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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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人鬼-あいいれない-

「これは…」
「どういう…ことなのだ?」

周囲と人達がざわつく。
俺が刀を振り下ろした先。
そこにあるのは二人の死体ではなく…

「紙…?いえ、これは御札です…!」

頼光が死体のあった場所に落ちた二枚の紙を拾い上げる。
そう、それは御札。
式神というのか変わり身というのか、
ともかく皆が死体だと思っていたものは、
御札によって偽装されたものだった。
そして…

「間違いありません…この御札は蘆屋道満のもの…!」

人型にも、鳥のようにも見える不思議な形の御札。
それは紛うことなき、道満の使用するものと同じ。
おかしいとは思ったのだ。
マスターも力尽き、何故サーヴァントは死んだままなのかと。
本来なら座に還るはず。なのにこうしてマスターと一緒に仲良く転がっていたのだから。

「自作自演…かもな。」
「道満様が妖怪を放ったというのか!?そんなハズはない…!道満様はこの京都の安全の為に尽力してくれたお方!それ程の人格者が何故!」

守護隊のひとりがそう言う。
確かに蘆屋道満は京都の結界をはるためにあれこれ苦労したと聞いた。
労力は惜しまず、当初はどれだけさげずまれ、白い目で見られようとも京都の安全のため身を粉にして働いた。
そうして見ればただの善人、かなりのお人好しという印象が強い。
しかしこうした死の偽装。なぜそうする必要がある?

簡単だ。

「争わせる為。今こうしているみたいにだ。」
「…?」
「自分達が鬼に殺されたと見せかける…蘆屋道満はそうして、争いのきっかけを作ろうとした。」
「出鱈目を…!!」

守護隊のひとりが警棒を振り上げ襲いかかろうとする。
咄嗟に前に出る武蔵。しかしあちらの頭領の頼光もまた

「やめなさい。」

その一言で激昂した守護隊の一人を諌めた。

「旅の方…何故そう思うのです?」
「"目"だ。蘆屋道満ではなく、そのマスターのな。」
「目…森川様の…?」

武蔵は蘆屋道満はどうにも信用ならないと言った。
しかし俺が信用ならなかったのは、そのマスターだ。

森川 真誉。
彼女の目は、何かドス黒いものを奥に秘めた目だった。
運び屋の仕事をし、財団と戦っているうちに分かったことがある。
"目は口ほどに物を言う"
俺はこうして旅をする中で確かにその通りだと実感した。

渇望するもの、絶望するもの、殺そうとするもの、そしてまた、希望に満ち溢れたものも口に出さずとも目に感情が映し出される。
そうして蘆屋道満のマスターの目に映っていたものは

「尋常じゃない恨みが見て取れた。おぞましい程のな。まるで世界中の人間を呪い殺せる程に。」

彼女に何があったのかは知らない。
しかし、その目には確かにあったのだ。
恨み、辛み、殺意、怒り、悲しみ、
そういったマイナスの感情が渦巻いている闇が。

「し、しかしそれでは…。」
「蘆屋道満がやったという決定的証拠にはならない。そう言いたいんだろ。」

死の偽装はした。マスターの目はヤバい。
それだけでは結界を破り、妖怪を招き京都の崩壊を企んだ真犯人と決めつけるには証拠不十分だろう。
だから、ここで証明する。

「鬼と人間が決裂し、殺し合う有り様を特等席で見たかったんだろうな。」
「ええ、さっきからプンプン臭うのよね。どうしようもない外道の臭いが!!」

俺が指示を出すと武蔵は刀を抜いて飛び上がる。
着地した先には、集まった野次馬たち。
そして武蔵は迷うことなく、一人の一般人に向け刀を突き刺した。

「…!」

ように見えた。

「残念。鬼と人、共に滅びゆく様をこの目に焼き付けておきたかったのですが。」

その刀は喉を突き刺す前に人差し指と中指で止められ阻まれた。
一般人にそんな芸当は出来るわけない。
そう思った直後、奴の"ガワ"はドロドロと溶け始める。

「そんな…!」

頼光や守護隊の面々が驚きの声を上げる。
そう、そこにいたのは一般人ではなく

「この蘆屋道満の策を見破るとはさすが武蔵殿。お見事。」
「とは言っても、ほとんどは大和くんのおかげだけどね!」

蘆屋道満本人であった。

「道満様!!彼らの言ったことは本当なのですか!?」

やはり信じられないのだろう。
守護隊の一人が蘆屋道満に向かって叫ぶ。

「ええ。本当です。彼らの申した事は真実。結界を解き、以前から指示していた妖怪共を招き入れ、拙僧達の死を偽装する。あたかも全て、鬼がやったように見せかけました。」
「何故!?何故ですか道満様!!」

