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艶やかな天使の血族

作者:翔田美琴
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1部 艶やかな天使
  2話 天使に弄ばれて

 そもそも私は、この艶やかな天使の血族に無理矢理連れてこられた人間だった。
 私は和美沢水菜。
 宇宙世紀に時代に移り変わっても日本は相変わらず安全で、でも、人の死に遠く遠ざけられた世界。
 世界中では流血事件が多発しても、ここで挙げられる問題はスキャンダルばかり。自分達が考えるのは己の見栄と体裁と恋愛の事ばかり。ファンタジーの世界だった。
 だが。そんな生活もある人物達の登場により一転する。
 私はただの平凡な中小企業のオフィスレディだ。いや、落ちこぼれだ。周りからは変人扱いされ、ついさっきもらった言葉は、『君は一般常識に欠ける。社会ではやっていけない』との言葉。
 そして何故か、そんな大した事のないこの会社に宇宙世紀の大手の製薬会社の社長がやって来るらしい。何をしに来るかは私には関係ない。社長自体はチャンスと息巻いているけど私には無縁の世界だった。
 給湯室でお茶を出す私。せめてお茶だけでも美味しく淹れられればと思い、玉露を淹れている。だけど、ボーッとしていたのだろうな。そのまま玉露を茶碗にいれたまま、正面を歩く男性にぶつかり、そのお茶をかけてしまった。

「……っ!」
(しまった…!)
「大丈夫ですか?!社長!」

 社長に私はお茶をかけたの…?!
 私の目の前にいる男性は整った顔立ちの人だった。金色に輝く短髪、緑色の瞳、上品さと内側に何か獣のような牙があるように感じる。
 すかさず上司がすごい剣幕で怒鳴る。

「何をしているんだね?!君は!?申し訳ございません。ミカエル社長」
「いいや。火傷はしてないから別に。それよりも…この子、綺麗な女性だね」
「お名前は?」
「か、和美沢水菜です…」
「日本人か。この宇宙世紀に純血の日本人は珍しい。そう言えばこの会社にいるんだよな?我々レム家にとっての大事な女性が?そうだったな?アズラエル」
「はい。恐らくはこの女性の事かと」
「お嬢さん。今夜、ディナーでもいかがかな」
「え…!?!」

 今、何か、空耳を聞いたような…。
 上司も呆然としている。
 目の前のこのミカエル社長は、勝手に私をディナーに誘い、そして会社の下見をする事もなく、サッサと引き揚げていった。
 何なの?一体…?
 
「一体、何をしに来たのかな。あのミカエル社長」
「気のせいだと思いたいが、こんな地味な使えない社員をディナーに誘うなんて、それだけの為に来たのかな」
「ついでだから貰っていってもらえば?どうせ役に立たないし、でも女としてなら、生贄代わりにはなるでしょ?」
「……」

 私は何も言い返す事ができない。本当の事だから。この会社には居場所なんて無いんだ。生贄にでもなる。どうせ、私は社会不適合者なのだから。
 投げやりな気持ちでディナーの席に向かう。何故、こんな社長とも方が私をディナーなんかに誘ったのだろう?
 イタリアンレストランでディナーを摂る。
 それにしても綺麗な人だ。
 鮮やかな金色の髪の毛。緑色の瞳。乳白色の肌。そう言えばこの会社は大手の製薬会社だ。レミリア製薬。宇宙世紀でも有名な製薬会社。会社の社長職を務めるのはレム家の人間。
 時は宇宙世紀0075年。1年戦争が始まる4年前の話。
 私の数奇な運命も始まる。

「ディナーはお気に召したかな?」
「は、はい。とても美味しかったです」
「あの…」
「申し遅れた。私はミカエル・レム。レミリア製薬の社長だ」
「何故、私をディナーに誘って頂けたのですか?」
「君に一目惚れした、と言えば納得してくれるかな」
「……一目惚れ…?」
「一目惚れに理由など要らないでしょう?」
「そんな…私なんか」
「大した事はない、と?充分、綺麗だと思うけどね。さすがはアズラエルが教えてくれただけはある」
「アズラエル?」
「私の従兄弟で秘書を務めている」
「このままあの会社に戻った所で嫌な気分を味わうだけですよ。どうせなら我々の世界に案内しましょうか?あんな狭い島国では、貴女の良さはわからない。これからは広い宇宙世紀を見るべきだと私は思うね」
「……」
「そんなの嘘だ、と言いたげですね」
「何も見てないのに、嘘だと思うのは、損ですよ。嘘だと思うなら私に着いてきてみるといい」

 その先に何が待っているかは、自分自身の目で確かめればわかることだ。
 
 この言葉に後押しされて、私はミカエル・レムに着いて行った。
 今にして思えば、それがあの宇宙世紀でナンバーワンの技術少佐に会う、きっかけだったと思う。
 
 ミカエル・レムに着いていき、味わってみた世界は毎夜の如く、私を弄ぶ天使の姿があった。
 毎夜、毎日、貪られるように身体を重ねる。一目惚れにしては入れ込み過ぎだと思う。この天使の一家と私達家族には何か関係があるのだろうか?
 ある訳ない。ずっと前から外国との縁なんて無かったし、両親とも普通のお見合い結婚だった。まあ…不思議な家とは今にして思えばそう思えたけど。
 一体、この天使の一族と私達は何で繋がっているのだろうか?
 そう言えば、レミリアって古い言葉で海底に沈んだ都市アトランティスに伝わる一族と聞いた事がある。
 まさか、血筋が蘇ったとか?
 こんな事を考えていないと私は気が狂いそうだ。毎日、毎夜。セックスに溺れて…。
 すると、部屋の外で何かを言い争う口論が聴こえた。

「どうして、アイツを呼ばなければならないんだ?アイツはサイド3に、俺達を裏切った男だぞ」
「でも、一応、レム家の人間よ。それに従兄弟の兄でもあるわ」
「地球に降りてきた時は地球連邦軍に協力するものと見えたが、蓋を開ければジオン公国軍の技術少佐。奴は俺達に会うのも面倒臭いと思っている」
「でも、今夜は、久しぶりに来てくれるそうよ?ワザワザサイド3から、サイド1に」
「フン。憎まれ口を叩くだけさ」

 裏切り者。
 彼らの会話からこの言葉が聴こえる。
 でも。そんな事は、どうでも良い。
 ここから逃げたい。今すぐに…!
 気が付いたらどうやれば逃げられるかを考えて、2階から飛び降りようとしている私がいた。 
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