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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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傭兵-あんさつ-

「いたぞ!あそこだ!!」
「くそっ、もうこんなとこにまで…!」

あれから、
俺と武蔵ちゃんはしつこいくらい財団に追われていた。
退けても退けても、次の日にはまた別の奴らがどこからとも無くやって来る。
そして今、一々相手にしているのも手間がかかるので、こうして2人で逃げていた。

「あいつだ!白髪のマスター!刀も持ってるぞ!」
「ああしつこいなぁもう!!」

目撃した別働隊のやつを武蔵ちゃんはすれ違いざまに斬り裂き、増援の連絡が出来ないようにしておく。
対する俺は…

「止まれ…!止まらんと」
「すまない!!」

刀は抜かず、ショットガンを取り出し撃つ。
どうやら魔力によって威力が加減できるらしく、俺はこうして全身が動けなくなるくらいの威力で敵を無力化していた。

「どうして俺達ばっかり…!」
「私にもサッパリ!あの人達に聞いてみたら?」

話しかけたらまず銃を向けられるだろうし、やめておこう。

「とにかく逃げるのよ!まだ走れる!?」
「ああ、全然!!」

この体のおかげか、日頃からの鍛錬のおかげか俺はこうして二十分以上全速力で走り切れる。
まだ疲れもしないし、どこまでも逃げられそうだ。

「情報通りなら近くにそこそこ栄えた町があったはず!そこに逃げましょう!」
「でもそうしたら…!」
「木を隠すのなら森の中って言うでしょ!」

彼らは躊躇いなく発砲してくる。
それで町の中に逃げれば民間人を巻き込んでしまうのではないかと心配はしたのだが、どうやら武蔵ちゃんにもちゃんと作戦があるらしい。

「紛れちゃえばいいのよ!葛城財団って、表沙汰では慈善事業って扱いなんでしょ?だったら評判気にして無闇矢鱈に町中じゃ撃たないと思うの!」
「…その言葉…信じるよ!」

そう言って俺は

「えっ、ちょっと!?」

武蔵ちゃんの手を引き込み、そのまま抱えた。

「大和くん!?何を!」
「追っ手を振り切る!だから"跳ぶ"んだ!」
「と、跳ぶって…?」

全力疾走の慣性をそのままに、足に思い切り力を込める。
町は見えている。だから、あそこまで"跳べばいい"…!

「こういう、ことだよ!!」

脚に迸る紅い稲妻
グッと踏ん張り、思い切り地面を蹴って俺は文字通り跳んだ。

「!?」

驚いている武蔵ちゃん。無理もない。
5メートル、10メートルとどんどん地面から遠ざかる。
財団の実働部隊が何かを叫んだり銃を乱射しているが、それはもう聞こえないし届かない。

「大和くん…飛んでる!?」
「正確には"跳んだ"んだ。ぶっつけ本番でやってみたけど…案外できるもんだな…!」

自分の脚の力は修行にて熟知している。
こうやって思い切り力を込めれば、建物やでかいモンスターだって簡単に飛び越えられるくらいの跳躍力を生み出せることも。
ただ、ここまで高く跳べるのは少し予想外だった。

「わざわざこんなことしなくても…走って振り切れたのに…!」
「車のエンジン音が聞こえた。多分葛城財団のだよ。武蔵ちゃんは逃げられるかもしれないけど、俺は車なんか使われたら逃げ切れる自信がなかったから。」
「そういうことね…でも。」

ふと、顔を下に向ける。
そこには無意識のうちに抱えている武蔵ちゃんが。
そう、知らぬ間に俺は

「こうやって抱えられるのは…その…少し、恥ずかしいかななんて…。」
「…!」

俗に言うお姫様抱っこをしていた。

「あ、ああいやその!ごめん!!」
「待って!バランス崩さないで!!」

自分のやらかした大胆な行為にものすごく恥ずかしくなってくる。
身体を触ってる、武蔵ちゃんの腕、腰、それにお姫様抱っこしてる?武蔵ちゃんを?
なんでそんなことした?いや、だってこうやって跳ぶにはこうするしかなかったし…。
いやそれよりも!

