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『外伝:青』崩壊した世界に来たけど僕はここでもお栄ちゃんにいじめられる

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継ぎ接ぎの絵描きと兄妹になる話

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
この話では舞くんがゴッホちゃんと出会い、なんやかんやあって兄妹になるお話の”なんやかんや”の部分になります。
本編にて、ゴッホちゃんが舞くんの事を『お兄様』と呼んで慕っているのを疑問に思った方も多くいたかと思います。
はい、その話の解明ですね。
いやあのね、ヴルトゥームの事を知ったら書かずにはいられなかったの。
舞くん、お兄ちゃんにしようってもう決めてたの。
それでは本編、どうぞ。 

 
あれから、僕の身体は限界を迎えつつあった。
いや、別に真面目な意味じゃない。
人によっては嫉妬を産みかねない僕だけの悩み。
それは、

「ほらどうしたマゾ犬♡イけ♡情けなくおれン腟内(ナカ)に出しちまえ♡ほら♡ほらァ♡」
「あぁぁだめっ♡ぼく、ぼくもうイッちゃうからぁ♡♡」

現実では毎晩お栄ちゃんからいじめられる
これはまだいい。
辛いのはここからだ。

「はい。マゾ犬さん。私の椅子になってくださいな♡」
「わ、わう…。」

眠りについた先、
夢の中ではアビーが待っている。
お栄ちゃんとは違い、飴と鞭ではなく鞭と鞭で行われる容赦ない調教は僕を精神崩壊寸前まで追い込んでくる。
それと、

「ああ…ゾクゾクしますね…♡いいんですよたくさん甘えて…日々の辛さを精子と一緒に吐き出してしまいましょうね。それ、ぴゅっぴゅー♡」

アビーでは無い日はユゥユゥの相手もしないといけない。
極限まで甘やかされ、堕とされる僕を見てユゥユゥはかなりゾクゾクするみたいだ。

とまぁ、ここまでの事を簡単に言うのならば、
僕は毎日2人と、場合によっては3人と魔力供給をしている。
いじめられるのは嬉しい。
たまに甘やかされるのだって嫌じゃない。
けど、精神的には大歓迎でも肉体的には限界があった。

「…。」
「マイ、どうしたんだい?」
「おちんちんが痛くて…。」

現実でも夢の中でも犯され続け、酷使されたおちんちんは悲鳴を上げている。
亜鉛サプリを日々常用し、常におちんちんを労りながら生活する毎日。
ぶっちゃけ僕はそんな毎日に、少しずつ嫌気が差していた。

たまには、のんびり過ごしたい。
なんかこう…のどかな自然で誰かと一緒にお茶したり、時には風景を眺めて絵を描いたりと、
ともかく、健全なスローライフを過ごしてみたいなと思うようになっていた。
そして、そんな僕の淡い夢は…

「え?」

ある日突然叶ってしまった。

「どこ、ここ?」

お栄ちゃんとの魔力供給を終え、泥のように眠りについた僕。
眠る直前、「あぁ、今日はどっちだろ…それとも2人相手かな…。」なんて思っていたけど今僕が立っているのは、

「のどかな風景…これだ…これだよ…!」

アビーの時のお屋敷でもなく、ユゥユゥの時の宮殿でもない。
なんの変哲もい、時節鳥の鳴き声が聞こえ、目の前には一面のひまわり畑の広がったいかにもな場所。
僕の強い願いが、こういった夢の世界を作り出したのだろうか…?
にしても、

「誰も…いないのかな?」

アビーかユゥユゥ、そろそろどちらか出てきてもおかしくはないはず。

「アビー?ユゥユゥ?お栄ちゃーん?どこー?」

念の為お栄ちゃんも呼んでみるけど、返事は返ってこない。
ただひまわり畑が風に揺られているだけだ。

「…?」

振り向くと、そこには黄色い小屋があった。
少し小さめの、童話に出てそうなこぢんまりとした小屋だ。
煙突からはもくもくと煙が出ているし、誰かいるかもしれない。
そう思い僕は小屋の中へとお邪魔する。

「…。」

小屋の中には誰もいない。
ただ、気配はする。
ついさっきまでここに人が生活していた、そんな気配を感じた。
それに…なんだろう…。
懐かしいような…暖かいような…
何か、僕に近しい者のような気配も感じた。

