『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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覚悟-ころす-
「なにこれ…!」
廊下に出て、走り抜け、階段を駆け下りた先に広がった光景、
それは…
「ひどい…。」
一階のロビー。
そこにあるのは血に濡れた死体達。
ホテルのスタッフ、さっきまで話していたフロントの人、そしてそこに居合わせた人達も容赦なく殺されていた。
死屍累々。
ここにいたものは皆…殺されてる。
「…!」
殺気。
まるで靄がかかったみたいだったそれは、一瞬だけハッキリとしたものを感じた。
ここで一つとある言葉が浮かぶ。
『気配遮断』
アサシンクラスが持つクラススキルの1つ。
己の気配を完全に周りから遮断する、いかにも暗殺向きのスキル。
しかしそれは攻撃時、ランクが著しくダウンしてしまう。
なら…さっきはっきり感じた殺気は…誰かを攻撃したから?
「迂闊だった…!!」
大和くんの顔がよぎる。
まさか…敵は既にホテルの中にいて、そして狙いは…
「大和くん…無事でいて…!!」
階段を降りかけていた足を止め、急いで部屋に戻る。
あくまで推測でしかないけど…相手はサーヴァント。
アサシンクラスのサーヴァントが、大和くんを殺しに来た。
しかし、
「女、止まれ。」
階段をかけ上がろうとした時、声がした。
ロビーにいた者は皆死んでる。
死人に口はない。話せる者はそこにはいない。
振り返った先には
「…。」
「武器を捨て投降しろ。そうすればお前の命だけは助けてやる。」
目の前にいるのは、おそらくまだ未成年であろう少女。
彼女は銃をかまえ、そう言った。
そして
「押し通る…なんて言ったら?」
「諦めろ。お前のマスターは死んでいるし、お前は既に代表のモノだ。」
窓ガラスをぶち破り、突入してくる財団の部隊。
なるほど、そこまでして行かせたくないってワケね。
「ざーんねん。私のマスターはすぐに殺られる程ヤワじゃないの。」
「それがどうした?」
「だからまだ生きてる。だから助けに行く。だからここは…押し通るッ!!」
「やってみろ!女!!」
財団の男達の銃と少女の持つ銃が一斉に火を吹く。
それをかわし、走り抜け、私は鯉口を切った。
⚫
「…!!」
一方その頃、
案の定、俺はサーヴァントに苦戦を強いられていた。
「ハッ!遅い遅い!ハエが止まりそうな剣撃ぜよ!」
刀を振るい、攻撃に転じようてしても岡田以蔵はひらりひらりとかわしていく。
まるで当たらない。
そして…
「その剣…"もう覚えた"」
弾かれた俺に襲い掛かるのは目にも止まらぬ速さの斬撃。
「ぐ…っ!!」
腹部に横一直線に切れ込みが入り、鮮血が迸る。
「ちっ…浅いか!」
咄嗟に後ろに下がったおかげで致命傷は免れたものの、状況は悪くなる一方だ。
「くそっ!!」
「のろい!!」
痛みで刀の振りが遅くなる。
そうして次は、肩を斬られる。
「そらそらどうしたァ!さっきの軽口は虚勢か!あぁ!?」
おいつめられる。
防戦一方になるも、防御は間に合わず傷はどんどん増えていく。
攻撃をしようとするも、岡田以蔵はまるで俺の全てを知っているように、これからどういった攻撃が分かっているかのようにかわし、いなし、反撃をかます。
そして…。
「見ろ!あそこだ!」
「…!!」
声。
振り返ればそこには複数の実働部隊が。
「なるほど…グルか!!」
「ふん。冥土の土産に教えてやるぜよ。わしは財団代表お抱えの傭兵、岡田以蔵。葛城財団に刃向かった反乱分子は皆わしの刀の錆にしてきた…一人残らず!そしておまんもその1人じゃア!!」
以蔵の攻撃は増すばかり。
このままでは本当に俺は殺される。
しかし、このままでいいのか。
俺は…守るって約束した。
大切なサーヴァントを、武蔵ちゃんを守ると。
その約束を果たせないまま、俺は死んでいいのか?
いや、いいわけあるか。
「錆に…なってたまるか!!!」
以蔵の一撃を受け止める。
身体に駆け巡る紅い雷。
やがてそれはバチバチと激しくなり、
「っらぁ!!!」
「こいつ…っ!?」
刀に集まる雷、
以蔵も跳ね除け、力のあらん限りそれを振るうと雷は一閃となって轟音と共に周囲を焼き焦がした。
「…。」
「なんじゃ…今の!」
予想外の攻撃にさすがの以蔵も驚いた様子。
そして…
「大和くん!!」
雷が落ちたかと思うほどの轟音を立て、気付いたのだろう。
窓ガラスを突き破り、武蔵ちゃんがやってきた。
「武蔵ちゃん…!」
「信じてました。サーヴァント相手でも大和くんなら生き残れるって。」
「それも武蔵ちゃんの稽古のおかげだ。ありがとう。」
目の前には以蔵。
そして財団の実働部隊にさらに増援がやって来る。
「おまん…マスターが足止めしてたはず…!」
「あれくらいで宮本武蔵を止めるつもりだったの?ごめんなさい。二分と持たなかったわよ?」
「ちぃ…!!」
足止め?
