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崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?

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最終章『ふたりで…』
  崩壊した世界で刑部姫とこの先生きこのるにはどうしたらいいですか?

千葉県あたりに存在する町、姫路町。
かつてはラブホテルのビルのみがある場所ではあったが、いまではこの通り、様々な建物や住宅街が並び立ちひとつの町として機能している。

あの出来事、旧神柱と呼ばれるものが日本全国に現れたあの事件からはや3ヶ月。
葛城恋が残した凄惨な爪痕は中々癒えないが、こうしてこの世界は平和な時を取り戻しつつあった。

しかし、悪は完全に途絶えたわけでもない。

「まてぇーっ!!」

一人の男が、アタッシュケースを抱えたオトコを追いかけている。
彼はこの町の自警団の一人、怪しい男を見つけたため問い詰めたら、アタッシュケースの中身を確認しようとした際全速力で逃げられたので今こうして追っている。
同じ自警団でサーヴァントである蘭陵王や燕青に報告に向かう方が確実に捕まえられるかもしれないが、そうしては彼はどこかへ逃げ行方が分からなくなる。
だから今、こうして自分一人で追いかけているわけなのだが

「まて…待てって…!」

日々の運動不足がたたり、彼はその場で走りを止めてしまう。
アタッシュケースを持って逃げている男はにんまりと笑い、その場からさっさと逃げようとしたが…

「どうした?そんなに急いでどこ行くんだよ。」
「…!」

目の前に、一人の男が立ちはだかる。

「何やらかそうとしてるかは知らねーけどな。」
「…っ!!」

ホルスターから素早く銃を抜く。
それを見てアタッシュケースを持ってきた男は慌てて来た道を戻ろうとするが、

「俺が逃がさねーよ。」

トリガーを引き、放たれたゴム弾は逃げる男の足に見事命中。
想像を絶する痛みに男は悶絶し、アタッシュケースを放り投げその場に倒れ込んだ。

「ありがとうございます!探偵さん!」

追っていた自警団はその男に礼をする。
彼こそ、この町の探偵。そしてあの葛城恋を倒したマスターの一人、

「別にいい。俺も依頼でそいつを追ってたとこだしな。後始末はそっちでやっといてくれ。」
「あ、はい…!」

一 誠(にのまえ まこと)
帽子を被り直し、彼はどこかへと去っていった。




こうして俺は昼過ぎ、ホテルへと帰る。
厨房を借り、今日の昼飯は何にしようかと思い冷蔵庫から余り物を拝借し、テキトーに作る。
何も考えず、無心に。
ただ、

「あの…探偵さん。」

厨房で働くコックの1人…最近入ってきたらしい新人が完成した料理を見て俺に尋ねる

「なんだよ。やんねーぞ。欲しけりゃ自分で作れよ。」
「いえただ…お皿が二つあったんで…」
「…ああ悪い…またやっちまった…。」

間違えて2人分作ってしまった。
食べるのは俺1人。もちろん全部食うほど大食いじゃない。
このミスは実は割とよくやらかすんだ。

「前言撤回だ。それ食っていいぞ新人。」
「あ、ありがとうございます…。」

そう言い、料理の盛られたお皿をひとつ置き去りにし、俺は最上階にある自分の部屋へと帰っていく。

「探偵さん、かなり動揺してるみたいだねぇ…。」
「ええ。」

厨房に現れたのはこのホテルのオーナーさん。
普段からお世話になっていて、ここに事務所を置くことも許してくれた優しい人だ。

「新人君は知ってるかい?」
「何が…でしょうか?」
「彼にはね、昔かけがえのない相棒がいたのさ。」
「相棒…?」

新人は先月入ってきたばかりの人間だ。
だから彼は、3ヶ月前の大事件、何があったのかは詳しく知らない。

「探偵さんが大事にしてたサーヴァントでね、ううん、もうそれ以上の存在だったかな?」
「へー、あの探偵さんってマスターだったんですね。」
「うん、でもね。」

そう、さっきオーナーさんが言ったように、
俺にはかけがえのない相棒が、”いた”。

「死んだ…というか座に還った、って言うのかな?ともかく探偵さんは、大事な相棒を3ヶ月前のあの事件で失ったんだ。」
「ああ…そうだったんですね…。」

うんうんと納得したような素振りをする新人。
そう、まだ癖が抜けきっていない。
あいつがいた時のように、いつものように料理を2人分作る癖が。



「んで、アタッシュケースの中身にあったのは全てが洗脳弾だったんすよ。」
『やっぱりそうか…。真壁さんから聞いたが葛城恋亡き今、それは裏社会で相当高く取り引きされてるみたいなんだ。』