「…!」

と、そろそろ小屋を出ようと思った時だ。
物陰から覗く何者かと目が合った。

「ひっ…!」
「!」

その子は怯え、キッチンへと逃げ込んでいく。
僕は後を追いかけると、その子は隅の方でその小さな体を縮こまらせ、麦わら帽子みたいな被り物を被った頭を抱えて蹲っていた。

「あの…キミは?」
「…。」
「あ、ごめんね。僕は葛城舞。大丈夫、悪い人じゃないよ。」
「…。」

優しく手を差し伸べると、その子はハッとした表情をし、

「葛城…舞、あなたが葛城舞様なんですね…?」
「うん。」

僕の名前を確かめ、その子はすっと立ち上がった。

「キミの名前は?」
「わ、わたしですか?」
「そ、キミ。」
「サ…サーヴァント、フォーリナー…。」

震えた声で自己紹介を始める。
そしてこれが、僕と彼女の初めての出会いだった。

「見ての通り…ゴッホです…。」




それから、

「美味しい?」
「は、はい!美味しいです何杯でもいけちゃいます!舞様はお料理上手なんですね…!」

ゴッホと名乗ったその女の子と共に夢の中の朝食を摂ることにした。
仲良くなるならまずは一緒にご飯を食べよう。
幸い冷蔵庫にはたくさん材料があったし、一応家主であろうゴッホちゃんからは好きに使っていいですと言われたので遠慮なくそうさせてもらった。

「様はいらないよ。フツーに舞とかでいいよ。」
「い、いえ!そんなの失礼過ぎます。わたしは、ゴッホはサーヴァントです…。サーヴァントはマスターの奴隷なのですから…呼び捨てなんてとんでもございません!」
「…?」
「い、いえ!なんでもないですすいません!!あ!肉じゃが頂きますね!はふっ!ふぉ!?ほぁえぇ!!!!ごほっ!ごっほお!?」
「ゴッホちゃん!?」

気になることを言ったけど、それを誤魔化すためにほくほくの肉じゃがを頬張ったゴッホちゃん。
案の定、あつあつのジャガイモは口内で暴れており僕は慌てて水を差し出した。

「…大丈夫?」
「ぜー、ぜー…ふ、ふふふ。ごほっ、ごっほぉって咳き込んでしまいました…えへへ…ゴッホジョーク…。」

震えた声で静かに笑う彼女…。
本当に大丈夫なのかな…?

「ところでゴッホちゃん。さっきサーヴァントはマスターの奴隷って…。」
「あ、ああいえ…今のことは気にしないで下さい。ゴッホの独り言みたいなものです、はい…。」
「…。」

気にしないでなんて言われたけど、
僕はどうしても気にしないということは出来なかった。

「サーヴァントは…奴隷なんかじゃないよ。」
「え?」
「この世界で色んな人を見てきたけど、ある人は友達だったり、ある人は恋人だったり、またある人は強くなるための目標だったりする。少なくとも、僕はサーヴァントをそんな風に扱う人は見たことない。」
「で、ですが…。」

フォーリナー、ゴッホと名乗った彼女が何者なのかは分からない。
けど、その考えはどうにかするべきだ。
サーヴァントは奴隷なんかじゃない。
さっきそんな風に扱う人は見たことないって言ったけど、実はその言葉は嘘になる。
サーヴァントを奴隷同然、もしくは道具のように扱う奴を僕は知っていた。

