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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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難航-すれちがう-

世界崩壊から間もなく3ヶ月が経とうとしている頃…。
あの村での出来事が何年も昔のことのように思えるようになった頃の話だ。

「こちらになります。」
「ああ、誰だか知らないが本当にありがとう。」

俺の運び屋稼業は割とうまくいっていた。
世界崩壊後、あちこちを走り回り人々の悩みを解決していった。
手紙を届けたいもの。特定の場所にいる人達にモノを届けたい人、そして…

「言っておくが…中身は見てないよな?」
「ああ、はい。依頼主からは口を酸っぱくして言われたので。」

人には言えないヤバめなものを届けたりしている。
今届けたのがそうだ。
人一人がラクに入れそうなバックを頼まれ、とある場所に届けて欲しいと頼まれた。
その時言われたのが、決して中身を覗かないこと。時々動いたり何か言ったりするかもしれないが絶対に見ないこと。
その約束守り、こうして運んできた。
指定された場所は海。
昔はここで釣りを楽しめたであろう海岸だ。

ぶっちゃけ、少し怖かったしあとあと考えてみれば依頼主はヤの付く自由業の方だったかもしれない。

「にしてもアンタ方も大変だな。こんなご時世に人助けなんか。」
「いえ、俺がやりたいって決めたことなんで。」

荷物を届けられた男は何かが入ったバックを担ぎ、そう話しながら海まで行く。

「…さては物好きか?」
「かも…しれません。」

すると男はバックを海に放り投げた。
担いでる最中、バタバタと中で何かがもがいていたがお客さんの詮索は違反だ。
何も言わず、ただ俺達はそれを見守るのみだ。

「そういや、この辺りにアンタみたいにその…なんだ?守護霊?」
「サーヴァント…ですか?」
「そうそれだ。」

男は手をパンと叩き、話を続ける。

「そいつもこれまた物好きというか変わり者と言うか…女のくせしてダ・ヴィンチを名乗ったりしててな…。」
「それって…。」

隣にいた武蔵ちゃんと思わず顔を合わせる。
そう、おそらくそれもサーヴァント。あのレオナルド・ダ・ヴィンチだ。

「他にもちらほら見るな。サーヴァントってやつを連れたマスターっていうの。」

男の言う通り、この世界にはサーヴァントがいる。
世界崩壊直後、ある共通点を持つ特定の人物の元に現れたそれら。
俺や渚ちゃんのように、"FGO"をプレイしていた人達がそれにあたる。

「俺もやっときゃ良かったなぁ…そうすりゃ、手ぇ出してきた財団の処理なんてかなりラクになるだろうに…おっと今のは聞かなかったことにしてくれ。」

人差し指を口に当て、黙っているようにという男。

「それじゃ、お仕事ご苦労さん。」

男はそれだけ言い、住まいであろう小屋へと帰っていく。

「…。」

にしても、
綺麗な海だ。

「思わずずっと見ちゃうな…これは。」

太陽に照らされキラキラと光る海。
世界が崩壊してからだろうか、やたらと綺麗な気がする。
それに噂に聞いたが東京の海も沖縄に引けをとらないくらい綺麗になっているそうだ。
なんなら普通に泳げるくらい。

「なぁ、武蔵ちゃん。」
「何かしら?」

隣にいる彼女に話しかける。

「世界が崩壊したことって…本当に嫌なことだらけなのかな。」
「…さぁ?受け止め方次第じゃない?」
「だとしたら、不謹慎だけど俺は良かったと思うんだ。」

その場に座り込み、ただ海を眺めながら話を続ける。

「世界がこうなる前はさ、気弱で、ヘタレで、やりたいこともできないままの人間だった。」
「…。」
「でも世界がこうなった後、変われた。人に対してビクビクしなくなったし、いくらか勇気ももてたと思う。少なくとも…過去の自分とはおサラバできたとは思うんだ。」

同じように隣に座りただ黙って話を聞く武蔵ちゃん。

「それに、一番良かったのは…」
「…?」
「武蔵ちゃん、君にこうして会えたことだ。」
「…え、あ、はい!?」

突然鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

「武蔵ちゃんが俺のサーヴァントになった。そう思った時、やっぱり滅茶苦茶嬉しかったんだ。だから俺もこのままじゃダメだって思えた。武蔵ちゃんにふさわしいマスターになれるよう、変わらなきゃなって思えた。」
「そ、そう?どういたしまして。」