「!」

さっきも言ったけど俺はあくまで"跳んだ"だけ。
飛行ではない。跳び上がって滑空しているだけだ。
当然俺には羽なんか生えてないしジェットなんてものもない。
ジャンプすれば着地するように、後はもう落ちるだけだ。

「ま、待っ…!」

計算上なら町に着地する予定、だった。
ただどう着地したらいいかなんて全く考えてなかった。
さらに、自分のした事に慌て、空中でバランスを崩しこのままでは町中ではなくどこに落ちるか分からなくなる。

「大和くん待って!落ちるから!このままでいいから!」
「え、で、でも!」
「いいから!着地すること考えて!」

ナイスアイデアを考えついた、なんて思ったけどとんでもなく馬鹿な作戦だった。
このままでは地面に叩きつけられてしまう。
そう思い咄嗟に武蔵ちゃんを庇うように抱え、街の付近へと不時着した。





「お許しを…どうかご慈悲をお願いします代表!どうか殺さな」

一方その頃、
葛城財団本部。

ビルの頂上にいる代表はこれまでに無いくらい不機嫌であった。

「ったく…どいつもこいつも役立たずのチンカス以下じゃねぇか。」

だだっ広い部屋の中央には積み上げられた死体の山。
これらは全て実働部隊の者達であり、また武蔵と大和を追跡していた者達であった。

葛城財団は一度の失敗も許されない。
実働部隊は何度も何度も追っ手を差し向けたが、その結果はどれも撃退、もしくは逃げられた。
つまりは失敗。どれだけ代表に理由を述べても、状況を説明しても失敗は失敗。
だからこうして、無慈悲に虐殺される。

「てめぇもだな…?」
「ひっ…!?」

端で待機していた4、5人程の部隊が震え上がる。

「でっ、ですがあの男は強過ぎます!銃器程度では到底太刀打ちできません!より強力な兵器があれば!私達にもサーヴァントがいれば!次こそは!」
「サーヴァントを寄越せだ?低学歴が俺様に命令すんじゃねぇ。あと次なんかねぇよ。」

彼らの前に現れたのは、無表情のサーヴァント達。
皆武器を手にじりじりと近寄ってくる。

「お、お願いします!代表!代表ぉお!!!!」

実働部隊の小隊長らしき男が泣きじゃくりながら懇願している。
しかし、代表の心は動かないし眉一つ動かさず

「大の大人が泣くなよ。みっともねぇから死ね。」

サーヴァントを使って彼らを皆殺しにした。

「はぁ…。」

背もたれに体重をあずけ、窓の外の景色を見やる。

「使えねぇ部下を連れてる俺様の身にもなれよ。」
「おうおう、随分と派手にやったのう。」

あまりにも無能な部下だったものにため息をついていると、部屋に誰かが入ってきた。
和装の男と、若い女性。
彼らはサーヴァントとマスターであった。

「わしらを呼んだっちゅうことは、仕事じゃな?」
「ああ、実は少し手間取ってるクソ野郎がいてな。」

この崩壊世界には、サーヴァントを使って傭兵を営むマスターがいる。
今ここにいる2人がまさにそうであり、別に珍しい話でもない。
しかし彼らは数ある傭兵の中でも腕の立つ者であり、そして代表お抱えの傭兵であった。

「こいつらだ。」

2人に向かって代表は写真を投げる。
実働部隊が撮ってきたものであり、そこには大和と武蔵の2人が映っていた。

「ほう…宮本武蔵、あの宮本武蔵か…。」

和装の男が受け取った写真を隣の女性に渡す。

「その名を知らぬ者はいない大剣豪…不安か?アサシン。」
「ハッ!何を言うちょる?わしは剣の天才じゃ。」

女性はそう言うが、和装の男は笑い飛ばす。
アサシンと呼ばれた通り、その男はサーヴァントだった。

「標的は必ず仕留める。それが剣士(セイバー)なら負け知らずじゃからのう!ははははは!」
「じゃあ期待しといてやる。あと殺すなよ。動けないくらいに痛めつけて連れてこい。分かったな?」

マスターらしき女性は何も言わぬまま頷き、そして踵を返して出ていく。
以蔵もまた彼女を追うようにして、出て行った。

「幕末の人斬り…それがどれ程のもんか見せてみろよ。」

誰もいなくなり、死体のみとなった部屋で代表はそう呟くのだった。





同時刻。

「大和くん、生きてる?」
「とりあえず…なんとか。」

大ジャンプを決めそのまま真っ逆さまに落ちた俺達。
だが奇跡的に無傷だった。
運良く落ちた先はゴミの収集所。
いくつものゴミ袋がクッションとなり、俺達は大した怪我もなく町へと入ることが出来た。

「次はちゃんと言うように。」
「あ、はい…。」

起き上がり、辺りを見回す。
無造作に捨てられたゴミ達。
処分のしようがないからか、こうして付近に捨てられ積み上がっていったんだろう。
文字通りのゴミの山を降り、俺と武蔵ちゃんは町に向かう。
とりあえず追手は撒けた、後はどうするかだけど。

