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『外伝:青』崩壊した世界に来たけど僕はここでもお栄ちゃんにいじめられる

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マスター様とお兄様の間で揺れる海月の話

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
舞くんとゴッホのハートウォーミングなお話を書こうと思ってましたがそんな楽しい日々は突如として終わりを迎えます。
まぁ前回の終わり方が不穏極まりなかったからね。
というわけで隠さず言うと、ゴッホちゃんは葛城恋のサーヴァントです。
どうして持ってるのかを簡単に説明するのならば、北斎やアビー、ユゥユゥと3騎もサーヴァントを持っているという情報を聞いてあいつだけずるいと思ったんですよ(どの口が言ってんだてめぇ。)
というわけで秘密道具、歪んだ聖杯にお願いして作ってもらい、生まれたのがゴッホちゃんな訳です。
魔力だけでなく、狂気も溜め込んでいる偽物の願望器はフォーリナーを生み出すのに非常に適していたのです。
では、本編どうぞ。 

 
「〜♪」

最近、マイの機嫌がいい。
鼻歌混じりに昼餉を作っているが、そんなマイの横顔はどこか楽しそうだ。
お散歩や逆あなるの際、艶っぽい嬉しそうな顔はするがこういった明るい笑顔は最近見たことがなかった。
おれにはよく分からないが、何かいいことがあるんだろう。

「お栄ちゃんお待たせ。ご飯にしよっか。」
「だナ。」

仕事切り上げ、台所へと向かう。
そこでやはり気になるものは気になるので、マイの笑顔について聞いてみることにしたが

「最近、妙に嬉しそうじゃないか。いいことでもあんのかい?」
「ううん。内緒。」

そう言い、マイはいつもはぐらかしていく。
おれと一緒に毎日こうして暮らせるのが嬉しいだとか、飯が上手くできたとか、ありきたりな理由をいつも話していく。
当然、これが真実じゃないことはおれだって分かる。

それと、変わったことと言えば

「じゃあお栄ちゃん。お仕事まで仮眠とるから、出来る限り起こさないでね。」
「お…おう。」

マイは、よく昼寝をするようになった。
仕事は夜遅くまでするから仮眠をとったり、家事を終えた後眠くなってそのままうたた寝することはあった。
だが、何かおかしい。
前と比べて圧倒的に昼寝する時間が多くなっている。
それにウキウキしながら眠りにつくのも変だ。
以前楊貴妃殿がマイを目覚めなくさせたことはあるが…またそれか?
ともかく疑問は膨らむばかりだった。

「…?」

そんなある日、
仕事でマイが留守の間、机にあるマイのすけっちぶっくに目がいった。
本当に気まぐれだ。
どんなものを描いているんだろうと気になり、ぱらばらとめくっていく。
すると、

「これは…向日葵か。」

一面の向日葵畑。
こんなところ、訪れたことがあっただろうかと思ったが問題はそこじゃない。

「…誰だ?」

その向日葵畑を背にして、こちらに笑顔を向けている人物が描かれている。
あびいでも、楊貴妃殿でもおれでもない。
見たことの無い誰か。子供くらいの背丈をした人間だ。

「ちょいと…問い詰めてみるか。」



「おはよ。ゴッホちゃん。」
「お、おはようございます…お兄様。夢の中なのにおはようございますと言うのも…な、何か変ですね。」

あれから、僕達は夢の中で頻繁に会うようになっていた。
最近は疲れたから寝る、というよりかはゴッホちゃんに会いたいから寝ると言った方が正しいかもしれない。
ただそれくらいに、僕ら二人は仲良しになったんだ。

「お兄様。」
「?」
「な、何かゴッホにお手伝い出来ることはありますか…?」

こうして夢の中に入ると、まずはゴッホちゃんのご飯作りから始まる。
サーヴァントは基本食事を必要としないのだけれど、ゴッホちゃんは僕が最初に会った時に作った料理が余程美味しかったらしく、また食べたそうだったので毎回作ってあげることにした。