ということは、武蔵ちゃん側でも何かがあったのか?
「ホテルの宿泊客は全員殺されてた。あのアサシンにね!どういう訳か知らないけど私達の居場所は最初からバレてたのよ!」
「そんな…!」
変装していて気付かれなかったのに…どうして…?
「まぁどういったタネがあるのかは知らないけど、立ちはだかるのなら斬る!さぁかかって来なさい!」
「くぅ…!!わしはあの武蔵を殺る!おまんらはあのマスターを狙え!!」
以蔵の指示に従い、実働部隊達は陣形を立て直す。
武蔵ちゃんは走り、真っ直ぐに以蔵の元へと駆けた。
「…!」
一瞬にして囲まれる俺。
以蔵との戦いで手負いではあるが、この程度なんてことない。
しかし…。
「死ねぇぇぇぇ!!!!」
「っ!!」
ナイフを手に襲いかかってきた1人を峰打ちで仕留める。
だめだ…俺はまだ甘さを捨てきれない。
「一斉にかかれ!相手は手負いだぞ!!」
「くっ…!」
蹴りを入れ、峰打ちで対抗し、殺さないよう手加減をする。
甘い。
命のやり取りに関してはドライな武蔵ちゃんが今この光景を見れば、そう言うだろう。
そうだ、甘い。ただの自己満足だ。
そして、
「まだだ…!まだだ!!」
「ここで逃したら…次は俺達なんだ!!」
諦めずに何度も襲い掛かる実働部隊達。
銃を斬られ、ナイフを折られ、どう無力化されてもその両手で俺に掴みかかる。
振りほどき、叩きつけるもすぐさま立ち上がって群がる。
しつこい…そこまでしつこくしないでくれ!!
そうしたら俺は…!!
「結果を出さないと…殺されるんだ!!」
「そうだ!!奴らの分まで俺は幸せになるんだ!!」
「…!」
こいつらは、何を言っている?
「…っ!殺される、だと?」
「ああそうだ!成果を持ち帰らず、自分の身だけで帰ってきたやつは全員殺された!!」
「俺の友達もだ!!生きて帰ってきてくれたのに…役立たずだからといって代表に殺されたんだ!」
気づけば、実働部隊達は皆涙を流し、そう話しながら必死の形相で俺に襲いかかっている。
つまりだ…。
「そう…か。」
下ろしていた切っ先を前に向ける。
そして真っ直ぐ突き、貫いたのは
「生きるために必死なんだな…お前達。」
「ああ…う。」
こちらにやってきた、実働部隊の1人。
そうだ、こいつらも生きることに必死だった。
でも…。
「俺だって…必死なんだ!!」
貫いた男を斬りあげる。
上半身が真っ二つになり、スプリンクラーのように血を撒き散らしながら、数歩歩いて倒れる。
血に濡れる服、髪。
これが人の血。そして今感じたのが肉を斬る感触。
骨すら、見事に両断した。そう、これが…人を殺すということ。
でも、殺したいから殺すわけじゃない。
生きるため、そして…
「武蔵ちゃんを守るためだ!!」
守るため、そう正当化し、俺は斬り掛かる。
「くそっ!死ねぇ!」
「お前が!!死ねぇぇぇぇーッ!!!」
ライフルを撃とうとした男に斬り掛かる。
真っ二つに斬り捨て、暴発した銃は付近にいた仲間に命中して腕が爆ぜた。
「殺す…!生きるため、守るため…俺はお前達を殺す!!」
「ひいい!!!」
完全に戦意喪失した彼らは、逃げ出す。
腰を抜かし立てなくなった仲間すら置いて、
「逃げたら…殺されるんだろう…?」
刀をかまえ、さっきと同じように力を込める。
迸る稲妻、紅く煌めく刀身。
「だったらその前に…俺が楽にしてやる…!!」
握りしめ、振るう。
一閃は周囲の樹木を焼き焦がし、逃げていった実働部隊も腰を抜かした実働部隊も皆殺害した。
「殺す…!殺す…!殺す…!!!」
来るなら来い、殺してやる。
武蔵を奪う?なら殺してやる。
逃げるのか?殺してやる。
「くそう!撤退じゃ!!」
実働部隊が恐れをなして逃げていったせいか、それとも兵力が少なくなったからか、以蔵は逃げようとする。
「逃がすか…!!」
逃がしてなるものか、殺してやる。
「殺す…!殺してやる!!誰だろうが殺してやる!!」
「大和くん!!」
以蔵を追おうとした。
しかし、武蔵ちゃんが目の前に立ちはだかり、俺の行く手を阻んだではないか。
「どいてくれ…殺すんだ。」
「どかない。その頼みは例えマスターの大和くんでも聞けないわ。」
「やめてくれ。じゃないと奴らはまた殺しに来る。なら殺さないと…!」
「大和くん…ごめん!」
ドン、と腹部に鈍痛が走る。
ぐらりと世界が回転し、目の前に移るのは武蔵ちゃんの足。
