崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?
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最終章『ふたりで…』
女神創造領域 『崩壊世界』其ノ肆
前書き
かいせつ
⚫世界観について
この作品を読んでいるの読者の皆様なら、ハーメルンの法の崩壊世界シリーズを読んでいるということ前提で説明します。
こちらの話とハーメルンのコラボ元の話、何か少し食い違ってない?と思った方も多くいるかもしれません。
そうですね、ハーメルンの作品と暁の作品、つまりクソ作者の作品は他の崩壊世界シリーズとは世界が異なる話。
世界観とキャラクターだけは共通しているパラレルワールドのお話と思っていただければ助かります。
実際、こちらはこちらで少しあれこれやっちゃっていいですよ。と許可を貰った作者様もいらっしゃいます。
なのでハーメルンはハーメルン、暁は暁で全く別物の崩壊世界シリーズと思ってください。
それでは、長い解説はここまでにして、
本編、どうぞ。
「おぞましい程の魔神柱…どの方も仰ってましたが、かつての終局特異点を思い起こさせます。」
高くそびえ立つ何十本の旧神柱を見据え、いつになく真面目なジャンヌはそう呟いた。
「旧神柱…魔神柱とは似て非なるモノだって、探偵さんが言ってたよ。」
「そうですか。そうですよね。魔神柱さんだってあんな気色悪いものと一緒にされては溜まったものではないでしょうしね。」
隣に立つ弟くん。
その後ろには、シルク・ドゥ・ルカン跡地。
そこには沢山の避難民、もといファン達がいる。
彼らは、少年少女らはショーの復興を夢見ている。
弟くんもまた、ショーをやるためこの現状をどうにかしようと思っている。
まずそのためには、あの旧神柱はどうしても邪魔だ。
「聞け!この日本に…この崩壊世界に集いし一騎当千、万夫不当の英霊達よ!!」
水着のままではあるが、ジャンヌはいつの間にか持っていた槍旗を掲げ、誰もが思う”あの時”と同じように高らかに叫ぶ。
「本来相容れぬ敵同士!本来交わらぬ時代の者であっても!愛するものの為、今は互いに背中を預けよ!!」
聖女の声はどこまでも届く。
日本全国、いや、この崩壊世界に。
「魔術王の名をかたり、悪逆の限りを尽くした偽りの王による支配を防ぐためでなく、我ら英霊を愛したマスター、いえ!やっぱ主にお姉ちゃんが愛した弟くんのために!!」
「えっ」
前言撤回。
真面目ではなく、彼女は彼女でいつも通りだった。
「我が真名はジャンヌ・ダルク!!弟くんのお姉ちゃんです!!弟くんの名のもとに!お姉ちゃんは盾にも剣にもなりましょう!!!」
「イェェェェェェエエイ!!!!!!!」
ファンからの大喝采。
なんとも言えない顔をする弟くん。
そして、
『随分と面白いことほざいてるなァ?マンコ。』
ジャンヌの前に現れた、数本の旧神柱。
「ええ、言いました。弟くんは誰にも渡しませんし傷つけさせません。弟くんはお姉ちゃんのものです!」
『何勘違いしてんだテメェ。俺様が欲しいのはテメェだ。そこの大した学歴もなさそうな一般人の最底辺なんざ必要ねぇんだよ。』
旧神柱の触手が伸びる。
このまま振り落とし、ジャンヌや弟くん、さらには後ろにいるファン達もろとも押し潰すつもりなのだろう。
しかしファン達は恐れて逃げ出すことはしなかった。
何故なら知っているからだ。
「今…なんて言いました?」
「…!」
その触手は、彼らには届かないことくらい。
そして弟くんをバカにした者が、どういった末路を辿るのかということくらい。
「学歴もない?一般人の最底辺?大して知りもしないくせに弟くんを語らないでもらえます?」
彼女の周囲には光の輪が展開されている。
さっきの触手もまた、届く前にこれで断ち切った。
「お姉ちゃんも実は学なんてありませんけど、これだけは分かりますよ。」
『あ?なんだテメ』
その瞬間、旧神柱は食い破られた。
