IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第243話】
リビングで黙々と粘土を捏ねていると、何だか微妙に落ち着かないのだが――。
「できたっ」
そんなシャルの声がリビングに響き渡ると――。
「それじゃ、スタートね」
そう言ってシャルにサイコロを手渡す鈴音。
渡されたサイコロを振ると、テーブルの上を転がりピタリと止まった――ゲームの開始だ。
「えーと、一、二、三……っと」
そう駒を進めるシャル。
次の出番はセシリアで、その次は俺。
因みに俺が作ったのはヒトデか星にしか見えない手裏剣という罠。
下手に作るのは大変だが、セシリアの作ったものは俺以上に謎の物体だった。
「あ、宝石を得ましたわ」
「んじゃ俺だな。 ほいっと」
高々に空を舞うサイコロは、テーブルを跳ねて転がると――。
「……質問マスね。 んじゃ、ラウラの粘土に質問いいか?」
「む? ……受けて立とう、嫁とはいえ手加減しないぞ」
そう言い放つラウラは自信があるのか、腕組みして俺を見てくる。
「回答だけど、『はい』『いいえ』『わからない』よ。 『多分』もあるけど、最初だしその三つね? 『いいえ』を出されるまで質問出来るから、最初は大分類で始めるとお得ね。 後、本当は他の人にわからないように紙に書くんだけど、初めてだし、そこも気にしないでいいからね」
「成る程? ……だが、あれは……」
そう言ってラウラの粘土を見るのだが、謎の威圧感を放つ円錐状に出来たそれは、傍目から見ても全く解らず、全員が目をぱちくりさせてラウラの粘土を見つめていた。
「こほん。 ……それって、日本にある?」
「うむ」
静かに頷き、答えるラウラ――。
「んじゃ、それは俺んちより大きい?」
「うむ、ヒルトの家より大きい」
俺んちより大きい円錐状の物ってなんだ?
だが、道具関係ではないという事は、建造物関係だろうか?
「……じゃあさ、それは都市郡にあるもの?」
「ふむ、あると言えばあるが、無いと言えばないな」
ラウラの答えに、ますますラウラの作った粘土を凝視する皆。
説明役の鈴音ですら頭を悩ませるのだから相当手こずらされそうだ。
「じゃあ、これって人工の建造物?」
「ノーだ」
そう言い放つラウラ――と、鈴音が……。
「ヒルト、質問終了よ。 このまま回答も出来るけど、ヒルトどうする?」
そう頭の上から声をかけられ、見上げると急に顔を赤くしてそっぽを向く鈴音。
「……まあ外しても問題無いなら答えるかな」
因みに、正式なルールだと質問と同じように紙に書いて製作者だけが見るのだとか。
でも殆どの人が初めてってのもあるため、今回は回答情報を全員共有するというルールに鈴音がしてくれた。
「じゃ、答えをどうぞ」
「んと……。 逆から見た氷柱」
そう答え、ラウラを見ると静かに瞼を閉じ、口を開くと――。
「違う」
否定の言葉と共に、氷柱ではないことがわかった。
……じゃあ鍾乳石か?
謎を残したまま、ゲームは進行し、中盤を過ぎた頃――。
「そろそろ正解しないと、当てられた人も得点入らないわよ」
そんな鈴音の言葉がリビングに響く。
……シャルの作った馬は、誰がどう見てもわかる代物だったので後回しにしていたのだが、直ぐにラウラが答えた為本人には得点が入らず。
進行時点での正解による得点がバルバロッサの特長だと鈴音が言っていたが……。
とにかく現状当てられたのはシャル、美冬、未来の三名で残った俺を含めたセシリア、ラウラの三強が残る始末。
因みに、美冬が作ったのは覇王樹なのだが、非常口の人みたいな格好をしていたので恐らくゲームの覇王樹だろう。
未来は埴輪だったが、なかなかわかりにくかった。
……それよりも、セシリアとラウラの二人が誇らしげに見せる物体の謎が深まるばかり。
ラウラが円錐物体で、セシリアは細胞体以外には見えないものが鎮座している。
俺なんかは分かりやすい筈なのだが、何故か星に拘る、またはヒトデの種類に言及しかけてる。
「セシリア……そ、それは食べ物……?」
「違いますわ」
シャルはセシリアに質問するものの、全く当たらずに困ったような笑顔を浮かべていた。
一方――。
「んー、それって……洞窟にある?」
「いや、無いな」
未来も答えが解らず、頭を悩ませているように見える。
「……お兄ちゃん、これって人が使うもの?」
「そうだな。 人が使うものだな、これが」
「……じゃあ、昔の物?」
「あぁ、昔だな」
美冬の真っ直ぐな眼差しに負けまいと、視線を逸らさずにいるものの、徐々に正解に近付いてきてるのに内心点数入らなくてもいいからこのまま貫き通したい変な意地が出て来はじめた。