自室もとい事務所に戻り、俺が今テレビ電話で通話をしているのはホテル『オーシャンビヨンド』にいる広海さんだ。
何か怪しい団体がこの辺りでうろついているから調査して欲しい。
と、数日前当ホテルの支配人、真壁さんから連絡があった。
そうして入念な下調べをした結果、その怪しいヤツがこの姫路町に潜伏していることを知ったわけだ。
で、今は依頼の結果報告。真壁さんは今忙しいらしく、代理として広海さんが通話している。

『ところで…探偵さん。』
「なんです?」
『たまには休んだらどうだ?無理のし過ぎは心身共に良くない。』

広海さんが心配そうな顔をして俺にそう言った。

「え、俺なんか疲れてるように見えます?」
『ああ、疲れてるというかやつれてる気がする。それと満足にも寝れてないだろ。』
「…。」
『図星、だな?』

確かに広海さんの言う通りだ。
あれ以降、俺はまともに寝れてない。
寝れば、またあの夢を見る。
俺の隣で、大切な人を奪われたあの瞬間を。

「いやでも大丈夫っすよ。」
『ともかく無茶はダメだ。マリーも心配してる。依頼のことは俺が真壁さんに言っておくから探偵さんは休暇をとった方がいい。なんならここに来てもいい。』
「…。」

無理はするな。
そう言われ、会話は終わる。

「…。」

休暇…か。
昔は嫌という程取ってたっけな。
でも今は、休んでると色んなことを思い出しちまう。
嫌でも、あのころの日々を思い出させられる。
あいつがいた日常を、
あいつがいてくれた、なんてことない日々を。

「…。」

仕事をしていれば、忘れられる。
そう思い俺はパソコンを開いてメールで届いた依頼をチェックしていく。
そうして俺は知らない間に、働き者になっていた。

「邪魔するぞ。」
「え?」

ノックもなしに誰だよおい、と思ったがそこにいたのは知り合いだった。

「大和…それに」
「僕もいるよ。」

大和に舞、そして葵と
かつて共に葛城財団を倒したマスター達だった。

「帽子…かぶるようになったんだな。」
「知らねーの?帽子は一人前の男の証なんだよ。」
「…そうか。」

3人は勝手にソファに座る。
この3人だが、当然俺と違ってマスターなのだからサーヴァントは持っている。
おそらく俺に気を使ってる。
多分一階のロビーに待たせているんだろう。

「最近、全然集まらないよね探偵さん。BARにも全く来ないし。」
「BARにはおめーが男って分かってから行ってねーよ。」
「でもさ、呼んでも集まりには来ないのはどうかと思うけどね、あたしは。」

心配そうに俺の顔を覗き込む舞。
そして葵は、俺に向けて一冊の本を差し出した。

「…なんだよこれ。」
「これ、アンタに渡して欲しいって、香子が前に刑部姫に頼まれたんだってさ。」
「…あっそ。」

差し出された本には『実録、姫路町の探偵』と書かれたタイトルと表紙を飾る刑部姫となんだか知らねーイケメンが背中合わせになっている。
なんだこりゃ。

「生前刑部姫が描いてたものでさ、アンタ、以前一緒にサバフェス出ようって約束したんでしょ?」
「ああ、そうだけど。」
「そんときに出すためにこっそり描いてたんだよ。コレ。」
「あっそ。」

頬杖をついて、そっぽを向く。

「ねぇ、」
「…なんだよ。」
「刑部姫が残したモノなんだけど…読みたいとか思わないの?」
「…思わねーよ。」

そう言った直後だった。
葵は机に乗り出し、俺の胸ぐらを掴みあげた。

「いつまでもカッコつけてんじゃねぇよ!!キザっぽいふりして!あたかも興味ありませんみたいな素振りして!それがカッコイイって思ってんのかよ!!」
「やめてよ葵ちゃん!!」