守護隊の一人は叫び続ける。
蘆屋道満はそんなことはしない。
彼がそんな非道を働くわけが無い。
目の前の事実を否定するように、彼は叫んだ。
しかし、現実は残酷だ。

「「そうした方が、楽しいではありませんか(からだよ)。」」
「!!」

道満と誰かの声が重なる。
反対側からやってきたのは彼のマスター、森川 真誉だ。

「楽しい…と?」
「うん。すごく楽しい。上げて落とすのは特に。道満のおかげで平和ボケした人達を一気に地獄に叩き落としたのはすごく楽しかったよ。」

人形を小脇に抱え、目の前の現実が受け入れられない守護隊のそばを通り過ぎて道満の隣までやってきた彼女。
常に笑顔を浮かべてはいるが、やはりその目はどす黒い何かがある。

「それで、鬼と人を争わせてもっともっと不幸にするつもりだったんだけどそこの旅人に邪魔されちゃった。あーあ!二人さえなければきっと上手くいってたのに。」

わざとらしくためいきをつき、彼女は持っていた人形と視線を合わせる。

「桜ちゃんもそう思うよね。あいつらは私が桜ちゃんみたいになるのを邪魔したんだよ。許せないよね?ほら、許せないって。」
「この子…イカれてる…!」

人形はそう言ったらしいが、見ての通りただの人形。
動きもしないし言葉も発しない。
武蔵はそれに一種の不気味さを覚えた。
やがて守護隊のひとり…昨晩出会った家族と友人を失った男がそう口を漏らし、ホルスターから拳銃を抜いた。

「もうアンタ達は…俺達の知る道満様では無い!!人の道を外れ、妖へと堕ちた外道だ!!」

京都を混乱に陥れ、滅ぼし、自分達はそれを見て楽しもうとした。
本性を露出した2人に守護隊は一斉に牙を剥く。
道満は武蔵が抑えている。
守護隊達は一斉にマスターの元へと殺到した。
だが、

「待て!」
「やめなさい!!」

嫌な予感がした。
それは頼光も同じだったんだろう。
気がつけば同時に叫ぶも、時すでに遅し。
何せ守護隊は、

「…急急如律令。」

彼女がそう呟いた瞬間、何か鞭のようなものが高速でしなり、守護隊達の体をかすめる。
ヒュンヒュンという音がした次の瞬間、上半身と下半身が切り離されていたからだ。

「あ…が…。」

どさどさと重いものが落ちていく音。即死したものが殆どだがかろうじてまだ生きている守護隊の元へ彼女が歩み寄り、しゃがむ。

「ねぇ、勝てると思った?サーヴァントじゃなくてマスターなら自分達でも殺れるって、思ってた?」

人形を眼前に差し出し、喋るタイミングに合わせて揺らす。
あたかも子供がよくやる、人形が喋っていると見せかけるように。

「でもざーんねん。勝てませんでした。森川 真誉ちゃんは道満も認めるほど陰陽道に天賦の才能があったのです。おしまい。ちゃんちゃん。」

事切れた守護隊にそう言い、立ち上がる。

「帰ろうよ道満。もうここつまんない。」
「ええ、そうですね。既にここで遊び尽くしたようなものですし、拙僧らはこれにて失礼させてもらいましょう。」

しかし、それはここにいる全員が許さない。

「逃がすもんですか!!」

指に挟まれていた刀を抜き、武蔵が道満に斬り掛かる。

「ほう!やはり噂に違わぬ大剣豪。斬ることに迷いがありませぬ。」
「外道に情けは必要なし!躊躇いなんてとうに捨てて犬に食わせた!!」

首めがけ刀を振るうも、道満には当たらない。
ひらりとかわし、2m近くはあろうその図体からは想像しがたい柔軟な動きで武蔵の攻撃をかわしていく。

「何故こうした悪事を働く!!死ぬ前に答えろ!!外道法師ッ!!」
「言ったではありませぬか。拙僧も真誉殿も、このような事が"楽しい"からと。」
「…もういい!!」

楽しいから。
それだけで彼らは、京都を滅ぼそうとした。
大混乱に陥れ、鬼と人を争わせ、都を殺そうとした。
彼らは笑っている。
嬉々として全貌を語った。
狂っている。イカれている。
このような外道は…ここで倒さねばならない。
だが、

