崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?
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最終章『ふたりで…』
一人の探偵N/相棒よ永遠に
一瞬だった。
「おっきー…?」
おっきーは、刑部姫は消えた。
「現実を受け止めるといい。君の契約した悪魔は死んだ。"主人公の手"によって。」
「…。」
目の前の真実が受け入れられない。
おっきーが死んだ?いや、ついさっきまでここにいたんだ。
それが…ほんの一瞬で、
いや、それよりもだ。
「お前…あの時あいつと一緒に死んだはずじゃ…!」
神代正義という男が、ここにいること自体がおかしいんだ。
「ああ、確かに君の言う通りだ。けどね、死ぬ間際僕は化け物と化した代表に吸収され、彼の身体の一部となった。」
「なんだって…!?」
神代正義はメアリー・スーの擬似サーヴァントということを暴かれ、主人公の座から下ろされ見るも無惨な姿となり葛城恋と共にビルから落ちて死んだ。
それは確かだった。
だが、彼は運がいいのか、それともまだ主人公であり続けていたからなのか、
生きていた。
「そして代表が死んだ時、僕は自我を取り戻し消滅から逃れた。いや、代表から吐き出された、と言った方が正しいかな?」
「説明はいい…!今からお前を斬る…!!」
各々が武器をかまえる。
あっちは一人。こちらには何人ものマスターとサーヴァントがいる。
正義にとって圧倒的不利な状況ではあるが、彼は
「ははっ、すまないね。今僕がするべき事は君達を倒すことじゃない。」
スタスタと歩き、奴は膝を着いて呆然とする俺の前までやってくると、その胸ぐらを掴んで無理矢理立ち上がらせた。
「…!」
「一誠くん。僕は、キミを救いに来たんだ。」
「…!待ちなさい!!」
何かを察知し、女神様が槍をかまえて動き出す。
しかし、突いた槍は正義を貫くことなく、何も無い場所に槍を振るだけに終わった。
「まさか…テレポート?」
「はい。魔力反応は完全に消失…神代正義という男は消えました…探偵さんと共に。」
紫式部が魔力の行方を探すもどこにも見つからない。
そう、神代正義の今の目的はここにいる契約者、そして悪魔を殺すことではない。
ここで無策に挑めば返り討ちにあい、袋だたきにされることは馬鹿でも分かること。
だから彼は"生き残ること"を目的とした。
近くにいた刑部姫を吸収し、サーヴァントのエネルギーを得てから。
「あんのクソ教祖…まだ生きてたのね…!」
「そんなことよりマルタ、探偵さんを探さないとダメだ。」
何故かは知らないが、彼は最後に探偵を連れ消えた。
場所は分からない。どこに行くかなんて手がかりもアテもない。
大人数いるものの、全員ここで立ち尽くすしか無かった。
しかし、
「…。」
「大和くん…?」
武蔵の肩を借りていた大和が一人で立ち上がり、抜いた刀を逆手に持つ。
「…探知できた。僅かだが、あの正義の魔力を感じ取った。」
「ホントに!?じゃあ…」
「いや、今から全員で行ったとしても間に合わない。向かってる途中で誠は奴に殺される。」
じゃあどうしろって言うんだ。
それはここにいる全員が聞きたいことだが、大和はそれを行動で示した。
「もう時間が無い。今の俺に出来るのは…この事くらいだ!!」
槍投げのようなフォームをとり、そして体全体には赤い稲妻が迸る。
そして彼は走り出すと勢いをそのままに
「届けッ!!」
自らの刀を、思い切りぶん投げた。
「!!」
全員が、何をしたのか分からなかった。
彼はどこかへ自分の得物を投げた。
そして、
「これでいい…追跡は、投げた刀の魔力を追えばいい。」
全ての力を使い切ったのだろう。
魔力なんて雀の涙も残っちゃいない大和はガクリと膝をつき、
「…武蔵、言った通りあとは頼んだ。」
振り返り、縮みゆく身体でそう言いながら力無く倒れた。
⚫
「ぐあっ!?」
一瞬の浮遊感の後、俺は地面に投げ出された。
「こ、ここは…どこだよ…!」
背中の痛みに顔をしかめながら上半身を起こし、辺りを見渡す。
そこに広がるのは
「…!!」
見た事のある建物が崩れ廃墟になった場所。
しかし1番目を引いたのは、そこにあるおびただしい数の、墓。
盛り上がった土に紐と板で作られた簡素な十字架が立てられた質素な墓。
それが、いくつも、何十も、下手すりゃ何百とずらりと並んでいた。
「一誠くん、それらが何か分かるかい?」
少し離れたところに、トンとやつが着地する。
「墓だろ…それがどうしたよ。」
「ここは学校。僕らの母校。そして、供養されているのはこの崩壊世界にて亡くなった僕の友達だよ。」
「…!」
じゃあこの墓は全部…
「固い絆で結ばれたクラスメイト、僕を慕ってくれた後輩。僕に未来を託してくれた先輩方、僕らのために教鞭を振るってくれた教師達…皆、この学校で親しくなれた"友達"だ。」
こいつがたてたのか…?
