崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?
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最終章『ふたりで…』
女神創造領域 『崩壊世界』其ノ漆
『何人か集まったくらいでどうにかなると思ってんのか?この低脳共がよ!!』
奴が叫びを上げると同時に、使役獣達も動き出す。
その脚を振り上げ俺達に突き刺そうとする者達、大口を開けて噛み付こうとする者達。
だがその攻撃は、俺達には絶対に届かない。
「ッ!」
『ぎえぇっ!?』
ムエタイのかまえのように両拳を顔の横で握り、そのまま使役獣の顔面に強烈なパンチをくらわせたのは野中さん。
後で聞いた話だがこの人、マルタさんから直々にスパーリングをしてもらっているとのこと。
そりゃあ強くなるわ。
「来いよ不細工共。その面、もっと歪ませてやる…!」
『おぎゃあぁぁっ!!』
『ぎえぇぇぇ!!!!』
まるで野中さんの言葉を理解しているかのように、使役獣達は怒ったように雄叫びを上げ真正面から突っ込んでくる。
「ふっ!はっ!」
しかしそれも、野中さんの作戦通りなのだが。
素早い二発のパンチはまたもや使役獣の顔面をとらえる。
頭部を揺さぶり、脳震盪を起こすのには十分過ぎる威力。
そして
「寝てろォ!!」
回し蹴りで纏めて退散。
ふらつく使役獣は一気に蹴り倒された。
「野中師匠!後は俺達に任せてください!」
そうして野中さんが暴れる中、ライオットシールドをかまえて突っ込んだのは森永だ。
彼もまた野中さんに弟子入りし、鍛えてもらったとの事だが…
「どけぇ!」
盾にものを言わせて強引に使役獣達を押し退け、張り倒し、さらには瓦礫と挟み撃ちにして押し潰す。
洗練された動きの野中さんに比べていくらか我武者羅かつ強引なスタイルだが、それでも確かに森永は昔と違う姿を見せた。
「マスターにばかりいいところはとらせません!」
「ブラダマンテ!」
さらに負けじとやってきたのはブラダマンテ。
彼女もまた盾で敵を蹴散らし、そして短槍を片手に使役獣に恐れることなく突っ込む。
「聖騎士は悪には屈しない…そしてもう二度と、マスターから離れたりなんかしません!!」
「マスター!それと弟子達!そろそろ引きなさい!!」
盾で蹴散らしていると、上空からの声。
声の主はマルタさん。そして森永と野中さん、ブラダマンテは戦闘中だがは180度向きを変え、マルタさんの言ったようにその場から走り去る。
後を追う使役獣。しかしこれはマルタさんの狙い通りだった。
「いい感じに引き付けてくれたじゃない…!これで一網打尽よ!『荒れ狂う哀しき竜よ』ッ!!」
三人が暴れ回ることで使役獣達の興味を引き、集めさせる。
密集したところにマルタさんは宝具を使ってタラスクをぶつけたのだ。
「まだまだ行くわよ!『荒れ狂う哀しき竜よ』ッ!!」
「懲りないみたいね…!『荒れ狂う哀しき竜よ』ッ!!」
「いい加減に…しろっての!!『荒れ狂う哀しき竜よ』」
「お、おい…マルタ、タラスクが…。」
「『荒れ狂う哀しき竜よ』ッ!!」
マスターが止めようが関係ない。
マルタさんは日々の鬱憤を晴らすかのように宝具を連発しまくる。
そして飛ばされ、爆発されるたびタラスクの表情が実写版名探偵ピカチ〇ウのあの疲れきったような顔になっている…気がする。
「グルル…(やめてください姉御。もう身体のあちこちが悲鳴あげて限か)」
「これくらいでへばってんじゃないわよ!せーのっ!『荒れ狂う哀しき竜よ《タラスク》』ッ!!」
タラスクがもう宝具を撃たないで欲しいと目で訴えればケツをフルスイングで引っぱたいて無理矢理にでも撃たせる。
あーもう滅茶苦茶だよ。
「へぇ…やるねぇ…だったらこっちも負けてらんねぇな!!」
そんな彼らの活躍ぶりを見て奮い立つのは暮馬に巴御前。
その手にはクレマソードガンを…なんだあれ!?なんか新しい武器引っさげてきたぞ!?
