崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?
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始まりの章-世界は終わった、しかし物語はここから始まる-
姫のマスターはひねくれゲス野郎でした。
「おーい!!」
手を振りながらこちらに近付いてくる集団は、俺の通う高校の同じクラスメイト。
数十人いるものの皆学生であり、大人はいない。
そしてリーダー格であろう男は俺に微笑みかけ、すぐ側まで駆け寄ってきた。
「一誠くん!一誠くんじゃないか!?無事だったんだね!!」
「…そーだけど。」
俺に話しかけたのはクラスの中心的人物で、神代 正義という男。
常にクラスメイトを仕切り、先頭に立って皆を引っ張っていく姿は教室の端っこで寝たフリをして過ごしている陰キャの俺とは何もかも正反対の男だ。
ちなみに俺は、こいつが嫌いだ。
「ちなみに隣の子は…一誠くんの身内かな?」
「おっきー。俺のサーヴァント。あと俺は一誠じゃなくてにのまえ、まこと、」
「おっきー…それはあだ名じゃないかな一誠くん。」
話聞いてねーわコイツ。
そしてサーヴァントというワードを聞いて彼の引き連れてるメンバーの何人かがざわつく。
お、そこの後ろのやつ、お前あんときおっきーバカにしたやつだな?
「で、なんの用だよ。こっちは忙しいんだよ。」
「いや、せっかくこうして会えたんだ。見ての通り僕達はてクラスメイトと共に行動してるんだけど、もしよかっ」
「やだよ。」
断る。
どうせアレだろ?「もし良かったら共に行動しよう!」とかそんなんだろ?
「俺は断る。知っての通り俺は集団行動が嫌いなんだよ。」
「一誠くん…どうしてそんなことを言うんだ!僕達はクラスメイトだろう?もう立派な"仲間"じゃないか!」
ほらやっぱりそうだった。
俺がこいつを嫌いな理由としてまず、やたら"仲間"だとか"クラスメイト"だとか"友情"とかいうくさいワードを頻繁に言ってくることだ。
やめろよ。寒いから。
「それにそこの…おっきーだから沖田さんかな?沖田さんもこの苦難を共に乗り越える仲間だ。」
うるせぇ、そんな水着クレクレセイバーと一緒にすんな。
え?水着貰った?あ、そう。
「おっきー、お前友達だってよ。」
「え」
さて、振り向いてみればおっきーもまたあまり気持ちのよくない表情をしていた。
そして俺の耳にそっと近づき、こうつぶやく。
「まーちゃん」(小声)
「なんだよ。」(小声)
「この人…なんか無理。ノリがウザイって言うか…。」
「だろ?俺もそーなの。」
どうやら正義のノリはおっきーも受け付けない様子。
俺も嫌い、おっきーも嫌い。
だったらもう、仲間になるなんてゴメンだ。
「悪いけど、同行するのは姫からも拒否します。」
と、おっきーが手を挙げてそう言った
するとどうだろうか、正義の引き連れている女子共が黙っちゃあいない。
「何こいつら!?正義くんの提案拒否るとかサイテー!」
「うっざ。カッコイイと思ってんの?」
「何あいつ…自分のこと"姫"っつったよ?まじキモくね?」
「てか一誠とか誰だよ?あんな奴学校にいた!?」
…。
顔、覚えたからな
あと最後のクソアマ、学校にいたとかよりもてめぇと同じクラスだったわボケ。
「待って!落ち着くんだみんな!!」
騒ぎ立てる女子達をおさめる正義。
そうするとクソアマ取り巻き共は彼の一言で一瞬にして静かになった。
しかし顔は不満そうであり、まだまだ俺やおっきーに何か言いたそうだ。
正義が言ってるなら仕方ない、と言った感じだろーな。
「一誠くん。キミは…島崎くんを知っているかな?」
「ああ知ってるよ。同じクラスメイトのだろ?」
「そう、知っているなら尚更だ。」
ちなみに島崎ってのは物語の最初でジュナオ二枚抜きしたやつな。
あそこで運を使い切ったのか、ワイバーンに食われて死んだけど。
「キミも見ただろう?彼の最期の勇姿を!彼は…僕らを救うためにドラゴンを引き付け犠牲になった…!」
………
…?
