| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

剣交-しんけんしょうぶ-

 
前書き
どうも、お久しぶりです。
いあいあな雰囲気がにじみ出るハロウィンを楽しんできましたアメイジング天海です。
さて、京都編もそろそろ終盤に差し掛かりました。
武蔵と伊吹童子の決闘、ついに始まります。
それでは本編へどうぞ。 

 
それから数時間後。
守護局にある訓練用の広場に集められた者達。
京都に住む者もこれから何が起こるのかと多くの野次馬となり殺到していた。

ちなみに、こうしていて復興や主に決壊に関することは平気なのかと思うが安心して欲しい。
家は確かにいくつか焼けてしまったが、サーヴァントや守護隊のおかげでそれは最小限に留められたし、すぐに修復も済むそうだ。
そして結界は俺達が持ってきた護符で代用するという。
ただしそれもその場しのぎ、ないよりはマシと言ったもので護符が持ってくれるうちに道満が張っていた結界に匹敵する新しいものを探さなければならない。

しかしそれよりも今、大事なことがある。
それが

「聞いたか?人と鬼の決闘だってよ。」
「何でも人側は頼光様じゃなく旅のサーヴァントらしいぞ。」

決闘。

鬼の頭領、伊吹童子。
そしてその喧嘩を預かり、人の代表として彼女と剣を交えることとなった武蔵。
その二騎のサーヴァントによる決闘が、もうすぐ始まる。

「こんなことに付き合わせちゃって、ほんとうに申し訳ない。」
「いいんだ。武蔵もあれは好きでやってるからな。」

頼光のマスター、吉良にそう頭を下げられるが別になんとも思っていない。
それに武蔵は嬉しそうだ。嫌な気持ちなんて微塵もないだろう。

「本当に、よろしいのでしょうか?」
「いえいえ!一宿一飯の御恩もありますし!それに強者と戦えるのなら本望!この武蔵、あなたの代理人として存分に刃を振るわせてもらいます!」

お礼のお返し、というよりも個人的な理由の方が強そうな武蔵。
頼光は申し訳なさそうにしてはいるが、対照的に武蔵は元気だった。

「旅人さん…あれ!」
「…来たか。」

と、そうやって話しているとあちら側から奴がやってくる。
一旦引き返し、大量の観客を連れ帰ってきた。
柄の悪そうないかにもゴロツキな男達や小鬼を引き連れ、やってきたのだ。

「なぁにみんな。お姉さんが来るなりお葬式みたいに静まり返っちゃって。」

鬼の領域を統括するサーヴァント、伊吹童子だ。
前述した通り彼女は小鬼や鬼を連れているがそこら辺にのさばっている理性のない鬼とは違う。
伊吹童子を上の存在と認識し、鬼らしく本能のままに生を謳歌するのではなく彼女の為に尽くすことを第一とする理性のあるタイプの鬼。

人の領域(こちら)が妖を遠ざけるとすれば、鬼の領域(あちら)は妖と共存することを選んでいるみたいだ。

「伊吹童子だ…!」
「目を合わすな…取って食われるぞ。」

多くの家来を連れ悠々と歩く彼女。
それをちらちらと見て見ぬふりをしながら人の領域の住人達はひそひそと話をしている。

そして彼女の後ろにはゴロツキだったり鬼だったり、数騎のサーヴァントだったりがいるのだが、
そんなものを引き連れている伊吹童子の隣、そこにはあまりにも似つかわしくない者がいた。
まさかとは思うが…

「吉良。まさかあいつが…?」
「いいや分からない。何せ俺だって伊吹童子のマスターは見たことがないから。」

そもそも、鬼と関わることは母から固く禁じられているらしく、伊吹童子をまともに見るのも今日が初めてだったりする。

「こんにちは。」

やがて俺たちの前に来ると、伊吹童子はニッコリと笑みを浮かべ、お気楽そうに手を振ってみせる。
隣にいた男もまた、俺達に礼をして挨拶した。

「どうも…。」
「紹介するわね。この子が私のマスター。」

そういって伊吹童子は彼に寄り添うやいなや腕を組み胸を押し付けこれでもかといわんばかりに仲良しですよとアピールをする。
対するマスターはとても不満そうではあるが。

「あのさ、こういう場所なんだから少しはか畏まらないと…。」
「かしこまるって何?気楽に行きましょうよマスター。それにお姉さん"カミ"なんだし畏まられる側じゃなーい?」
「…。」