「マスターも飽きたと申しております。ここでチャンバラに興じている時間はありませぬゆえ。」

道満が御札を手に取る。
それをギュッ握りしめると、

「な、なん…からだが…からだが…!!」

守護隊の一人の体が突然ぶくぶくと膨らみ出す。

「だ…だすげ」
「ひぃっ!?来るなァ!!」

助けを求めようにも、そのおぞましさ故仲間は離れていく。
やがて膨らんだ身体は自らを圧迫し、動くことや話すことすら不可能にする。
そして、

「ばぎゅ」

限界まで膨らんだ男は風船のように弾けた。
周囲に飛び散る血の霧。辺りにまきちされた肉の匂い。
そして、

「では、これにて。」

マスターを腕に抱え、蘆屋道満はその場から消え去った。

「待て外道!!」

武蔵は後を追おうとするも、散布された血の霧の効果は絶大。
視界が大幅に制限され目視で道満を追うことは不可能であった。
そう、適当に人を殺したのではない。
逃走用の煙幕変わりとして殺したのだ。

「まだ魔力の反応を追えば…!」
「もういい、武蔵。」

そうして血の霧が晴れ、視界がハッキリとしてくると既にそこに道満とそのマスターの姿はなく、怯え腰を抜かす守護隊の者達だけだった。

「でも…!」
「逃がしたのは確かに惜しい。だがここで深追いしては逆に奴らの罠に嵌められる可能性だってある。」
「…。」

そう言うと、武蔵は渋々刀を鞘に収めてくれた。
さて、これで問題はひとつ解決したようにも見えるが、

「私達に濡れ衣を着せて、殺し合いをさせるつもりだったなんてね。」

かの鬼の領域の頭領、伊吹童子が口を開く。

「確かにあの蘆屋道満は中々の策略家だった。流石の源氏の頼光様も騙されちゃったんだもの。誰も見抜けなくて当然よ。」
「…ッ!」

皮肉にも聞こえる彼女の言葉。
その言葉に頼光は顔をしかめるも、鞘にかけたその手はまだ刀を抜かずにこらえきった。

そう、まだなんにも解決していない。
京都は滅茶苦茶、そして…

「仕方ないとはいえ私達鬼を疑い、挙句の果てにはちょうどいい口実が出来て殺そうとしたんですってね。」
「道満があのようにせずとも…いずれはあなた方の首は刈り取るつもりでしたが…。」
「わぁこわい。」

鬼と人、
1つの境界線に隔てられたその2つの関係性は解決していない。
むしろ悪化している。


「でもね、鬼にもプライドがあるの。舐められたら舐められっぱなしってのも、お姉さん嫌なのよね。」
「…。」

巨体をかがませ、頼光の目線に合わせる伊吹童子。
そしてにんまり歪んだ口から、衝撃的な一言を放つ。

「いつまでも平行線なのもあれだし、お望み通り、人と鬼の殺し合いと洒落こんじゃう?」

その一言だった。
ズン、と重くのしかかるプレッシャー。
守護隊や多くのサーヴァントは思わず怖気付いてしまい腰を抜かしたり、後ずさる者がいる。
ほんの僅かな者、武蔵や頼光はなんてことなさそうだがこうして普通に立っているように見える俺でも背筋にゾクリとしたものが走った。
長らく感じていなかった、"恐怖"
まるで強大な何か、人間程度では太刀打ちできないような偉大な存在の前に立たされたような感じがした。
しかし、

「分かりました。ならば死合うと致しましょう。」
「!!」

頼光が刀を抜き、叫ぶ。

「ここが鬼の墓となる!鬼にこの京の都を闊歩させるのは今日にて最後!!さぁ守護隊!整列しなさい!!」

頼光に奮い立てさせられ、慄いていた守護隊は立ち上がり、皆手にそれぞれ武器を持つ。
まずい…このままでは本当に戦が起きる。

「待て!話し合いくらいはしたらどうなんだ…!」
「鬼には言の葉など無意味。過去にそうした者は何人もいました。」
「だが…!」

言葉を続けようとした時、肩に手を置かれ中断させられる。
振り向けばそこにいたのは頼光のマスター、吉良だ。

「旅人さん。もうダメだ。頼光さんはああなると例え俺でも耳を貸してくれない。」
「どうしても説得はできないのか…?」

彼はただ、黙って首を横に振った。

「そうだ!鬼がデカい顔してられんのも今日までだ!!」
「鬼がなんだ!!俺たちは人間だ!!」

守護隊が次々に叫び、士気はどんどん上がっていく。
ニンマリと三日月形に口を歪める伊吹童子。
だめだ、もうここまで熱されたら冷ますことは俺一人では到底無理だ。

「これでは道満の思いのままじゃないか!!」
「それがどうした!?俺達は鬼に鬱憤が溜まってんだ!!」
「頼光様が仰ってただろう!あの裏切り者がおらずとも、いずれはこうして鬼を討伐するつもりだったと!」
「…!」