キレる葵。それに慌てて舞が仲裁に入り、なんとか彼女を落ち着けさせる。

「探偵さん…どうして?」
「おっきーは…刑部姫は死んだ。だからもう俺は過去は振り返らないことにしてる。」
「でもさ…悲しいよ。そんなの。」
「悲しいわけあるか。思い出してももうあいつは帰ってこない。虚しくなるだけだよ。」
「悲しいに決まってるよ…!大事なサーヴァントがいなくなって、悲しくない人なんて一人もいないよ!!」

いつ殴りかかってもおかしくない葵を抑えながら、舞はそう叫んだ。

「探偵さん…おかしいよ!」

最後にそういい、彼は葵と共に部屋から出て行った。

「ったく…昼飯台無しじゃねーか。」
「誠。」

机に乗り出したせいで床に散らばってしまった昼食を掃除しようとした所、まだ残っていた大和が口を開いた。

「なんだよ。お前もなんかあんのか?」
「特にない。けどな、集まりには来て欲しい。葵もああ見えて心配しているし、舞もそうだ。3ヶ月前の祝宴から顔を見せないもんだから院長先生や弟くんだって皆心配している。」

そういえば…その人達とはそれ以来顔合わせてねーな…。

「サーヴァントを失った苦しみは分かる。一時的だが俺も武蔵を失った事があるからな。」
「…。」
「一緒にするな、と言いたいのか。悪いな、お前の痛みを分かってやれなくて。」

そう言い、大和は扉を閉めて去っていった。
彼らは以前、仲の良かったマスター達だ。
奇妙な縁もあってか何度か4人で集まり、食事をしたりどこかへ出かけたりしたこともあった。
けど、俺はもうそこには混じらない。

惨めに感じるからだ。自分が。
自分だけサーヴァントがいなくて、周りの人はいる。
その空間にいると、惨めに思えて、そして周りが恨めしくなる。
だから俺は、行かない。
それに俺は一人前の探偵だからな。群れることなんて…もうしない。

「…。」

机の上に置かれた本に、目が行く。
手に取り、パラパラとページをめくっていく、
どうやら今まで俺が解決した事件を多少のアレンジを加えて漫画にしたものらしい。
にしても

「美化され過ぎだろ俺。」

どうやら表紙のおっきーと背中合わせになっているイケメンは俺の様子。
俺こんな顔してない。てかあいつから俺のこんなふうに見えてたの?
目ん玉に美化フィルター入ってたんだろ多分。

「…?」

そうやってテキトーに見ていくと、最後のページに行きつく。
真っ白な、何も書かれていない白紙のページ。
最初はなんだ、ページ余りかとでも思ったが…。

「…。」

最後に、メッセージが書いてあった。
開いたままのページに1粒、また1粒と勝手に溢れた涙が落ちていく。
我慢していたものが、急にどっと溢れてきた。

「なんだよ…お前…ふざけんなよ…!やっすいパロディで泣かせに来てんじゃねーよ…!」

拭っても拭っても涙は止まってくれない。
白紙のページ、
そこにはれっきとした彼女の文字で、こう書かれていた。

『姫の好きだった町をよろしく

名探偵まーちゃん。

君のサーヴァント、もとい相棒より』





翌日。
休暇を取るよう広海さんにきつく言われたが、依頼が舞い込んだので俺は仕事に赴く。
今回は近くにある廃墟ビル、そこで洗脳弾の取引が行われるらしいので阻止して欲しいとの事だ。
情報も不確かだし、依頼人の名前も一切不明だがこれ以上洗脳弾が流通してあの時のように誰かのサーヴァントが奪われるようなことは繰り返して欲しくない。
そして今回は、協力人として隣町からあの狩井 暮馬と巴御前がやって来てくれた。

「久しぶりだな、探偵さん。」
「ああ。」
「あまり眠れていないようですが…体調の方は大丈夫でしょうか?」
「あー問題ない問題ない。俺これがデフォだからさ。」

町の前に集合する俺、暮馬に巴さん。
ちなみに刑部姫がいなくなった事だが、気を使ってるんだろう。
それ関係のことは、この2人は何も言わない。

「でもさ探偵さん、少しくらいは休んだ方が…この前だって張り込みで三徹したって聞いたぜ?」
「いいんだよ。部屋で引きこもってるより働いてた方がいいんだ。」
「そっか…そうかもな…。」(昔はそんなこと…言わなかったのによ。)

