『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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襲撃-さいかい-
前書き
こんにちは、クソ作者です。
前回はこれからよからぬ事が起きそうな不穏な感じでしたが武蔵ちゃんと大和くんはこの先一体どうなるんでしょうね?(すっとぼけ)
それでは本編、どうぞ。
二日ばかり寝ていたらしい俺は、起きるとすぐに旅の準備に取り掛かる。
こうしている内にまたどこかの誰かが、届けたいものを届けられないままでいるかもしれないからだ。
というわけで今から出ていくと言った時だ。
「改造バイコーン?」
滞在時、お世話になった伊吹童子から是非とも渡したいものがあると言われ寄ってみれば、なんと馬、FGOでおなじみの馬型エネミー、バイコーンをプレゼントするとの事だった。
「ええ、あなた達見たところ徒歩でしょ?それじゃあキツいし、お姉さんを楽しませてくれたお礼としてプレゼントしちゃう♡」
そういい、伊吹童子の後ろからは家来らしき鬼が手綱を引っ張り、バイコーンらしき馬を連れてきた。
"らしき"とは、あの立派な角はなく、普通の馬と比べるとやや大きいくらいの違いしか無かったからだ。
「これが…改造バイコーン?」
「ええ。角は危ないから取っちゃったし、言う事聞かせるようにするのもすごく大変だったのよ。」
バイコーンの鋭い目付きが俺に刺さる。
見たことの無い余所者だから警戒しているのだろうが、今から俺がこいつの持ち主となるんだ。
舐められてはいけないと思い睨み返してやると、そいつはそっぽを向いて視線を逸らした。
「これからの旅はこの子を使って頂戴な。手綱から魔力をちょっと流してあげればすぐ言うこと聞くいい子だから。ね?」
と、伊吹童子が改造バイコーンの頭を撫でる。
とりあえず、乗馬体験はしたことは無いのだが貰えるというのなら貰っておこう。
「あ、あのー。」
と、お試しに跨ってみようとしたその時、武蔵が控えめに手を挙げた。
「どうした武蔵。」
「その馬って、一頭だけ?」
武蔵がそんな質問をする。
「当たり前じゃない。二頭もあげられるほど私達も余裕はないの。それに、これから守護局にも貸し出さなきゃならなくなりそうだし、一頭一頭躾をするのもすごーく大変で手間がかかるの。」
それはそうだ。
こんな貴重な足を二頭貰うのはいくらなんでもあれだろう。
決闘に勝利したとはいえ、そんな条件は飲んではくれないのは明らかだ。
「それにあなた、二頭も貰ってどうするの?」
「私が乗るんです!」
「別にいいじゃない。一頭で。」
そうして伊吹童子は待ってましたと言わんばかりに武蔵にずいと近付き、そっと耳打ちした。
「2人乗りで解決じゃない?後ろから、こうぎゅーって。」
自分のマスターを後ろから包むように抱きながら、そう言った。
当然、そんなこと武蔵にできるのかと言えば
「武蔵。」
「…。」
「乗らないのか?」
「いいの、走るから。」
できない。
あれから少し乗馬の為の訓練をこなし、馬の乗り方を理解した俺は今こうして京都から旅立とうとしている。
だが、隣にいる武蔵は立ったまま、俺の伸ばした手も掴まずこのまま併走していくと無茶を言い出した。
「このバイコーンの速さは並じゃない。それと常に併走なんてサーヴァントでもキツイと思うぞ。」
「私はキツくないので。」
「いやキツイだろ。」
鬼と人問わず、みんなに見送られる中そんな我儘を言い出すものだから中々出発できない。
伊吹童子は楽しそうにその様子を見ているし。
と、このままでは埒が明かないので
「っ!」
「えっ?わっ!!」
武蔵の腕を強引に掴むと、そのまま引き寄せ無理矢理馬に乗せた。
「ちょ、ちょっと大和くん!!」
「別に背中に掴まるくらい恥ずかしくもなんともないだろ。」
「そうじゃなくて…!」
「さぁ出発しよう。」
武蔵が降りかねないのでここはさっさと走り出す。
手綱を引っ張り、改造バイコーンが嘶き走り出す。
「世話になった!鬼と人、2つの種族がいつか手を結べる日が来ることを願っている!!」
そう言い残し、俺達は京都を後にした。
鬼も人も、マスターにあんなにデレデレだったんだ。