「いや、それ違うだろ。俺が見た限りフツーに食われたけど。」
「そんなことはない!彼は固い友情で結ばれた僕らを助けるため、自己犠牲を払って僕達を救ってくれたんだ!キミにはそれが…分からないのか!?」
俺の目がおかしくなければ、そいつは誰かを庇うとかそんなことせずただフツーに逃げ回ってフツーに食われたけど。
「彼という犠牲が無ければ…僕達はとうに死んでいた!1人はみんなのために、みんなは1人のために。彼は僕の好きな言葉を体現して死んで行ったんだ!」
「いや知らないんだけど。」
「僕も…キミも!その犠牲の上に成り立っている!今こうして生きていられる!そうでありながらキミは!彼の尊厳を踏みにじり!そんなこと関係なしに一人で勝手に生き抜くというのか!?」
「だって関係ねーもん。」
「キミは…!!」
正義が歯を噛み締め、何か言いたそうにしている。
だってマジで関係ねーもん。
普通に死んだやつを美談で飾って英雄みたいな扱いしやがって。
助け合う?うるせーバカ。ここにいた奴らあの時あわよくば俺を犠牲にしようとしただろ?あの時の背中に刺さった視線はそういうやつだよ。
それに間違いなくおっきーがサーヴァントだと分かれば何かしらこき使うだろう。
主にクソムカつく女子共が。
あと、島崎くんの犠牲の上に成り立ってる?お前がそう思うんならそうなんだろーな。
でも、
「俺が助かったのはこいつのおかげだから。別に島崎とかいうやつが何しようがお前がどう言おうが俺はおっきーが来てくれたから助かりました。てめーらもは何の関係もございません。」
俺が助かったのは間違いなくおっきーのおかげだ。
さぁ、どんどん真実を突きつけて前々から言いたかったことも言いまくってやるぞ。
「しかし一誠くん!こんな時だからこそ僕達は協力しあい、助け合い、今まで積み上げてきたクラスメイトの絆を発揮する時じゃないか!?」
「あームカつく。二言目には必ず友情だの絆だのほざきやがって。大体てめー自体、今まで島崎と話したこともねーし俺とマトモに話すのもこれが初めてだろ?なーにが積み上げてきたクラスメイトの絆だよ。」
「…でも僕達は…!」
「うるせぇ知るか。お前の自己満足に俺を巻き込むな。俺は俺で好きにやるから、お前らもお前らで仲良く友情ごっこしてろよ。」
あースッキリした。
振り向けばおっきーもよくやったと言いたげな顔をしている。
さて、ここまでズバッと言い切ってしまえばあちらもあちらで黙っちゃいない。
「最っ低!死ねよバーカ!」
主に周りが。
「正義くん傷ついたじゃん!謝ってよ!ねぇ!!」
「1人はみんなのために、みんなは1人のためにっていつも正義くん言ってんじゃん!!」
「友達いないから友情とか絆が分かんないんだよ!あー可哀想!!」
「どういうことなのか知らないけど、そんな雑魚サーヴァント連れて何偉そうにしてんだよ!」
「弱いサーヴァント連れてイキり鯖太郎ごっこですか!恥ずかしいことこの上ねぇな!!」
と、陽キャにまじり陰キャまでもが罵詈雑言を飛ばす始末。
けどなぁ。
俺がいくらバカにされても別にちょっと気にするくらいだが…。
「てかマジでなにあの女!猫かぶってそうでマジキモイんだけど!!」
「いかにもな地雷女だし、あいつ馬鹿だから多分騙されてんだよ。」
「あいつサーヴァントって言って、その中でもすっげぇ弱いんだよ!雑魚も雑魚!なんだったら俺の方が強いって!」
刑部姫の悪口は、見逃せないぞ。
「なにあいつら…うざ。」
「おっきー。」
別に悪口をやめろとは言わない。