そして暗くなる視界。
いつしか俺は、殺さなければならないという殺意と朦朧とした意識を手放した。
⚫
夢、だろうか。
俺は今どこか分からない場所にいる。
一面真っ暗闇の、どこまでも続く場所。
夥しい数の死体。
腹を裂かれ、手足を飛ばされ、頭を潰された無残な死体が何十も何百も転がっている、
血にまみれた自分。そして、今まさに人を斬ったばかりだと伝えるように、持っていた刀からは血が滴っていた。
そうだ。殺した。
俺が、全部、殺した。
向こうが来るからだ。来なければ殺さなかったのに。
肉が簡単に斬れる感覚。
料理で肉を切るのとはまるで違う感覚。
雷で焼け焦げた死体の匂いが鼻にツンと来る。
皆殺した。俺が殺した。しかし、俺は悪くない。
悪くない。悪くない。
だってこれは、守るためだからだ…。
「…。」
目を覚ました。
目を開けた先に映ったのは、彼女の顔。
「俺…どうして」
「だいぶうなされてたけど…大丈夫?」
「うん…なんとか。」
微妙に頭痛がして頭を抑え、俺はゆっくりと上半身を起こした。
どうやらここは、テントの中みたいだ。
「あれから…どうなった…?」
「奴らは全滅して、岡田以蔵は逃げていったわ。気絶したマスターと一緒にね。それと…。」
「それと…?」
なにか言おうとして、武蔵ちゃんは口ごもる。
少し考えたような素振りをして、彼女はこう話した。
「私が言うのもアレだけど…大和くん。」
「…。」
「人殺しには…慣れないで。」
「…。」
手を、両手で優しく包まれる。
ついさっき人を殺した俺の手を、武蔵ちゃんは優しく握ってくれていた。
「悩んでた…よね?人を殺せないこと。」
「…。」
無言のまま、頷く。
「殺すことに抵抗があるのは仕方がないの。だって人間だもの。でも、それを無理矢理乗り越えて、逆に殺しに慣れてしまうのはもっとダメ。」
「…。」
「あの時の大和くん…覚えてる?殺すこと第一に考えてなかった?」
そう言われ、思い出す。
確かにそうだ。あの時の俺は積極的に殺しにかかってた。
守るためじゃない、生きるためじゃない…あの時俺は確かに、何かに呑まれ、殺すことしか考えていない。
「心が…弱いんだろうな…俺。」
「逆。弱ければもうとっくに…大和くんは人の道から抜けてる。強かったからこそあれこれ悩んで、考えてた。」
「…。」
肩に両手を置かれ、今度は俺の目をじっと見てくる。
「約束したんだ。」
「約束?」
「ああ、あの時会った陸と。この力は大切なサーヴァントを守るために使おうって。」
「…そっか。」
生きるため、守るため、
そう思えば、少しは気が楽になると思う。
以前陸にそう言われた。
しかし、また別の問題が浮上してくる。
「でも…怖いんだ…。」
「…?」
「あの時…人を殺した時、俺は…満たされてた。」
殺し。
1度それに手を染めてしまうと、人は戻れなくなる。
人を斬ったあの時、それが気持ちいいと感じてしまった。
サラリーマン時代には感じられなかった達成感が身体を満たした。
筆舌に尽くし難い快感が身体中を駆け抜けた。
今では、あの肉を斬る感覚が愛おしく思える。
「俺は…俺は…!」
「もう、いいの。」
弱音を吐き、己の弱さに涙を流す俺。
軟弱者にしか見えない今の俺を武蔵ちゃんはただ。
「あのね大和くん。辛かったら辛いって言って。その為のサーヴァントでしょ?」
俺を抱きしめる。
彼女の温もりが、身体中で感じる。
「…ごめん。俺、強くなるよ。」
「…うん。」
初めて、弱音をはいたような気がする。
心の中に溜め込んでいたものが吐き出されて、スッキリしたような気分だ。
「ただ強くなるだけじゃない。俺は…守るために強くなる。そう決めたんだ。いつか背中を預けられるようになるくらい、強くなるからさ。」
しばらくこうしていたい。
それを言葉にせずとも、武蔵ちゃんは何も言わず抱きしめる力を強くした。
「じゃあ、強くなりましょ。それまで私、ずっと付き合うから。」
初めて明確な殺意を持って人を殺した日、俺はどうにかなりそうだった。
俺は…まだ弱い。身も心も。まだ全然強いとは言えない。
でも、そんな俺がこうして力に溺れなかったのも、衝動に呑まれなかったのも、
彼女のおかげだ。
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