「悲しかったさ。ついさっきまで隣にいた友達が、次の瞬間頭を食われ事切れている。この世界は、あまりにも残酷だ。いとも簡単に、築き上げた僕らの絆を奪っていく。実はその気持ちをキミにも分かってもらいたくて、さっきあんなことをしたんだ。」
隣にいた大切な人が一瞬で命を奪われる。
確かにその痛みは知った。知らされた。でも…
「だからって…おっきーを殺すこたぁねーだろうがよ!!」
DTマグナムを抜き、やつめがけ発砲する。
しかし正義にはまだ力が残っている。弾丸ごとき簡単に避けられてしまう。
そして近付かれ。
「学生が、こんな玩具を持っていてはダメだ。」
至近距離まで接近した正義はDTマグナムの銃身を掴むと、そのまま握り潰した。
「…!」
「教えてあげるよ。僕の友達を最も奪ったもの…それは紛うことなき"悪魔"だ。」
「それは…てめぇらがサーヴァントを舐め過ぎた自業自得じゃねーのかよ。」
「いいや違う。悪魔達は残忍で狡猾なやり口で人間の命を奪う。僕はそれが許せなかった。いや、絆を守れなかった己の弱さも許せなかった。」
使い物にならなくなった銃を取り上げられ、捨てられる。
「そうして僕は悪魔に勝つための宗教を作り、打倒しようと皆で協力した。それが」
「人間同盟だろ。クッソうぜぇ似非宗教組織がよ。」
「ああ、でも、それだけじゃ悪魔に勝つということに遠く及ばない。覚えているかな?キミが悪魔と協力して支部を潰し、僕はその時瀕死の重傷を負ったことを。」
あんなこと忘れるわけがない。
ブラダマンテと燕青が自分のモノではないとわかり、恥をかいた上にマルタさんにぶん殴られたことだ。
「その時、治してもらったのが葛城財団代表、葛城恋だ。その時は感謝してもしきれなかったけど、今思えば、僕はあくまで道具として利用されていたに過ぎなかった。」
「…。」
ゆっくりと歩き出し、俺の周りを円を描くようにしながら奴は話を続ける。
「代表の手術によりサーヴァントと同等…いや、それ以上の力を得た僕、ここで僕は代表に脳も弄られてしまってね。実験用のモルモット兼、従順な兵士へと改造させられていたんだ。」
「だから…何が言いてぇんだよ…!」
おかしいとは思ってはいたよ。
アルトリアオルタの件で再会を果たした時、気色悪いくらいにあのくそデブに忠誠誓ってたからな。
おそらくだがこいつ自身、葛城恋のやってることに難色を示したんだろう。
悪魔を浄化するって聞こえはいいが、実質やってたことはレイプだからな。
だから葛城恋は物事を円滑に進めるため、そして完璧な兵士になってもらうため奴の脳もいじった。
自分を神格化し、そして霊基書換の行為も神聖な儀式だとクソみてーな常識を植え付けた。
「しかしその点についてはお礼を言わなきゃいけないね。ありがとう、一誠くん。」
「…?」
「僕は化け物となった代表に飲み込まれ、彼の死ぬ間際脱出した。だが、そこで彼の施した洗脳も解けたんだ。それは間違いなく、代表を倒した君のおかげさ。まぁ今まで吸収した悪魔達の力も一緒に抜けてしまったけど、それはそれさ。」
