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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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かくしてアイドル対決は、阻まれる(前編)

 
前書き
どうも、クソ作者です。
この話でコラボ回もクライマックスです。
長すぎるので前編後編に分けました、
それではまず前編からどうぞ。
 

 
郊外にて作られたアイドル対決用の特設ステージ。
そこで行われている2組の対決は、非常に盛り上がるものとなった。

「まさかな…葵にあんな才能があったなんて…!」
「二人の息もぴったりだ。これが”尊い”というものかね?マスター。」

このステージの建設をゴーレムと共に使手伝ってくれた宮本とアヴィケブロンがステージのあたしと香子を見てそう感想を漏らす。

魅了されるのなら大いに結構。本番はここからだ。

「まだまだこれからだよ!!そうでしょ!紫式部!!」
「ええ、宴はまだ始まったばかり、熱も勢いもここから更に上げていきましょう!」

止まった時の中で、何度も何度も繰り返してきた練習、そしてリハーサル。
互いの気持ちを知り、互いの心に寄り添い、深い絆はより深く、そしてかたいものとなった。
今香子が何を考えているか、何を求めているか、それが手に取るようにわかる。
顔を向き合わせ互いに頷くと、あたし達は次の曲へと移っていく。

「「次、『アノ華咲クヤ』!」」

曲の題名を言うと同時に観客席からもワーという盛り上がりの声が押し寄せる。
この熱狂、嫌という程感じる歓喜。
これはクセになる。アイドルっていうのも案外悪くないかもしれない。

さぁやろう。
もっとステージを盛り上げるため、そして次にバトンを渡すあの二人に思いっきりプレッシャーをかけてやるために、
全力で歌い、踊ってやろう。





「ふぅん…楽しそうだねー。」

アイドル対決の行われている特設ステージから少し離れた場所。
廃墟ビルの屋上にて、足をブラブラさせながらその賑やかな様子をぼーっと観察している一人の女性がいた。

森川 真誉。
葵が図書館にて出会い、ソフィーが遭遇したあの人物である。

「そういう真誉殿は、いささか退屈そうではありませぬか。」

ふっ、と彼女の隣に誰かが現れる。
奇抜な格好が目を引く、長身の男。
彼はサーヴァント。そして彼女はそのマスターだ。
名を、蘆屋道満という。

「だって面白くないじゃん。歌って踊る。それの何がいいの?」
「ははは、真誉殿は演劇や舞踏を見るのはあまり好みませぬか。」

軽く笑い飛ばし、道満もまたステージ会場を睨みつける。

「気が合いますなァ…真誉殿。」
「…。」
「拙僧、生憎ああいった催し物は滅茶苦茶に壊し尽くすことに快楽を見出す者でござります。」
「…だよね。」

二人で顔を見合せ、にんまりと笑う。

「じゃあ滅茶苦茶にぶっ壊してあげようよ。そっちの方が絶対楽しいよ。」
「…仰る通り。その為の”駒”でございましょう?」

周囲からうめき声が聞こえる。
瓦礫の山からよたよたと立ち上がる、いくつもの影。
それは人であって人でない。生き物としては死んでいる。モノとしては生々しい。
傀儡と化したかつて人間であったモノは、まるでゾンビのように両手を前に突き出し、フラフラとした足取りで歩き出した。

「葵ちゃんはどんなリアクションをするかな?怒るかな?泣いちゃうかな?もしかして笑っちゃう?」

目指すは、アイドル対決が行われている特設ステージ。
ステージを台無しにして面白くするという主の命を受け、彼らは歩き出す。






場所は戻り、ステージの裏方では待機しているエリザベートとそのマスター、プロデューサーのヘカPとソフィーがカメラで二人のステージを見ていた。

「へぇ、やるじゃない。」

観客のボルテージは更に上がり、熱狂に包まれている。
それを見てエリザベートは満更でもない表情で見つめている。

「ヘカP、と言ったかしら?」
「ええ。私が何か?」
「あの二人、最初は大したことなさそうな雑魚かと思ったけど、アタシに匹敵しうる強敵に育て上げるなんて、中々の手腕じゃない。」
「それ程でもないわよん。」
(へカーティアは何もしてないんだけどね…。)