触手は光の輪によって切り裂かれ、後ろから旧神柱の身体を貫いたのはリースXP
その強靭かつ鋭い顎は簡単にコアを噛み砕いた。
「弟くんは、あなたみたいな最低な人間よりもずっと賢いし、優しくてかっこよくてとってもかわいいんです。あ、それと良くやりましたねリースXP。よしよし。」
「あ そ ぼ 。」
「ついでに弟くんも、よしよし。」
「…。」
と、鮫を素手で撫でて大丈夫なのと思うかもしれないが彼女はお姉ちゃん。お姉ちゃんに鮫肌など通用しない。
そして満更でもない弟くん。
いや、むしろ諦めていると見た方が正しいのかもしれない。
崩れぬく旧神柱を傍目にイチャつく二人(+鮫)
しかし倒せどまた新たにそいつは出現する。
『さっきはよくもやってくれたじゃねぇかマンコ野郎!!』
『何イチャついてんだおい。死ねよ!!犯されてから死んで俺様に詫びやがれ!!』
『これはタダじゃ済まされねぇぞ!!てめぇの四肢をぶった切って!マスターの前でレイプしてからじっくりいたぶって俺様のオモチャにしてやるよ!ぶはははははは!!』
「汚い言葉遣い…教養が悪いのはあなたの方なんじゃないですか?」
弟くんを守るように前に出て、ジャンヌは次から次へとやってくる旧神柱を見上げる。
薄汚い笑みを浮かべる顔。
恐怖とかそういったものよりも嫌悪感が勝り、何よりもまずこいつらは弟くんに対して害をなす存在。
ならば、消さなければならない。
「良かった。その様子だと1度や2度では死なないみたいですね。」
「…え?」
ここから弟くんを守るための一大決戦が始まるんだという緊迫した空気の中、ジャンヌのものとは違う少し幼さの残る声が聞こえた。
弟くんの横にフラッと現れ、笑顔でいつものように挨拶をして現れたのは、
「こんにちはオーナーさん。」
「あ、どうも…お久しぶりです。」
シルク・ドゥ・ルカンのスポンサー、子ギルだ。
「それにしても葛城財団の代表さん。僕が遠くに出かけている間に随分と好き勝手やってくれましたね。」
『あ?ガキが何の用だ?』
弟くんに軽く挨拶を済ませ、子ギルは全ての元凶である旧神柱を見上げる。
葛城恋の東京襲撃の際、子ギルは別件で遠くの方へ行っていたのだ。
騒ぎを聞いて駆けつけてみれば自分が関わった会場が見るも無惨な姿に変わっていたのである。
「会場の修理費、どうしてくれるんです?結構手の込んでるステージですからバカにならないんですよ?」
『ハッ!知るかよ!請求書を押し付けんならそこの2人だろ。こいつらは俺様のスポンサーの申し出を断った!その報復だ!!自業自得なんだよ!!』
「…。」
『どうした?何も言えねぇか?そりゃあ俺様が正論だからなぁ!!なんだったらテメェが俺様に弁償してもいいんだぜ?』
「…。」
旧神柱、葛城恋は気付かない。
自分を見る子ギルの目が、にこやかなものからゴミを見るような視線に変わっていることに。
それに子ギルが喋らないのは正論をぶちかまされ何も言えないからではない。
呆れてものも言えない、もしくはもう話したくはないのどっちかだ。
「はー。馬鹿との話って、どうしてこんなに疲れるんでしょう。話が分からないというか通じないというか…」
『あ?馬鹿だ?』
馬鹿。
その一言は、プライドの高すぎる彼を挑発させ、怒りのボルテージを振り切らせるには十分過ぎる一言だった。
『俺様が…馬鹿?ぶっははははは!!!馬鹿はテメェらだろ!?少なくとも俺様はエリートだ!高学歴で』
「その臭い口を閉じろよ、”雑種”」
「!?」
その時だった。
地面から生えた鎖…ギルガメッシュの宝具の一つである天の鎖が瞬時に複数の旧神柱を縛り上げ、その顔一つ一つの口を文字通り”縫い合わせた”
『ん!むごぉ!!ふが!ふが!!』
「王を名乗るくせに洞察力がまるでないんですね。分からないですか?僕、今けっこう怒ってるんですよ。」
『…!!』
巻きついている鎖が動き出し、ジャラジャラと音を立てながらよりきつく締めあげる。
それは容赦なく、ギチギチと身体に食い込んでいきやがて
