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艶やかな天使の血族

作者:翔田美琴
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3部 公人と私人
  15話 パーティの夜

 いつもの朝食の時にエリオットさんは珍しくアネットさんに今日の予定を話した。

「アネット。今夜のディナーは俺のぶんは作らなくていい」
「何かあるの?」
「今夜はジオン国防軍とジオニック社とのパーティの夜だから、帰ってくるのも遅くなる。先に寝ていていいから」
「モビルスーツの開発者のあなたがパーティねぇ」
「上司からの命令では仕方ないさ」

 ため息をしながら、モーニングコーヒーを飲む。
 パーティに出る為の礼服は向こうで用意すると言っていた。礼服か。それを纏う機会が巡って来ようとは思って無かった。
 ただ、何かが起こる。そんな胸騒ぎが朝からしていた。何の胸騒ぎかはまだこの時点ではわからなかったという。
 そうして、いつものようにアネットに「行ってくる」の挨拶とジェニファーの頭の撫でて彼は、ジオニック社へと車を走らせた。
 車内では、彼の心境を歌うような歌謡曲がラジオから流れていた。

何かが起こりそうな夜は
祈りをささげて 目を閉じなよ
こんな月のとける夜に
愛され生まれてきたのとママは言った

お願い遠くへ行かないでと
なぜママは涙を流すの
ずっとずっとそばにいるよ
小さな心で思ってたけど
あの人に会うまでは
心ゆらされるまでは
そして全てはからまわり
未来がちぎれるのを見た
さぁ 裸足になって 大地けって
虹をこえて 空をつかんで

※I wish 胸の十字架をにぎり 朝は
希望があなたにふりそそぎ 夜は
やわらかな光が あなたを包みこみ
明日への勇気を与える※

幼い頃に うえつけられた傷は
重く心にのしかかり
暗い狭い世界で 心ない世界で
ゆりかごに似たやすらかな Final Song

もう二度と 会えないとわかってても
色をかえてもつながってるから 空は
白い羽根身につけ 大きくはばたいて
未来をかえるよ この手で

(※くり返し)

I wish forever her great happiness
Everynight in your dream I see you I feel you
Tears stood in her eyes Please don't cry
Forever still for you still for your love

 そしてパーティの夜がきた。
 有名なホテルでのパーティだった。
 エリオット・レムはジオニック社から礼服を渡され、それを着て出席するように指示される。
 個室でその礼服を見た。

「なんだこれは?また…随分と目立つ礼服だな…コスプレパーティか?これは?」

 なかなか奇抜かつ何処か優美なデザインの礼服だった。色は濃い青色。ネイビーブルーだった。ジャケットはなく、ベスト姿の上着に腰には装飾用の布を巻く。まるでサテンのような手触りの装飾品だった。左腰を隠し、下半身の細いズボンもネイビーブルーだった。

「よく考えたな。こんなデザイン。まあ上着がベスト姿というのは珍しい」

 手渡された物にはオートマチックの拳銃まであった。自分自身の身の安全は自分自身で守れという事か。安全装置を確認して、腰の帯に着けた。きちんと拳銃を着ける場所まであるとはなかなか機能的だと思った。
 最後に櫛で軽く銀髪をとかすと鏡を覗き込み軽く頷いてパーティ会場へと向かった。途中で見知った顔に会う。彼はブレニフ・オグス少佐ではないか。オグス少佐はジオン公国軍の軍服姿で来ていた。

「やあ、エリオット少佐」
「オグス少佐。あなたも来ていたのですか?」
「上層部の命令でね。君こそ何故ここに?」
「私もジオニック社の専務の命令だよ」
「今夜はパーティと聞くが、ジオン国防軍とジオニック社とのパーティって」
「でも…何故かな。さっきから胸騒ぎがしてならない。今夜のパーティ。何か起こるのでは?」
「確かに。臭うな」

 廊下を歩く2人はパーティー会場入りを果たす。パーティ会場は華やかな雰囲気だ。カクテルドレスの女性。タキシードの男性。イブニングドレスの女性。様々な関係者が来ている。
 やがて、パーティが始まる。
 エリオットもオグス少佐も軽くカクテルを傾け、和やかに話に花を咲かせる。
 だが。突然。
 ガシャーン!!
 ガラスが叩き割られる音と共に電源が落ちた。辺りは騒然とする。
 エリオットもオグス少佐もテーブルを盾に身を隠した。彼らは拳銃を持ち、様子を伺う。

「なに!?」
「何が起きたの?!」
「御婦人方はテーブルに隠れてください!下手に動かないで!」

 オグス少佐が周りの兵達に指で指示を出す。そして、突然、パーティに侵入してきた敵と戦う事になった。

「このジオン公国の売国奴達め!お前らをここで皆殺しにしてくれるわ!」
「ダイクン派の過激派か!」

 エリオットも拳銃を手に聞き耳を立てる。
 覚悟を決めておけとは、今回はこの意味か。確かに覚悟は決めてないと、無傷では帰れないぞ。
 エリオットはオグス少佐に目を向ける。
 互いに頷いて、そしてそこは銃撃戦のパーティとなった。
 
「殺せ!」
「くうっ!」

 ガラスの欠片が容赦なく襲いかかる。
 彼らは身を守りながら、テロリストと戦う。オグス少佐もさすが射撃ともなるとプロだった。戦い馴れしている。銃弾が飛び交うなか、エリオットも応戦している。
 ガラスの破片が飛び交う。するとエリオットの左頬を破片が切った。血が流れる。

「チッ…!かすったか」

 その間にもオグス少佐と他のジオン兵たちにより、テロリスト集団が次から次へと撃ち抜かれていく。
 ホテルの非常用電源が復帰する頃には、ほとんどのテロリストが銃弾を浴びて、血まみれで殺されていた。

「終わったか…」
「各員!周囲の安全を確認しろ!安全確保したら順次、御婦人方からホテルの安全な個室へ誘導を開始しろ!」

 その場でオグス少佐が指示を出す。
 エリオットも拳銃を持ったままで、オグス少佐の下に集まる。

「無事か?」
「……エリオット少佐、頬に傷があるぞ」
「ガラスの破片で斬っただけさ」
「何か手伝える事はあるか?」

 オグス少佐に聞くと、彼はエリオットに促す。

「事が大きくなる前にエリオット少佐は帰宅した方がいい。後々、面倒な事になるからな。ここは私が上手く説明しておく」
「いいのか?」
「ジオン公国軍人なら、この騒ぎなら言い訳は聞きやすい。しかし、生粋の軍人ではない君ではややこしい事になる。その前に姿をくらます方がいい」
「そうだな。すまない。オグス少佐。この恩は別の日に返す」
「早く立ち去れよ!」

 ブレニフ・オグス少佐の粋な計らいで、事なきを得た、エリオット少佐は、礼服を元の場所で脱ぐと、そのまま自宅へと帰った。

「……とんでもないパーティだったな」

 宵も更けて22時。
 帰宅するとアネットは驚いた。

「エリオット!その傷…!」
「詳しい事は部屋で話すよ」

 救急箱を持ってくるアネットは、消毒液で左頬の傷の消毒をする。血は止まっているし、傷も浅い。痕は残らないだろうと思う。エリオットは手当てを受けながら、この国が抱える闇を話す。

「このジオン公国の闇は奈落のように深くて、そして重くて、何より、血にまみれている……」
 
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