「行くぜ巴さん!超協力プレイで」
「はい!クリアしてみせましょう!!」
ビシッとマイティブラザーズなポーズを二人で決めて使役獣の群れへと突っ込んだ暮馬。
サーヴァントよりも先にまず1番に走り出すとかやはりこいつもそういうタイプか、もしくは馬鹿か。
まぁでも、こういう奴だからこそあとからついて行く者が現れ、ああして街を作ることが出来たんだろう。
「これでもくらいな!!」
巴御前が弓を引き、そしてそれに合わせて暮馬も新兵器であろう弓型武器の弦らしきものを引っ張る。
銃のような形に上下から刃が飛び出たようなデザインのそれは彼の新たな武器、『クレマブレイボウ』だそうな。
さて、巴御前の放った炎の矢と暮馬の放った矢型のエネルギー弾は1つに重なり、使役獣の一体に刺さると大爆発を起こす。
周囲の使役獣も巻き込み、さらに怯んでいるうちにその2人はどんどん突っ込んでいく。
馬鹿力で捩じ伏せる巴御前。多彩な攻撃で圧倒する暮馬。
コンビネーションも最高だし…いや、あいつ風に言うならベストマッチ。
互いの背中をあずけ合って襲い来る使役獣をどんどん倒していく。
『なんだこいつ!?人間のくせに…どうしてそこまで!!お前…何者なんだ!?』
「通りすがりのマスターだ。覚えておけ!!」
暮馬の人間とは思えない戦闘能力に奴は驚いている様子。
そしてお決まりのセリフにはお決まりの返し。
確かお前はなんだ!?って聞かれたら通りすがりの〇〇だ、覚えておけ!って答えるのが常識らしい。
知らねーけど。
「さぁ!フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」
腰に巻かれたマスタードライバーに聖晶片を装填。
ボタンを押すと聖晶片が砕け中に込められていた魔力が彼の右足へと充填される。
「はっ!」
両足を揃え、高く飛び上がる。
隣にいた巴御前もわざわざ合わせなくていいのに同時に飛び、そして2人は空中で身をひねるとキックの姿勢を整えた。
「お高く止まったアンタに教えてやるよ!サーヴァントは道具じゃねぇ!どんなサーヴァントだろうがマスターだろうが!この世界で一生懸命…瞬間瞬間を必死に生きてるんだよ!!セイハァーーーーッ!!!」
2人が使役獣の群れに突っ込み、大爆発を起こす。
百単位もの使役獣が消し飛び、焦土と化したその中心には隣り合って立つ二人。
「かっこいい…。」
と、その戦いの一部始終に目が釘付けになっているのは鈴鹿御前のマスター、田村 将だ。
「将…?」
「ぼくもああなりたい…!」
目を輝かせ鈴鹿御前を見る将。
うん分かる。分かるよ。そういうの憧れる年頃だもんな。
「でもね将…あんな大人になっちゃダメだからね…。」
「なんで?かっこいいよ?」
「ほらああいうのっていわゆる…なんていうの?いい歳こいといていつまで経ってもヒーローものから抜け出せない…ダメな人なの。」
と、言葉を選びながら将に特撮ヲタクになんかなっちゃダメだよと教えてくれる鈴鹿御前。
いい歳こいて特撮ヲタクしてる本人は。
「そこの少年!ヒーローを好きになるのに年齢制限なんかないんだ!好きな物は好きなままでいいんだぜ!」
どう言われようが自分を貫いてた。
「ま、ともかくここは私の出番だし。将は離れててね。」
「うん。」
気を取り直して鈴鹿御前は使役獣どもを睨む。
将は隠れててと言われとたとたと走り、俺の後ろに隠れた。
「じゃあ将!アレお願いね!」
「うん!わかった!」
"アレ"と言われなんだそれはと思ったが、その答えはすぐに見つかる。
俺の後ろに隠れていた将の手に握られているもの、それは
「いくよ!」
聖晶片であった。
将はそれを両手で握って砕き、それと同時に令呪も光って鈴鹿御前は光に包まれる。
いやいや待て、俺鈴鹿御前の水着実装されてたなんて知らないぞ。
「他の人みたいに水着なんてないケド、私には"コレ"があるんだよね!」
光がおさまり、現れたのは水着に包まれた鈴鹿御前…ではなく
「まーちゃんあれ…!」
「黒ギャルだ!!狐耳サンタコスプレ黒ギャルJKが出てきたぞ!!」
サンタのコスプレした黒ギャルが出てきた!
