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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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まだまだあたしは、甘かった。

 
前書き
どうも、クソ作者です。
シリアスな回になりますが次辺りはどっぷりエロを書きたいと思ってます。
 

 
「葵先輩のご両親が…?」

それから家に帰り、近野さんにも状況を説明する。

「うん、ここにいる二人なんだけど…」
「似て…なくもないですね…。」

ビラに映る二人の男女を指で丸く囲い、この二人があたしの両親だと伝える。

「連絡なんてつかなかったからさ。てっきり死んだかと思ってて…。」
「なるほど、こうして奇跡的に生存を確認できたわけですね。」

ビラを手に取り、近野さんは表、そしてひっくり返して裏を確認する。

「地図とかは…書いてませんね。」
「あー確かに。」

人間同盟と言う宗教団体に身内がいる。
そうなればあたしは行くつもりだ。
大した思い出もないが、腐ってもあの二人はあたしの両親。
生きているのなら会って確かめたい。
しかし、そこまで行ける道のりが分からないのだ。
どうしたものかと悩んでいると

「?」

誰かにトントンと肩を叩かれ、振り向く。

「あなたは確か…」
「先輩のサーヴァント…のおまけの方ですね。」

背後にいたのはヘシアン・ロボの乗っかっている方、つまりヘシアンだ。
首のない彼は声を出すことはできず、身ぶり手振りで感情を伝えようとする。
それかもしくは

「え…場所なら分かる?」

筆談だ
ヘシアンからあたしが言った通りのことか書かれた紙を渡される。

「ロボがにおいを辿ったんだよ。ここから東に真っ直ぐ。そこから何人もの人間の臭いがするってさ。」

会話に田所先輩も参加。
ロボが狼特有の鋭い嗅覚を生かし、場所を割り出してくれたことを説明してくれた。
さらに、

「そういえばここから東、少し遠いところに真っ白な建物が出来てたって捜索隊が言ってましたね。」

近野さんが外に捜索しにいく男達から聞いていた情報によれば、白い建物があるのだという。
その証言を重ねれば、
ここから東にまっすぐいったところにたくさんの人のにおいがするところ、すなわち白い建物がある。
さらにビラに印刷された写真。
彼らが立っている後ろには白い建物がいる。
すなわちこれは、

「そこにあるのが…人間同盟の建物。」
「ビンゴじゃん!」

指を鳴らす田所先輩。

「じゃ、そうと決まれば行くんでしょ?」
「はい…。」
「途中まで送るよ。まぁあいつらなんかロボにびびりまくってるからそんな近くまでは行けないけどね。」
「いえ…それだけでも充分ありがたいです…田所先輩。」

たどちゃんでいいってばと言い、田所先輩は準備を始める。
というわけであたしと香子は田所先輩のロボに乗せてもらい、その人間同盟という宗教団体の施設に行くことになった。

宗教…というとなんか胡散臭くてどこか怖いイメージがある。
できれば関わりたくないが、そこに両親がいるのなら話は別だ。
いや、もしかしたらいないかもしれない。
でも確かめに行こう。
こうなってしまった世界、家族が生きている方が珍しい。
だから少ない可能性でも行ってみよう。


「…。」

それから少しして、
あたし達が出かけ、近野さんが留守番を任されているときのことである。

「帰ったぜマスター…お?あいつらはどうした?」
「ああ、おかえり森くん。先輩達は…ってまたどうしたのそれ!?」

帰ってきた森長可。
しかし彼は血塗れで帰宅してきたのだ。
出血ではない。もちろん返り血だ。
紫式部のおかげもあってこの辺りにモンスターが出ることは滅多になくなった。
遠出や狩りを任せたわけではない。彼女は森長可には周辺の警備を任せていただけだ

「ああ、なんかうるせぇやつらがいてな。おれを悪魔だのマスターを契約者だの意味わかんねぇこと言いやがってよ。」
「う…うん。」
「この町は悪魔に呪われてるだとか、しまいには俺に消え去れとかよぉ。んで頭に来たんで見せしめに四、五人ブッ殺した。」
「こ、殺したんだ…。」

おそらく壁の外には無惨な死体が転がっているだろうがそんなことはどうでもいい。

「もしかして…。」

近野はビラの下部に書かれている部分、人間同盟の誕生の経緯や活動内容を読んでいく。

「これは…まずい!まずいよ森くん!!」
「あ?なんでだよ?」
「先輩が…ううん、何よりも葵さんが危ない!!このままじゃ葵さんは…紫式部さんは…!!」
「おい!マスター!!」