何も出来ない。
このままでは本当に戦…いや、それよりも酷い殺し合いが始まる。
止める方法は…ない。
二人を鎮めることも出来ない。
どうにも出来ない苛立たしさと焦りを覚えどうしたものかと迷った時…

「待った。」

頼光と伊吹童子。
火花が散っていそうなその間に彼女が割り込んだ。
そう、

「何のおつもりですか?宮本武蔵。」

武蔵だ。

「ここで凄惨極まりない死合が行われるっていうのは、なんだか気に食わなくてね。折角の京都なんだし、ここを血で汚すのも罰当たりってもんでしょ?」
「…何が言いたいのです?」

頼光の睨みに武蔵は怯まない。
彼女はニィと笑みを浮かべると、振り返り、今度は伊吹童子の方へと向いた。

「簡潔に述べる!この喧嘩、宮本武蔵があずかった!」
「…!」
「へぇ、」

腰に手を当て、仁王立ちの彼女は声を張り上げ伊吹童子にそう言い放つ。

「で?喧嘩を預かったあなたはどうするの?」
「京都を死屍累々の地獄にしたくはない。だから私は、宮本武蔵は京都守護隊を代表し、貴殿に一対一の勝負を申し込む!!」
「!?」

喧嘩を収める方法、それもまたある意味喧嘩だった。
武蔵は殺し合いを防ぎ、鬼の頭領である伊吹童子に決闘を申し込み、それでなんとかしようとしたのだ。
いや、実は人と鬼のいざこざなんて興味が無いのかもしれない。

「そういえば…うずうずしてたな…。」

あの時、伊吹童子と初めて会った時武蔵はそうだった。
戦いたがってた。
そう、戦いたくて仕方がなかったんだ。
喧嘩を預かったのは大義名分。
その実はただ戦いたい。それのみだ。

「セイバー伊吹童子。太古の竜神(カミ)よ!貴殿の答えを聞こう!!」

にんまり、と笑う。
嬉しさ…というよりかはそうだ。
暇を持て余していたが、楽しくなりそうなものを見つけた。
そんな感じの、無邪気そうでそしてその分邪悪さも含んだような笑みだった。

「いいじゃない。私もしばらく退屈してたの。久々に骨のありそうな相手だし、お姉さん、決闘してあげよっかな。」

武蔵の決闘の申し込みは了承された。
よって、人と鬼の殺し合いは防がれ、決闘へと持ち込まれることとなる。

「にしてもお姉さんに嬉々として決闘を申し込むなんて余程の強者なのね。それともただの無謀なおバカさん?」
「そこに強者がいる。ならば斬る。それがこの私、宮本武蔵の…剣豪としての生き方だから。」

武蔵によってこの場は鎮まった。
不満げな守護隊もいるが、彼らは渋々武器を下ろしていく。
意義を唱えるものなどいない。そして、

「頼みました。剣豪宮本武蔵」

頼光がそう言ったのだ。
そして俺もまた言ってやらなければならない。

「怖くないのか?」
「怖くないわけないでしょ?でも相手は神様。そんな強いのと戦えるなら嬉しさの方が勝っちゃうじゃない?」
「まったく…お前らしいよ。」

やや呆れながらも、俺は武蔵の手を握り、

「勝て。そして鬼にお前の強さを刻みつけてこい。」
「オッケー、大和くん。」

そう言い、送り出した。
京都を何とかするとか、そういったものではない。
戦いたいから戦う。
彼女が生粋のバトルジャンキーである事を思い出しつつ、俺は武蔵の嬉しげな背中を見つめるのだった。
 
 

 
後書き
かいせつ

⚫蘆屋道満は何がしたいの?
ただ彼はサーヴァントとして、マスターの願いを叶えるために東奔西走しているのです。

⚫しばらくエロがないね…
この決闘が終わったらあるよ!!待っててね!!!!

それでは次回もお楽しみに。 
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