なんだこれ!ショタが持っていいサーヴァントじゃねーぞ!!
「じゃあ見ててね将!」
「うん!」
こちらに振り向きウインクし、槍を振り回しなみいる使役獣を蹴散らしていく。
「教えてあげるよ最低野郎!!!」
襲い掛かる使役獣はものともせず、黒ギャルサンタと化した鈴鹿御前は叫ぶ。
「サーヴァントだってマスターだって!皆立派に恋してんの!あそこの刑部姫だって!巴御前だって!」
『あ?だからなんだ?』
おっきーってそうだったの?
まぁともかく、鈴鹿御前も恋はしてるだろう。
しかも彼女は以前、このクソ野郎にそれを直接踏みにじられた過去を持ってる。
「自分のエゴで人の恋路を片っ端から邪魔してマジでありえない!アンタみたいな男は!項羽に蹴られて木っ端微塵にでもなれ!!!」
双刀の薙刀みたいなものを投げ、それは使役獣を切り刻みながらまっすぐやつの方へ向かう。
『ああ…そうか、思い出した。お前あの時のマンコだなァ!!』
しかしその刃は届かず、弾き返されてしまう。
薙刀はそのまま方向転換し、鈴鹿御前の手に戻った。
『恋だのなんだのうるせぇやつだったな!まぁ俺様のちんぽで黙らせたわけだが…どうした?生き返ってまでまた俺様のオナホにでもなりに来たか?』
「そんなの!死んでも!お断りだっつーの!!!」
飛び上がり、全力でその槍を叩きつける。
しかしそれは触手で受け止められるも、
「私は将に酷いことをした!死んでもどうやっても償い切れないことを!だから私は決めたんだ!償いのため、将のため!死んじゃった征のため!私はこれからずっと将と生きてくんだって!!それが!!」
『…!?』
「私の!一生をかけた贖罪だあぁっ!!!」
何本もの触手な簡単に切り裂かれ、そして防御の術をなくした恋はその一撃を脳天で受けることになる。
「このまま…真っ二つにしてやるし!!」
飛び上がって一旦引くも、去り際に彼女は再び双刀の薙刀を投げつける。
今度は阻まれることなく、高速回転するそれは見事に恋の身体を真っ二つにしてみせた
『あっ、あがっ、あがががが…!』
分かれた身体をなんとかしてくっつけようとおろおろする恋。
しかしここで、致命傷を受けたことにより"アレ"が現れる。
「なんだあれは!?」
野中さんが思わず声を上げる。
無理もない。それは最早、聖杯と呼べるものではないから。
「一応…元"聖杯"っすよ。」
「聖杯…あれがか?」
偽物の聖杯が輝き、やつの身体が治り始める
やがてそれは恋のダメージを一瞬にして完治させると、またやつの胸へとずぶずぶと潜り込んで消えた。
『はははは!!!ぶっははははは!!何度やろうが無駄だって言ってんだろ!それとも低脳だから言葉が理解出来ねぇのか!?てめぇらがいくら強かろうが俺様には聖杯があるんだよ!!』
「…。」
「探偵さん?」
また完治された恋。
しかしここで、気付いた。