俺の目の前を何かが通り過ぎる。
黒く、羽ばたく何か。
それはよく見ると、蝙蝠だった。
折り紙で出来た、あの蝙蝠だった。
「どうだい?よく出来てるだろう?君の契約した悪魔を吸収したからね。使えるのさ。」
「…!」
ちょうど後ろにいる正義。
振り向けば、手のひらに折紙蝙蝠を乗せ、周囲には同じように折り紙で作られた動物達がいる。
ここで俺は、一気に怒りのゲージが吹っ切れた。
「以前吸収した悪魔達の力は消えてしまったけど、今はこうして力を蓄え、反撃の時を待つのさ、新しい世界を作るための主人公として、そして…君の悪魔を足がかりとしてね!」
「お前が…てめぇごときが…!!」
近くにあった墓から十字架を引っこ抜き、奴に向かって走る。
「おっきーの真似事をすん」
「遅い。」
十字架でやつの頬をひっぱたくよりも先に、鳩尾に蹴りが入り俺は思い切り吹っ飛ばされる。
かつて学校の一部であった瓦礫にぶつかり、思い切り咳き込むも次の瞬間には正義が俺の胸ぐらを掴み、一本背負いの要領で俺を地面に叩きつけた。
「舐めない方がいい。洗脳や副作用が無くなったとはいえ、僕にはまだ"主人公"としての力が残っている。君のような一般人に、僕は倒せない、よッ!」
「ぐうっ!!」
とどめに蹴飛ばされ、土煙を巻き上げながら俺は地面を転がる。
かろうじて立ち上がろうとするが、次に目の前に見えたのは
「覚えているかな?この蝙蝠で、君の契約した悪魔が放った蝙蝠で君は僕から多くの友達を奪った。」
「…!」
正義の周囲を飛び交う、何十もの蝙蝠。
「君もまた、同じ苦しみを味わうといい!!そして死をもって、君を救済しよう!!」
奴が手のひらを突き出すと同時に、蝙蝠も動き出す。
ダメだ。逃げ切れる自身もない。ここからどうにかして勝つ見込みもない。
負けだ。いや、おっきーがやつに吸収された時点で、俺は負けてる。
あっちが主人公、なら、俺はさしずめ悪人だろう。
しかも飛びっきり小物のな。
だったら最期はそれらしく、負けゼリフでも叫んで死んでやろうか。
そう、思った時だった。
「…?」
折り紙蝙蝠が、襲ってこない。
それどころか蝙蝠ではやつの所へと帰っていき
「なっ…これは!?」
本来の持ち主に牙を剥いた。
「くそっ!これは!これは一体!一誠くん!なにをし」
何をした!?
そう聞こうとしたがやつの言葉は無理矢理中断させられる。
周囲にいた折り紙の1つ、馬に後ろ足で蹴り飛ばされ吹き飛んだからだ。
そして、当然だが俺は
「何もしてねーよ。何が起きてんだこれ…!」
何もしちゃいない。
さらに蛇が正義を拘束し、動けないところを数多の折り紙達が攻撃を加える。
何が起きているのかわからないまま立ち尽くしていたが…
「…。」
ふと、隣を見る。
そこにはもちろん誰もいない。
もう…いない。
だが
「いるんだな…そこに…!」
姿は見えない。
けど…そこにいることは感じてる。
俺の隣に…確かにそこに…
「やれって…言ってるんだよな…相棒!」
俺の隣に…立っているんだ!!
