| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

京都-じごく-

 
前書き
"みやこ"は"じごく"へと変わる…。
 

 
「…!」

ふと、目が覚めた。
何か不穏な気配を察知して飛び起きると、壁に寄りかかって眠っていた武蔵もちょうど目を開けたところだった。

「…。」
「…。」

互いにアイコンタクトを交わし、何も言うことなく武器を手に取り窓から外へと飛び出す。
そうして、目に見えた景色は…

「!!」
「なんだこれは…!」

あちこちから火の手があがり、人々の悲鳴が響き渡る。
日の出ている頃に見かけたあの平和な都とは一転。
そこはまるで世界崩壊直後の地獄のような有り様となっていた。

「おい!何があった!!」

武器を手に通りがかった守護隊の1人を呼び止め、何があったか尋ねる。すると、

「道満様の結界が破られた!妖が一斉に押し寄せてきたんだ!!」
「なんだって…!」

そうしていると、どこからともなく小鬼が群れをなしてやってくる。
こちらと目が合うなり、下卑た笑みを浮かべ奇声を上げながら襲ってきた。

「最悪な目覚めね…!」
「ああ。」

怯える守護隊を下がらせ、俺達は前に出る。
棍棒を持っており数は多いが相手は小鬼。
知性がない分財団を相手にするよりかはずっとマシだ。

「大和くん!まだいる!!」

飛びかかり、自分から死ににやってくる小鬼を相手にするのは簡単だった。
そうして瞬時に斬り伏せたものの、また別の方向からうじゃうじゃと小鬼が湧いてくる。
さらに、ズシンズシンと地響きを立ててやって来たのは、彼らのリーダーであろう牛の頭をした大鬼。

「雑魚は俺が蹴散らす。武蔵はでかいのを斬れ!」
「うん!じゃあ露払いよろしく!」

刀を鞘に収め、メイスとしてぶん回す。
鉄の塊をぶつけられた小鬼は無事ではない音を立て、空高く吹き飛ばされた。
散弾銃を手に取り、密集した奴らめがけぶっぱなす。
潰れ、または弾け飛ぶ肉体、
道は俺が開ける。
そして

「武蔵!」

開けた道を突っ切り、武蔵は大鬼の首目掛け刃を振るった。
大鬼も金棒を振るいまっすぐ突き進んでくる武蔵を叩き潰そうとするが、

「鈍い!」

あの程度、彼女からしてみればハエが止まりそうな程ののろい動き。
奴が金棒を地面へ振り下ろすよりもずっと前に、武蔵は既に奴の後ろにおり、その刀を鞘に収めていた。

「…。」

武蔵が完全に鞘に収めると、それと同時に膝をつき、ズンと大きな音を立てて倒れる首のなくなった巨人。
斬り飛ばされた首が小鬼の群れにドサリと落ちると、自分達ではかなわないと低い知性ながら理解したのだろう。
小鬼達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げていった。

「この…こいつ…!こいつ…ッ!!」
「やめろ。」

怯えていた守護隊が逃げる小鬼めがけ銃を撃つが、奴らは完全に戦意喪失している。
殺しても無駄なので興奮状態の彼を止めた。

「今は市民を助けることを考えろ。」
「でも…でもあいつらは…!」

涙ながらに答える男。
聞けば、同僚や親しい仲の友達は皆死んだのだと言う。
無論、妖に襲われて。
何せ今は深夜二時過ぎ。
本来なら人々は寝静まっている時間だ。
寝込みを襲われたら一溜りもないし、逃げようもなかったのだろう。

「忘れろ…なんて言わないけど今はまだ生きてる命を救うために頑張りましょ?悲しむのはその後。」
「…っ!」

地面を殴り、行き場のない悔しさを叩きつける守護隊の男。
俺達はその男を残し、次の場所へと向かった。


それから…


「守護隊は人命救助を最優先に!!サーヴァント達は前進し、妖を葬りなさい!!」

俺達が向かったのは守護局周辺。
そこには特に妖が押し寄せてきていた。
土蜘蛛、鬼、かつての時代平安京を震撼させた怪異が現代に蘇り、人々を恐怖のどん底へと再び陥れる。