「もう一度だ。」
「もう一度?」
暮馬が疑問を感じ、俺に尋ねてくる。
「もう一度やつに"アレ"を出させる。」
このままじゃまた治されてループになる。
なんて思ったがそうではないかもしれない。
いや、俺がそうさせない。
「あいつがいちいち治すってんなら…一か八だ。あれに直接"こいつ"をぶち込んでやる。」
暮馬に見せたのは最後のアンチ洗脳弾。
残りは一発、それに賭けるしかもう…あいつを倒す手段はない。
「じゃあ、それをさっきのつぼみたいなのにうつためには、もういちどおねえちゃんたちがこうげきしないといけないってことだよね?」
「お前賢いな。その通りだぜ。でもあれは壺じゃなくて"聖杯"だ。」
後ろに隠れていた将の言った通りだ。
おそらくあの聖杯こそがやつを旧神柱にさせている根源だ。
その聖杯を引きずり出すには…もう一度追い込むしかない。
「へぇ、要するにもう一度ボコボコにすりゃいいってワケね。」
話を聞いていたマルタさんは指をボキボキ鳴らし、まだまだやれるという余裕を見せつけている。
隣にいる野中さんもだ。
「もう1回倒せばいいんだろ?やってやるよ!!」
「ええ!聖騎士はこの程度で挫けません!!」
またどこからともなくやってくる使役獣。
おそらくこいつらも聖杯から生み出されたもの。
つまりだ、
「やるぞ…"聖杯"ぶっ壊しちまえば、こいつはただのデブに戻るってワケだ!」
「おっけー!」
おっきーが折紙蝙蝠を飛ばし、襲い掛かる使役獣を切り裂いていく。
ブラダマンテや森永、巴御前や暮馬も臆することなく突っ込んで道を切り開こうとする。
「道は俺達が切り開く!いけぇ!ニノマエ!」
空中、地上。
使役獣で埋め尽くされる視界。その奥には奴がニヤけた面で鎮座している。
しかしそろそろ慢心しているのもマズイと思ったのだろう。
触手を振り回し、あるいは先端からビームを出し、俺達を近づけさせまいと必死の抵抗を見せる。
でも、
「さぁ!気合い入れていきなさい!『荒れ狂う哀しき竜よ』ッ!!」
本日何度目かもう分からないタラスクを使役獣の群れめがけぶつける。
マルタさんは止まらない。
タラスクを投げたあとは霊基を水着へと変え己の身で単身使役獣へと突っ込む。
「何が王になるよ!何が神になるよ!いい!?私利私欲で世界を思うがままにするアンタになんて、王の資格なんてこれっぽっちもありゃしないのよ!!!」
拳の一撃で使役獣がひしゃげ、その蹴りでバラバラに砕け散る。
最初は襲いかかろうとしていた使役獣達も、マルタさんに恐れをなしてやや後ずさるようになっていった。
「…よし!走るぞおっきー!!」
みんなが道を開けてくれたんだ。
俺太刀はそこを全速力で駆け抜けるしかねぇ!
「そこをどけぇッ!!」
道を阻む奴らは撃ってどかす。
目標は目の前、走って近付いて弾をぶちこめばいい…!