『ぶばぁ!!???』
天の鎖から圧力を加えられ続けた身体は限界を迎え、ちぎれた肉の塊となって爆散した。
『なんだこいつ…ガキのくせに!!』
「ガキで悪かったですね。こう見えて僕、あなたと違って本物の王様なんです。まぁ、未来の話ですけど。」
未だ生存する数本の旧神柱に再び天の鎖が巻き付く。
『んぐぅ!!むむむむぉお!!!』
「口を開けばやれ高学歴だのやれ自分は王だの。女性の方は性器呼ばわり…うざったいのでもう口は縫い合わせておきますね。それでは。」
そう言い、やるだけやった子ギルは後のことをジャンヌに任せた。
「いいんですか?まだ鬱憤は晴らせてないように見えますけど?」
「いえいえ、僕はここで高みの見物を。後はあの旧神柱っていう化け物が苦しみながら死んでくのを楽しみながら見ていますので。」
「そうですか。では遠慮なく。」
お姉ちゃんにだって恨みは沢山ある。
旧神柱もとい葛城恋がしてきたことは許せないし、何より弟くんに危害を加えたことは絶対に許さない。
今ならアヴェンジャーにでもなれそうな復讐の炎をその胸に灯し、縫い合わされた口の代わりにその目で殺意を訴える旧神柱を見上げた。
⚫
『クソ…クソ!!ふざけやがって!!マンコ風情がなんだ!!低学歴低収入の!低脳な底辺クソ野郎ガイジ共が俺様にたてつくんじゃねぇ!!!』
日本全国に現れた旧神柱。
歪な聖杯から送られる魔力が尽きぬ限りそれは無限に復活し続ける。
数、質、共に有利なはずの旧神柱こと葛城恋であったが今の状況を見ると、おかしかった。
『どうして俺様の思い通りにさせねぇんだ!!俺様は王だぞ!!偉いんだぞ!!選ばれし淫虐王、ソロモン=レン様なんだぞ!!!!』
こんなに有利な条件が揃っているというのに、劣勢に追い込まれているのは彼の方であった。
サーヴァントやマスター達は刈り続ける。容赦なしにその旧神柱を刈り続ける。
純粋に魔力の塊である彼は多くの聖晶片を残し消えていく。
彼はもう、ちょっと手強いただの金稼ぎの道具としか思われていなかった。
「お前が…ソロモン王を名乗るな!!!」
場所は変わり横須賀、三笠記念艦。
急いで本拠地へと戻った院長先生は三笠にいる全サーヴァントの指揮をとっていた。
「ふむ、あの清潔感の欠片もないモブおじなるものが魔術王を名乗るのはキャットも遺憾である。」
「だろ?」
「奇遇だなキャット。それには私も同感だ。」
全てのサーヴァントが協力し、1本、また1本と旧神柱は刈り取られていく。
ただ性欲に取り憑かれただけの男がソロモン王を名乗るというのは気に入らないしなにより
「三笠防衛戦の時の事もだ。たっぷり借りは返してやるともさ!!!」
大事な大事な三笠を沈没寸前までにしたことは忘れていないし、絶対に許すつもりはなかった。
「おんぎゃあ!!」
「うるせぇ!!」
甲板に降り立った使役獣に院長先生は容赦なく義手ロケットパンチをお見舞する。
「パリス!!撃てぇ!!」
「はい!撃ちます!!システムアポロン、起動!」
艦橋にいるパリスくんに指示を出す院長先生。
たくさんのアポロン様をバイポッド代わりにし、パリスくんは旧神柱に狙いを定める。
「トロイアスバレル、チェック!サンライトオーバー!3…2…1!」
見据える先は旧神柱の中央。そして狙い撃つはコア。
「ここに連れてきてくれた人達のため、僕を仲間に入れてくれた院長先生、子供たちのために…撃ちます!!『輝かしき終焉の一矢』!発射ぁぁーっ!!」
トリガーを引き、放たれた光の矢は一寸の狂いもなく旧神柱のコアを貫く。
さらに、
「そう…子供達の為だ!!子供達の為なら…私は貴様らを貫く必殺の矢となろう!!」
アタランテが駆け、地を蹴って大きく跳び上がる。
「『闇天蝕射』ァァーッ!!」
自身を矢と化し、真っ直ぐに突っ込んでいくアタランテ。
1本を貫通し、そしてまた1本と旧神柱を簡単に貫いていく。
子供達のためなら何が何でもやる。
バーサーカーとしてのアタランテならばこそできるものだった。