彼女らに何が起きるのだろうか。
続きを聞こうとしたが近野は外へと出ていく。

「おい!俺にも分かるよう最後まで話せ!」
「ちゃんと読むべきだったんだ!葵さんにもちゃんと読ませるべきだった!!」

そういい、走る近野。

「森くん!行くよ!」
「行くってどこだよ!!」
「人間同盟の建物!正確には先輩と葵さんを追いかける!」

そういい、二人は町の男達に警備を任せると門をくぐって走っていった。

そんな中、風に舞い地面に落ちたのはさっきまで近野が読んでいた人間同盟のビラ。
ぐしゃぐしゃになって多少読みにくいが、そこにはこう書かれていた。

『サーヴァントとは、歴史の偉人を名乗る偽りの悪魔。
彼らは人類の敵であり、また人々を堕落させ魂を己のものとするべく契約を迫ります。
悪魔は危険です。見つけ次第殺しましょう。
契約させられた、通称"マスター"と名乗るものも同等の危険度を持っています。
それらを発見した場合、即刻支部に連れてくることをおすすめします。
悪魔を倒せるのは私達人間同盟。そして契約させられた人間を救うのもまた人間同盟。
私達の世界を取り戻しましょう。
悪魔に負けてはなりません。この世界に蔓延る悪魔を倒すまで
、人間同盟が滅びることはありません。
一刻も早く、この世に悪魔のいないかつての世界を取り戻せるよう、我々人間同盟は尽力いたします。

人間同盟教祖 神代正義』

と。



「ついたよ。ほらあそこ。」

廃墟の影に下ろしてもらい、田所先輩が指差した方を見てみればそこには確かに真っ白な建物があった。
崩れている建物の中に一つ、真っ白な建物がある。
芸術性を感じられそうな風景だが今はそれに見とれている場合ではない。

「じゃ、行ってらっしゃい。家族三人で帰ってきてね。」
「はい。いってきます。」

田所先輩に手を振って見送られ、あたしと香子はその建物に向かって歩いていく。
ある程度まで近付くと、入り口で見張りをしていた教徒らしき二人の男がこちらに気付いた。

「止まれ。」

ボウガンをこちらに向け、それだけ言う。

「何者だ?」
「いや、あたしは人探しをしてて…。」
「人探し…?」
「はい、ここに源 紗知って人と広志っていう人、いませんか?」
「…。」

見張りの二人は互いの顔を見て、なにやらひそひそ話を始める。
そして少し言葉を交わすと

「待っていろ。」

そういい、一人の見張りが建物の中へと入っていった。

「お前、名前は?」
「源 葵。さっき言った二人の娘です。」
「娘!?支部長の!?」

残った一人があたしに名前を聞いてくる。
するとどうだろうか、とんでもない事実が聞けた。

「え、し、支部長って…。」
「何故支部長の名前を知っているんだと最初は驚いたが…そうか、二人の娘だったとはな。」

今まで怖かったろう、と言いさっきまで険しかったその顔は柔和な表情へと変化していた。

「お連れの方は?」
「ああ、この人はあたしの…」
「葵!!」

見張りに香子の紹介をしようとしたその時、あたしの名前を呼ぶ声がした。

「葵…葵なのか!?」
「母さん…父さん…?」

扉をあけてやって来たのはやはりあたしの両親だった。
そして母はあたしを見るなり、人目もはばからず走ってあたしを抱き締めた。

「か、母さん!?」
「あぁ!葵!生きていたのね…!本当に良かった!!」

そして父はそれを優しく見守り、見張りも親子の感動の再会に涙を流していた。

「本当に良かったよ。これでまた、家族三人仲良く暮らせるな。」
「うん…そうなんだけど母さん父さん。あたしも色々聞きたいことあってさ。」

何故ここにいるのか、そして支部長とはどういうことなのか、とにかくまぁ本人から聞きたいことは他にもたくさんある。
とりあえずあたしは母を引き離そうとした、その時だ。

「…!」
「…え?なに?」

絶句する母。
何事かと思っていたらいきなり手首を掴み、刻まれているその令呪を目を大きく開いて見ている。

「母さん、それは令呪って言ってサーヴァントの」

その言葉は、遮られた。

「った…。」

平手打ちによって。

「あなた!!なに考えてるの!!!」
「は…?」
「悪魔と契約するだなんて!!嗚呼…どうしましょうあなた…!!」

令呪を見て、平手打ちをして、さらに母はその場に泣き崩れた。
そんな母を父は支え、そして

「お前…お前は人間として最低のことをしたんだぞ…!!」

今まで見たことがないくらいの怒りの感情を顔に刻ませていた。

「い、いやちょっとまって。悪魔って」
「そこの後ろの人が悪魔ね!!」
「違う!香子は…紫式部は悪魔なんかじゃ…」
「うるさい!!お前の話は聞いていられるか!!見損なったぞ葵!!」