「遠慮すんなよおっきー!使えるもんは全部使え!!」
「大丈夫、もうやってるよ!!」
辺りを見渡せば彼女の折り紙たち。
使役獣を攻撃し、俺達を守っている。
『ふざけんな…ふざけんな!!たかが人間ごとき!マンコ共ごときがよォ!!俺様はソロモン=レン!この世界の王だ!!王は絶対!王は敗北なんて…王が追い込まれるなんて…』
「王様になるんだったらな…最高最善の魔王目指すくらいの気持ちで行けよ!このクソ野郎!!」
俺たちの後ろ、
そこでは巴御前と暮馬が再び弓を引いていた。
「お前だけは絶対に許さねぇ!!行くぜ巴さん!」
「はい!『真言・聖観世音菩薩』!!!」
巴御前の宝具が、暮馬の武器にたまった光り輝く謎エネルギーが一直線に放たれる。
群がる使役中は消し飛ばされ、二本の矢はそのまま旧神柱の身体を貫いて爆発した。
『ぐ…ぐぼぉ…!ありえねぇ…!ありえねぇんだよォ!!』
「今だ!!」
そして、やつの身体からあの聖杯が出てくる。
「その玉座から引きずり下ろしてやるよ!てめぇは地べたで這い回りながらマスでもかいてる方がお似合いだぜ!!」
EDカノンに最後のアンチ洗脳弾を装填。
両手でかまえ、そしておっきーは周囲にコウモリを展開。
折り紙蝙蝠のサポートにより、弾丸は絶対に外さない。
「いくぜおっきー!!」
「いっけぇまーちゃん!!」
銃の反動から俺の背中を支えてくれてるつもりなのだろうか、後ろからグッと抱きついてきたおっきー。
後は引き金を引くだけ、
だが、
『させる…かぁ!!!!』
「!!」
聖杯を出せば狙われる。
それは馬鹿のあいつも予想していたらしい。
力なく持ち上がる一本の触手。
目の前のことに気を取られ、それに気付けなかった俺達は攻撃を許してしまった。
「ぐぅっ!?」
触手から放たれたいくつものレーザー。
それは見事にEDカノンの銃身を貫き、そして爆散させた。
咄嗟に手を引いたため怪我はなかったがしかし…
「うそでしょ…最後の弾が…!」
「…ちっ!」
アンチ洗脳弾を撃ち出すためのEDカノンは大破。
そもそもアンチ洗脳弾もろとも、消えてしまった。
『ぶっははははは!!!!クソ低脳共が!!その弾丸が脅威なことくらい俺様にも分かんだよ!!知ってるか!?人間が油断すんのは勝利を確信した時なんだよ!!ヴァーカ!!!』
「てめぇが言うとムカつくなこの野郎…!!」
悪態をついても無駄なのは分かってる。
しかし、そうでもしなきゃこのココロのムカつきはどうにもならなかった。
でも、俺達は
「やつを倒す手段を失った…!」
そう、唯一の切り札を失った。
アンチ洗脳弾は、もうない。
今ここで蹴りをつけなければ他の場所で戦っている奴らもジリ貧で押し負ける。
他の方法を考えてるヒマなんて、ない。
でもどうすればいい…今ここであいつを倒すことが出来るものなんて…!