と、そうして話している間にもやたらとボディタッチはするわ頭は撫で回すわとスキンシップをこれでもかと見せつける伊吹童子。

「…ふ。」
「旅人さん?」
「いや失礼。鬼も人も変わらないと思ったらつい可笑しくなってな…。」

過剰なまでに吉良に害が及ばぬよう最前の注意を払い、やりすぎでは無いかと思うほどに甘やかしている頼光。
そして今こうしてマスターにベッタリな伊吹童子。
そこになんの違いがあろうか?

ただひたすらにマスターを思うことを第一に考えることに関しては、鬼や人も関係ない。
もしかしたらこの境界線が無くなる日もそう遠くは無いのではと考えてしまった。

「ところであなたが、今回決闘を代行することになった武蔵のマスターか?」
「ああすまない、自己紹介が遅れた。俺が武蔵のマスターの竜胆だ。」

手を差し出されたのでこちらも握手をして返す。
なんというかこう…思ったよりもずっと普通の人だった。

こんなとんでもないサーヴァントのマスターなのだから、おそらく筋骨隆々とした、身の丈2メートル超えの素手でモンスターを殺せそうな鬼のような男だろうと思っていたが目の前にいるのは何の変哲もない一般人。
特徴がないのが特徴のような男だ。

「じゃあ、今日はよろしく頼む。うちの伊吹も早く戦いたくて落ち着きがないんだ。」

そう、短めの挨拶を交わすと俺と伊吹童子のマスターは吉良に案内され、特等席へと招かれた。





「…。」

人と鬼。
決して相容れない者同士の真剣勝負が始まる。
そんな噂を聞き付け京都中から面白いもの見たさにどんどん人が集まってきた。
ある者は壁をよじ登ってまで見に来たり、
まだあるものは屋根から双眼鏡で覗いたり、
ともかく、それだけ注目の集まるものなのだろう。
ちなみになのだが俺や吉良、伊吹童子のマスターはマスターとしての責任、もとい2人の戦いを見届けるため訓練場の中に御座をしいて特等席で見ている。

そして…

「…。」
「…。」

普段は守護隊の訓練場に使われる広場。だがそこは今日のみ、真剣勝負の場所となった。
そこには人はおらず、中央にいるのは二騎のサーヴァントのみ。
宮本武蔵、伊吹童子。
その二騎が睨み合っている。

「…怖くなったら、いつでもその刀を捨てて降参していいのよ?」
「誰がするもんですか。」

彼女の威圧感に怖気付くことも無く、軽口を叩いてみせる武蔵。
戦いたかったというよりもまず、彼女にはこの化け物に勝てるという勝算はあるのだろうか?

「…では、そろそろよろしいでしょうか。」

ついに試合は始まる。
頼光の声で2人は距離を取り、所定の位置に立つ。
静まり返る訓練場。
緊迫した空気がぴりぴりと伝わる。
そして…

「始め!!」

頼光の手が上げられるとどうじに、はじまりの合図が叫ばれる。
まず動き出したのは武蔵。
素早く抜刀し、地を蹴ってすさまじい速さで伊吹童子に急接近する。
あの様子だと…お手並み拝見ではない、彼女は最初から全力で首を取りに行くつもりだ。

「…!」

しかし、その刀は伊吹童子の首に届くことは無い。
彼女はなんなく差し出した手をかざし、人差し指と中指で刀を挟み込んでそれを阻んだのだ。

「やるな…。」

今の武蔵は確かに本気で首を取るつもりだった。
速さも、俺がやっと目で追える一切手加減なしの全力のスピードだった。
しかし伊吹童子は、それを難なく掴んだ。

「なんの!!」

掴んだその手を蹴り上げ、そのまま空中へと舞い上がった武蔵はさらなる攻撃を試みる
しかし効かない。全て受け流され、最小限の動きで武蔵の連撃はひらひらとかわされる。

攻撃がすり抜けているのではないかと錯覚するほどの身のこなし。
なるほど、やはりサーヴァントといえどその実は"カミ"
伊達ではないようだ。

「あの様子だと、お前の伊吹童子はまだ本気を出してはいないな?」
「その通り、うちの伊吹はやる気も出してないし、そもそもアンタの武蔵に興味も湧いてない。」
「そうか…。」