自信満々に胸を張るヘカPにやや呆れるソフィー。
何かしたとすれば、土壇場での2人組のユニットの命名と、楽曲提供である。
強いて言うならば育て上げたのはソフィー、もとい幻想郷の住人達だ。

「それじゃあマスター。アタシ達も準備しましょう。」
「だね。」

次の曲が終われば自分達のステージ。
エリザベートはカメラに映るウィステリアの二人を一瞥し、マスターの手を引っ張って準備室へと向かっていった。

その時だった。

「…!!」

ソフィーが、何かを感じとった。

「…ソフィー?」
「ごめんへカーティア、ちょっとボク出かけてくる。」
「出かけるったって、二人の舞台はまだまだこれからよん?どこ行くの?」
「ちょっとね!」

ヘカPの制止をも振り切り、ソフィーはどこかへと走っていく。

「もう…なんなのかしら…。」

折角コーチした子達の晴れ舞台を見たくは無いのかと思いつつ、ヘカPはステージを映すカメラに視線を戻す。

「…?」

しかし、そこでへカPも感じ取った。

「…何かしら?このお客さん。」

邪悪な意思、悪意に満ちた真っ黒な気配とでも言えば良いだろうか?
ソフィーはこれを感じとり、その元を探しに行ったのだと納得し、そして今度は観客席を映すカメラに目をやる。

「…。」

おかしい奴がいる。
格好もボロボロで、歩き方もフラフラと覚束無い、
言うならばそう、ゾンビのような奴らが熱狂する観客の後ろから迫りつつあるのだ。

「これは…まずいわね!!」

パイプ椅子から立ち上がり、ヘカPは急ぐ。
しかし、

「あらら…。」
「あぁ”…うあぁぁ」

それを阻むかのごとく裏方に現れたのは、また別のゾンビ。
見てわかる。
これは、誰かに操られている。
1度死に、傀儡として何者かに主導権を奪われた屍の末路だ。

「あぁ…あああああ!!!!」
「だず…げで…ぼうやだ…。」
「ごろじで…ごろじで…くれ。」

一体だけではない。
何体もの屍がこうして裏方に押し寄せてくる。
その口から出たそれは死んだ脳から発せられた意味の無い言葉の羅列か、はたまた僅かに残った意思が訴えかけているのか、
まぁなんと言おうがへカーティアには関係の無いことではあるが。

「ちょっと邪魔よ。」

指を鳴らすと、男達の頭が弾け飛ぶ。
しかしそれでも止まらない。
倒れるも、それらは頭がないのが当たり前のように立ち上がる。

「これは…ちょっと厄介。随分とタチの悪い呪術をかけられたみたいねぇ…余程性格悪いやつじゃないとこんな呪いかけないわよ…。」

まだまだ後ろに控えているゾンビとこれをかけた術者にウザったさを覚え、ヘカPは排除にかかる。
ともかく急がねば。
ソフィーは先にこれを察知しどこかへと向かったが、これではステージが大変なことになる。

「このアイドルステージにあなた達はお呼びでないの。あなた達を呼んでいるのは地獄。地獄の女神が直々に送ってやるわ。」





その頃ステージでは、
裏方でとんでもない事が起きているのも知らず、最高潮に盛り上がっていた。
最後の曲、『しかたないじゃない』を見事に歌い切り、観客達はまだ足りないとアンコールの嵐。
しかししょうがない、次が控えているのだから。

「その盛り上がりは、次の方にとっておいてください。」
「そう。あたし達はこれでおわり。名残惜しいけど次のバトンを渡さなきゃいけないからね。」

泣く泣く2人の退場を惜しむもの、未だにアンコールを望むもの、今度はいつライブをやるんですかと尋ねるもの、
様々なものがいるが、ここにいる人達はウィステリアのファンだと言うことは共通している。
自分達も、すっかり有名になってしまったものだとひしひしと感じてしまう。
そして、

「やるじゃない。ここはアイドル歴の長い先輩として素直にすごいと褒めてやるわ、まな板。」

観客席から見て横側、袖幕から自信満々にやってきたのは次に歌を披露するエリザベートとそのマスター、大久保 麻美。
当然観客席には彼女らのファンもいる。
なんならここでライブをすると言ったら遠方から駆けつけてきてくれた熱心なファンだっていた。
今度は彼らが熱くなる番だ。