「んじゃあ、これって……大会とか開かれて無いでしょ」
「……いや、確か開かれてたな。 ……うん」
そう言うと、確信したように頷くや美冬は立ち上がると――。
「……成る程? ふふっ、お兄ちゃん! これって手裏剣でしょ!」
「……ふぁ、ファイナルアンサー?」
「ふふっ、お兄ちゃんがそう言うって事はもう自白してるって事よ!」
そんな指摘に、俺は頭をかいて――。
「……ちっ、遂に当てられたか。 正解だよ美冬」
「へへっ♪ ……でも手裏剣って刃が四つが主流な気が……」
答えが出たものの、形状について美冬が指摘するが……。
「まあいいだろ? こんな手裏剣も確かあったさ、これが」
そう言うや、そこでお試しゲームは終了したのだが――。
鎮座した謎の物体二つが、あまりにも謎過ぎて結局答えが出ず――。
「……結局、この円錐物体は何なんだ、ラウラ?」
とりあえず終わったという事もあり、俺が訊いてみると――。
「何? ……わからんのか。 嫁失格だぞ」
「……んじゃ、ラウラとは結婚出来ないって事だな」
そう言葉を口にすると、慌てながらラウラは――。
「い、一度のミスで嫁失格は言い過ぎたな。 すまない、ヒルト」
「……仕方ないな、勘弁してやろう。 何てな? てかこんなミニ劇場の芝居はいいから、答えは何なんだ?」
流石にラウラとのやり取りを続けていると、皆のヤキモチが凄まじい事になる。
……と、ラウラが口を開く。
「……山だ」
静かに告げる一言に、皆耳を疑う。
聞き違いでないなら今確かに【山】と聞こえたが……。
「……んと?」
「山だ」
もう一度聞き返すと、やはり繰り返して同じ言葉を言った。
「……ちょい待ってくれ。 俺が知る限りの山だとこんな氷柱の如く尖った山は見たことがないぞ」
「むっ……。 だがエベレスト等はこんな感じだろう」
「いやいやいや、それだとエベレストって特定しないと誰も解らんぞ?」
「……だが、エベレスト以外にもこういう山はある。 異論は認めない」
そう言い切るラウラは腕組を崩さず、威風堂々とした佇まいだ。
「ま、まあ。 ラウラ、正解されなかったから減点ね。 それで、セシリアのは?」
合間に入った鈴音はそう言うと、セシリアの方へと顔を向けた。
「あら。 誰もわからないのかしら?」
……正直、謎の物体にしか見えないからわかってたら正解してる筈なのだが……。
いつものセシリア通り、腰に手を当て軽く一瞥、それから右手を広げて謎の物体の正体を大々的に言い放つ。
「我が祖国、イギリスの本島【グレイト・ブリテン】ですわ!」
「「「…………」」」
思わず絶句する俺と、沈黙する一同。
これまでの回答一覧は『潰れたじゃがいも』『原初細胞体』『ぐちゃぐちゃのピザ』『藻』『ボロ布』『怪我をした犬』『ジャンプ中の猫』『爆発したばかりの爆弾』という内容だ。
「全く、皆さんの不勉強には驚きますわ。 ヒルトさんも、一日一回は世界地図を見ることをオススメします」
多分全員イギリス本島の形ぐらいは知ってる筈だが。
……反論すると、後が大変な気がするので皆困ったような笑顔のまま黙ることにしたようだ。
……多分、これに関しては突っ込まない方が幸せになれる、そんな直感が過ったのかもしれない。
「……そこそこ盛り上がりはしたが、ちょっと俺には合わないな……。 やっぱりトランプでババ抜きが一番安定するかもな」
「ん、そう? ……じゃあ次はトランプにしよっか?」
あっさりとそういう鈴音は、トランプの箱からカードを出した。
「……先にバルバロッサ片付けようぜ?」
「そ、それもそうね」
苦笑しつつ、皆は作った粘土を潰していくのだが、ふとシャルの作った馬を手に取って眺めると。
「うーん。 バルバロッサというゲームではシャルは得点取れなかったが、この造形は見事だな。 このまま棚に飾っても問題ないレベルじゃないか?」
そう俺がシャルに言うと、顔を赤くしながら――。
「そ、そんなことないよ。 四本足なだけだってば」
「……でもさ、流石にらくだやロバには見えないぞ? この技術、羨ましいな。 天は二物を与えないって割には三物四物ぐらい与えてそうだよな……」
「あ、ありがと……」
照れるシャルを他所に、馬を眺めながらも突き刺さる視線を複数感じ、見るや膨れっ面をした子が何人かいた。
……因みに、膨れっ面なのはセシリアとラウラで鈴音と美冬と未来はジト目で見てきた。
「……これじゃあ迂闊に誉める事も出来やしないな……」
そんな呟きを一人ごちり、自分の作った粘土を潰して直す……。
……てか、鈴音までジト目とは何事だよって思ってしまうよ。
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