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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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師匠-むさし-

「野郎!摩訶不思議なパワー使いやがって!やっちまえ!!」

追い剥ぎのリーダーが子分達に指示し、俺の所へ2人ほどやってくる。

「大和くん!逃げて!」
「逃げない!!」

逃げたら…弱いままだ!

「死ねやァーッ!!」

鉄パイプを振りかぶり、脳天めがけ振り下ろす子分。
目が良くなったせいか遅く見える…あまりにも遅すぎる。

「でやぁッ!!」

隙だらけの腹にすれ違いざまに胴打ちをおみまいする。

「ッ!」

さらに続けてやってくるもう1人に間髪入れず斬り込む。
袈裟斬り。
持っていた金属バット諸共叩き斬り、一撃で仕留めた。

「な、なんだこいつ…ホントにさっきまでの土下座してたやつか!?」
「強いて言うのなら…違う!」

己を奮い立たせ、恐怖に打ち勝つ。
なんなら彼女に失望される方が…余程怖い!!

「おおおおおおーっ!!!!!」

踏み込み、やって来た3人目に突きをくらわせる。
モロに受けた追い剥ぎは感電したかのように全身を痙攣させ、10メートル程吹き飛んだ。

「そのタネはよくわからないけど…やるじゃない。」

ニッと笑い、自分も負けてられないと武蔵ちゃんも動き出す。
追い剥ぎ達に飛びかかり、1人、また1人と仕留めていく。

「な、なんだこいつら…!」

減っていく子分たちを見て、リーダーもついに焦りを感じ始めた。
しかし遅い。
もう逃げ場も逆転の手段もどこにもないのだから。

「これで…!!」
「おしまいッ!!」

脚に力を込めるとまた赤い稲妻が迸り、軽く走っただけでリーダーに急接近する。
武蔵ちゃんもまたリーダーに迫り、刀を振りかざした。

「くそ…ふざけんな…弱そうなやつだと思ったのに…!!」
「申し訳ないが…俺は弱いけどこれから強くなる…予定だ!!」

2つの刀が追い剥ぎのリーダーを切り裂く。
彼は叫び声を上げることも無く、また死んだことにも気づかないまま静かに絶命した。





それから

戦いを終え、辺りは斬殺された死体が転がっている中俺は

「お、おえぇ…っ!」

吐いていた。

「吐ききった?」
「ま、まだ出…うぅっ!」

心配そうに俺を覗き込む武蔵ちゃん。
情けない…吐いてるの見られるとかさらに情けなさ過ぎる。
戦ってる時はなんてことなかったのに、戦いを終えて改めて死体を見たら吐き気が込み上げてきたのだ。

「もう…折角カッコよかったのに…。」
「な…なんかいった…?」
「あ、ううん。なーんにも?」

武蔵ちゃんが小声で何か言ったように聞こえたけど気のせいだったみたいだ。

にしても…。

「その刀…綺麗ね。」
「…。」

刀を手に取る。
強くならなきゃ、武蔵ちゃんに相応しいマスターにならなきゃ、
そう思ったら竹刀が変化したのがこの刀だ。
今は稲妻は迸ることなく、ただ陽の光に照らされ紅く煌めくのみだ。
だが、その陽の光が急に暗くなり

「?」

見上げてみれば空を分厚い雲が覆っていた。
そしてこの場の惨劇を洗い流しますよと言わんばかりに

「雨だ…。」

ポタポタと雨が降り始める。
しかしこの雨、ただの雨じゃない。

「あれ…これやばくないか?」

雨はどんどん強くなっていく。
夕立とかそんなレベルじゃない。
外国とかにある…そう、スコールとかそういうのが近い。
ともかくこのままではずぶ濡れになってしまう。

「む、武蔵ちゃん!」
「とにかく雨宿りできる所を探しましょう!」

酸っぱくなった口内にやや気持ち悪さを残しながらも、俺は慌てて走る。

「大和くん!あそこ!」
「あそこって…!!」

なんと少し離れたところにホテルがある。
しかも運のいいことに電気が通ってるらしく、ネオンの看板には明かりが灯っていた。
これは運が良ければ食べ物も…そして熱いシャワーも浴びれるかもしれない!

