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艶やかな天使の血族

作者:翔田美琴
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2部 銀髪の悪魔
  7話 銀の悪魔の森へ

「無事、入国審査も通ったね。後は観光ビザを取得しよう。そうすればジオン公国暮らしも出来るだろう」
「いいんですか?本当に?エリオットさんの家にホームステイなんて」
「我が家としてもそういう客人が来るのは嬉しいからね。構わないよ」
「観光ビザは確かこっちだったかな。着いてきて?」

 彼らはまだ空港内だった。
 水菜は辺りを見渡しながらジオン公国の空気を吸う。地球とあまり変わらない。でも地球よりも空気が綺麗なような気もする。地球は環境問題が深刻だから、空気も淀んでいるんだ。だから、こちらが空気が綺麗に感じるのかなと思った。
 空港内で観光ビザを取得した水菜は、エリオットに導かれるまま、ズムシティへと降り立つ。ここからモビルスーツが生まれるのか。全てのはじまりの大地に来たのかという感慨が湧いてくる。
 今日は公国軍での仕事は無いエリオットは自宅へと帰る事にした。水菜という新しいホームメイトを迎えて、エレカに乗り帰路につく。

「ここがズムシティですか?エリオットさんはズムシティのどの辺りに住んでいるんですか?」
「郊外の方かな。都市部はちょっと物騒だからね。それに土地の値段も安くて済む。とりあえず一軒家だから、住んでいる所は」
「どんな家なのか楽しみです」
「あまり期待はしないでくれよ。普通の一軒家だから、さ」

 エレカを走らせる事20分。
 閑静な住宅街に入った。ズムシティとは思えない、普通の住宅街だ。
 奥の方にまるで森の中にあるみたいな一軒家がある。帰りを待っている電灯の明かりが温かいオレンジ色の光を放っている。

「見えたよ。あの森の中にあるような家が私と妻と娘が住む家だよ」
「3人家族ですか?」
「今のところは、だけどね」
「空気がより澄んでいそうです。でも意外です」
「意外?」
「エリオットさんって機械とか便利とか、そんな言葉がイメージにあるので」
「機械はわかるよ。でも何もかも便利とかはあまり使いたくない言葉だね。便利なのは確かにいい事もあるけど、人生を楽しむなら多少は不便も必要だよ。例えば外食だって頼めばすぐに食べられるけど家で作る食事も楽しいし、それが話題になるだろう?」
「アネットさんの料理は美味しいのですか?」
「私の口には合っているかな。付き合い長いから彼女は知り尽くしているね。私の味覚を隅から隅まで」
「娘さんがいるって言ってましたね」
「ジェニファーって名前。あの子は可愛いよ。雰囲気は君に似ているかな」
「私…ですか」
「ただの思い過ごしならいいけど」 

 この話題を話す頃にはエレカを駐車場に停めてエレカから降りている。
 それぞれ手荷物を持ち玄関に向かう。
 インターホンを鳴らす。
 ドアの鍵が開けられ、家から出たのはエリオット・レムの愛妻、アネット。見知らぬ女性を連れてきた。

「おかえりなさい。エリオット。その方は?」
「我が家にホームステイをしたいという事で連れてきたんだ。後で事情は話すから、まずはゲストルームに案内してやってくれるか?」
「え、ええ。お名前は?」
「水菜です。はじめまして、アネットさん」
「はじめまして。この人に教えて貰ったのね?私の名前?」
「はい」

(見た感じ悪い人ではない見たいね。ごく普通の旅行者って感じね。中に入れても大丈夫そうね)
「どうぞ、お入りになって?今、お茶を出しますから」
「あっさりですね」
「君が悪い事をするような人じゃないってわかったからだよ」 
「どうぞ、入ってくれ。今度こそレム家にようこそ」

 何だか不思議と他人の家なのに落ち着けると思う水菜。ここの空気は落ち着ける。昔の実家と同じ空気が流れている。
 レム中佐も軍人から家庭で見せる顔になっているような気がする。どことなく柔らかい。

「客間に案内しておくよ。アネット」
「ええ」 
(へえ…あの人がホームメイトを連れてくるなんて珍しい事もあるものね。でも何だか面白くなりそうね)

 エリオット・レムの家の客間には大きなスクリーンがある。まるで映画館のような雰囲気だ。遮光カーテンもあるし、部屋に飾られた小物もセンスを感じる。
 ソファも2つ程あり、照明はシャンデリアだった。

「豪華ですね。映画館よりリラックス出来るかも」
「あまり使う事のない部屋だけどね」
「お待たせしました。どうぞ、召し上がりになって?」
「じゃあ…改めて自己紹介と家族紹介をしようか。ここの主のエリオット・レム、この人が私の愛妻アネット」

 アネットさんはなんだか艶やかな女性だった。短いショートカットが似合い過ぎる。目の色は青で、服装は何となく身軽な雰囲気。夫婦で並ぶとエリオットさんと本当に似合う女性だった。アネットさんは軽く微笑み、彼の右側にいる。

「それから…この子が娘のジェニファー・レム。ジェニファー?この人は水菜お姉さん。しばらくこの家に一緒に住むから」
「よろしく、ジェニファーちゃん」
「ジェニファーです!」

 自慢するだけはある。 
 この子の純真な雰囲気は、水菜に妹が出きたような錯覚を起こさせた。
 こうして、水菜もこれからレム一家と時間を過ごす。
 水菜を根本的に変えるホームステイが始まった。
 彼女は銀の悪魔の森へ入っていく。
 その先に待っているのは、エリオットとの得難い快楽となる事をまだ…知らない。 
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