「邪魔だ!!」

圧倒的物量でやってくる妖怪をメイスで蹴散らし、武蔵も次々と斬り捨てていく

結界が壊れ、妖怪が押し寄せた。
しかし、引っかかることがある。

「妙ね…。まるで待ってましたといわんばかりに。」
「武蔵もそう思うか。」

そう、武蔵の言ったように妖達はまるでそれを"知っていた"かのように押し寄せた。
ずっと結界の外で待ち続けていたのか?妖怪が。
そして俺たちの疑問は、すぐに解決した。

「吉良幸司!」

頼光の後ろで指示を出す彼を見つけ、呼び止める。

「旅の人!ぶ、無事でなによりだ!」
「どうしてこうなった!?道満の結界は安全じゃなかったのか…!?」

そして彼は、少し躊躇った後重い口を開いた。

「…殺されたんだ。」
「…何?」
「蘆屋道満が殺されたんだ!マスターの森川さんと一緒に!!」

殺された。
結界の維持を担う蘆屋道満が死んだんだ。
つまりは、これを企てた者がいる。
道満を殺し、妖怪達を煽り、結界の壊れた街に向かえと指示をした者がいる。
何か裏に怪しいものがあると見たが、今はそんなことじっくり考えている場合じゃない。

「人手は…見るからに足りていないな。俺達に何か出来ることはあるか?」
「倒してくれ!とにかく妖を斬って欲しい!!」
「わかった。」

守護隊のサーヴァントが対抗しているものの、数はあちらがずっと上。
このままではジリ貧で押し切られこちらがやられるのも時間の問題だ…!

「やるぞ武蔵!」
「ええ!一宿一飯の恩、今ここで返しましょう!!」





そうして、妖を殲滅しきったのはちょうど夜が開ける頃だった。
ノンストップで戦い続け、さすがのサーヴァント達も疲弊している。
そして…。

「これが…」

守護局の中に搬送された二人の遺体。
蘆屋道満とそのマスター、森川 真誉。

「自分が見つけた時には既に…2人で…寄り添うように死んでおりました…!」

第一発見者であろう守護隊の一人が涙を堪えながらそう答えた。

「むごい…。」

その遺体の有様を見て武蔵はそう言葉を漏らした。
顔は元が分からぬほどに損傷が酷く、そして背中には巨大な三本爪で切り裂かれたような後。
おそらく背後をやられ抵抗する間もなかったのだろう。
足も折られ、逃走手段も絶たれているあたり犯人は相当やり手だ。
そもそも、あの蘆屋道満の後ろをとったんだ。
かなりのプロか、それともアサシンのサーヴァントか

「頼光様!!」

その時、守護隊の一人が慌てた様子でやって来た。

「どうしました?」
「か、葛城財団の方が…うわっ!?」

報告に来た男が何かを伝えようとするも、後ろからやってきた団体に突き飛ばされる。
その団体こそ。

「失礼、どうやら昨晩大変な目にあったみたいですね。」

葛城財団だ。
狙っていたかのようにやってきた。

「京の地に踏み入れることは許可しておりませんが。」
「何をおっしゃいますか。困った時はお互い様。硬いことは無しにして、我々葛城財団はこの京都を救いに来たんですよ。」

スーツ姿の男がそう話し、俺達に目を向ける。

「っ!!」
「ご安心を。今ここであなた方を捕らえようとは思いませんので。」

追われる身であったため思わず俺達は身構えるが、彼らは捕まえる意思はないという。
ただ…。

「源頼光のマスターは?」
「…ここにいます。」
「…まだ子供ではないか。ではこれを。」

そういい、スーツの男は吉良幸司に一枚の書類を渡した。

「これは…。」
「契約書ですよ。ここにいる女性サーヴァントの所有権を財団に譲渡する代わりに、我々葛城財団が命に替えても京都を守り、そしてより良い街にします。という為のね。」
「…!」

狙ってやってきたかのようなタイミング。
守る?嘘をつけ。もらうものをもらっていったら後はもうほっぽりだすだけだろうが。

以前、旅の途中で見たことがある。
サーヴァントを渡す見返りとして全力で守ると契約した町の末路を。
そこには残された人間で毎日を精一杯生きる、大人達の姿しか無かった。
財団の姿はない。契約した翌日に来てくれると言ったのに来ない。物資の補給も、充実した施設も。
そして皆口を揃えて言うんだ。