種族は違えどマスターは大事だという考えは同じ。
そこに気付けば、手を取り合うのもそう時間はかからないだろう。
さて、
「大和くん。」
「断る。」
「なんで!?まだ何も言ってないじゃない!!」
「降ろしてくれとかだろ?断る。」
「お師匠様命令です!」
「断る。お師匠様なら尚更だ。弟子の自分だけ馬に乗って楽するなんて俺には出来ないね。」
「ぐっ…この生意気な弟子め…!」
どうしてもおろして欲しい武蔵。
忘れかけていた自分が師匠ということを引っ張り出し、師匠命令と言うが墓穴を掘ってしまったようだ。
しかし、ここは機転を利かせる。
「そうよ!」
「?」
「お師匠様の私が馬に乗って!弟子の大和くんが走ればいいのよ!」
「…スパルタだな。」
「当たり前よ!ほら!分かったのなら早く馬を止めて降りなさい!大丈夫!セイバーだから騎乗スキルはあるし乗馬に関してはなんの問題もないので!!」
「いや、武蔵は騎乗スキル持ってなかったぞ。」
武蔵にしては考えたかもしれない。
でもそれは出来ない提案なんだ。
「それにこの馬は俺の魔力を"覚えた"。飼い主以外のものが触ろうとすれば暴れ出すぞ。」
「え?つまり…?」
「俺の言うことしか聞かない。」
この改造バイコーン、魔力をある程度流し込めばそれが飼い主のものだと覚え、それ以外が流れる、もしくは魔力が流れないのであれば飼い主以外と認識し全力で暴れ出す。
乗馬訓練の際盗まれないようにする為と言われたんだ。
だから、俺しか乗れない。
「なにそれ…。」
「だから当分はこれで我慢してくれ。なに、1週間歩き詰めなんてことはなくなるからそれでいいだろう。」
「私は全っ然良くないんだけども!!」
そうして馬の上で終わらない押し問答を続けながら、俺達は京都をあとにする。
次はどこへ行くか、それはまだ決めていない。
でも、訪れた場所でも必ず、困っている人はいるだろう。
それにだ。
俺たちの仕事は荷物を届けるだけじゃなく、財団の活動を全力で邪魔することも含まれる。
頼もしい移動手段を貰い、ともかく俺と武蔵は風の向くままにどこへと決めず走っていった。
⚫
「竜胆だ!!あの竜胆が来たぞー!!!」
数日後。
馬を手に入れたことによって活動範囲も大幅に広がり、かつ一日の移動距離もずっと長くなった俺達だが、
前にも言ったように葛城財団の邪魔、もとい支部を潰してまわっていた。
「赤い刀を携えた白髪の男…サーヴァントは宮本武蔵…!間違いない!!危険人物の竜胆大和だ!!」
見張りをなぎ倒し、中に入って暴れ回る。
資料やら機材やら、貴重そうなものは片っ端から叩き潰したり斬ったり撃ったりして台無しにしていく。
「随分有名人じゃない。大和くん。」
「ああ。」
やってくる財団職員を斬り伏せながら、背中を合わせて武蔵はそう言った。
まぁ、俺はこうしてる間に財団からはかなり名の知れた男になってしまったらしい。
「そろそろいいだろう。」
ひとしきり暴れ回り、とりあえず退散する。
設備や兵器、データの入ったパソコンや通信機器は全て破壊していくが職員達は全滅させない。
見せしめ、もといこの惨状を本部にいるだろうお偉いさんに伝えてもらう為だ。
ということで俺は指笛を吹き、やつの名前を呼ぶ。
「オロバス!!」
武蔵と共に3階の窓から飛び降りると、下には既に愛馬のオロバスが駆けつけていた。
ちなみにオロバスとはあの時伊吹童子からもらった馬の名前だ。
名前が無いと可哀想なので、思いつきでつけたものだ。
そうして俺はオロバスに跨り、廃墟1歩手前となった財団支部から風のように去っていく。
武蔵は…
「…乗らないのか?」
「いいの!!」
馬には乗らず、その隣を併走していた。
しかし、
「…!!」
武蔵が突然前に出て、オロバスを強引に止める。
俺も思わず手綱を引き、止まるように指示すると武蔵に何事か尋ねた。
「どうした武蔵?」
「この先、まだ"いる"…!」
「いる…?」
一体何がいるのか?
その疑問は、すぐに解消された。
「チッ…あと少し走ってくれりゃ、蜂の巣にしてやったのによぉ。」
茂みや木の影から、ぞろぞろと出てきたのは葛城財団の実働部隊。
まさか…今まで待ち伏せしていたのか?
近くにあった支部を犠牲にしてまで?