暮馬がなにか言いたそうな顔してるが聞かないでおく。
あっちも言えばどうなるか分かってるし俺自身もなんて言いたいのか分かりきってるからだ。

「しかし、たまには仕事のことなど忘れ一日中げえむに没頭すると言うのも」
「巴さん…!」
「あ、い、いえ…申し訳ありません…。」

暮馬が小声で巴御前を注意する。
ゲーム、か。
もう俺の部屋にはないんだわ。
あいつがよくやってたから、思い出しちまうから売っ払っちまったんだ。

「いいよ、気にしてないんで。ともかく俺は休む訳にはいかねぇのさ。この町を泣かせるやつは許さねぇし、それにこの町をよろしくなんて頼まれたからさ。」

そう言っていると、町の方から自警団がやってくる。
彼らもまた、今回の依頼は大規模になると見て俺が協力を要請した者達だ。

「よし、準備も整ったみたいだし行こーぜ。」
「あ、ああ…。」

銃を取りだし、弾の確認をして俺は歩いていく。
場所はここからそう遠くはない廃墟ビルだ。
道中何があるか分からないので、全員に用心しておくように伝えた。

「…。」

その背中を、じっと見つめる暮馬。

「暮馬さん。」
「ああ、分かってる。探偵さんは無理してるよ。」

心配そうな顔をするも、自分には何もしてやれない。
悔しさ、そして何も出来ない自分へ対する怒りはどうすることもできない。

「この町を泣かせるやつは許せない、なんて言ってたけどさ。お前がずっと泣きっぱなしじゃしょうがないでしょって話だよ。」




「ここ…だよな。」

姫路町から徒歩十分。
かつては雑居ビルだったであろうその廃墟は人のいない今でもそこに建っていた。
多少ボロボロだがしっかり建っている辺り倒壊の心配はないだろう。
さて、

「包囲完了です。ここからどうしましょう?」

周囲には自警団の方々が潜伏し、建物の方から何か出てくるのを待つことにしている。
しかし、ここで取引が行われるとか怪しいヤツが出入りしているとかそれは確定情報じゃない。
でも、僅かな手がかりにしても、例えそれが嘘だったとしても俺はもうあんな事を繰り返させない為にやる。

洗脳弾。
葛城恋の体液から作られたもので体内に入れられたサーヴァントはたちまち霊基を汚染させられ、彼の下僕となる。
言ってしまえば相手のマスターとしての権利を消失させ、こちらのものにしてしまえる強力な兵器。
製造方法は子安さんが財団の研究資料と共に焼いて実質封印。さらに製造元である葛城恋は死亡している為、もはや生産する方法はない。
だから、残っていたものがバカみてーな値段で取引される。
前に聞いたがそりゃ驚いたよ。オッサンの精液入り弾丸一発で高級外車が買えると来た。
しかしどれだけ高いとはいえ、人のサーヴァントを撃つ、それだけで奪えるんだ。
サーヴァントを持っていない一般人からしたらこれ程欲しいものは無い。
ましてや悪意を持った人間なら、尚更だ。

「待つ…って言いたいけどさ…。」
「動きはありません…人の気配はするのですが。」

さて、待つこと二十分。
あちらからの動きはなく、嘘ではないかと疑い始めたが巴御前は確かに人の気配はすると言った。
そしてここで痺れを切らしたのか、彼女は隠れていた瓦礫の影からスっと立ち上がる。

「巴さん!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言います。あちらが篭城するつもりであるならばこの巴、単身突っ込んで敵将の首をもぎ取ろうかと!」
「えぇ!?」

確かに巴御前ならやりかねない。
しかし相手の戦闘力は未知数だ。
もしかしたらサーヴァントを連れているかもしれないし、なにより…

「人間相手には無双できるだろうけどよ、もし…”洗脳弾”を持っていたらどうする?」
「…!」

あっちは洗脳弾の取引をしている。
つまり、持っていてもおかしくないし、持っていれば容赦なくやってきて巴御前に撃つだろう。

「し、しかし…そのようなものに当たる巴では…!」
「そうだよ探偵さん。何せ俺の巴さんはかーなー」
「あっちもそう思って万全の準備を整えてるだろうさ。だから奴らはきっと、絶対に避けられない隙を突いてくる。」