と、何か手に触れる感触。
なんだと思い見てみると、俺の手に彼女の手が重ねられていた。

「…武蔵ちゃん?」
「あ、これは!!ごめんなさいね!ついうっかり!!やだなーもー!私ったら何してるんだか!!」

さっさと手をどけ、まるで恥ずかしさを誤魔化すかのようにぎこちない笑みを浮かべながら頭を搔く彼女。

…何か、気に入らないことでもしてしまったのだろうか?

「さ!早く行きましょ大和くん!ともかく日没までに泊まれるところを探すとしましょうか!!」

スっと立ち上がり、武蔵ちゃんはこの場を去ろうとする。
おいていかれるわけにはいかないので、俺も慌ててついていった。




あの日からもうすぐ3ヶ月が経とうとしている。
大和くんは仕事に一生懸命だし、その合間の稽古も一切手を抜くつもりはないみたい。
当然、サーヴァントとして大和くんには地獄までついていくつもりだし強くなりたいと言うなら私はどこまでも付き合った。

けど、これだけ経ってもまだ"あっち"の方は一歩たりとも前進していない。
そう、『人並みの恋愛をしてみたかった』という大和くんの願いだ。
たまには一緒に寝てみよっかなーとか。どさくさに紛れて手でも繋いでなろうかなーなんて思ったりもするが、実はそのどれもが心の中で思うだけで一切行動に移せていない。
俗に言う、私はヘタレだ。
さっき手を重ねたのもうっかりではなく、勇気を振り絞ってやってみたけどまるでダメだ。
数々の戦場、修羅場、ありとあらゆる猛者と戦い抜いてきた私だけど"そっち方面"となるとまるでダメだ。
そういった感情は剣を鈍らせる。なんて言うけど私を大切にしてくれたマスターを天秤にかけたならそっちに傾くのは仕方がない。
恋愛…。
何もかも分からない。私にとっては未知の領域。
私はそこに踏み出せずにいるし、そうしている間にも大和くんがどんどん遠ざかる気もしている。
何か無いだろうか…こう、グッと距離を近づけられるような事は…。

いや、ダメだ。
機会を待ったって何にもならない。
ここは自分から積極的にいかなきゃいけない…!

というわけで

「大和くん!」
「え?」

場面を戻し、仕事を終えてヒビだらけのアスファルトを歩く二人。
ここで私は現状を打破すべく思い切って話した。

「てを…」
「…テオ?」
「手を…そう!手を繋ぎましょう!!」
「…?」

不思議そうに首を傾げる彼。
最初は握手するのにも戸惑っていたのに、彼はなんの問題もなしにその手を私に伸ばしたのだった。
まさか…ずっと一緒にいたからそういった恥ずかしさとか薄れてる…?

「え、えーと…。」
「どうしたの?」
「あ、ああいえ!繋ぎましょっか!」

差し出された手を掴む。
彼の腕の感触、温かさが伝わる。
最初に会った時とはまるで違うものだった。
鍛えられ、何度も刀を振っていた大和くんの手…。
あちこちにマメは出来てるし、ボロボロで、必死の思いで強くなろうとしていたことは嫌でもわかる。

「…。」
「…どうかした?」
「う、ううん!なんでもない!なんでもないの!」

平静を装いつつも、歩く。
彼の歩幅は大きくて、少し歩みを早めないと置いていかれそうになる。
こうやって手を繋ぐと実感する。
ああ、大和くんは…今変わろうと必死なんだなと。

「…?」

大和くんは終始不思議そうな顔をしていた。
無理もないだろう。いきなり手を繋ぎましょうって言ったかと思えば本人があたふたしたり戸惑ったりしてるんだから。

「手、痛くない?」

そんなボロボロの手なのに、よくここまでやってこれたなと思う。

「大丈夫。」

それだけ言って、大和くんは前を向く。
次の言葉が出てこない。
話題を出して、二人で話して、自然と手を繋ぐ感じで行こうと思ったけど共通の話題が全然ない。
あるとすれば稽古の話だし。
つまり、何も言わない無言のまま二人で手を繋ぎ、真っ直ぐどこかへと歩いていく。