「来たね洗濯板。あたしと紫式部の凄さにビビって逃げ出したのかと思ってたよ。大人しく頂点譲るんなら今のうちだけど?」
「そんなわけあるもんですか。たとえこの先どんな馬の骨が出てこようと、アイドルの頂点に君臨し続けるのはアタシ達。twin dragonよ。」

観客席からはもっとやれー!だの聞こえてくる。
後ろにいる香子はあたふたしてるしあっちも喧嘩はやめた方がいいんじゃない?とエリザベートにそう言っている

「葵様…熱くならず冷静に。大人の対応を。」
「大丈夫。心配ないから。」

熱くなってはいない。ただエリザベートがムカつくので文句を言ってやるだけだ。
それにこんなちっさい真っ平らなクソガキに大人というものを教えてやるのもまた、大人としての役目だ

「いい?もう一度確認するわよ?アタシ達が勝てば、あなた達はあの土地を譲ること、それとアタシ達のサポーターになってアイドル活動の援助に尽力すること。無論アンタのところのプロデューサーと特別講師もね!!」
「はぁ!?」

キレた。
身に覚えのない約束をされているからだ。
自分達はアイドル対決に負けたらあの図書館を譲るという条件だけだったはずだ。
それが何やら増えている。

「なんか増えてない!?」
「ふふっ、勝者の特権よ。あなた達も勝てば、アタシ達になーんでも命令していいのよ?まっ!勝てるわけないんだけどねー!!!」

ムカつく。
もう大人じゃなくていいや。
今すぐにこいつをぶん殴って世の中の厳しさを叩き込んでやりたい。
そう思って一歩踏み出そうとした時、紫式部が止めに入る。

「…葵様。」
「何!?止めないでよ!!」
「いえ、そうではなく…。」

紫式部は深刻そうな顔であたしの耳にそっと囁く。
何かと思って耳を澄ませてみれば…

「何やら先程から嫌な予感がするのです…今すぐにらいぶを」
「ぎゃあああああああああ!!!!!!」

悲鳴。
紫式部がなにか言おうとするのを遮るように、観客席から声援とは全く違う声が上がった。

「あら、何?」
「エリザ!!あれ見てよ!」

麻美が指を指した場所。
そこは集まっていた観客席が引き、二人の男がいた。

一人は浮浪者だろうか?やたらとボロボロの格好で立ち尽くし、そして傍には首を押さえたまま倒れているもう一人が。

「…!!」

その異様さにはすぐに気付いた。
倒れた男の押さえている部分、すなわち首から血がとめどなく出ている。
そしてもう一人は

「くっちゃくっちゃくっちゃ…あ”ーーーーー」

生気のない顔を血まみれにし、くちゃくちゃと”何か”を咀嚼していた。
あれは浮浪者じゃない。

「葵様!!」
「分かってる!!」

あれは見た事がある。グールの類だ。
おそらく噛まれて仲間入りを果たしたのだろうが、なぜそんなものがここに?
考えている暇はない。ステージを駆け下り、仕切り用のパーテーションを飛び越え、そいつに一直線に駆ける。
当然、人の首を噛みちぎったやばい奴がいるとなれば観客もパニックに陥る。
しかし

「みんな!こっちよ!!」
「落ち着いて行動してください!!慌てないで!!」

アイドル歴は長いと自称するだけあってか、エリザベートと麻美の二人が観客達を上手に誘導し避難させる。
そのおかげで人が蜘蛛の子を散らすように逃げ、大混乱な状況にならずに済んだ。
そうして、葵は思いのほかスムーズに現場へと駆けつけられた。