「じゃあ一緒に挽肉こねよっか。」
「い、いいんですか…!ゴッホにそんな大役…!」

積極的に手伝ってくれるゴッホちゃん。
料理を作っている間も、僕の周りをウロウロしていて落ち着かなさそうで、
でもそれもなんだか妹ってこういう感じなのかなぁって思いながら過ごしてる。

またあるときは

「魔猪ですお兄様!ワイバーンも!!」

小屋に向かって突っ込んでくるモンスターの群れがやってきた。
どうして夢なのにこんなものが来るかはよく知らない。
けど、

「ここはゴッホにお任せ下さい。あまり強くはありませんがサーヴァントの端くれ。お兄様を守る盾にはなれます…。」
「いいよ、大丈夫。」

倒せなくとも守れる盾役になれると言ったゴッホちゃんの肩を叩き、歩き出す僕。

「危ないです!」
「危なくないよ。」

食料調達も兼ねてだ。
全部僕が倒す。

「そこで見ててねゴッホちゃん。」
「…!!」

ペンを走らせ、カリゴランテの剣を出すと僕は駆け出す。
すれ違いざまに魔猪を細切れにし、風を起こしてワイバーンよりも高く舞い上がる。

「…すごい。」

ワイバーンに抵抗すら許さず細切れにしていき、着地すると突っ込んできた魔猪をひらりとかわす。
その光景にゴッホちゃんは見惚れているみたいだった。

実は、お兄様としてちょっといいとこ見せたいなっていうのはあった。
実際、きょうだいっていうのはどういうものかわからないけど、妹や弟にかっこいいとこ見せたいのはやはり上の者として当然なんじゃないだろうか。

「す…すごいですお兄様!!剣が鞭のようにしなって、それからまるで風を自分のもののように操ってましたね…!あれは一体どのように…!」
「うーん…お兄様だからなせる技…みたいな?」
「!!!」

興奮してやまないゴッホちゃん。
まるで踊るような戦い方でした、とかお兄様ならサーヴァントだって楽勝ですよとかまさに名は体をあらわすというものですね!とかとにかくたくさん褒められた。

そしてまたあるときは、

「海です…!ひまわり畑が一瞬にして海に!」

ゴッホちゃんと海に遊びに行ったり。
ここは僕の夢の中。
つまり支配権は僕にあるからこの場所は何にだって変えられる。
今やったみたいに、小屋の前に広がるひまわり畑を砂浜と海に変えることなんてなんてことない。

「ゴッホちゃん、水着は?」
「え!あ、ああいえその…ゴッホはこのままで…お兄様にゴッホの肌を見せるなんて…お目汚しですし…えへへ。」

せっかく海に来たのだし水着に着替えて水遊びでもしたいけど、ゴッホちゃんは頑なに海に入ろうとしないしいくら説得しても遠慮して水着に着替えようともしなかった。
なので

「じゃーん。どう?」
「す、すごいですねお兄様…!芸術センス高めです…!歓喜のあまり咲いちゃいそうですよぉ…!」

砂でお城とかそういったものを作って遊ぶことにした。
折角二人だけなのだし、ここは思い切って大作を作ろうとしたら思った以上に入れ込んでしまい、中々の砂の城が完成した。
今度アビーが来た時も、こうして遊ぼうかな…。
と思ったけど…

「アビーもユゥユゥも…どうしたんだろう…。」

ある疑問が浮かぶ。
こうしてゴッホちゃんに夢の中で会うようになってから、2人の姿を見ていない。
夢の中だけじゃない、現実でもこののところ姿を見ていないんだ。
こうしてしばらく会わない日々が続くと、逆に恋しくなっちゃうな…。
元気かな…2人とも…。

「お兄様…?」
「あ、うん?どうしたの?」
「いえ、何か難しい顔をされていたので…も、もしかしてゴッホが何かお気に障るようなことを…!」
「う、ううん!違うよ!ただちょっと考え事してただけ。」

とりあえず気を取り直して砂の城の仕上げにかかる。
これが出来たら絵に描いて残しておこう。
そう思ったけど、

「…。」
「な、何かゴッホの顔についてます…?」

完成した砂の城を描いている僕の横で、ゴッホちゃんはニコニコして僕が描いているところを見ている。
不思議だ。とても不思議なんだ。
出会った時から思っていたけども、どうしてゴッホちゃんは絵を描かないのだろうって。
そしてその疑問は、
次の日に明かされる。