「さて、旧神柱は二人に任せるとして、だ。」
甲板に二人取り残されたキャットと院長先生。
振り向いた先には
「おんぎゃあ!!」
「うあっ、ああー!!」
「アタシとマスターはこうして、雑魚散らしに専念するのであった。」
たくさんの使役獣。
泣き叫ぶ顔、怒り狂う顔、殺したいほどに憎らしいあの顔が様々な表情を浮かべ、こちらを殺そうと近づいてくる。
「何、それでも大事な仕事だ。それに俺も、探偵さん達みたいに直接あいつの顔をぶん殴ってやりたかったんだ!」
踏み込み、鋼鉄の義手がスチームを排気口から吹き出しながら使役獣を殴りつけた。
「聞こえているか葛城恋!サーヴァントをモノ同然に扱い、犯し尽くした事!そして自らをソロモン王だと自称した事!そのツケは高くつくぞ!!」
⚫
時は同じく、横浜にて
「さぁどんどんぶちかましな!!弾数なんて気にするな!あるだけ全部あの魔神柱もどきにぷっぱなせ!!」
「アイアイサー!」
海ではハインド商会からなる連合艦隊により、旧神柱は駆逐されつつあった。
『うるせぇ…!ふざけやがって!!てめぇら全員ぶっ殺す!!!王の命令だ!!全員処刑してさらし首にしてやるよォ!!!』
「処刑が怖くて海賊なんてやってられっかバカヤロー!拙者なんか生前首切られてるっつーの!!それはさておきいくでござるいくでござる!!」
触手なぞものともせず、全方位レーザー程度撃たれる前に仕留める。
見苦しい顔にあるだけの大砲をおみまいし、旧神柱は海賊達に苦戦を強いられていた。
そして地上の方では…
「なんとしてもホテルは守ること!いい!?」
「了解!!」
オーシャンビヨンド支配人、真壁さんと孔明の指揮により旧神柱討伐が始まっていた。
「これが私達のステージ!ありがとうファンのみんな!見た目はアレだけど私たちのために集まってくれて!!」
ホテルの前には様々なエリザベートからなるオーシャンビヨンドの秘密兵器。『鮮血戦隊エリちゃんズ』が。
そしてホテルを囲うように設置されているいくつもの巨大なスピーカー。
そう、やることは一つだ。
「やりなさいエリちゃんズ!とっておきのナンバーを聞かせてあげなさい!!」
「支配人がそう言うのなら仕方がないわね!さぁ!とっておきを聞かせてアゲル!!」
孔明と共に完全防音のヘッドホンを装着し、真壁支配人は叫んだ。
息を吸い込む5人のエリザベート達。
普通のエリザベート、別霊基のハロウィン、ブレイブ。
そしてメカエリちゃん1号2号機は
「Laaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
一斉にシャウトした。
一騎一騎が重なり、放たれる五重奏の超音波。
そして周囲に設置された特殊なスピーカーはその破壊兵器の威力を数倍にも跳ね上がらせる。
その効果は、
『ぎゃあああああああああ!!!!』
『なんだこれ…っ!?あたまが…あだまがわれるぅぅう!?』
絶大。いやそれ以上だった。
あまりの音量に苦しみのたうつ旧神柱達。
周囲を飛んでいた使役獣もバタバタとカトンボのごとく落ちていく。
そして、
「あ、あだまがっ!?」
耐えきれなくなった旧神柱達は、なんと破裂した。
顔の部分。穴という穴から血を垂れ流し、そしてパァンと気持ちの良い音を立てて破裂したのだ。
「効果絶大ね…。」
「ああ…!」
もし、ダ・ヴィンチ特性のこのヘッドホンを付けていなければ味方すら殺していたであろう音波兵器。
その効果は絶大。まさに必殺兵器であり何十本もの旧神柱を殺し辺りを聖晶片で満たしていった。
『ふざけやがってぇ…!!』
しかし、生き残りはいた。
血涙を流しながらもかろうじて生きているそれはゆっくりを身体を持ち上げ、今まさにレーザーを撃とうとしている。
しかし、
「させない!!」
パカッパカッという子気味のいい蹄の音。
殺し損ねた旧神柱に迫るのは、
「百合の王冠に栄光あれ!!」
マリーアントワネットだ。
『ぐぎぃいいいい!!!!』
彼女と彼女のマスターが乗った水晶の馬。