「葛城財団も随分と薄情なんだな。」
オロバスに乗ったまま、俺は刀を抜く。
気が付けば周りは財団に囲まれており、ここから走って逃げ出すことは難しそうだ。
それに、
「武蔵。」
「ええ…今まで通りにはいかなさそうね…!」
実働部隊の武装、雰囲気。
見たことの無い銃器。奥には大型の機関銃を持った隊員すらいる。
そしてその武器を扱う際の慣れたような手つき。
こいつらは、今まで相手してきた実働部隊と同じと思わない方がいい。
何よりも彼らの"目"がそう語っていた。
「成程…いよいよ精鋭を送り出してきた感じか!!」
戦いが始まるのは唐突だった。
オロバスから飛び降り、まずは正面にいる男に斬り掛かる。
懐に飛び込んできた俺に対し男は銃を乱射するのではなく、即座にナイフに持ち替え接近戦を挑んだ。
咄嗟の判断力、疾い。だが
「ぎゃあぁ!!」
俺と武蔵の方がずっと疾い。
ナイフで受け止められるよりも速く、やつの身体を袈裟斬りにすると次の獲物に目を移す。
仲間が一人やられても、冷静にこちらに銃を向ける数人の隊員。
今までなら誰かしら1人殺られると隊員がパニックを起こし銃を乱射する間抜けがいたがこの部隊はそうではないらしい。
「オロバス!隠れていろ!!」
このままでは流れ弾をくらいかねないのでオロバスにそう叫び、彼はそのままどこかへと駆けていく。
大丈夫だ。指笛を吹けばすぐに戻ってくる。
「…。」
オロバスが逃げたのを確認し、視線を戻すと数人の実働部隊が冷静にトリガーを引いていた。
放たれる複数の弾丸を躱し、俺はどんどん奴らに近付く。
「っ」
武器を鞘に収め、メイスとして使う。
思い切り振り上げ、目の前の1人を薙ぎ倒して近くにいた者も強引に殴り飛ばす。
「今だ!俺ごと撃て!!」
その時だ。
メイスで殴り飛ばそうとした隊員の一人がなんとその一撃を耐え、両手でがっちりとメイスを受け止めたのだ。
その耐久力と根性にやや感心するも、遠くの方からは彼の合図を受け取り、三脚で支えられた重機関銃をこちらに向ける隊員が。
「…無駄死にだぞ、お前。」
重機関銃が火を噴く前に、俺はメイスから刀を抜いて飛び去る。
メイスを持ってくれたまま呆気に取られた顔をした男は次の瞬間、弾丸に身体中を抉られ一瞬にして蜂の巣となった。
「死ねぇ!!」
間髪入れず襲いかかってくる隊員。
他の者が死んだとしてもそれに一切怯むことなく、彼らはまるで死を知らないかのように突っ込んでくる。
「っ!」
最低限の動きでかわし、得物であるマチェットを持つ腕を切り落とし、そして続けざまにやってきた2人は散弾銃で迎撃する。
「サーヴァントは捕らえろ!マスターは最悪死んでもかまわん!!撃て撃て撃てぇッ!!」
「!!」
周囲の木々を薙ぎ倒し、今度は装甲車が襲い掛かる。
武蔵と俺は一旦飛び退き、枝へと飛び移るも装甲車の上部に設置された銃座。そこにあるガトリングが火を吹いた。
「何こいつら!?必死過ぎじゃない!?」
咄嗟に別の木々へと飛び移って回避する。
怒涛の攻撃。死を知らない捨て身の攻撃、それに装甲車まで持ち込んできた財団実働部隊。
あまりにも無茶苦茶なその部隊に武蔵は思わずそう叫んだ。
しかし、それだけじゃない。
「武蔵!上だ!!」
「上って…ええ!?」
凄まじい風にバタバタという音。
まさかと思い上を見ればそこには軍用ヘリ。
備え付けられた機銃がこちらを向き、今まさに武蔵を撃ち抜こうとしている瞬間だった。
「その程度…!!」
武蔵が跳ぶ。
軍用ヘリ目掛け真っ直ぐ跳び、攻撃をさせる前にそのプロペラを叩き斬った。
「ヘリが落ちるぞ!!回避ー!!」
当然、浮力を失った軍用ヘリは墜落。
実働部隊達は散り散りになって回避。ヘリは落ちた直後に爆発し、黒煙を上げた。
「まだまだぁ!!」
「あれも厄介だな…。」
装甲車の奴も目障りだ。
散弾銃で二、三撃ち抜くも、あまりにも頑丈なそれは多少の弾痕を残すのみでダメージは入っていない。
「…。」
アレにダメージを与えるなら質量兵器のメイスがうってつけだが、生憎離れた場所に置いてきている。
なので