「うん…急ごう!」

バケツをひっくり返したような雨が降りしきる中、
俺と武蔵ちゃんはホテルへと駆けていった。





駆けていったのだが

「こ…これは…!」

受付にて鍵を渡されチェックイン。
部屋に入るとそこは薄暗く、ピンクの灯りで灯されたなんともアダルトな雰囲気を醸し出している部屋。
そう、ここはホテルでもラブのつく方のホテルだったんだ。

「…。」

気まずい…
気まずすぎる。
とはいえ外は大雨。
今更外に出て別のホテルを探そうなんて気にはなれない。
なので

「む、武蔵ちゃん…。」
「…あ、は、はい!?」

裏返り気味の声で返事をする彼女。

「濡れてるし…そ、その…シャワーでも浴びれば?」

ずぶ濡れなのは自分も同じだが、やはりここは女性を優先すべきだろう。
濡れたせいで肌にぴっちり張り付いた服に目を逸らしつつ、俺は武蔵ちゃんにシャワーを浴びることを勧めるが

「や、大和くんこそ…そのままだと風邪引いちゃうし…。」
「大丈夫大丈夫…俺バカだからさ。風邪引かないんだ。」

何言ってんだろ。
ともかくこの後しばらく謎の譲り合いが続き、俺が折れる形で先に入浴することとなった。
幸い設備は充実しており、疲れやら垢やらいろいろ溜まった身体を洗い流し、髭剃りもあることだし無精髭も剃っていく。
そうして風呂から出てきたときなのだが

「…!!」
「え?」

俺の顔を見るなり、絶句する武蔵ちゃん。

「嘘…」
「え、なんかついてる?洗い残し?」

両手で口を覆い、目を見開いて俺を見たまま固まってる武蔵ちゃん。
なんだ、本当になんなんだ。

「髭のせいで分からなかったけど…童顔なのね…。」
「あ、ああうん…。」
「嘘でしょ…私のマスター、顔良すぎ…。」

何か小声で呟いてたけど聞こえなかった。

「あ、あのさ!」
「?」

ここで話を変えよう。
いや、シャワーを浴びながらずっと考えていた事がある。

「俺…強くなりたいんだ。」
「藪から棒ね。とはいってもマスターを守るのはサーヴァントの役目だってさっき」
「違う…そうじゃないんだ。」

土下座を決めこんだ際、一瞬だけ見せた武蔵ちゃんの冷たい視線。
あれは未だに俺の心に深く突き刺さっている。

「今のままじゃ…ダメかなと思って…。」
「ダメって…どういうこと?」
「その…弱いままじゃ…このままの俺だったら…宮本武蔵のマスターに相応しくないんじゃないかって。」
「…。」

マスターを守るのがサーヴァントの役目。
けど、それに守られてばかりで本人は弱いままでいいのだろうか?
モンスターに土下座は通用するか?いやしない。

「明日明後日いきなり強くなれるなんて無理だ。だから…。」
「…だから?」

俺は本日2度目の土下座をかます。

「俺を…強くして欲しい。平たく言えば弟子にして欲しいんだ。」
「…。」

おこがましい言葉なのは百も承知だ。
けど、強くなるためにはこれしかない。
彼女に相応しくなるためには、そして今の自分を変えるためにはこれしか方法がないんだ。

「サーヴァントに弟子入りするマスター。おかしな話ね。生憎だけど私弟子とかとる性分じゃないし…。」
「その…そこをなんとか…!」

失望されたくない。
またあの冷たい視線で見られたくない。
そんな思いが心の中を駆け巡り、絞り出すような声で懇願した。

「…本気?」
「…え?」

武蔵ちゃんがしゃがみこみ、俺の顔を覗き込む。

「本気かどうか。それだけを聞いてるの。」
「で、でも…。」
「確かに弟子とかとる性分じゃないとは言ったけど、嫌とは言ってないわ。で、どうするの?」

答えは、揺るがない。

「なります…!武蔵ちゃんの弟子に…弟子にしてください!!」
「うん、よかろう。言っとくけど私は厳しいわよ?」
「厳しくてもいい…俺は…俺は変わりたいんだ!弱くて、媚びへつらったなよなよしたままの自分じゃなくて…武蔵ちゃんのマスターとして隣に立てる男になりたい…!」