それが走った跡には結晶ができ、旧神柱達を容赦なく貫き、砕け散らける。
「一幕はエリちゃんズ。そして第二幕がマリーの舞台だ!!」
馬の手綱を握るのはマスターの広海。
それに寄り添うように背中をぎゅっと抱きしめているのがマリーだ。
『うるせぇ…うるせぇうるせぇうるせぇ!』
『マリーアントワネットだぁ?俺様も知ってるぜ?あのクソみてーなワガママお姫様だろぉ?あのパンがなけりゃケーキを』
「マリーは違う!!!」
勝手な事を言う旧神柱に解釈違いを起こし、怒りのままに水晶を投げつける広海。
その水晶には魔力が込められており、彼の怒りを表すかのごとく爆発した。
「お前達が語れるほど…お前達がモノに出来るほど…マリーは簡単で安いサーヴァントじゃない!!」
『知らねぇのか?サーバントは無条件で王たる俺様のも』
「うるせぇ!!」
別の旧神柱にまた水晶を投げつける。
「あ、あなた…落ち着いて…!」
「…!ごめん、マリー。あんな気持ち悪い魔神柱に奪われると思うと…つい頭に血が上って…。」
と、なんとか広海をなだめるマリー。
彼女の心配そうな顔を見て、自分は後先考えずとんでもない事をしてしまったと後悔するのだが
「その気持ち、分かるの。私だってあなたを殺そうとする魔神柱みたいなものは許せないわ…!」
「…!」
その意見は、一致していた。
「マリー…俺もだ。俺もマリーをあんなやつに取られたくない。」
「なら頑張りましょう…ところで、あなた…。」
「…?」
二人で決意をかためたが、ここでマリーが話を変えてきた。
戦場のど真ん中なのに。
「探偵さんの町で、サーヴァントとマスターの結婚式が開かれたのは知ってる?」
「ああ知ってるよ。確か探偵さんの友達の結婚式で…っ!」
そこで広海は、気が付いた。
「マリー…?」
「ねぇあなた…この戦いが終わったら…私達も式を」
「わかった!!!!」
「えぇ!?」
手綱をひっぱり、馬のいななきでその声はかき消された。
「あ、あなた!?私まだちゃんと言って…」
「分かってる!けどそれは今言うことじゃない!!それにプロポーズは俺から言わせて欲しい!!」
「そんな…私だって自分からプロポーズを…!」
旧神柱の生き残りはまだいる。
しかしそんなことそっちのけ。
水晶で容赦なく蹴散らしながら2人はいつもの様にいちゃつき始めるのだった。
『ふざけんなてめぇら!!俺様そっちのけで』
「ごめんあそばせ!!!」
『ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!』
「何してんのかしら…あの二人。」
「通常運転と言うかなんと言うか…いついかなる時もブレないな、あの二人は。」
と、乗馬して結婚話でイチャつきながら周囲の旧神柱を一方的に屠る広海とマリーを見て、支配人と孔明は呆れるのであった。
⚫
「ひひひひははははは!!!!そう簡単に通すもんかよォ!!!」
「ちっ…。」
さて場面は戻り東京。
そこで俺達は苦戦を強いられていた。
「俺っちは化身の一人!ジャック・オ・ランタン!」
「余は化身が1つ!無貌のスフィンクス!」
「我は化身、名は悪心影…かの第六天魔王なり…!」
結界を形成する三つの旧神柱。
最後の一本なのだがやはりあいつはそこまで馬鹿ではなかった。
「気配が3つ…あいつ、1つの旧神柱に3つの化身を混ぜ合わせているんだ…!」
「マジかよ…!!」
あの1本の中に強大な魂が三つ入り込んでいる。
大和はそう言った。
確かに話す度口調はコロコロ変わるし、多重人格みたいだなとは思ったがそういう事か。
しかし、旧神柱にある顔は奴のままだ。
「何とかできねーのかよおっきー!!」
「難しい!!」
「即答だなおめーはよぉ!!」
使役獣の群れ、放たれる圧倒的密度のレーザー。
それらに集中していては触手によって叩き落とされる。
近づくことは不可能だ。
「…”アレ”を使うか。」
「…アレ?」
このままでは埒が明かないと察した大和が、ふと呟く。
てかなんだこいつ…まだ奥の手隠し持ってんの?