「追手は撒けただろうけど…。」
「うん…俺達が町に入ったってことは知ってるだろうね。」

大きく跳んで追手は振り切れた、けどやつらはしつこくやって来るだろう。
俺達は町にいる。それは知られているわけだし追いつかれるのも時間の問題、
安心できるのはほんの一瞬だった。
けど…。

「どうする大和くん?とりあえずあまり目立たないように…」
「いや、このままじゃ何したって目立つよ。」

解決策も割と早く見つかった。

「木を隠すのなら森の中。さっき武蔵ちゃんはそう言っただろ?」
「まぁ…そうだけど…。」
「人を隠すのなら町。俺達もその町にいる人達に溶け込めばいいんだ。」
「溶け込む…?」

木を隠すのなら森の中、しかしそれが他とは全く異なる木では隠れていても見つかる。
なら、同じようになればいい。
そこに紛れていても違和感のないように、溶け込んでしまえばいい。
まぁ何が言いたいかと言うと、

「ホントにこれ、通用するの?」
「しないよりかはマシだと思う。それに、やっぱり武蔵ちゃんの霊衣は目立つからさ。」

変装。もとい普通の服に着替えた。
近くにあった服屋に駆け込み、何でもいいので服を買う。
少し財布が寂しくなったけど、しつこく追いかけられなくなるよりかはマシだ。

「大和くんだって、割と目立つナリだったじゃない?」
「うん。このご時世スーツ着てウロウロするのも十分怪しいし。堅苦しかったからいい機会だ。」

俺と共に激務を乗り越えてきたスーツとはここでお別れ、
パーカーにベルトが沢山ついたカーゴパンツに身を包んだ俺はいかにもなストリート系に変装させてもらった。
武器一式は長方形のでかい楽器ケースにしまうことにした。
対する武蔵ちゃんは

「まぁこれもこれで気軽でいいわね!変装って言われると少し怪しいけど。」

"駆け付け三杯"と書かれたタンクトップにダメージジーンズというカジュアルな格好。
どうしても目立つ銀髪はキャップにおさめてもらった。
まぁ自分も銀髪対策としてフードを目深に被ることにした。

「なんとかなるさ。とりあえずどうする?」
「宿探し。かしら?久し振りに屋根と壁のある室内で寝たいですし。」
「…だよな。」

ここしばらく野宿で、しかも満足に睡眠もとれてない。
サーヴァントに睡眠は必要ないにしろ、人間である俺は限界だ。
久し振りに安心して眠りたいので、俺も武蔵ちゃんに同意した。

「…。」
「…。」
「手、繋ぐ?」

そうして2人して歩くも、沈黙が流れる。
しかしここで武蔵ちゃんが口を開いた。

「え?」
「あ、あーほら!フリよフリ!私達何の変哲もないただのカップルでーすみたいな!」
「…。」
「敵を欺くための作戦なのです!別にやましいこと考えてませんし!?」
「手を繋ぐのは…やましい事じゃないと思うよ…ほら。」

引っ込みかけた武蔵ちゃんの手を掴んで、ぐいと引き寄せる。

「…。」
「これで大丈夫…だと思う。俺達どこから見てもお似合いのカップルだろうさ。」
「お、お似合い!?私が…!?」
「…。」

なんだろう…提案したのそっちなのにどうしてそこまでパニックになっているんだろう。





それから、

「少しカビ臭いけど…ベッドもあるしまぁいっか!」

繁華街から少し離れた安いホテルに泊まることにした。
実は、ああやって追手に追われ続けたせいで運び屋の仕事もままならず、最近はロクに稼げていない。
さらに先程の洋服代も重くのしかかり、こうして郊外のオンボロホテルに泊まることとなった。

「でも…本当にバレなかったな。」
「ええ、一時はどうなるかと焦ったけど、あの人達ホントに私達がお尋ね者の二人って気づいてなかったものね…。」

で、この変装なのだが
効果は覿面だった。
あれから数十分後、町に葛城財団はやってきた。
街の住人は邪険そうにしていたがそんな事気にせず、奴らは銃を片手にあちこち走り回っていた。
しかし俺達には気付かない。なんなら何度かすれ違ったりもした。
こうして、変装して溶け込む作戦は大成功というわけだ。

「大和くんの作戦もたまにはうまくいくものね!」
「たまにってなんだよ…。」

キャップを脱ぎ、うんと伸びをしてから窓を開け換気をする武蔵ちゃん。

「眩しい夜景ね…。」

窓の外は繁華街の明かりが作り上げる煌びやかな夜景が広がる。
世界が崩壊し、ほとんどのインフラが停止。
しかしここまで経つと、中にはかつての文明レベルまで持ち直したところもちらほらある。
今立寄ってる町がまさにそうだ。
努力のおかげ、もあるかもしれないがやはり一番の要因はサーヴァントの存在だ。
彼らがいなければ、この町もここまで復興していないだろう。

