蔵ちゃんは表情ひとつ変えず刀を抜く。
追い剥ぎも懐からナイフを取り出し、切っ先を彼女に向ける。

それだけじゃない。

「周りからこんなに…!隠れてたのか!?」

物陰や廃墟から続々と出てくる仲間と思しき奴ら。
皆手にはナイフやら鉄パイプやらと武装している。
そう、
世界が崩壊してとうに1週間経っている。
文明は滅び、社会のルールや法律は機能しなくなった。
そうなると強い者が生き残るという原始のルールに戻る。
つまり、欲しけりゃ奪い取る。弱者はただ搾取されるのみ。
この世界では必要不可欠なのは、"力"だ。

「大和くん!下がってて!」
俺の前に出、武蔵ちゃんは下がるよう促す。
だが相手は10人以上いる。サーヴァントでも勝てるのだろうか?
そう思ってしまった俺は

「すいませんでしたァ!!」
「へ?」

財布とスマホ、ポケットに入ってるものは全部地面に置き、そのまま土下座した。

「え…ちょ…大和くん…?」
「持ち物はこれで全部です!中身は少し寂しいですが心置き無くお使いください!!ですからどうか命だけは…!!命だけは取らないで頂きたいのです!!」
「…。」

沈黙する一同。
しかし追い剥ぎのリーダー格らしい男は「へっ、」と笑うとこちらに歩み寄る。

「中々わかってるじゃねぇか。んじゃあてめぇの有り金とこの女、頂いてくぜ?」
「え…?」

思わず、顔を上げてしまった。

「あ、あの…!」
「あ?なんだよ?」
「持ってるものは全部あげます…ですから僕と彼女の命だけは…!」
「何言ってんだ?そこの女もてめぇの"持ち物"…だろッ!」

強烈な痛みが顎にくる。
蹴られた。
無防備な顔に追い剥ぎは蹴りを入れたんだ。

「ごほ…っ!?」
「大和くん!!」

武蔵ちゃんが叫ぶように俺の名前を呼ぶ。
倒れる俺、笑う追い剥ぎ達、

「よく分かんねぇけどよ、その女"サーヴァント"って言うんだろ?」
「ど、どうしてそれを…!」

何でマスターとサーヴァントの関係性を知ってる?

「おかしなコスプレ野郎を連れた奴らがそこら中にいるから嫌でも分かるしな!それと手の甲の紋章、マスターの証ってやつなんだろ?」
「…!」

というと…もしや俺たち以外にもサーヴァントを連れたマスターがいるのか?
いや、そんなことはどうでもいい!
今は目の前のことをなんとかしなければ

「…。」

そう思い、どうしようかと悩んでいると武蔵ちゃんと目が合う

しかし彼女は俺と目が合うなりすぐに逸らし、追い剥ぎ達に視線を戻した…。
…もしかして、いや、もしかしなくても…嫌われた?
当たり前だ…自分のサーヴァントを追い剥ぎ達に差し出しかけたんだから。
そりゃあ…失望されるだろう。

「大和くんはそこでじっとしてて、後は…私が片付けるから。」

そういい、二本の刀をかまえて走り出す。
心を支配する罪悪感、後ろめたい気持ち。
ああ、なんてことをしてしまったんだろう俺は
絶対に嫌われた。
敵に最初から負けを認め、土下座を決め込んだのだ。
きっとその時の俺は…彼女からしてみればさぞ情けなく見えたろう。

「俺は…」

俺は…なんて情けなく、なんて弱いのだろう。
こんな男が…武蔵のマスターでいいわけがない。
俺は…

俺は…。

「…?」

武蔵ちゃんが追い剥ぎを次々と切り捨てて行く中、
自分の情けなさから来る行き場のない悔しさで握られた拳に何かが走る。
電気…?
今俺の手に…電気が走った?

「そうだ…ダメだ…。」

武蔵のマスターにふさわしくない…?
いや、だったら…ふさわしくなればいい…!
武蔵ちゃんは…俺のサーヴァントなのだから!

「おお?どうした土下座の兄ちゃん?」
「ダメなんだ…このままじゃダメなんだ…!!」

立ち上がる。
置いた護身用の竹刀を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。
迸る稲妻。やがてそれは全身を駆け巡り、右手に握られた竹刀へと集中していく。

「…?」

武蔵ちゃんが手を止める。
その異様な光景に、
赤い稲妻を纏う俺に、

「弱いままじゃ…ダメなんだ!!」

赤い稲妻は竹刀を包み、それを腰にかまえる。
そして抜刀。
すると稲妻は散り、現れたのは

「あれは…」
「竹刀が…刀に!?」

右手に握られていたのは竹刀ではなく、本物の日本刀。
とはいえその刀身は赤く、まるでルビーのように煌めいていた。

「大和くん…それって…。」
「前言撤回だ…俺は…俺はお前達に何も渡さない!!」

かまえる。
初めて触るのに、まるで自分の身体の一部にも感じられるようなしっくり来る感触。
そして俺の感情に呼応するかのように稲妻がバチバチと迸る。
これはなんだ?よくわからないが…これならやれる!

「やってみせる…俺は…俺は宮本武蔵のマスターだから!!」

 
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