「誠、刑部姫。」
「なんだよ。時間稼ぎか?」
葛城恋の時のように切り札を発動するための時間稼ぎを頼まれるのだろうか。
そう思ったが、大和は首を横に振った。
「違う。ここは俺と武蔵に任せ、お前達は先に言って旧神柱の親玉を叩け。」
「…は?」
こいつは何を言ってるんだ。
ただでさえ不利なのに、これ以上人数を減らしたらどうなるのかは俺でも分かるし、こいつも理解しているはずだ。
それとも
「策があるのか?」
「ああ…あるともさ。」
2人になっても倒しきれる”策”がある。
やはりというかなんというか、確かに大和はそうだと頷いた。
「旧神柱の事も斬ってだいぶ分かってきた。俺の倒せない相手じゃない。あれは人間でも充分に撃破可能だ。」
それはお前に限る話だろ。
「大丈夫。なんだったら私達の心配するより早く倒すこと考えて頂戴。」
「でも武蔵ちゃんは…!」
「大丈夫って言ってるでしょ。私も大和くんもそう簡単には死にません。」
そういい、二人は戦う意志とは反して武器を鞘に収めた。
「それに、”援軍”もきてくれたみたいですし。」
「えっ…。」
その時、
旧神柱の一柱目掛け高速で何かが落下した。
「今度はなんだよ!!」
舞い上がる土煙。
旧神柱は爆散し、そこから出てきたのは
「ペガサス、あなたが重くて仕方がなかったみたいね。」
「そ、それは本当に申し訳ないと思っています…。」
「まぁペガサスがどう思ってるのかなんて私には分からないのだけれど…。」
見知った影。なんか聞いたことのあるような棘のある一方的なやりとり。
間違いない。やってきたのは
「陸じゃん!種火の島の!」
「…!」
ぜえぜえと肩で息をしていた陸が顔を上げ、俺に手を挙げて会釈した。
「この人に頼まれて助けに来た。俺なんかが来ても頼りないかもしれないけど。」
「この人…?」
陸の隣には確かに誰かがいた。
あ、知らない。誰こいつ。
「陸だけじゃなく零も来てくれたのか…!」
そしたら大和が顔見知りの様子。
「知り合い?」
「ああ、天王寺 零だ。彼とは以前共闘したことがあってな。」
「代表との戦いはテレビで見てた。それにこうして全国各地で魔神柱もどきが暴れ回ってる中、きっと大和も大暴れしているんじゃないかと思ってた。」
「…大体、当たってる。」
「データの解析でもう分かってる。コイツを倒して、この先にいる親玉を叩きに行くんだろ。」
とまぁ、俺達が葛城財団に殴り込みをかけ、熾烈を極めまくった戦いをしていたのはキャスター陣営を通じてテレビに放送済み。
それを見ていたこいつは助けにやってきたとの事だ。
一見頼りにならなさそうな、陸を連れて。
『なんだぁ?助っ人に一人デブが紛れ込んでるなぁ?おいおい気でも狂ったかよゴミマスター共。』
「ふざけるなよ!!どの魔神柱も皆して同じこと言いやがって!!」
旧神柱の一柱が陸を見下ろし、馬鹿にしたような笑みを浮かべヘラヘラと笑う。
それに陸がキレるのも…無理ねーよな。
デブが自分のこと棚に上げてデブってバカにしてるんだもん。
『知らねぇなら教えてやろうか?デブってのはな、役立たずなんだよ。ゴミでカスで自分のことしか考えねぇ。そのくせ面倒くさがりで他人任せ。自己中心的なウンコ野郎だ。』
まんまお前じゃねーかよ。
そういうのをブーメランって言うんだぞ。
『どうだ!?図星だろ!?ぶっはははは!!悔しい顔したって無駄だぜ!あーあ!論破ってのは気持ちがいいな…………
…ぁ?』
旧神柱は気付くことが出来なかった。
陸に対してボロクソに言ったその時点で、既に自分の根元が”石化”しだしている事に。
『な、なんだこれ!?身体が!!俺様の身体が!?』
「他人に自分のマスターをバカにされて、気持ちのいいものでは無いでしょう?」
『…!?』
石化の原因、それは陸のサーヴァントのステンノだ。
いつもの涼しげな表情ではあるものの、そこには僅かながらに怒りも感じ取ることが出来た。
「1つ訂正しておくとしたら、そうね…確かにマスターは太っているけれども、あなたの言うデブとは全く違うの。言うなれば…ひと味もふた味も違うデブ…?って言うのかしら?」
結局デブじゃん。
というのは言わないでおく。
「駄妹。」
「はっ、はい…。」
「やりなさい。」
と、妹を顎で使い、メドゥーサにトドメを刺させるステンノ様。
てかあのメドゥーサあれだよね?一緒にやってきた天王寺とかいう奴のサーヴァントだよね?
「いい?騎英の手綱で一思いにやるのよ?この世に一片の欠片も残さないで、それでじわじわと苦しみを与えながらで。」
「注文が多過ぎます…それに一思いにじわじわ苦しめるのと言うのは…。」
「何?もしかして私に反抗?」
「いえ、やります。やらせてください。」
可哀想な妹だなぁ!