そっか、とだけ言い武蔵ちゃんは立ち上がる。

「ほら、顔上げて。人にそう簡単に頭を下げるのもあんまり良くないと思うけど?」
「あ、は、はい!」

そういい武蔵ちゃんはシャワールームへと歩いていった。

「じゃあ、私シャワー浴びるから。」
「…。」
「というわけで弟子になった大和くんにお願いがあります。」

顔だけひょっこりと覗かせ、俺に何やら頼みがある様子。

「お師匠様が湯浴みし終えるまでに夕飯を用意しておくこと。できればうどんがいいわね!」
「え、それって」
「ほら文句言わない!これも修行の内!」
「い、いやそんな小間使いみたいなこと…!」

言い終わる前に扉を閉められる。

「う、うどんって…。」

彼女の大好物なのは確かに知ってる。
でも…あるのか?

「と、とりあえずスタッフの人に聞いてみよう。」

ここでもし用意できなかったら弟子入りの話は無かったことにされるかもしれない。
そんなのはゴメンなのでここは大人しくうどんを探しに行くことにした。



「んん〜生き返るぅ〜♡」

それから、
スタッフさんに聞いてみたところインスタントならあるとの事でもらってきた。
しかし、何故ラブホテルだけこうしてインフラが生きており、なおかつ建物も無傷なのだろうか。
まぁ助かったことに越したことはないけど。

「さすがね大和くん。とりあえずは第一関門突破ということで!でもインスタントなのは残念だけど贅沢は言ってられないか!」

と、バスローブ姿でおいしそうにうどんをすする武蔵ちゃん。
うどんは一つしかなく、俺は非常食として保存されていた乾パンと氷砂糖をかじってとりあえず腹を満たす。

「とりあえずはここで一晩過ごしましょうか?」
「…だな。」

窓の外を見ると未だ止まない雨が降り注いでいる。
勢いも衰えることなく、ずっとスコールが続いているのだ。
おそらく今日中に出ることは不可能だろう。

「その…師匠?」
「武蔵ちゃんでいいの。堅苦しいのは苦手なので。」
「じゃあ…武蔵ちゃん?」

師弟関係にはなったものの、呼び方は今までと変わりなく名前で呼び合う事となった。

「何かしら?」
「単刀直入に聞くよ…強くなるには…どうしたらいい?」

箸が止まり、少し考えてから武蔵ちゃんは答える。

「戦うこと…かな。」
「戦う…。」
「例えるなら刃。刃もまた研磨され、打たれ、強く鋭く丈夫になる。今の大和くんは例えるなら打たれる前の刃…ううん、まだ刀にもなれていない"鉄"ってところかしら。」
「刀にもなれていない…鉄。」

まだ斬ることも出来ない、未熟以前の問題。

「でも平気平気!弟子入りを志願したんだから師匠の私が責任をもってキッチリ立派な"刀"にしてみせますから!その辺はドンと任せてね!」

そういい、うどんの残りのスープをすする。

「はー、ごちそうさま。」

空になったプラスチックの容器を机に置き、椅子から立ち上がって窓を見る。

「それじゃ、明日雨が上がり次第出発ということで!修行の旅は長く険しいものよ。覚悟してかかるようにね!大和くん!」

俺は弟子入りした。
この、宮本武蔵という剣豪の元に。
これがどうなるかわからない。
本当に強くなれるのか、彼女にふさわしいマスターになれるのかすらも。
でも、ついて行こう。
俺の無茶な頼み事をしっかり引き受けてくれたんだ。

「分かった…これから師匠としてよろしく頼むよ。武蔵ちゃん。」




 
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