サーヴァントなんか、渡すんじゃなかったと。

「吉良幸司…。」
「分かってる。」

その事を伝えようとしたが、本人に遮られる。
そして、

「断る。この都は俺達が…京都守護隊が守ってきたものだ。ぽっと出の胡散臭い集団に任せるほど…俺達は落ちぶれちゃいない。」
「…ほう。」

きっぱりと、そう言った。
彼とて頭領のマスター。
覚悟は決まっているだろうし、それに母の擁護があったとはいえこの平和な都が出来るまではそれなりの修羅場をくぐり抜けてきただろう。

「マスターはそう申しています。というより、これが京都の総意と受け取りすぐにでもお帰り頂けると助かるのですが。」

そういい、彼の隣に立っている頼光が刀を抜く。

銃を構えるも、後退りする葛城財団。
そうして思い通りにいかず、明らかに不機嫌な顔をしたスーツの男はわざとらしく大きめなため息をついてこう言った。

「そうですか。私達もここでドンパチやろうと思うほど低脳では無いので。」

と、あくまで自分たちの方が上ということを繕いつつ、踵を返して退散して言った。
ここで暴れればサーヴァント達に袋叩きにされる。
頭の悪い葛城財団でもそれくらいは理解出来たのだろう。

「ふぅ…。」
「全く…このような時に…。」

妖の襲撃により勿論町は無事ではない。
これから復旧作業もあるし、怪我人の救出。そして、死んでいった者達の供養。
やるべきことは山積みであるし、それに結界がないので今まで以上に厳重に見張りをせねばならない。

そんなときだ。

「頼光様。少し、お耳に入れておきたい事が。」
「なんです?」

また別の守護隊の男がやってくる。
彼は頼光に耳打ちすると…

「鬼が…?」
「はい…今回の事件、我々の領域は妖による襲撃を受けましたが…鬼の領域は全くなく、犠牲者はゼロとのこと。」

男が報告したのは俺達が先日踏み入れかけた"鬼の領域"だ。

こちらは被害甚大。そして向こうは何も無く無事。
蘆屋道満と森川真誉の傷は…鬼のものとすれば説明が着く。
つまり今回の事件の首謀者は…。


頼光の顔は怒りに満ち溢れていた…というわけでもない。
それとも悲しみに明け暮れた顔、でもない。
眉をひそめ、もう、そうなることを分かっていたかのような…。

「やはり…そうなのですね。」

やっぱりか。
というような顔。

「前々から怪しいと思ってはいましたが、向こうから宣戦布告して下さるなんて。これで京からあの虫共を追い払える立派な口実が出来たというもの。」

震えている握り拳。
そう、鬼だ。
心の底から恨んでいるあの鬼。
鬼共が、約束を破り、人の領域を踏み荒らして蹂躙した。
つまりこれは、"喧嘩を売られた"ということだ。
けど、

「待って欲しい。」
「…?」

ここで俺は、待ったをかけた。

「なに用でしょうか?旅の方。」
「証拠は出揃っていない。まだ犯人を鬼と決めつけるのは早いんじゃないのか?」

分かっているのは、昨晩鬼の領域が無事だったことくらい。
それだけで勝手に犯人をあちら側の仕業と決めつけるは些かおかしい。
しかし、

「均衡は崩された。それだけです。向こうがその気なら我々もまた虫共の首を晒しあげるまで!」
「そうだそうだ!!」
「あんな奴らが隣にいるなんざもうゴメンだ!!」

頼光の声に、次々と賛同者が集う。
それによりかき消される俺の意見。
俺はなにか言おうとするが、

「武蔵…!」
「もうこうなっては…一人二人じゃ止められないわ。」

肩に手を置き、諦めた表情の武蔵が首を横に振って止めた。
確かにその通りだった。

「進軍です!目指すは…鬼の頭領『伊吹童子』の首!!なんとしても討ち取るまで!!」

だめだ…頭領によって守護隊の士気はぐんと上がり、止められそうにない。
逆に俺がそれでもなにか言えば、鬼の前に俺の首が飛ぶだろう。
しかし、そんなときだ。

「あら、昨晩酷い目に遭ったみたいだけど、元気にやってるみたいね。」
「…!!」

守護隊のせいでうるさいはずが、何故かその声だけはハッキリと聞こえた。
そして静まり返る一同。
そこには…。

「あの時の…!」
「こんにちは、昨日の旅人さん。」

一人の少年を隣に連れた女性。
その女性こそ、昨日会ったあの謎のサーヴァントだ。

「お前…!」

その雰囲気と威圧感に気圧されそうになる。
周囲の守護隊は完全に怯えているが…。

「わざわざそちらから出向いてくださるなんて。手間が省けるではありませんか。」
「なぁにそんなに殺気立って。そっちが緊急事態だから、お姉さん助けようと思って来てあげたんだけど。」