訳もわからず両親から怒鳴られ、訳がわからなくなる。
さらに建物から何人もの教徒が慌てた様子でやってきて、皆手には何かしらの武器を持っていた。

「悪魔だ!!」
「悪魔が来たぞ!!」
「偉人の名を騙る不届き者め!!」

やって来た人も皆口を揃えて香子を悪魔と罵る。
これは、一体どういうことなんだ。

「葵様…!」
「うちの娘に近づかないで!!この穢らわしい化物ッ!!」

香子に手を伸ばそうとするが、母にそれを遮られてしまう。

「私は…ただ葵様をお守りしたく」
「嘘はそこまでよ!そうやって葵を騙して契約まで結ばせて!!もうこれ以上!うちの娘をあなたの好きにはさせないわ!!」
「…。」

これは…なんだ?
香子が…悪魔?

「そうだ!悪魔だ!!」
「悪魔は出ていけ!いや!俺達が殺してやる!!」

武器を持たない人達は石を拾い上げ、香子に向けて投げ始める。

「やめろ!!やめろよ!!おい!!」

あたしが声を張り上げてやめさせようとするが意味はなかった。
そして

「緊急浄化を行いましょう!」
「緊急浄化だって!?少し荒療治かもしれないが仕方がない!!ほら葵!来なさい!!」

あたしは手を引っ張られ、伸ばした手は香子には到底届かずやがて扉によって完全に遮られてしまった。

「おい!ふざけるなよ!!」

あたしを取り押さえる教徒の人達。
暴れて抵抗するがさすがに大の大人には敵わず、無駄に終わってしまった。

「母さん!父さん!」
前を歩く二人を呼ぶも、返事はない。
ただ二人とあたしを連れた教徒は建物に入ると、そこからさらに地下へと降りていった。

「何するんだよ!!ねぇ!!」
「今、楽にしてやるからな…!」

父の小声だけが聞こえ、あたしはどんどんその地下へと連れていかれる。



「葵…様…。」

一方その頃、あたしと引き離された香子は。

「お願いします。ここを通してください…!」
「通すもんか!この汚ならしい悪魔め!!」

人間同盟の建物に入っていきたいが教徒の奴等がそれを許さない。
道を阻んでいた彼らはそのうち、香子が一人なのをいいことに全員で囲い始めたのだ。

「倒せ!悪魔を倒せ!」
「こいつは弱そうだぞ!やっちまえ!!」

教徒の一人がシャベルを手に持ち、香子に襲い掛かる。

「っ!」

すかさず梵字を書き、それを打ち出して迎撃するが…

「ぐあぁっ!?」
「大丈夫か…!?くそっ!悪魔めやりやがったな!!」

それがいけなかった。

「悪魔は俺達の仲間を傷つけた!さぁやってやれ!!」
「よくも私の友達を…!!百倍にして返してやる!!」

攻撃すれば退いてくれるのではないか?
そう思ったがそれは火に油を注ぐ結果となって返ってきた。
相手は人間、だがこちらはキャスタークラス。
さらに人数は30を越えている。
戦うことは出来るが得意ではない香子には悪すぎる状況であった。

そのときだ

「やめるんだ。」

その一言で、教徒達は紫式部を襲うのをやめた。
そして教徒達は一斉に礼をする。

「きょ、教祖様!!」
「なぜ教祖様がここに…!?」

「教祖…?」

突然現れ、教徒達にやめろと呼び掛けたのはまだ成人にも満たないであろう少年だった。
学生くらいと推測される背丈ではあるが彼が教祖様と呼ばれ、香子は一瞬耳を疑った。

「皆、下がっていてくれ。」

教祖がそういうと、香子を囲っていた人はモーゼが海を割ったかのごとく左右に別れる。
そうして開けた道を歩み、教祖と呼ばれた少年は香子の前までやってきた。

「状況は大体分かった。入信者が、悪魔と契約させられてたんだね。」

教祖の言ったことに、彼らは全員うなずく。

「なるほど。だったらこれは…僕なりの救済だ。」
「教祖様!それは危険すぎます!!」
「もうあなたは充分です!既に悪魔の契約を肩代わりされておられるのに…!!」
「嗚呼…悪魔のために己の身を犠牲に…なんとお優しい…!」