「いや、そのあんち洗脳弾ならまだあるぜよ。」
「…!」
その瞬間、旧神柱が斜めに切り裂かれる。
形容しがたい色の血を吹き出すが、それはすぐにおさまる。
問題はそこじゃない。
旧神柱の目の前にいる男、それは
「よう…だいぶ苦戦しとるようじゃな。助太刀に来たぜよ。」
「岡田以蔵!!」
襲い来る使役獣も斬り捨て、そこに現れたのは岡田以蔵とそのマスターだった。
「私と以蔵を会わせてくれた礼、まだだったなって思ってさ!それとこれ!!」
ハンドガンとナイフで使役獣を楽々と殺し、以蔵のマスターはあるものを俺達に投げてきた。
「これは…!」
難なくキャッチし、手のひらを開くとそこには1発の弾丸が。
「こいつを探偵に渡せと、三笠の院長と子安とかいう科学者に頼まれたんだ。アンチ洗脳弾の中でも特に威力の高い、極限まで殺傷力を高めた対葛城恋兵器…だそうだ!!」
とがった弾頭は赤く、そして薬莢には取扱注意の文字。
明らかにやばいものというのは分かる。
さらに以蔵のマスターはこれを、対"葛城恋"兵器といった。
すげーな、個人名指しだよ。つまりこいつをぶち込めば勝てること間違いなし。だが…。
「けどよ…!もう俺には肝心の弾を撃てるモンが…!」
「まーちゃん!」
肩をトントン、と叩かれ振り向くと、
「これ、使って。」
「お前…!」
そこには水着の際に使用するスナイパーライフルを差し出すおっきーの姿が。
「いいのか…?」
「うん。姫はぶっつけ本番に弱いし、ここはまーちゃんが撃つところでしょ。それに」
「ああそうかよ。ってお前それ…!」
スナイパーライフルを持っているその手、
ふるふると震えるその手には血が滴っていた。
「お前どうしたんだよおい!!」
「さっきの攻撃が掠っちゃって、これじゃまともに狙いも定められないから。」
「そういう問題じゃねーだろバカ!!」
どうやら先程の触手のレーザー攻撃、流れ弾をくらいやられてしまったらしい。
なんで言わなかったんだとか言ってやりたいが仕方ない。ここはおっきーの意思を尊重してやるとして!
「…分かった。俺がやつにとどめを刺す…!」
おっきーからスナイパーライフルを借り受け、そこに例の弾丸を装填する。
「はよせい!!周りの雑魚はわしらが片付ける!!」
『だから無駄だっつってんだろうがァァァァァーッ!!!!!』
旧神柱はまだ聖杯に修復してもらってはいる。
だが動くことは出来るらしく、また何本もの触手を用い、レーザーで今度は俺の身体ごと焼こうとした。
しかし、いい事ってのは連続して起こるもんだ。
「2人とも…伏せて…!!」
「!!」
小さいがよく通る声。
それを聞いて俺達は咄嗟に身をかがめた。
その直後、頭上を通り過ぎる光のエネルギー体、
あれはなんなのかと言えば
「『最果てにて輝ける槍』…お久しぶりです。拙の事、覚えていますでしょうか?」
「「誰!?」」
最果てにて輝ける槍、確かにそれはあの騎士王の槍の宝具であった。
しかし放ったのは違う、こうして俺たちの後ろにいるのも、騎士王なんかじゃない。
頭に被っていたフードを脱ぎ、こちらに礼をした灰色の髪の女性、
「あの時のお礼をしに参りました。」
「あの時…?あの時って?」
え、待ってマジでわかんない怖い。
俺なんかしたっけなぁと思い出すべく頭をフル回転させていると、おっきーが「あ!」と声を上げた。
「まーちゃんほら!ホテルの前でビラ配りしてた時の!!」
「ビラ配り…あ、あ!思い出した!!そんときの!!」
彼女の名はグレイ。
そう、まだ俺達が探偵としてデビューする前のこと、
知名度を上げるべくホテルの前でビラ配りをしていた際、彼女は俺にマスターはどこかと聞いてきたのだ。
当然、この子のマスターなんて全然知らないのでテキトーに答えたのだかまさか本当に教えた先にいたとは…。
いや、そんなことはもうどうでもいい!