「お兄様は本当に絵がお上手ですね…。」
「ゴッホちゃん程じゃないよ。」
「い、いえいえ…ゴッホなんか全然…。」

いつものようにご飯を食べたあと、ひまわり畑で絵を描く僕。
そしていつものように、隣でニコニコしながら見ているゴッホちゃん。
そこで僕はとうとう気になり、聞いてみることにした。

「ねぇ、ゴッホちゃん。」
「なんでしょうか…お兄様。」
「どうして絵を描かないの?」

こうして夢で会う度、変わりゆく景色を描いていく。
僕は何枚も描いたけれど、ゴッホちゃんが絵を描いている姿を一度も見た事がなかった。

「もしかして…生前の事もあって絵が嫌いになったとか?」
「あ、あの…いえ!そういうことではなく…。ゴッホはその…なんと言いますか…。」
「?」

きょろきょろ忙しなく動く両目。
オロオロして、過呼吸になるゴッホちゃん。
心配そうに見ていると急にハッとし、答えた。

「そ、そうなんです!実はゴッホの霊基に異常があるみたいでして!絵に関する技術が全て欠落しているんです!」
「…。」
「はは…ふふっ、中途半端で何も出来ないゴッホにはお似合いですよね…!絵が描けたところでゴッホに何ができるんだって話ですよ!生前なんてロクに売れなかったただの穀潰しだったんですから!!えへ…えへへへへ…!」

自分をとことん自虐して、自分は何も出来ない、役立たずなんだと責める。

そうだ。
彼女は…似ている。

「面白く…ないよ。」
「えへへへ…え?」
「面白くもなんともない。ゴッホちゃんだってそうでしょ?自分で自分をバカにして、悲しくなったり、辛くなったりしないの?」

彼女の手を取る。
その手はひどく震えていて…それに

「傷だらけだ…。」

なにかの傷跡、それに火傷の跡だってある。
これが…霊基の異常?
召喚された時点で…こうだったのだろうか。

「あの…お兄様。」
「ちょっと待ってて。」

昔ほどとはいかないけど、
出来るかもしれない。

「大丈夫。任せて。」

持っていたペンに魔力を流し込むと先が淡く光る。
魔力の放出と同時に舞うそよ風が頬をくすぐっていった。

「…ここだ。」

ゴッホちゃんの手にペンを付け、霊基をなぞる。
昔のように直結はしていないけど黄衣の王から少しずつ魔力は流れてくる。
ペン先に魔力を乗せ、少しずつ丁寧に、かつ慎重に彼女の霊基を復元していく。
そうして彼女の手を”描く”こと5分…。

「出来た…!」
「…。」

描き終えた手の表と裏を見て、不思議そうにしているゴッホちゃん。

「お兄様…これは…?」
「描いてみて。」

聞くよりも試してもらった方が話は早い。
そう思い、僕はゴッホちゃんにペンとスケッチブックを渡してみせた。

「で、ですがゴッホは…!」
「いいから描いて。僕が題材になるから。」

ひまわり畑を背にして立つ僕。
言われるがまま、彼女は恐る恐るスケッチブックに絵を描いていく。
まずペンを走らせた時、何かに気付き「あっ」と声を上げた。

「…描ける。描けます…!」
「でしょ?」

生前のように、今までのように、ゴッホはかつての絵が描けることに驚きを隠せないでいた。
やがてその表情は驚愕から喜びへと変わり、ペンのスピードもどんどん早くなる。

「すごい!すごいですお兄様…!これは一体…!?」
「僕の持つ技でね。霊基描換って言うんだ。文字通り描いて換えるってこと。今のはそれの応用で、異常のあったゴッホちゃんの霊基を修復したんだ!」
「霊基…描換…。霊基、書換……。」

僕の持つ技でゴッホちゃんの手は完全に復活した。
どうして召喚された時点で霊基に異常があったのか、気になることはあるけどそれ以上は聞かないことにした。
それと、さっき霊基を見て気付いたこともある。