目の前でサーヴァントが奪われるのは見たくない。
かけがえのない相棒だった者を奪われ、一人になるマスターを見たくはない。
ちょうど、俺みたいに。

「だから俺が行く。」
「!」

立ち上がり、瓦礫の影から出てスタスタと建物に進んでいく。

「探偵さん!」
「探偵さん!待ってください!!」

暮馬や巴御前だけじゃない。
周りにいた自警団もまた、必死に俺を止めようと呼びかけている。

「死に急ぐなよ探偵さん!!そんなことしたって刑部姫は…!」
「別に死ぬつもりはねーよ。なんかあったら合図送って死ぬ気で逃げてくるから。こう見えて悪運はクソ強くてな。」
「まっ、待てよ!!」

周囲の静止も振り切り、俺はビルの中へと入っていく。

「…ホコリくせーな。」

建物の中はホコリが舞い、やや息苦しさを感じさせる。
しかしよく見ると床にはホコリの積もった場所とそうでない場所があり、誰かがモノをどかしたという後があった。
つまり、ここには誰かがいる。
そうでなくても最近何者かが利用していた。

階段を上っていき、二階、三階と慎重に辺りを調査していくが人も何も見当たらない。
そして最上階の、四階。

ドアを蹴り開け、周囲を警戒しながら銃をかまえて入室。
その部屋にそれは、あった。

「…!」

デスクの上に置かれたアタッシュケース。
中身は何か、
確認する為手に触れたその時…

「かかったな。一 誠。」
「…!!」

後頭部に、何かを突きつけられる。
固く、冷たい鉄の塊。
間違いない。拳銃だ。

「なんだよ。どっかの誰かさんか知らねーけど、取引の邪魔されてご立腹か?」
「気付かないのか?こんな目立つところで取引なぞする訳ないだろう。」

後ろで、声がする。
俺は持っていた銃を捨て、ゆっくりと両手を上げた。

「へぇ…じゃあなんでこんなところに?」
「罠だよ、罠。全ては貴様、一 誠を誘き寄せるために仕掛けた罠だ。」
「…。」
「正義様の仇…!今ここで打たせてもらう!!」

特に、驚くようなことはなかった。
ああそうか。なんかそのうち来るような気はしてたけどさ、って感じだ。
人間同盟側から見れば俺なんて極悪人だろうしな。
あと、

「いやだねッ!!」
「ッ!?」

仇討ちだなんて言われてはいそうですかと命を差し出す俺でもない。
咄嗟に振り向き、奴の持っていた銃を掴んで逸らし、弾丸を明後日の方向に発砲させる。

「貴様!」

明後日の方向、とは言ったが実は考えてる。
放たれた弾丸は窓ガラスに命中。
ガラスは割れ、破片を散らしてさぞわかりやすい音を立てただろう。
つまりは

「このままでは…追え!追うのだ!救援が駆けつけるよりも早くあいつを殺せ!!」

外に待機していた奴らが来る。
そして俺は逃げようとするが、なんと驚くことに伏兵がいた。
やつの命令のままに奥からぞろぞろと武装した奴らが出てくる。
10人、20人、お前らどこにそんな隠れてたんだと思うほどの人数だ。
よって逃げ道の階段は塞がれ、こうして俺は屋上へと逃げるしかなくなる。

「嘘だろおい…!」

慌てて屋上に逃げるも、それはある意味追い詰められたも同然。
あっという間に包囲されてしまった。

「ふん。実に呆気ない最期だな。一 誠。」
「さぁどうだか。実はまだ奥の手隠し持っちゃったりしてるかもしれないぜ。それにいいのかよ?お前らも逃げないと頭なんざ軽く握り潰せる恐ろしいサーヴァントが来るぞ?」

そうは言うが、奥の手なんてない。
銃はさっき捨てたし、他に頼りになる道具なんてない。
昔は折り紙関係の道具を持ってたが…なんて今思っても時すでに遅しだ。

「はっ、知ったことか。我々の目的はあくまで正義様の仇討ち。それを達成出来た後は死んでも構わんのだ!いや、そうされてこそ、私達は正義様の元へ召されるのだ。」
「うわ、こいつやば…。」