周りが止めに入ったり、賛辞を送る中教祖は悪魔と呼ばれた香子にそっと手を伸ばし

「単刀直入に言うよ、その契約の呪い、僕が喜んで引き受けよう。」



連れてこられた先は地下室。
真っ暗だったが部下達が壁に等間隔にかけられた蝋燭に火を灯し、部屋の全貌が明らかになった。

「なにこれ…!?」

何かを固定するための器具、頑丈そうな手枷。
部屋の隅に並べられているのは斧や鋸、ペンチと工具。
さらに床をよく見て気付いた。
赤茶色のシミ、そしてさっきから鼻にくるにおい。
これは"血"だ。
血がかわいてシミになったんだ。

「ど、どうするつもり…!?」

拘束器具、切断するための工具、そして血の跡。
その要素からこれからあたしがされることはまともではないことは簡単に予想できた。

「どうするって、これから緊急浄化を行うのさ。」
「緊急浄化…!?」

緊急浄化。
さっきもそう言っていたが何をどうするのか、
それはいたってシンプルかつ、残酷なものだった。

「その証を切り落として、悪魔との契約を断ち切るのよ。」
「証…切り落とす?切り落とすって何を!?」

分かっている。大方予想はつく。
でもこれから起きることは予想と外れてほしいと、心の底から願って尋ねた。

「不便になるかもしれないけれど我慢してちょうだい、葵。契約の証…つまり手首を切り落とすの。」
「…!!!」

部下の一人が斧を持ち、こちらへとやってくる。
手首を切る?そんなの考えられない!

「っ…やめろ!!離せ!離せよ!!!」

逃げようとしたら父親と数人の部下に押さえ付けられる。

「ふざけんな!!おい!!おい!!!」
「いつのまにこんな汚い言葉遣いを…やはりこれも悪魔の仕業だ…早急に緊急浄化を始めないと…!!」
「おかしいのはアンタ達だ!!香子は何も悪くない!!悪魔なんかじゃない!!」

そのときだ、
後頭部に鈍痛を感じ、あたしはここで意識を失う。

背後には、バットをフルスイングし終えた部下。

「お前…葵に何かあったらどうするんだ!?」

気絶させた部下に父親が掴みかかるが、

「下手に暴れて怪我をするよりかは余程マシかと。それも全て救済の為です。それよりも支部長、時は一刻を争います」

そういいくるめられ彼は仕方なく部下の行いを許した。

それからあたしの腕は頑丈そうな革のベルトで何かの器具に固定される。
さながらそれはまな板。
モノを切るためのまな板だ。

「じゃあ、やろう。紗知は見なくてもいい。これはさすがに酷だからな。」

妻に見なくてもいいよう伝える父。
だが彼女は目をそらさなかった。

「娘だもの。葵が痛い思いをするのに目を背けるなんてできないわ。」
「それも、そうだな。」

そして父は部下から斧を渡され、振りかぶる。
せめて痛みを最低限にするよう、全力で切りかかって一度に済ませる。
狙いがぶれてはいけない。狙うのは手首。
中途半端に切れないよう、一思いに切る。
娘を救うのは親の義務。
そう言い聞かせ、父親は娘の手首めがけて斧を振り下ろした。


が、

「おごぉ!?」
「あなた!?」

手首が切られることはなかった。
斧がふりおろされることはなかった。
結果として何が起こったか。

「い、一体何が!?」

父親が吹き飛んだ。

「ったくいってぇなぁ…」

ふちぶちと音をたて、まな板に固定するためのベルトが引きちぎれる。

「手首をきる?そんなもんで契約切れると思ってんのかよ?えぇ?」

「う、うそだ…確かに気絶させたはず…!!それにそのベルトは人の力なんかじゃ…!!」

気絶したはずの娘が固定具を引きちぎり、ゆらりと立ち上がる。

「まぁでも、こうやって"アタシ"が外に出られたワケだし。感謝はしてるよ。父さん、母さん。」

ゆっくりと顔をあげる。
血に濡れた顔。
そして青かった瞳はそれに染まったかのように紅く。

「だれ…だれなの…ねぇ!!」

見慣れたはずの娘。
だが今の彼女は母親にとって、娘以外の"何か"に見えた。

「誰?誰ってアタシは"源葵"。あたしが産み出したもう一人のアタシだよ。」

歯を覗かせにんまりと笑う。
そう、アタシはアタシ。源葵。
源葵がずっとおさえつけてきた欲望達が形になって出来たモノ。
 
 

 
後書き
すいません。終われませんでした。
この宗教、人間同盟についてはクソ作者の他作品、まぁ本編の『崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか』を読みましょうね。
え、読んでる? 
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