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艶やかな天使の血族

作者:翔田美琴
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2部 銀髪の悪魔
  9話 眠れない夜

 この家にホールステイにきて、3日間が過ぎた。何となくこの家族のリズムも判ってきたような気がする。
 朝はエリオットの「行ってくるよ」の挨拶と軽いキス。そしてジェニファーの頭を撫でてジオニック社へと出勤する。
 今日は開発部で何かあったような気がするがいつもの格好でモビルスーツの設計へと仕事を始める。
 どうも今日の社内は様子がおかしい。何が行なわれるのだろうか?
 すると彼は専務から呼び出しを受ける。
 専務はエリオットにこう命令した。

「近々、ジオニック社とジオン国防軍とのパーティーがある。お前にも参加して貰うぞ?」
「ただのモビルスーツ開発者ですよ。私は」
「そうかな?お前の魅惑的な容貌は話題になっている。パーティーで着る礼服はこちらで用意する。覚悟を決めておけよ」

 覚悟。それは他の女を抱く覚悟なのか、はたまた危険な目に遭うつもりでいろという意味か?

 そうして彼はジオニック社の日常を過ごす。帰る頃には料理が出来上がっているのはなかなか助かる。
 朗らかな夕食が終わり、夜の22時頃。
 珍しく水菜が部屋から出た。
 エリオットも眠れないので寝酒をあおって寝たい気分だった。
 
「珍しく外に出てどうしたの?」
「あれ?エリオットさんも珍しいですね」
「たまには寝酒でもあおろうかなっておもってね」

 小さなトレイにウイスキーのボトルとグラスを持ち、自分自身に書斎に向かう、その前に誘う。どうせなら他愛もない話をしながら眠たい。
 思わず誘ってしまった。

「もしかしたて君も眠れない?私の部屋で一緒に飲まない?」
「じゃあ…お邪魔します」

 氷も大きな箱に入れてトングで掴んでグラスに入れる。そしてボトルのウイスキーを注ぐ。水菜にも出してあげた。

「はい。水菜にも飲ましてあげるよ」

 軽く彼らはグラスを合わせて、一口飲む。 
 水菜は初めてウイスキーを飲んだらしい。
 
「これがウイスキーですか」
「もしかして初めてだった?」
「ちょっと強いかも…。これ…?美味しいです」

 エリオットも向かい側のソファに座り、ウイスキーを傾ける。
 そう言えば夜中のエリオットさんは初めて見た。真っ黒なインナーの上に薄いシャツをはおったラフな感じだ。 
 時折見えるあの鎖骨は、なかなかの色気がある。
 
「ここの暮らしには慣れた?」
「何となくリズムはわかってきました」
「そうか。ミカエルの時は辛い目にあっていたと思うけど、ちょっと雰囲気が変わって来たよね。本来の君というか」
「本来の私ですか」
「割と明るいし、面倒見もいい。必要以上に他人に踏み込まない」 
「その距離感は俺は好きだよ。こうやって寝酒でもあおるにも丁度いいし」
「エリオットさんは悪酔いとかしそうに無いですね。私は酒が入ると酔いつぶれるんですよ。お酒、弱いんです」
「大丈夫?ウイスキーなんて飲んで」
「酔いつぶれたらエリオットさんがどうするのか…見たいなあ…」
「……ふふっ。さて、どうするかな」
(酔いつぶれるの見たいなあ。どれほど乱れるのか見物じゃないか)
「あんまりこの間の事は思い出さないで。俺は君を肉欲の奴隷にはしないから。するなら対等でだね」
「さあ…飲んで」

 不思議。この人の前ならウイスキーも美味しく感じる。 
 リラックスした感じの脚の組み方とか、腕の組み方とか、酒を飲む仕草も、品がある。
 ウイスキーと一緒に何ががまわってくるみたい……そのまま勢いでセックスしてもいいよ…。
 酒が弱いというのは本当だ。目の感じが少し虚ろな雰囲気だった。水菜には、酒の魔力と共にエリオットの魔力も吹き込まれた感じだった。
 一体…この人のセックスって気持ちいいのかな…?
 でも、その前に眠気がいい感じで襲ってきた。横になりたい。

「すいません。何か私は眠気が襲ってきました。自分の部屋に戻りますね…」
「あ、あれ?」

 足元がおぼつかない。エリオットはソファから立ち彼女を支える。

「明らかに飲み過ぎたね。寝酒を誘ってすまない…」
「少し酔いを醒ましてから部屋に戻れば?俺はここにいるよ」

 何気なく身体を支えるエリオット。
 水菜がかわいい所がこんな所にある。
 酔いつぶれる顔がいい。男の欲を煽る顔だった。
 自分自身も感じる。
 俺の中の悪魔が、そのまま彼女を襲えと。
 そのまま彼女を虜にしてしまえと。
 どうするか…?
 
「すいません。そこのソファで横になっていいですか?」
「別に構わないよ。君の寝顔を肴にするのも悪いないね」

 水菜はこんなに眠気が襲うのは初めてだった。このまま泥のように寝たい気分。
 身体を横にして少し寝息を立てる。
 エリオットはここでまた、グサリと刺さる何かを見た。
 微かに空いた口が色っぽく見える。
 キス…か。
 この夜はキスだけに止めたい。
 グラスを置くと、水菜のもとに寄り添うエリオット。しゃがみこむ。
 そして1言、謝罪をした。

「すまないね。不意討ちさせて貰うよ」

 そっと。
 エリオットはここで不思議なものを感じる。キスを交わした瞬間。頭の中が麻痺するかのような感覚を抱いた。

(なんだ?この感覚は…?アネットとは違う。もっと別の…柔らかく花の香りだ…。花の蜜の味だ…)
「……。今まで感じた事もない…。何者なんだ…?君は…?」

 水菜はエリオットのキスを交わしても余りの睡魔で深く眠ったままだった。 
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