「うおおおおおおーッ!!!!!」
走る。
頭で考えるよりも先に、身体が動いていた。
「正義イイイイィィィィーッ!!!!!」
「!!」
蛇の拘束を力づくで解除し、破り捨てた正義。
俺の接近に気付き、ハッとした奴の間抜け面目掛け俺は
「ッラァ!!」
渾身のパンチを繰り出す。
「…この…ふざけるなァ!!」
倒れそうになるも踏ん張り、仰け反った上半身を強引に起こして正義も拳を振り上げる。
擬似サーヴァントにより通常の人間の何倍も強化された拳。
パワーもスピードも段違い、そんな重い一撃をくらえばひとたまりもないのは分かってる。
けど、
「うるせぇ!!」
「!?」
今は恐れより怒りの方が勝ってる。
引くことよりも攻め続けた。
相手の攻撃が来るよりも早く、1発、もう1発と顔面にパンチをおみまいしてやる。
「まだだ!まだだァ!こんなもんでおっきーはなァ!!」
「悪魔を殺した程度で…そこまで怒ることはないだろう!君は!!」
カウンター。
俺の拳が届く前に、やつの拳が鳩尾に叩き込まれる。
だが、
「…?」
「う、うそだ…これは…僕はサーヴァントの力を吸収しパワーアップした!なのに…!」
全く、痛くはなかった。
そうして俺はにんまりと笑い
「どうやら取り込んだサーヴァントが、”大ハズレ”だったみてぇだ、なァッ!!」
「ぐぼぁあ!?」
お返しに渾身のボディブローをかます。
唾と空気を吐き、正義は数歩後ずさる。
「単におっきーがサーヴァントとしてクソザコなのか、それともてめぇの中でおっきーが死ぬ気で力を抑えていてくれてんのか知らねぇが、どうやらてめぇはおっきーを取り込んだせいでひどく弱体化してる。違うか?」
「この…程度で…!」
「単に俺に屈辱を味あわせてやろうと思ったかもしれねーけどさ。残念だったな。もっと他にいいサーヴァントいただろうによ!!」
地面から折紙の蛇が現れた、正義の足に巻き付き拘束する。
身動きの取れない正義、そして俺は
「この…クソ野郎!!」
一方的に殴りまくる。
拳には血が滲んでいるが、そんなこと気にするもんか。
「くそ迷惑な宗教作りやがって!何回も!何回も俺達の目の前に現れやがって!死ね!!死にやがれ!!てかあんとき素直に死んでりゃ!こんなことにはならなかったんだ、よォッ!!!」
攻撃を防ごうとするも、そこに蝙蝠が一斉に群がる。
分かる。あいつは…おっきーが俺に何を支持しようとしているのか分かる!
「爆発しろ!!」
思い切り地面を蹴り、大きく後方へ飛ぶ。
うまく着地できず背中から地面に転び、次の瞬間蝙蝠達は全てが炸裂した。
「へへ…どうだ…!」
爆風による煙が晴れ、そこには上半身がボロボロになった正義。
だがまだ2本の足できちんと立てている辺り、ロクにダメージは通っちゃいない。
だが、ここでまだ諦めるほど俺の怒りはまだ冷めちゃいない!
さぁもう1発殴ってやる!
と思ったその時だ。
「!!」
後ろから音を裂き、超高速で迫ってきた何かを間一髪でかわす。
それは俺の顔の横スレスレを通り過ぎると、その紅いものは正義の足に突き刺さった。
紅いものとは…そう。
「これは…なんだ…!?」
「あれは大和の!?」
大和の持つ、あの紅い刀であった。
ピリピリと紅い電気が迸り、やつの足と地面を縫い付けている。
「ふん…援護のつもりかもしれないが…こんな攻撃でやられるほど僕は甘くない…!!」
深々と刺さった刀を抜き、自分には必要ないとでも言いたげに投げ捨てる。
大和の援護…いや違う。
あいつは援護するためにこの刀を投げてくれたんじゃない。
答えは…!
「こういうこと…だろ!!」
投げ捨てられた刀を拾い上げ、走る。
手に取った瞬間、両手に静電気が走ったような感覚になるがそんなの気にしてられない。
「くらいやがれえぇぇぇーッ!!!!!!」
まっすぐにかまえ、正義の胴体めがけ渾身の力を込めて、突く。
「!!」
ずぶずぶと入り込む刀。
やがて背中からつきだし、正義は盛大に吐血する。
「そん、な…ぼくは…しゅじん…こうだ、ぞ…。」
「王になりてぇとか主人公になりてぇとか!いちいちうるせー奴らだな!」
もっと深々と突き上げ、さらに俺は
「そういうのは!!なるべくしてなるもんじゃ…ねーんだよ!!」
「!!」
踏ん張り、力を込め、もっと深く突き刺す。
まだ大和の魔力が刀に残留していたのだろうか、やつの体内に紅い電流が溢れ出した。
「あっ!ああああああ!!!これは!!これはァ!!力が!力が抜けていく!!やめろ!!やめるんだ一誠くん!!!このままでは僕が主人公ですらなくなってしまう!やめるんだ!!」