どうやらとんでもねー狂信者だった様子。

「さぁ食らうがいい!これこそが正義様の裁き!その身に受け後悔を刻みながら死ねい!!」

男が、銃弾を放つ。
周りにいた武装集団もまた、持っていたマシンガンから火を噴く。
前、横、目に見える範囲全てに迫る弾丸。
後ろは、ない。踏み外せば瓦礫の地面に真っ逆さまだ。
世界がスローモーションになる。思い出が、俺の頭の中に溢れてくる。
ああ、これが走馬灯ってやつだな。
クソみてーな小中高時代。ひねくれた性格のせいで友達のいなかった人性。
一人ぼっちで、こうやってつまんねー毎日が続くと思ってた。
そうしたら、世界が崩壊した。
色んなやつがワイバーンに食われる中、俺は生き残った。
奴が、刑部姫が、おっきーが助けに来てくれたから。

家に帰って、逆レイプされて、それからクソみてーな爛れた生活して。
東京を目指して、それでやりたいことやりたいからって探偵をすることになって、
どんな時もあいつがいて、一緒にゲームしたりネット見たり、
落ち込めば慰めてくれたし、俺が何作っても美味しいって言いながらめちゃくちゃ食って、
休むこと第一にしか考えてなくて、サーヴァントの癖に死ぬほど弱くて、
そんなクソみてーなサーヴァントだったけど、俺の大切なサーヴァント…いや、相棒だった。

なんだよ…。
俺の思い出、いつの間にかお前だらけじゃねーかよ。

「町をよろしく…か。」

あの本に書かれた言葉。
悪いけど、守れそうにはねーわ。
だって、

「おっきー、もうすぐ俺も、そっち逝くっぽいわこれ。

俺、ここで夢を叶えることなく死ぬから。











「…は?」

迫る弾丸、
しかしそれは、俺を貫くことなく途中で真っ黒い何かに阻まれた。

「な、なんだよこれ…!」

羽ばたく何かが密集した、黒い塊。
それは俺の盾となり、全ての弾丸を弾いたあと霧散し

「な、なんだこれは!?」
「貴様ァ!まさか本当に奥の手を隠し持っていたのか!!」
「いや持ってねーよ。あれハッタリだっての。」

武装集団達の腕を切り裂き、銃を落とし、次々と無力化させる。
あちらは何が起きてるのか全く理解が追いつかないと思うが、実は俺も理解が追いついてない。
だって、

「んなわけ…ねーよな…なぁ!」

奴らを襲う黒い塊、
キーキーと甲高い声で鳴くそれはよく見れば蝙蝠。
それに生き物の蝙蝠じゃない。
”折り紙”で出来た蝙蝠だ。

「…!」

そして奴らを適度に痛めつけた後、折り紙蝙蝠は俺の前に集合すると密集し、人型のようになる。
そこに現れたのは…目の前に立っているのは、信じられないが…

「…お前…お前!」
「助けに来たよ。まーちゃん。」

刑部姫だった。

「お前…どうして…!」
「死んだはずじゃ…!?って言いたいんでしょ?まぁその辺は色々あったというかなんというか…話すと長くなっちゃうんだけどね…?」
「お前この野郎!!!!」
「!?」

身体が先に、いや、勝手に動いてた。
もういない、もう会えないと思っていた刑部姫に、気がついたら抱き着いていた。

「まーちゃん!痛い!痛いよ!」
「お、お…おっきーだ!」
「うん。そうだよ。姫は姫、名探偵まーちゃんの刑部姫だよ。」
「そうだよなぁ…そうだよなぁこの乳ィ!」
「つかまないで!!」
「このむっちりモモォ!」
「つままないで!!」
「この腹ァ!!」
「ぎゃああ!!」
「紛うことなき…正真正銘本物のおっきーじゃねーか!!」

体全体を確かめるも、ここにいたのはおっきーだ。
他の誰のもんでもない、俺の…俺の相棒のおっきーだ。

「貴様らァ…!」
「ほら!まーちゃん!敵!敵!」
「あ。」

と、まぁ久しぶりの再会にセクハラ紛いのことしてたら敵さん方が怒りの表情でこちらを見ているではないか。

「じゃあ…素直に再会を喜んでる暇はなさそーだな!」
「え!?」

今ならおっきーもいて百人力!!
というわけにはいかない。
俺はおっきーをお姫様抱っこし、180度ターン。

「まーちゃん!?どうすんの!!」
「逃げるんだよーッ!それとお前…なんか前より重くね?」
「それは気のせいだからね!!!」

前に持った時より多少の違和感を覚えつつ、俺はそのまま反対方向へと駆け出した。
そう、宙へと。

「さぁ行くぞ!!アサシン着地任せたァ!!」
「ま、任されたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