ただ、
「俺のクラスメイトだからって情けはいらない。一思いにやって欲しい。」
あいつらにそれ相応の報いを受けてもらう。
「おっけー。その言葉待ってました♡」
そう言い、彼女や俺の周囲には無数の蝙蝠が現れた。
いや、蝙蝠ではない。正確に言うならば折紙でできた蝙蝠。
それらは羽ばたき、キーキーと鳴きながら本物のように振舞っている。
これがおっきーの戦闘におけるやり方。
蝙蝠の他にも様々な動物を模した折紙で出来た式神を用い、攻撃や防御に転用する。
「な、なんだよこいつら!?」
突然現れた折紙蝙蝠に彼らは戸惑っている。
そして、
「…やれ。一思いに殺してくれ。」
大量の折紙蝙蝠が舞い、正義達仲良しごっこメンバーに襲いかかる。
「きゃあああ!!何これ!?」
「痛い!!こいつ噛み付いてくる!!」
真っ黒な塊に飲まれる正義御一行。
彼らは皆慌て、群がる折紙蝙蝠を手で追い払おうとしているも、それは全くの無意味。
あと誰かさっき雑魚サーヴァントとか言ってたな。
雑魚なら倒してみろよ。やれるもんなら。
「一誠くん!!これはなんだ!!今すぐやめさせるんだ!!」
蝙蝠を追い払いながら、正義は視線をこちらに向け必死の形相で訴えてくる。
知るかそんなの。
「お前が仲間になれとかクソうるさいからイライラしてやった。前々から言いたかったけど俺、お前みたいな奴大っ嫌いなんでな。というわけでここで死んでくれ。」
「キミは…!!くそっ!!」
蝙蝠に襲われながらも正義は踵を返し、走り出す。
「みんな!!さっき通ったところに川があっただろう!!そこまで走って飛び込むんだ!!そうすればこいつらには襲われないはずだ!!」
と、正義の指示を受け熱い友情で結ばれているらしいお仲間さんたちは後に続いて走り出す。
しかし中には時すでに遅しというものも多く、逃げている途中で息絶え、その場に倒れる者もいた。
そうして奴らは、俺らの前からいなくなった。
「…。」
「…。」
風が吹き、やや血の匂いが漂ってくる中少しの沈黙の後、おっきーが口を開く。
「ねぇ、まーちゃん。」
「なんだよ?」
「意地悪な質問しちゃうかもだけどさ…人を殺しちゃったって、罪悪感はある?」
「ない。」
即答した。
「あんなムカつく陽キャ集団殺せて逆に清々しいね。教室でもギャーギャーうるさくてよ。昔っからどうにかして合法的に殺せねーかななんて考えてたくらいだからな。」
「…そっか。」
と、俺の答えを聞きうんうんと何度も頷くおっきー。
「…幻滅したかよ?」
「ううん。逆。それでこそ姫のまーちゃんだなぁって。まーちゃんの嫌いな奴、邪魔するやつはみんな死んじゃっていいよ。」
「…。」
笑顔でそう返すもんだからこっちも思わず頬が緩んでしまう。
そうだ、こんな世界なんだ。
社会は崩壊し、法律も多分機能してない。
だったら気に入らないクソ野郎なんて殺せばいい。
「それに俺、性格のひねくれたこの上ないゲス野郎だからさ。困ってる人助けられるほどお人好しでもないんでな。」
「うん。姫はいいと思うよ。まーちゃんのそういうとこ。」
さて、あの集団がどうなったのかはもうどうでもいい。
俺達は友情ごっこしてる暇無いし、目指すべきところがあるしやるべき事もある。
おそらく…いやきっと俺はどこかでこの報いを受ける日が来るかもしれない。
でも別にいい。自分さえ良ければなんだっていい、ゲス野郎なのだから。
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