「おい正義…人に頼み事すんならよ…まずは…!!」
刃の向きを変え、そのまま俺は奴を横真っ二つに斬り裂いた。
「…人の名前をきちんと覚えてからにしやがれ…!」
「…。」
最後に思い切りバチィッと雷の弾けた音がし、正義はついに倒れた。
「…こ…ひゅー…ひゅー…。」
「…。」
もはや虫の息状態の彼を、見下ろす。
トドメを刺してやろうかと思ったが、もう手に力が入らない。
刀を握る力もなく、その場に大和の刀を落としてしまった。
「さっきも言ったけどよ。主人公とかってそういうモンはなりたいからなるもんじゃねーんだよ。」
「…じゃあ…どう、すれば…。」
「決まってんだろ。いつの間にか周りが決めんだよ。アンタは人の上に立つに相応しい。アンタこそ俺達の主人公だ。ってな。」
「…。」
と、かっこつけて言ってみるが実は俺も身体が限界超えてる。
その場に座り込み、奴を倒せたという余韻に浸るも、
「もう…戻ってこねーんだな。」
どれだけ頑張ったとしても、やつを倒したとしても、どれだけ願ったとしても、
「…おっきー。」
彼女はもう、帰っては来ない。
「…なぁ、おっきー…!」
戦いの時、気配は感じ取れた。
けどもう、その気配はどこにもない。もう俺の隣に、彼女はいない。
「どうして…どうしていなくなっちまったんだよぉ…!!おい!!」
悔しさのあまり地面に拳を叩きつけるも、目に入ったのは令呪の消えた手の甲。
悔しさは紛れるどころか、余計にその気持ちは強くなって心の中で渦巻く。
彼女はもう…帰ってこない。
「…。」
涙が止まらない。
こらえても、上を向いても、とめどなく涙は溢れてくる。
「いたぞ!あそこだ!!」
遠くから声が聞こえる。
皆だ。皆がここにやっと来たんだ。
「おい!しっかりしろ!!」
野中さんや森永が、俺の肩を持って立ち上がらせる。
「何があった!?説明できるか!?」
「いや…ちょっと待ってよ。」
肩を叩き、呆然とした俺に大声で話しかける野中さん。
しかしここで、葵が止めに入る。
「それ…。」
「探偵さん…令呪が…!」
上半身と下半身、真っ二つに別れた正義の死体が転がっている。だから俺が勝ったということは全員が理解出来ていた。
しかし、葵の指さした先、そこにあるのは俺の手の甲。
令呪が掠れて消えた、手の甲。
それを見て全員が静まり返る。
確かに全員、おっきーが胸を貫かれ絶命したのは見ていた。
けど、どこかで思っていたのかもしれない。
実は、生きているんじゃないかと。
なんとかなるんじゃないかと。
しかし現実はこうだ。
おっきーは実は生きていましたなんてご都合展開はないし、助かったりもしてない。
俺は、失った。
勝利と引き換えに、大切なモノを失ったんだ。
「…。」
目も当てられない、いつの間にかそこにいた女神はそう思ったんだろう。
彼女はそのまま踵を返すと、どこかへと消え去った。
「…。」
空を見上げる。
憎らしいくらいに、雲ひとつない綺麗な空。
その空は今の俺からしてみれば、悲しいという感情しか湧いてこなかった。
「どうして…どうしてだよ…。一緒に夢を叶えようって…!!2人で約束したじゃねーかよ!!」
涙が止まらない。
抑えていた感情も漏れ出てくる。
どれだけ叫んでも、おっきーは帰ってこない。
なのに俺は空に向かって叫び続けた。
「ふざけんな…ふざけんなよ!!この大バカ野郎ーーーーーーーッ!!!!」
この崩壊世界にて、今日という日は葛城財団を倒せた日として誰もが喜ぶ日となっただろう。
ただ1人、俺という人間を除いて、という話だが。
後書き
次回予告
「知ってるか、帽子は一人前の男の証なんだよ。」
「悲しいに決まってるよ…!大事なサーヴァントがいなくなって、悲しくない人なんて一人もいないよ!!」
「これ、アンタに渡して欲しいって香子が前に刑部姫に頼まれたんだってさ。」
「けど俺はさ、頼まれたんだ。守っていかなくちゃならねーんだ。俺はこの町の探偵だからな。」
「この町を泣かせるやつは許せない、なんて言ってたけどお前がずっと泣きっぱなしじゃしょうがないでしょって話だよ。」
「おっきー。もうすぐ俺も、そっち行くっぽいなこれ。」
次回
『崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?』
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