「…さて。石化の後始末はメドゥーサに任せるとしてだ。」
完全に石と化した旧神柱。
そして天王寺とか言ったマスターはそれよりも、あいつを見上げる。
『てめぇら!よくも俺っち達を蚊帳の外扱いしてくれたな!!』
「こいつを…殺ればいいんだな。」
結界を形成している旧神柱の1つ、
3つの魂が1つになった超強力な旧神柱だ。
「ジャック・オ・ランタン、無貌のスフィンクス、そして悪心影と言ってたな。その3つが合わさって出来ている。ハイ・サーヴァントみたいなものだろうか。」
「…?」
その3つの魂からなっていることを大和が天王寺に伝える。
すると何か思い出したかのような顔をし、大和に尋ねた。
「他には?ここに来るまでに2つの旧神柱と対峙したはずだ。」
「確か…チクタクマンと赤の女王…。」
「…なんだって?まさかこの魔神柱の正体は…いや、葛城財団の代表は…裏で何と繋がっている…!?」
ボス格の旧神柱達に付けられたまるで意味不明な名前。
持ち前の推理力を持ってしても俺にはサッパリだったがどうやらこの天王寺とかいう男には、思い当たるものがあるそうだ。
しかし、
『余の前でひれ伏すはおろか話を続けるとは…実に不敬!!死ぬがよい!!』
「!!」
旧神柱の顔が口を開き、大和達にビームを放つ。
ともかく話したいことや聞きたいことはあるが今はこいつの始末が先だ。
「この程度…!」
「遅い!!」
しかし大和と天王寺はそんなビームもなんのその。
素早い身のこなしで避け、それどころか接近して反撃に持ち込もうとしているではないか。
あ!!こいつもあれだな!!逸般人だな!?
『無駄!!無意味!!余に一太刀浴びせるなどいかなる名刀であろうとも…!』
「出来るさ。」
懐に入り込んだ大和。
しかしそこには触手がまちかまえ、叩き潰されそうだと思ったその瞬間、
「消えた!?」
大和が、消えた。
紅い雷のような残像を残し、完全にそこから消え去った。
『小癪小癪小癪!!どこだ!!紅い刀の男はどこだ!?』
「さぁ、どこだろうな!」
残された天王寺は触手やビームをすれすれで避け、カウンターで矢を撃ち込んでいる。
大和は見当たらない。
陸のところにも、ステンノやメドゥーサのところにも、
どこにもいない。
いや、
『貴様…!いつの間に!?』
旧神柱の目の前にいた。
しかしいつもの彼とは違う所がひとつ、
両目から紅い稲妻みたいなものが迸っており、
それが素早く動く度に尾を引いていた。
「無様!!無策!!余に近づいたところで何が出来る!?そのようなモノで余を断つことは」
「出来る。いや…”もう出来たさ”」
刀を鞘に収めると同時に、旧神柱が細切れになる。
一呼吸、その一瞬。
大和はそんな僅かな時間で旧神柱の根元からてっぺんまでを満遍なく切り刻んだのだ。
「あれは…!」
「説明しましょう。あれこそが大和くんの本当の強さ。本人はあの状態を”リミッター解除”と呼んでいるわ。」
と、一体全体なんだか分からない俺とおっきーに武蔵が嬉々として解説を始める。
「リミッター…解除?」
「そう。普段無意識にかけてるリミッターを外して、溜め込んでいた魔力を一気に解放。そうなったらもう大和くんは、サーヴァントだって殺せる。」
「マジ?」
「マジ。マジも大マジ。」
武蔵のて身近な説明が終わり、切り刻まれた旧神柱の残骸は聖晶片となり、辺り一帯に降り注ぐ。
「…ッ!!」
着地した大和は休む暇もなく鞘代わりのメイスを振り上げ、近くにいた旧神柱にも痛恨の一撃を加えていく。
身体はちぎれ、さらに大和は手を突っ込んで奴のコアであろう球体をもぎとった。
「まだだ…まだ遅い…!」
コアを握りつぶし、次の旧神柱に襲いかかる。
その様子はまさに悪魔。
紅い目を光らせ、旧神柱を次から次へと屠る悪魔だ。
「まだそんな隠し球があったなんてな…!」
と、助っ人の天王寺さんもオドロキのようだ。
「それじゃあ私達も。」
「ええ、ちょっとしたお手伝いを」
メドゥーサは己の目を封じているバイザー、『自己封印・暗黒神殿』を外し、姉であるステンノと共に旧神柱達を睨みつけた。
そう、アレだ。
『か、身体が…!!』
二騎のサーヴァントからなる石化攻撃。
対魔力のステータスはそこまで高くないのか、睨まれた旧神柱達は次々と石化していった。
「それでは、レイ。」
「マスター、後始末はよろしくね。」
サーヴァントの後、とどめを刺すのはもちろんマスター。
逸般人化に片足どころか頭突っ込んでそうな二人は石になって無力化された旧神柱達を粉々に砕いていく。
…これやばくない?