と、マスターの口からそう語られた。
眼中に無い、このままだと適当にあしらわれるだろう。
人間が周囲を飛び回る蝿を追い払うように、あのカミサマはそうするだろう。
しかし、

「それも、ここまでだろうな。」
「…え?」

俺の言ったことに伊吹童子のマスターが反応する。

それと同時に、武蔵がまず一撃を浴びせた。

「あら?」
「もしかして、戦いながら別のこと考えてなかった?」

一撃、とは言っても本当にかすり傷程度。
彼女の縦セーターを切り裂き、脇腹にほんの僅かな切り傷を作った。
どうやって一撃を加えたか、
カンタンだ。

(へぇ…まだ速くなれるのね。)

今よりもっと、早く動いただけの事。

「人間ならこの程度って思ってたんじゃない?しかし侮ることなかれ!!私が…お前の目の前にいる英霊が誰だか忘れたか!!」
「…。」

にんまり。
伊吹童子がそう笑う。
指で撫でた傷はあっという間に塞がり、そしてどこからともなく彼女をセイバーたらしめる得物を抜いた。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)

それが、彼女の得物。
八岐大蛇の尾から取り出されたと言われるそれ。
彼女の身の丈にすら匹敵しうる大きさの大剣は、神々しい光を放ちながら伊吹童子の手に握られた。

「あーあ、これ気に入ってたのに。」

傷は治っても衣服は治らない。
残念そうな顔で伊吹童子は切れた箇所をさすり、そしてゆっくりと顔を上げて武蔵を見下ろす。

「やっと見たわね、カミサマ…!」
「適当にあしらって怖がらせて返り討ちにしようと思ってたけど、気が変わったわ。」
「…!!」

瞬間、空気を斬る音。
咄嗟に武蔵は危険を予知し、二刀を前に出したがそれでも彼女は大きく吹き飛んだ。

そして遅れてやってくる、強烈な衝撃波。
突風のようなそれに思わず顔を覆ってしまう。

「武蔵…!」

大きく距離を離されたところに武蔵は着地するも、既に伊吹童子はすぐそこにまで迫っていた。

「…ッ!」
「ほら、見せて頂戴♡お姉さんをその気にさせたんだから、死ぬ気でぶつかって来ないと死んじゃうかも?」

草薙剣が振るわれ、武蔵は再び受け止める。
火花が散り、がちがちと音を立てながら鍔迫り合いの状態になる。
伊吹童子はずっと口元に笑顔を浮かべたままではあるが、対する武蔵は苦悶の表情を浮かべている。
おそらく、彼女の剣を受け止めたことによる余波か。
まともに受け止めたせいで腕に想定以上の負担がかかっているんだろう。

「いいわね…この感覚…!」
「!」

押し負ける。
そう思っていたが武蔵はそれを弾いて返す。
ガラ空きになった胴に一撃を加えようとするも、それはやはりすんでのところで阻まれてしまう。

「久しぶり…ううん…こうやって追い込まれてギリギリの戦いっていうのかしら!この世界に来て初めてかもね!!」
「あらそう?」

確かに、俺が武蔵に助けられてからこうしてここまで共に旅をしてきたが、武蔵は今まで特にこれといった苦戦を強いられることはなかった。
どんなモンスターだろうが、葛城財団だろうが容赦なく一撃で斬り捨てて来た。

ということは、だ。

「旅人さん…笑ってる?」
「いや、武蔵が楽しそうでなによりだと思ってな。」

今この瞬間を心の底から楽しんでいる。

「…!」

武蔵はここから追い上げていくと言わんばかりに反撃を始める。
斬る、斬る、斬る。
振るわれた草薙剣をかわし、嘲笑うかのようにそこに着地し、首を取りに行く。
伊吹童子は咄嗟に体をずらす。
首は狙えなかった、しかし攻撃は当たった。
すれ違い、後ろに武蔵が着地すると同時に肩から鮮血が吹き出す。
その光景に思わず声を上げる伊吹童子のマスター。
まだだ、武蔵の攻撃はまだ終わらない。
振り向きざまに彼女は草薙剣を振るうも、そこに既に武蔵の姿はない。
宙に跳び、既に次の攻撃へと移行している。