「…。」
「お兄様…?」

彼女の顔をジッと見つめる

「ゴッホちゃん。」
「は、はい…なんでしょう?」
「この霊基の異常は…両手"だけ"じゃないよね?」
「…。」

ゴッホちゃんが、だんまりする。
霊基の修復の際、ゴッホちゃんの全身の霊基の情報が流れ込んできたんだ。

同じように、このボロボロで怪我だらけだった両手のように身体のあちこちにも霊基の異常が見られる。

「い、いえ…大丈夫ですよぉ…。」
「何が大丈夫なの?いいから見せて。」
「…!」

幸い、ゴッホちゃんの身体は小さく軽いため、ひょいと簡単に持ち上げられた。
そうしてよく見ると、服の隙間から見える首筋やお腹にアザのようなものが

「…。」
「お、おおおお兄様!?な、なにを!?」

気になる。
そうであって欲しくないと願うけど、霊基はもうそうなっている。
不安、心配。
ゴッホちゃんの服をやや強引に脱がすと、露になった背中には…。

「なに…これ…。」

アザだけじゃない。
切り傷、火傷、ひどいものだと爛れたような傷まである。
さらに雑に縫われた傷口。
悪意のある、品性の感じられない下品な言葉が書かれた刺青だってある。
これが…本当に霊基の異常によるもの…?

「み、見ないでください!!」
「っ!」

僕の手を振り払い、ゴッホちゃんは急いで服を着直すと僕から距離をとった。

「い、いくらお兄様だからといっても…見てはいけないものがあります…!」
「でもゴッホちゃん…それは…!」
「言ったはずです…これは霊基の異常だと…この世に召喚されてからゴッホは元からこうだと…これは…"罰"なんです…!絵を描くことしか出来ないゴッホの…一生かけても償うべき罪なんです!」
「…。」

絵を描くことが…罪?
それの罰?
じゃあ…なんで、どうして?
それじゃ絵を描くことが悪いことみたいじゃないか。
まるで…あいつと同じように…。
僕に絵を描かせなくしたあいつと…一緒だ。

「ゴッホの両手を治してくれたことは…お礼を言います。それではお兄様…短い間でしたが…。」
「ゴッホちゃん!待って!!」

そう言って一礼をすると、ゴッホちゃんはすぅ、と消えていく。
彼女の手を掴むため走った僕だけど、それは空を掴みそのまま転び、ひまわり畑に突っ込んでしまった。

「…ゴッホちゃん…どうして…?」

向日葵は、相変わらず空の上の太陽を見上げていた。





「…。」

最悪の目覚めだった。
ゴッホちゃんは、もういない。
もう、会えない。
なんとも言えない気分のまま僕は目覚めると…

「お栄…ちゃん?」

目の前にはお栄ちゃんが立っていた。
さらに、

「…っ!な、なにこれ!?」

自分が、身動きが取れないことに気付く。

「お栄ちゃん!これ…!」
「ひとつ聞きたいことがあってナ。なに、正直に答えりゃ悪いこたァしねぇヨ?」

分娩台、と言えばいいだろうか。
ともかく僕はそこに足を開いた形で固定され、お栄ちゃんにおちんちんとアナルを見せつけているような体勢になっていた。
そしてお栄ちゃんは僕のスケッチブックを手に取り、ページをめくっていくとあるところを僕に見せた。
そこに描いてあるのは

「こいつ…誰だい?」
「…!」

ゴッホちゃんだ。
ドスの効いた声で尋ねるお栄ちゃん。。
分かる。今すごく怒ってる。

「知って…どうするの?」
「当たり前さ、今ここに引きずり下ろして徹底的にぶん殴る。」
「…!!」

背筋が、ゾッとした。

「証拠は出揃ってるんだぞ、マイ。毎日毎日お前さんの夢の中に入り込んで、誑かしてるそうじゃないか?」
「たっ、誑かしてるって…そんな子知らないよ!」

もし正直に言えばゴッホちゃんはお栄ちゃんに殺られる。
ゴッホちゃんがどれほどの強さか知らないけど、きっとゴッホちゃんは自分への罰だと言って受け入れるだろう。
そんなのダメだ。
ゴッホちゃんは、僕が守らないといけない。
お兄ちゃんとして、妹のことは何がなんでも守らなきゃいけないんだ!