こいつらだけで充分なんじゃない?
「…。」
短時間で一掃された旧神柱達。
しかし、それはまた復活する。
『で、あるか。ならば宜しい。我が直々にお前達を屠って見せよう!!』
あの複合旧神柱もだ。
「零、陸。20分だ。」
「20分…?」
「ああ、今の状態はそこまでしかもたない。だから20分間、全力を尽くしてこいつらを1本残らず斬り捨てる。」
目配せをし、零と陸は頷く。
「どこまでやれるか分からないけど…試してやる!」
「ええ、頑張って頂戴。」
腰にはあの時暮馬からもらったマスタードライバーを付けた陸。
「対処法も完璧だ。やつらの対抗策も全部聞いてる。やるぞメドゥーサ。」
「ええ、どのような状況であろうと、私はレイにどこまでもついていきますよ。」
天王寺とメドゥーサもまた、数多の旧神柱を目の前にして覚悟を決めたようだ。
そして、
「じゃあ私も本気、出しちゃいますか!!」
第三再臨へと着替え、かつてアルトリアオルタと戦った時のように目が紅く染まった武蔵。
地を蹴って飛び上がり、空中で身をひねるとマスターである大和の隣へと着地した。
「それじゃあ大和くん。遠慮なく暴れてね。副作用のお世話は私が喜んでするから!!」
「ああ、そのつもりだ…!」
おびただしい数の旧神柱。
そして、何事も無かったかのように復活する複合旧神柱。
あいつの魔力は無限大ではないにしろ、聖杯を源として使ってるからには無限に近い魔力が供給されつつある。
つまりは、
「行け!誠!」
「分かってる。20分以内にケリつけてくればいいんだろ!!」
舞、葵、大和。
この3人が三柱の旧神柱の相手をしている内に、
親玉もとい聖杯を所持しているあいつを倒すしかない。
「行くぜ。おっきー!!」
「うん!」
俺と、おっきーで。
後書き
⚫お姉ちゃん(ジャンヌ)
毎度おなじみ弟くんの姉。
アルテマさん作『崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話』からのコラボ出演
全員が協力して戦っているという事なので終局特異点みたいなことをやらせたかった。
でも結局ほとんど弟くんのことばかりになっちゃったね。しょうがないね。
なお、オーナーの子ギルは旧神柱もとい葛城恋に対して尋常ではない殺意を持っており次々とへし折っているよ。
この前シルク・ドゥ・ルカン滅茶苦茶にしたからね。
⚫タマモキャット
サイキライカさん作『崩壊世界でタマモキャットと懇ろになった件について』からのコラボ出演
片手片足が義手義足になってるけどなんとかうまくやってる院長先生。
この人も逸般人化始まっちゃってるけど大丈夫かな…?
ともかくとして、この院長先生は作品内において大人気ないけどちゃんとしたいい大人として書かせていただきました。
あー!それにしてもサイキライカさんこの小説の存在に気付いてくれないかなー!!
コラボの約束約1年待たせた挙句あっちから見ればハーメルンから逃げたんだもん。謝らないとダメでしょ。
いつかちゃんと謝りたいね…。
⚫マリー
Nibiiroさん作『崩壊した世界でマリーと夫婦性活する』からのコラボ出演
いいよねこの2人。
ところかまわずイチャイチャし、挙句の果てには戦いの途中でプロポーズまでしだす崩壊世界シリーズ一キレイなコンビ。
確かあちらでは…まだちゃんとした式挙げてなかったよね?
ともかく今回は振り切らせていただきました。
⚫ドレイク船長
ウルスさん作『崩壊世界でフランシス・ドレイクを服従させてみた』からのコラボ出演。
タクシーとかいうな。ただクソ作者がうまく扱いきれなかっただけだ!
ドレイク船長が別に好きじゃないわけじゃないからね!
⚫ステンノ
マンションの一室さん作『儚き女神(上)と伴に崩壊世界で…』からのコラボ出演。
いわずもがなかっこいいDEBU
こちらのコラボ回では主人公みたいな対偶でしたね。
そしてアイドルイベントェ…
どうしてエウリュアレはあってステンノ様には霊衣がないのだ…!
双子の女神アイドルユニットとかそういうので出しても良かっただろーがよ!!えぇ!?
と、今回はコラボした事のある方々を中心に書いていきました。
次回でついに決着…すると思うので楽しみに待っててね。
それでは、次もお楽しみに。
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