「へぇ…思ったより」

やるじゃない。
そう言おうとしたのだろうが、余裕さの溢れる彼女の言葉は途中で遮られた。
空中で身をひねり、武蔵から繰り出されたのは剣撃。
剣から迸った衝撃波は伊吹童子を襲う。
頬に僅かながら切れ込みが入り、そして髪の一部分が切り飛ばされ舞い散る。

驚愕。
彼女は驚きのあまり、言葉を中断したのだ。

「戦いの最中に無駄口を叩かない事ね。でないとさすがのカミサマといえど、次はその長い舌を取られるから!」
「…!」

剣を持っていない片腕が動く。
武蔵の頭を掴もうもしたが、難なくかわされ、次の瞬間腕からは血が迸る。
草薙剣を振るう、かわされる。
捕らえようとする、かわされる。
八岐大蛇の首を召喚する。瞬時に切り刻まれる。
彼女を翻弄するように、ただでさえ速かった武蔵はもっと速くなる。
そのスピードを増し、攻撃の激しさを増し、伊吹童子は辺りを見回すも武蔵の姿を全く捉えきれていない。
その表情からは先程まであった余裕という名の笑顔は消え失せ、固く結んだ口からは真剣という感情が読み取れた。

そして、目を見てわかる。
初めて彼女の瞳に、武蔵を見るその目に、明確に"殺意"と呼べるものが宿った。

「楽しいわね…!ここまで追い込んだ骨のある人は初めてよ…!!」
「だから聞いた!!お前の目の前に居る英霊が、何者だと!!!」

八岐大蛇の分御霊、カミなるもの。
その威圧感で人を畏れさせ、圧倒的な力で全てをねじふせる。
脅威の神霊ではあるが、今その伊吹童子が相手している者は生涯無敗を貫いた二天一流の大剣豪、宮本武蔵。

しかし、ただの武蔵ではない。

「それに…あんな啖呵切って決闘に臨んだのだから、大和くんの前でカッコ悪いところは見せられないしね!!」

俺の、竜胆大和の宮本武蔵だ。

「ほう…。」

笑顔の消えた伊吹童子。
しかしまた、彼女の顔に笑顔が戻る。
霊基を変え、新たな姿へと変貌しながら。

「楽しいわ…いや、じつに ゆかい」
「…。」

雰囲気が変わった。
おぞましい気配。
周囲にて野次馬をしていた一般人たちは次々に震え、頼光もまた無意識に己のマスターを自分の後ろに隠す。

「貴様がそこまでならば 余もそれ相応の返しをしなければ失礼か…。いいだろう。全力で貴様を屠るとしよう…。」

気に入っていると言っていたセーターを破り捨て、ただでさえ大きかったその身体はより大きくなる。
角もより禍々しく、髪も白銀のものへと染まる。

「武蔵のマスター。遅いかもしれないが言っておく。」
「なんだ。」

伊吹童子のマスターが恐る恐る口を開きながら、俺に警告してきた。

「伊吹がああなったのなら…もうどうしようもない。アンタの武蔵が無傷で帰って来れる保証はまずない。腕の二本くらいは持っていかれても文句は言うなよ…。」
「そうか…。」
「そ、そうかって…?」

何を言われると思っていたのだろうか。
俺の返答にやや驚く伊吹童子のマスター。

「それは、心配だな。」

傍に置かれていた玉露で喉を湿し、戦いの行方を見守る。

「さぁ、抗え。余はカミであり災いである。精々途中で倒れてくれるな、大剣豪。」
「それがあなたの本当の姿って訳ね!伊吹童子!!」


ついにカミとしての本気を出した伊吹童子。
彼女のプレッシャーに気圧されることなく、武蔵は不敵に笑う。
やっと面白くなってきたところだろう。
ここで危ないからもうやめてくれと言うのは野暮だ。
それこそ武蔵の機嫌を損ねてしまうからだ。
 
 

 
後書き

もうちょっとだけ続くよ。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