唖然とする奴ら、そのまま飛び降りる俺。
そして少ししてから感じる、ふわりとした浮遊感。

「あ、危なかった…。」

気がつけば何十匹もの蝙蝠が糸で俺達を吊っている。
そして数分かけ、今まさに突入しようとした暮馬や巴御前、自警団の皆様の前にゆっくりと着地した。

「た、探偵さん!?それ!?」
「刑部姫様!?」

おっきーを抱えた俺達を見て驚く一同。
まぁ驚くよな。俺も驚いた。
さて、

「んじゃ、後は頼むわ。多分あいつら屋上で立ち往生してるだろうからさ。」
「わ、分かりました。では…!」

暮馬の突撃の掛け声と共に、自警団たちは一斉にビルの中へと駆け込んでいく。
ドタバタと言う音。男の短い悲鳴。おそらく中では巴御前が片っ端から男の首根っこを掴みちぎっては投げちぎっては投げの大奮戦を繰り広げているだろ。
さて、そうなると今の俺達に役目はない。

「…。」

後のことは彼らに任せ、俺は横をむく。

「ん、なに?」

いつものようにそこにいる、相棒(おっきー)

「いや、なんでもねーよ。」
「どうしたのー?もしかして姫がいない間、寂しかったんでしょー?」
「ああ、寂しかったよ。」
「お、いつにも増して素直だ…。」


やや、照れくさくなる。
ああ、でも、その分嬉しくてたまんねーわ。







それから、
事件の後始末はあとのヤツらに任せて俺達は一足先に帰宅する。
したのだが、

「何コレェ!?」

スッキリした部屋を見て、おっきーは愕然とする。

「ひ、姫のゲームは!?」
「悪い、売った。」
「秘蔵データのあったパソコンは!?」
「悪い、売った。」
「コスプレえっちのセットは!?」
「悪い、売った。」

おっきーの事は思い出したくない。
そう思い俺はおっきー関係のものは全て中古ショップに売り払ってしまったのだ。
おまけに

「貯金が…ゼロ!?」

ゼロがいっぱい並ぶ通帳を見ておっきーはさらに絶望する。

「どうして!?あれだけいっぱいあったのに!!」
「その…寂しさを紛らわせるためにギャンブルに溺れたり…女の子とお話するのに夢中になった時があったと言いますか…あ、寄付もしたわ。」
「寄付でプラマイゼロに出来ると思うなァ!!3ヶ月だよ!?3ヶ月!!姫がいない3ヶ月でどれだけ浪費したの!?!?これじゃ夢の引きこもり生活が出来ないどころか振り出しに戻ってるじゃん!!まーちゃんのバカ!アホ!ダメ人間!」
「悪かったよ。」

おっきーの言った通り、今まで貯めていた夢のための資金は全て湯水の如く使い切った。
ギャンブルで大負けするわ。キャバクラでドストライクなヲタク女子に会って気付けば数百万注ぎ込んでるわ、
あぁ、でも他は三笠とかシルク・ドゥ・ルカンの復興とかホテルとかに寄付したよ。

「…でも、そうやって荒んじゃうくらい寂しかったんだね。」

キレ散らかしていたおっきーが穏やかな顔になり、俺の頭をポンポンと撫でる。

「ごめんね。まーちゃん。」
「…俺もだよ。まさか帰ってくるなんて思わなかったからさ。」

目の前にいるのは、何一つ変わらない刑部姫。
俺のサーヴァントで、友達で、恋人で、
何よりもかけがえのない相棒のおっきー。

「さ!悩んでても仕方ねぇ!まずは依頼解決だ!」
「依頼?」
「そ。お前がいないと解決できなさそうなのが山積みなんだよ!!」

そうして、俺達は気を取り直してノートパソコンを開く。

「なんか来てるな。」
「ん?」

ホームページを開いてみればメールには何十もの依頼、
そして目を引いたのは、一問一答コーナーに1つだけ質問が来ていた。
まず、それを開くことにする。

「なんて書いてあるの?」
「ははーん。そうかそうか。どうやら質問主は俺達と同じ悩み抱えてるらしいな。」
「同じ悩み?」
「そ、答えてやったらどうだ?おっきー。」

ノートパソコンをおっきーに渡し、液晶を見せる。
そこには、簡潔にこう書かれていた。




『 崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか? 』


 
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