『なん…で、おれさまを…よってたかっ…て…!』
本物よりかは威力は下がるものの、グレイのそれは神霊サーヴァントの宝具を迎撃できるほどの威力を秘めている。
それをくらった旧神柱、葛城恋は想定以上のダメージをくらっていた。
修復途中の身体にさらに追い打ちをかけられ、旧神柱にはぽっかりと大きな風穴があき、あちこちはブスブスと煙を上げ焦げている。
最早オーバーキル状態の奴を聖杯は修復しようとしているが、全くもって間に合っていない。
つまり、今がチャンスだ。
「…!」
黙って、スナイパーライフルに弾を込める。
狙うは聖杯。少しの狂いもなく、そいつを撃ち抜いてやる。
「まーちゃん!また来る!!」
「!!」
おっきーの声でサイトから目を離し、振り向く。
周囲にはボロボロだが何本もの触手。
先端には光が宿り、今まさにレーザーを放とうとしているところだった。
しかし、
「星舞い、雪舞い、恋よ成れ。」
「!!」
目の前にちらついた何か、よく見ればそれは雪。
それと同時に光は消え、触手達は力を失ったかのようにぐったりと倒れ込む。
使役獣もだ。
「告る勇気なマジ大事、聖夜に叶え!」
そしてこんな緊迫した中いきなり雪が降り、なんかキラキラしだしたのは鈴鹿御前の宝具によるもの。
天鬼雨じゃない。サンタとしてのもうひとつの宝具。
「いくよー!『三千恋染世界』!!!」
地面に突き刺した武器はクリスマスツリーとなり、なんだか知らんが力が湧いてくる。
そして敵がぐったりしたのも宝具によるもの。
『三千恋染世界』
鈴鹿御前(サンタ)の宝具。
その効果は応援するものに元気を与え、敵対するものは恋路を邪魔する者と見なし大幅に能力を制限するというもの。
「はい将、こっち向いてーっ。」
「ぱしゃーっ。」
写真は取らなくていいから。
『なんだ…力が…力が入らねぇ…!』
その空間にいたものはなんだろうが影響を受ける。
自称王様だろうが、聖杯だろうが、
極端に傷の治りは遅くなり、恋の顔にも明らかに焦りの感情が見て取れた。
「今よ!やりなさい!!」
「言われずとも…!!」
マルタさんがそう叫び、今度こそ俺はスナイパーライフルをかまえる。
「さあやるぞおっきー!!これが本当に最後の仕事だァ!!」
「わかった!!」
周囲に蝙蝠を展開し、超音波レーダーによる狙いのサポート。
これは絶対に外させない。外してたまるもんか。
「距離ヨシ、射角ヨシ、狙いはそのまま、やっちゃえまーちゃん!!」
『!!やめろ!!やめろ!!それだけは撃つな!!』
狙われていることに気づき、奴は聖杯を庇うべく手を伸ばそうとする。
しかし重くなった身体は思うように動かせず、手は空をつかむばかりだった。
そして、俺はそんな恋に対して悪意たっぷりのゲス顔で
「いやだね。」
そう言い放ち、迷うことなくトリガーを引いた。
「オサカベバットスナイプ…!」
放たれた弾丸は音を置き去りにして真っ直ぐ突き進む。
折り紙蝙蝠のサポートで導き出されたルートを辿り、対葛城恋の弾丸は
「やめろ…やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
歪んだ聖杯を貫き、砕いた。
後書き
かいせつ
⚫グレイ
Keyさんの作品『崩壊世界シリーズ ~fateのグレイに惚れたけどエルメロイ先生(孔明)のヒロインだからあきらめないとwと草生やしていたら、現実世界にやってきた彼女(コピー体)にマジ切れされて、死ぬほど愛される話』からのゲスト出演。
実はこの小説に出てたんだけど覚えている人いる…いないよね?
説明するとハーメルン連載当時、最初ちょびっとだけ出た人。
これだけじゃなんかアレだし、じゃあここで出しちゃうかと思い登場させました。
⚫クレマブレイボウ
暮馬の新しい武器。
見た目は銃に弓が合体したような感じ。
トリガーを引くことで矢型のエネルギー弾を発射できるが後ろのレバーを用い、実際の弓矢のように引くことでより強力なエネルギー弾を放てる。
ちょうど弓の部分は刃になっており、弓型武器でありながら近接戦闘もこなせるスグレモノ。
どうでもいいけどカリスアローとかソニックアローとかカイゾクハッシャーとかアタッシュアローとか仮面ライダーの弓型武器ってだいたい強いよね。
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