「あれが邪魔だ。斬ってくれ武蔵。」
「了解!!」
武蔵に任せる。
ガトリングの弾丸の嵐をかわし、斬り、スピードを緩めることなく駆けてどんどん装甲車へと近付く。
と、その時だ。
「…!!」
何かを察知し、武蔵は突然後ろに下がる。
その直後、バシュッ!と何かが放たれた音がし、装甲車が爆発した。
「何…?」
疑問に思う武蔵だが、遠くから離れていた俺には見えていた。
ロケットランチャーだ。
実働部隊の一人が、迷うことなくロケットランチャーを装甲車に撃ったのだ。
仲間がどうなろうと、装甲車を爆発させ武蔵にダメージを与えることを最優先としたんだ。
さらに、
「今だ!!撃て!!」
また草陰から男達が現れ、今度は俺に向け銃を向ける。
しかし、それはただの銃では無い。
「!!」
そこから発射されるワイヤー。
一つ二つは咄嗟に避けられたものの、3つほどのそれは先端の針が刺さり、俺に強力な電撃を流した。
「ぐあぁっ!?」
「大和くん!!」
そう、テーザー銃だ。
見た目は明らかによく見るそれではなく、ゴツイ見た目の機関銃のようなもの。
普通のテーザー銃は知らないが、おそらくそれの何倍もの強烈な電撃が俺を襲い、思わず膝を着いてしまった。
「どうだぁ竜胆。対エネミー用のテーザー銃のお味は?」
「…!!」
聞き覚えのある、声が聞こえた。
これは…この声は…!
「っ!!」
「おっと、動くなよ女。こいつは俺の大事な元部下なんでね。そこまで酷いことはしないが、お前が動くと大変なことになるぞ?うん?」
ザッ、ザッ、と草を踏む足音が迫り、俺のすぐ前まで止まる。
痺れる身体に鞭を打ち、立ち上がろうとするも、
「この野郎がァッ!!」
「ぐぅ…っ!!」
やってきた男に見事なアッパーをくらい、俺はなすすべもなく地面に仰向けに倒れる。
「どうだ?久しぶりの俺の拳骨は?身に染みるだろ?竜胆。」
「おまえ…どうして…?」
俺の顔を覗き込む男。
そうか、納得した
実働部隊の異常なまでの根性、統率された動き、そして多少の犠牲はものともしない命をかろんじた作戦。
これは、やつに教えこまれたんだろう。
てっきりあの時デーモンに皆殺しにされていたと思ったが、どうやら憎まれっ子世に憚るという言葉は本当らしい。
「俺の顔を忘れたとは言わさんぞ竜胆。」
「わすれたくとも…そのきょうれつなかおは、そうわすれられないさ…。」
「上司に生意気な口を聞くなボケェっ!!」
胸を思い切り踏みつけられ、肺の空気を強引に吐き出される。
立ち上がろうにも、反撃しようにも先程のテーザー銃が効いて身体が言うことを聞いてくれない。
刀を握ろうにも、腕が痙攣して握れない。
そして、
「だいぶ調子に乗ってるみたいだな?竜胆。髪も染めて、なんだそれは?流行りのカラーコンタクトってやつか?」
「おまえは、相変わらずみたいだな…山本。」
山本というこの男。
こいつはかつて、俺と同じ会社に勤務していた、
いわゆる俺の元上司であった男だ。
「感動の再会だ。もっと喜べよ竜胆。」
そうして俺は、最も会いたくなかった人物との再会を果たした。
後書き
かいせつ
⚫改造バイコーンのオロバス
京都の鬼の領域にて生産されていた改造バイコーン。
本来なら気性の荒いバイコーンではあるが、大人しい種同士を交配させ続けることによってようやく人が乗れるものが開発できた。
力も強く、重い荷物も運べこれからは京都の貴重な足となるだろうと予想されているが、生産は難しいらしく未だに少数の改造バイコーンしかいない。
大和はその内の一頭をもらい、さすがに名前が無いのは可哀想なので”オロバス”と名付けた。
このオロバスは大和を飼い主として認識しており、非常に忠実。
人間の言葉もある程度理解することが出来、そんじょそこらの野生のバイコーンよりかはかなり頭も良い。
ちなみにオロバスの元ネタはソロモン72柱の序列55番目の馬の顔を持つ悪魔から。
馬ということで思いつきでそう名付けたらしい。
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