さすがは妖殺しのプロと言ったところか。
源頼光だけはそうではなく、堂々と歩きそのサーヴァントの前までやって来た。

「助ける?何を?殺すの間違いでは?」
「何か勘違いしてない?本当に善意100%なのよ私。」
「その嘘しかつかない口を閉じなさい。虫。」

女性の首に突き付けられる。
頼光ほどの速さならば、まさに雷のごとく瞬時に相手の首を断てるだろう。
しかし女性は恐れることなどせず、相変わらずニコニコとしている。

「誰だ…知り合いにも見えるが…。」

この女性が気になる。
頼光と対等に会話するこの謎の存在が。
隣で固唾を飲み込み、事の行方を見守る吉良幸司に尋ねると、

「ああ、あの人だよ。」
「…?」
「伊吹童子。鬼の領域を統括する、あっちの頭領だ。」

一瞬、自分の耳を疑った。
つまりなんだ?俺は、昨日そんなとんでもない人と会って軽口叩いて帰ってきたのか。
そして…伊吹童子だと?

「そんなものが…サーヴァントに…?」

目の前にいる巨大な女はサーヴァント、伊吹童子。
暫くFGOをやっていなかった俺は、彼女が何者なのか分からなかった。
そんな恐ろしいものが、こうしてここにいる…。

「ねぇ、刀を下ろして頂戴な。そんなに殺意向けられると、さすがのお姉さんも怒っちゃうかも。」
「どうぞ。私達は既に堪忍袋の緒がちぎれ飛んでいますので。」

ニィ、と鬼特有の鋭くとがった牙が覗く。
緊迫した一触即発の空気。
これはもう、京都を二分割する勢力のぶつかり合いは避けられないだろう。

あの惨い二人の死体。あれは…もう鬼がやったということになっている。
あちらは本当にやったのか、それともやっていないのか、
もうそれを問い詰める必要は無い。
今にでも戦いは始まる。

けど、

「…?」

何かがおかしい。

「大和くん?」

武蔵をスルーし、俺は人混みを抜け、ふたつの死体の所まで行く。

「…おかしいんだ。こういうこと自体が。」
「…?」

刀を抜き、振り上げる。

「おい!何をする気だ!!」

周囲の視線が、俺一人に集中するのが分かる。
無理もない。
俺が今しようとしているのは死者への冒涜だ。
しかし、

「大和くん!?」
「謝るよ武蔵。お前の方が正しかったのかもしれない。」

これは…死者じゃない。よって冒涜でもない。

「やめろ!道満様に何をするつもりだ!!」
「斬るならばお前から始末するぞ!!」

守護隊の連中が止めにかかる前よりも先に俺は、

「ッ!!」

ふたつの死体めがけ、刀を振り下ろした。
 
 

 
後書き
かいせつ

⚫伊吹童子
邪帝さん作『そうだ!崩壊した京都で生き抜こう』からのゲスト出演。これもまた無許可。
クソデカお姉さん。あとめっちゃすごい神様。
鬼の領域にいるサーヴァントやゴロツキをまとめあげている張本人。
本人は至って優しいお姉さんとして振る舞うが、時々滲み出るその威圧感と神々しい雰囲気からは人間ならば誰でも畏怖の念を抱いてしまう。
人の領域と仲良くしたいというのは本音だし。それに何より領域という境界線をなくしたいと思う。
しかし頭領の頼光とは非常に仲が悪い。これも酒呑童子の別側面である為かもしれない。
ちなみに鬼の領域の頭領をしていると言うのはこれもまたこの作品でのオリジナル設定。
まぁでも元作品でも似たようなことしてるし別にいいよね!!
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