「嘘、ついたナ?」
「う、うそなんか…!」
「おいマゾ犬。一体いつからご主人様に対して嘘つくような悪い子になったんだい?じゃあなんで描いた?どうしてよく眠るようになった?こいつに会うためだろ?」

違う。
お栄ちゃんはきっとカマをかけているんだ。
こうやって脅せば僕がボロを出すと思ってる。
でも、今回ばかりはそうはいかない。
僕はお兄ちゃんだ。
妹の為に…妹の為に僕は

「妹のために僕は絶対に言わない。そうでしょ?」
「…え?」

声が、聞こえた。
お栄ちゃんのものではない。別の子の。
首を横に向けてみればそこには

「不思議に思ったの。ある日突然私達が舞さんの夢に入れなくなったから。」
「覗き見する趣味はなかったんだけど…その…アビーちゃんと一緒に大体のことは観測()ちゃってるんだ。ごめんね、マイマイ。」
「アビー?ユゥユゥ?」

久しぶりに見る、
ソファーに座るふたりの姿が。
つまり…

「あびぃと楊貴妃殿が数日かけて調べてナ。てなわけで情報はぜぇんぶ密告済みサ。さぁ、あいつは何者かお前さん自身の口から教えとくれ?ナァ、お 兄 様 ♡ 」
「…っ!」

ゴッホちゃんが、僕を呼んでくれたその呼び方。
そう、ゴッホちゃんの情報はほぼアビーとユゥユゥによってお栄ちゃんに漏れている。
カマをかけたんじゃない。
お栄ちゃんはもう、全部知っている。

「だから僕はそんな子知らなあっああっうう♡♡♡」

否定しようとした。
しかしその時、何にも例えられない快感が下半身を襲う。

「なっ、なにこれぇっ!?」

よく見ればお栄ちゃんが指を僕のアナルに突っ込んでいた。
けど、違う。いつものような気持ちよさじゃない。
一体これは…?

「マゾ犬を躾ける為のまじないサ♡下腹部に淫紋が描いてあるだろ?」
「…!」

迂闊だった。
おそらく睡眠という無防備を晒した時間に描かれたんだろう。
僕の下腹部には確かにハートを象った淫紋が描かれていた。

「快感を増幅するまじない、それと嘘をつく度その倍率はどんどん高くなる。二倍、四倍、八倍…と。さぁマイ。辛くなるのは自分だ。正直に言え。こいつは誰だ。」

スケッチブックに描かれたゴッホちゃん。
僕をお兄様と慕ってくれたゴッホちゃん。
そんな彼女を、売るわけにはいかない。

「だから僕は…知ら」
「はぁ…しょうがねぇ。あびい、頼む。」
「ええ、分かったわ。」

お栄ちゃんが大きめな溜息をつき、アビーを呼ぶ。
抜かれる指。
しかし変わりにアナルに入り込んできたものは…

「おっおおおおおっ♡♡♡♡♡」

極太の触手。
アビーが呼び出した、イボイボのついたえぐい形の触手だった。
さらに

「なっ、なに…!?」

下から伸びてくる二本の触手。
アナルの触手に比べると随分と細いが、それは先端が四つに裂けると

「んっ♡♡ああっ♡♡♡」

僕の両乳首に吸い付いた。
直後、まるでブラシでこすられているようなもどかしい快感と吸われるような感覚が襲う。
それが何倍にもなり、身体を、脳をかけめぐって全身を痙攣させる。

「あっ、ああああ♡♡♡んあぁっ♡♡♡」
「答えろマイ。そんで連れてこい。コイツはどう会って、どう知り合って、どういうやつなんだい?」
「く…ぐぅ…っ♡♡ぼ、ぼくはしら、ない…っ♡」
「…。」