ただこうしていると、心のどこかでほっと安心する。
手を繋いでいるだけなのに、彼と繋がったみたいになる。
いつの間にか凛々しい顔つきになった彼の横顔。
色々なところが変わったんだなと、手を繋いで初めて実感した。




数時間後。

しばらく歩くとホテルを発見。
幸い、今夜は野宿なんてことは免れた。
しかしこの世界、色んな建物は倒壊したり廃墟と化しているがホテルのみ…いや、ラブの付くホテルのみは何故か無事だったりする。
しかもインフラも生きており、電気もつくしお湯もわかせる。
不思議な事だが今はその状況に感謝するしかないだろう。
けど、

「…。」
「相っ変わらずピンク一色ねぇ…。」
「はは…そう、だね。」

未だにこのラブホ特有の雰囲気は慣れない。
やれよ。ほら早く。男女二人ならヤるべきことは決まってるだろ?ほら
と言われてるような気がしてならないのだ。

実際、こうしてラブホに泊まっていて思ったことはある。
たまに壁の薄い部屋に泊まると、隣から聞こえてくるのだ。
声が。
それにどうやらサーヴァントとマスターは頻繁に魔力供給を行っている…というより一方的に搾られているらしいが俺の武蔵はそれに当たらないのかもしれない。
みんながみんなそうじゃないというワケなんだろう。
まぁ…武蔵ちゃんがそうなら苦労しないというかなんと言うか…。
正直な話…身体を重ねてみたいとか、武蔵ちゃんの身体に欲情することはある。
稽古の最中、魅力的な脚がこれでもかと見えるわけだし、それに胸だって大きいし。
俺だって男だ。あんな服(第1再臨)着られたら目のやり場に困る。
まず目なんて合わせられないし、それに自分のリビドーを沈ませるのに苦労した日もあった。
自慰?してないしてない。世界崩壊してから1回もしてない。
1人でどこか行けば武蔵ちゃんは怪しむだろうし、これも修行の一環なんだと思い何度も抑えつけてきた。

そういえば今日、いきなり手を繋ごうと言い出した時はどうしたものかと思った。
俺は女性に対して免疫なんてない。
平静を装ってはいたけど心臓バクバクだったし、彼女の顔なんてまともに見れない。
頭も真っ白になって、話題も出ないままただ気まずい時間が過ぎってたんだと思う。

「武蔵ちゃん、あのさ…」
大和くん、あの…」

何も話さないのもあれなので喋ろうとした時、彼女も同時に話し出してしまった。

「ごめん…どうぞ。」
「私こそごめん…大和くんからどうぞ。」

と、譲り合ってまた沈黙が部屋を支配する。
気まずい…気まず過ぎる。
サーヴァントとマスターって…こんな関係だっけ?
もしかして俺がおかしいだけ?
変に意識し過ぎてるのがダメ?

「それじゃあ…私から。」

そう思ってる間に武蔵ちゃんが何か行動を起こす。
荷物をあさり、何かを取り出したかと思えば俺の前に

「腹を割って話し合いましょう!!」

一升瓶をドンと置いて言った。
確かそれは…運び屋の料金代わりにもらった高めの日本酒…
いやそうじゃない。
どうしていきなりそんなことを

「武蔵ちゃん…どうして」
「大和くん、何か私に言いたいことありそうだしここはお酒の力でも借りて正直に言おうってこと!私も色々ありますし!」
「…。」

つまり…どういう…?

「何?もしかして飲めない?」
「いやいや、全然飲めますよええ。」

疑問に思っていると武蔵ちゃんは不機嫌そうな顔で詰め寄ってくる。
お酒は…飲めないわけじゃない。
いやむしろ飲める。

「それじゃあ…話し合いましょうか。」

一升瓶を間に置き、二人して正座で対面する。
いや、こういうのはもっとリラックスしてやるべきなんだろうけど、やけに緊張する。
特に、彼女と二人きりとなると。 
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