「少し前は、こんなこと考えられなかったもんな。」
「ええ。いつ死んでもおかしくない…誰もが生き残ることに必死だった。」
「…。」

明日死ぬかもしれない。いや、今次の瞬間には死んでいるかもしれない。
俺達が見てきたものは、そういうシビアなものだった。
力こそが全てを支配する。ある意味原始的な文化に逆戻りし、世紀末のようになったかつての都会。
かつて歩いていた歩道や道路はモンスターが跋扈し、人々は怯えながら瓦礫の陰を歩く。

でも、そんなところを俺は生き抜いた。いや、運良く生き残れた。
この力が無ければ…そして、武蔵ちゃんが来なければ俺は…きっと…。

「…大和くん。」
「…!」

と、思いにふけっていると武蔵ちゃんの声で現実に引き戻される。
いつもとは違う、張り詰めた感じの声。
無意識に俺は武器の入っている楽器ケースを開いていた。

「…。」
「何か変…殺気みたいなものを感じる…けど」
「けど?」
「わからない。どこから来てるのか。気配もまるで感じない。」

武蔵ちゃんも刀を手にし、鯉口に指をかけている。
そして開けていた窓を閉め、彼女は振り向くと、

「武蔵ちゃん?」
「ここにいて!」

走り出し、扉を蹴り開ける。
そのまま彼女はどこかへと走り出して行った。

「敵…なのか?」

武蔵ちゃんのあの反応。
きっと近くに敵がいるのは間違いない。
俺も武蔵ちゃんほどではないにしろ、殺気とかそういったものは感じ取れる。
しかし、今武蔵ちゃんが感じ取ったものは俺は何も感じられなかった。

「…。」

いつになく真剣な顔をしていた。
それに、戦うなら俺も一緒に行こうとしたが武蔵ちゃんはここにいてと言った。
いや、分かる。俺をここに置いた理由が。
まだ…覚悟が決められないからだ。
あの時ステンノのマスター、陸と約束したにも関わらず、俺はまだ迷っていた。
武蔵ちゃんは守る…しかし、人は殺せない。
殺さなければ、奴らはきっとまた来る。なのに俺は…甘さを捨てきれないでいるんだ。

「…。」

ふっ、と首筋を風邪が撫でる。
神経が過敏になっている今、反射的に振り向いてしまうもそこには誰もいない。
開きっぱなしの窓があるだけだ。

「…?」

いや、待て。
どうして…窓が"開いている"?
武蔵ちゃんはさっき確かに窓を閉めた。
立て付けが悪いのか?いや、そんなはずない。

「…。」

そのときだ。
背中に、ぞくりと冷たく突き刺さる"何か"を感じた。
これは…!

殺気だ!

「っ!!」

咄嗟に刀を拾い上げ、振り向く。
振り返った先には眼前に迫る刃。
それをギリギリで受け止め、俺は感じた殺気の正体を見た。

「お前は…!」
「ほう…わしの一撃を受け止めたか…マスターにしては中々やるのう。」

後ろにいたのは、サーヴァント。
幕末時代、人斬りとしてその名を轟かせたアサシンクラスのサーヴァント。
その名も、岡田以蔵。

「しかしおまんも運が悪い。財団にたてついた奴ぁ全員、皆殺しぜよ。」
「ッ!!」

ぐいと込められる力。
さすがはサーヴァントというべきか。その膂力は俺の全力でも押されてしまう。
まずいと思い、力を込めて刀を弾くと、俺はそのまま奴に背中を向け窓目掛け走り出す。

「逃がすかぁ!!」

窓を飛び込え、外へと飛び降りる。
3階ではあるものの、なんとか受け身をとってそのまま逃げ出す。
しかし、

「面白いのう…人間風情がサーヴァントから逃れられると思うたがか?」

目の前にはいつの間にか以蔵が。
仕方ない…!

「どこまでやれるかわからない。でも…!」

やるしかない。
サーヴァントの相手をするのは初めてだけど、どれだけ無謀な事なのかは充分に分かってる。
分かってるけど、戦うしかない…!

「やってやるよ…!かかって来い人斬りチンピラ野郎!!」

 
 

 
後書き
戻ってきた。
という言葉が今のクソ作者の感想です。
ええ、ハーメルン連載当時、やや経緯は異なるもののここら辺まで書いてました。
え?その先どうなったのかって?ああ、あの時は自暴自棄でしたからね。
クソみてーなバットエンド書いた記憶があります。
でもそれも昔の話!ここからはまだまだお話は続きますからね!
それでは次回もお楽しみに!!!! 
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