お栄ちゃんが無言のまま筆を取り出す。
そうしてその筆の先端は、さっきから勃起しっぱなしのおちんちん…亀頭に段々近づいていき、

「あっ、ああああ♡♡だめ、だめだめだめだめぇっ!いまそんなことされたらほんとにおかしく」
「じゃあおかしくなれ。」

筆が、こしょこしょと亀頭をくすぐった。

「ーーーーーーーーーー♡♡♡♡♡♡♡」

絶頂に向かうには足りなさすぎる快楽が襲う。
くすぐったい、きもちいい、でもイクにはまだ全然足りない。
そんな気持ちよさが何倍にも、何十倍にもなってやって来る。
たまらない、たまらなくなる。
けど、

「は、あぅ…えへっ♡えへへへへぇ…♡」
「意識は残ってるナ。答えろ。お前さんをお兄様と呼び慕ってるこいつは、誰だ?」
「ぼくっ…しら…にゃいよぉ…♡」
「…。」

絶対に吐くもんか。

「…楊貴妃殿、あびい。」

お栄ちゃんが2人の名前を呼ぶ。
そうすると僕の左右には気付けば2人の姿が。

「やれ。これもマイの為だ。」

お栄ちゃんはそれだけ言うと、2人は僕に手を伸ばす。
2人の細くてしなやかな指が、身体を、性感帯を這う。
それだけじゃない

「言った方が身のためなんじゃないかなぁ…そうすれば、ラクになれるとユゥユゥ思うんだけどなぁ…。」
観測()ている、なんて言ったけど細部までは見れていないの、ねぇ、あの子はどうして舞さんを"お兄様"と呼んでるの?全部教えて?ふぅーっ♡」

両サイドから耳元で囁かれ、息を吹きかけられる。
耳も立派な性感帯の僕はそれだけでイきそうになるも、なんとかこらえる。

ダメだ、イクな、イクな…!
僕だって強固な意思くらいあるんだ。
そうだ、ゴッホちゃんは…僕が守らなきゃいけない!
だから耐えろ。
耐えて、耐え抜くんだ。




「あっが…ああああああああぁぁぁ!!!!!!」

葛城財団本部の最上階。
そこからは何者かの叫び声が響いていた。

「殺せ、って言ったよなぁ?」
「は、はい…わたしは…ゴッホはマスター様に彼を殺せと命令され…ました…!」

悲鳴の主はゴッホ。
彼女は今手錠をされ、その両手をデスクの上に固定されている。
異常なのは、その指のうち三本がおかしな方向に曲がっている事だった。

「なのになんだこの体たらくはよ。」
「も、申し訳ありません…!ただ、少しづつ確実に彼はわたしを信用し、その隙に漬け込んで一気に」
「令呪をもって命ずる。」
「ひっ!!」

憤怒しているのは勿論、葛城財団団長にしてゴッホの本来のマスター、葛城恋だ。
そして彼が令呪を使って何かを実行しようとすると、ゴッホはひどく怯え出す。

「お、お願いします!!もう一度チャンスをください次こそは必ず殺ります殺り遂げてみせますだからもう指を折るのはやめ」
「めんどくせぇや。『残りの指全部折れろ』。」

次の瞬間、
無事だった右の薬指と小指、そして左手の指が一斉にありえない方向へとひん曲がる。
サーヴァントと言えど、計八本の指を同時に折られるのはかなり堪える。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!」

痛みを声でかき消す。
少しでも和らげるために、ゴッホは叫んだ。
しかし

「うるせぇ、なァ!!!」

葛城恋に、顔面を蹴飛ばされる。
拘束は外れ、そのままゴッホは床に倒れ込むが、奴は追い打ちとばかりに胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「ただでさえ使えねぇサーバント使ってやってんだ。俺の期待に応えろよ、フォーリナーのくせして役立たずの穀潰しがよ。」
「す、すいま…せん。」
「誰が謝れっつった?反省してんなら行動で示せよ。令呪で治してまた折るぞ?」

そう言って突き放されると、ゴッホは立ち上がり折れた指で服を脱ごうとする。
そう、行動で示せとはそういうことだ。
そうして彼女は全ての服を脱ぎ捨て、葛城恋の前に立つ。