「このォッ!!」

相手は人間じゃない。
よって容赦なく後ろからその首に回し蹴りをくらわせる。
ゴキリという骨の音と共に、腐敗して接続の甘くなっていた首は吹き飛んだ。

「…。」

首のなくなったグールは、少し棒立ちしたあとばたりと倒れる。

「大丈夫ですか!?」
「ぐぅ…ううう…!」

しゃがみ、のたうつ男に声をかけるが呻き声しかあげられない様子。
よほど苦しいらしく、すぐさま手当をしなければと思ったが、

「あっ、がががが!ぎゃああああああ!!!!!」
「!?」

一際激しく暴れ回り、目、鼻、口、ともかく穴という穴から血を垂れ流して彼は事切れた。

「…死んだ?」

動かなくなった観客。
しかし、

「…!」

次の瞬間、何事も無かったかのように起き上がったのだ。
分かっている。これは…。

「ッ!」

彼もグールになった。
そうして一切の慈悲もなく、拳を振るい頭を思い切りぶん殴る。
ありえない角度まで曲がり、くるくると回りながらさっきまで生きていた観客、もとグールは倒れた。

「!!」

一安心した次の瞬間、何者かに後ろから羽交い締めにされる。
何者かと後ろを見てみれば、それはなんと

「こいつ…!頭をやったのにどうして…!?」

先に倒した、頭を吹き飛ばしたはずのグール。
頭をやれば死ぬ。だがこいつは生きている。
さも当然のように、当たり前のようにだ。

「!!」

それだけじゃない。
ぶん殴ったグールもまた、何事もなく立ち上がりこちらに迫ってくる。
しかし、そうはいかない。

「離せ、よッ!!」

強引に拘束を振りほどき、後ろのグールの脇腹に容赦ない肘打ち。
次の瞬間、当てた場所が爆ぜた。

「いいこと教えてもらっちゃったなぁ。美鈴さんに感謝しないと。」

今の技は”気”を使ったもの。
かつてレッスンの合間にて紅美鈴から教わった武術を応用したものであり、多少ながら気の流れを操作することを会得したのだ。
よって、普通の殴打に気の流れを持っていき、爆発させる。
そうすることでダメージを何倍にも跳ね上げた。

そうして迫る別のグールにもおみまいしてやろうとしたが、何かを察知し顔を僅かに傾ける。
その瞬間葵の顔のすぐ横を何かが突っ切り、グールの腹にくい込んだ。
それはやつの身体を蝕み、そして塵へと変えると風に流れて消えた。

「葵様、このモノ達はただの生きた屍ではございません!」

グールに綴った文字を撃ち込み倒したのは紫式部。
彼女は葵の傍に経つと、アイドル衣装からいつもの洋装へと霊装を瞬時に変えて戦闘態勢に入った。

「かつて見たものとは大きく異なります。彼らは…生きていながら死んでいる…強力な呪術によって魂を縛りつけられ、操られているのです…!」
「なにそれ…」

グールではない、何か。
強力な呪術によって作られた傀儡。
そしてそれらは、一体だけではない。

「あれは…!」

遠くの方から見えるのは、人の群れ。
同じように生きた屍にさせられた、傀儡の群れ。
それらが呻き声を上げながらゆっくりと、しかし確実にこっちに向かってきている。

「へカPとソフィーは!?」
「連絡がありません。あの二人があのようなものに負けるとは到底思えないのですが…。」
「仕方ない…やるっきゃないか!」

ヘカPとはインカムで裏方から連絡が取れるようになっているが、生きた屍が現れてから何の連絡もない。
確かに、紫式部の言う通りあの二人は相当の実力者であり、あれらにやられたとは考えにくい。
きっと彼女らはこの状況にいち早く気付き、何とかしようとしているのだろうと願い、とにかくここは二人で打破するしかないと決意した。

「アテにしてるよ。香子。」
「ええ。香子は葵様のサーヴァントですので。死なせることは絶対に致しません。」

紫式部が筆をかまえ、葵が彼女を守るようにして前に出る。
サーヴァントとマスターのあり方としては逆かもしれないが、これが二人のやり方だ。

敵はそう簡単に死なないが、こちらには対魔性のスペシャリストがいる。
しかし、呪術で人工的に生み出されたグールということは、それを作ったもの、操るものがいるということ、
このライブを狙い、悪意を持って生きた屍をけしかけた者がいる。
どういった悪意を持ってこのライブを阻もうとしたのか、それを考えようとしたが今やるべきことは頭よりも体を動かすこと。
後ろには大勢の観客、周囲からは大量の屍。
引く訳にはいかない守るための戦いが、ライブの最中強引に始められた。 
 

 
後書き
後半続くよ 
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