ひどいものだった。
舞が見たのはほんの一部分。その身体にはやつに付けられたおびただしいほどの傷があった。

火傷や切り傷、手術ごっこと称して付けられた数々の雑な縫い跡。
さらに下品な言葉を刻まれた刺青。
と、まさにされるがままだった。

「ケツ向けろ。それしか使い道がねぇんだからな。」
「はい…こんなゴッホをお使い頂き…まことにありがとうございます…!」

そうして腕を引っ張られ、無理矢理犯される。
それだけじゃない。彼は最中、締りが良くなるからという理由だけで容赦なく背中をきりつけたり、半田ごてを使って焼いたりする。

痛い。苦しい。
でも、以前まではこれ程痛くなかった。
心が死んでいたから、そこまで感じなかったんだ。
じゃあ、今はどうしてこんなにも苦しいのだろうか?
いいや、答えは自分自身が一番わかってる。

「おにい…さま…おにいさま"ぁ…っ!!」

彼、葛城舞の存在だ。
彼の優しさが心を甦らせたから。
当初は馴れ合って、仲良くするふりをして信用させ殺すつもりだった。
だけど彼の優しさに触れ、自分はこんなことをしていていいのだろうかと疑問に思った。
彼は、葛城舞は、お兄様はどこまでもやさしい。
初めて会った時もゴッホのことを疑いもせず、仲良くしようと言い出したり、
絵の描けない自分を心配し、治してくれたり、
そして、背中の傷を見られた際も、本気で心配してくれた。

でも、もういい。
自分は葛城恋のサーヴァント。葛城舞は、敵だ。殺さなきゃならない標的だ。

「おい、何だこの手?怪しいと思ったがやっぱ治ってんのか?」

恋がゴッホの綺麗な手を見て、疑問を抱く。
まずいと思ったが、それももういい。

「おい、穀潰しのクソマンコ。絵を描くってのはどういうことか、教えたよな?」
「はい…絵を描くということは、人生の浪費、寿命と労働力の無駄遣い。精神異常の知恵遅れがやる…ごっこ遊びです。」
「昔そんなもんに人生と金費やして、周りに散っ々迷惑かけて挙句の果てに自殺した穀潰しのクソバカウンコ野郎がいたよなぁ?誰だっけ?」
「それは…フィンセント・ファン・ゴッホ…正真正銘…かつてのわたしです…っ!」
「よく言えた。また丁寧に両手潰して、ぶち犯しまくってやるからな。」



それから、ゴッホは思いつく限りの残虐な方法で虐げられ、犯された。
床に倒れ伏し、指一本も動かないゴッホ。
身体中傷だらけで、死んでいるのではないかと思わせるほどにボロボロだった。

「じゃ、俺様は仕事があるから、ちゃんと後片付けしとけよ。もし俺様が戻ってくるまでに出来てなかったら、刺青増やして今度は指切ってくからな。」

動かないゴッホにそう告げ、葛城恋は部屋を出ていった。
しばらくして、彼女はガクガクと震える手足を使って何とか立ち上がる。

「うう…うっ…。」

苦しい、辛い、耐えられない。
この地獄から抜け出したい、逃げ出したい。
でも、彼は自分のマスターだ。サーヴァントはマスターの命令を聞かなければならない。
もう、自分ではどうにもできない。

「たすけて…おにいさま…。」

涙と鼻水とでぐしゃぐしゃになった顔でゴッホはそう呟き、ひとしきり泣いた後にふらつく足取りで掃除用具を取りに向かうのだった。

 
 

 
後書き
揺らぐ。
殺さなければならないのに。
どうしてお兄様は、あんなに優しいのだろう。
辛い、マスター様に汚染されきった霊基が軋み、痛む。
心が痛む、あんな人は殺せない。殺したくない。
優しくて、暖かくて、怒らないしいつも笑ってる。
絵は描けない。
そういった時も、頑張ろうって言ってくれて、付き合ってくれた。
辛い…辛い…。
こうなるなら、人の心なんて要らなかった。
せめてお兄様が悪い人であったならば、ゴッホが非常な人間ならば、どれだけ楽だっただろうか。
でも…殺さなきゃいけない。
失敗すれば、またマスター様からお仕置をされるから。
 
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