「ゴッホちゃん、」
「は、はい?」
「マスターはいるの?それともはぐれ?」
「え、えぇと…あ、いや…その…あ!そうですはぐれ!はぐれサーヴァントなんです!!」

と、説明を始めるゴッホちゃん。
物心ついた頃から夢の中を漂っていたみたいで、色んな人の夢を漂流して行ったということ。
こうして、僕の夢に流れ着いたとのこと。


「そうなんだ…寂しくなかった?」
「ゴッホは…大丈夫です。そういうのは慣れてますから。」
「慣れてるって…最初は寂しかったってこと?」
「…。」

彼女はただ黙って、こくりと頷く。

「慣れるってさ、ダメだよ。寂しかったなら寂しいって言わなきゃ。」
「はい…すいません。」
「謝らなくていいよ。もうこうして、一緒にご飯食べた仲なんだから。」

こうしてゴッホちゃんと夢の中で出会えた。
何かの縁かもしれないし、仲良くしておいて悪いことはないと思う。

「そうだ!ゴッホちゃん!」

そして仲良くなるために僕は、あることを思い付いた。

「な、何でしょう?舞様…。」
「ゴッホちゃんは、”ゴッホ”なんでしょ?」
「は、はい…。」

女の子だしどう見てもゴッホとは思えないけど、彼女がそういうのなら彼女はゴッホだ。
なら仲良くなる答えは簡単。
僕は棚に置いてあるスケッチブックを見つけ、手に取り

「絵を描こうよ!2人で一緒に!」






食事を済ませ、食器を洗ってから僕とゴッホちゃんはスケッチブックと画材道具を抱えて小屋を出て、ひまわり畑へとやってきた。

「こんなにいい景色なんだ。折角だから描いておきたいよね!」
「そうですね…えへへ。」

草むらに座り込み、スケッチブックを開く。
真っ白な世界。この画用紙は今から僕が思うがままに描ける世界だ。
今から僕はここに、僕だけのものを自由に描ける。
だから、絵を描くのは楽しい。
楽しいから描く、描きたいから描く。
お栄ちゃんと同じように、僕もまた好きなだけ好きなように描きたいんだ。

「…。」
「?」

と、まずは鉛筆でさらさらと下書きをしていくわけだけど、その様子をゴッホちゃんは横から覗き込むようにしてずっと見ていた。

「ゴッホちゃん?」
「…あ、はい!?」
「描かないの?」
「あ、あぁいえ…舞様のペンさばきに見とれてしまっていたといいますか…と、とてもお上手ですね!!」

と、世界的に有名な画家さんに褒められちゃった。

「実は僕、お栄ちゃんにもうまいって褒められたんだ。」
「お栄ちゃん…ホクサイ!?ホクサイに!?そうでした!舞様はホクサイのマスターなんでしたっけ!!」

と、お栄ちゃんの名前を聞くと大興奮のゴッホ。

「うん。それととと様からも褒められてね。まさにお墨付きってやつ。タコだけに。」
「そ、それは…。」
「ゴッホジョーク。なんちゃって。」
「ふふ…えへへ…。」

自然と、彼女の口から笑顔が漏れた。
なんだかそれがとても嬉しくて、それと同時に…なんだろう。守らなきゃなとも思えた。
にしてもこの感覚はどういうことなんだろう。
ゴッホちゃんとは初対面。なのに彼女とはずっと前から会っているような、知り合いのような、
いや、もっと親しい間柄のような親近感を感じる。
まるで…

「舞様は…暖かいですね。そよ風みたいな優しさと穏やかさがあって、いつも笑ってて、そばに居ると安心します。まるで…ゴッホに居るはずのない”お兄様”が出来たみたいで…。」

まるで、妹。
ゴッホちゃんからは何かきょうだいのようなものをかんじとれたんだ。
僕は弟だったから分からない。けど…
妹がいる人って言うのは、こういう感覚なんだろうか。

「お兄…様。」
「ハッ!?すっ、すすすすすいません!!!ゴッホなんかが舞様のご兄妹だなんて…!し、失礼にも程がありすぎますよね!!すいません!!!身の程を知らなさ過ぎました!!どうかお許しを!!!!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよゴッホちゃん!」

あわあわおろおろし、青ざめた表情で土下座を決め込もうとするゴッホちゃんを止める。

「申し訳ありません申し訳ありません!!今すぐ死にます!あ、拳銃とかあります?ここは謝罪の意を込めて舞様にゴッホの眉間目掛けて1発ドカンと!!いえ!失礼しました!!やはり舞様の手をわずらわせるわけにはいかないですね!!やはり自分の手で…」
「ゴッホちゃん!!!!」

情緒不安定。
そういった言葉が、今の彼女に当てはまるだろう。
過呼吸になりかけ、震えた声で話す彼女を落ち着けるにはどうしたらいいか、
カンタンだ。

「舞…様?」
「嫌なんて…思ってないよ。」

それを受け止める。
まさに兄妹のように優しく、抱きしめてあげることだ。
会って間もないのに、抱きつくだなんてセクハラに近いのでは?
そう思ったけど、僕の身体は無意識に動いて、そんなゴッホちゃんを落ち着けるべく抱き締めたんだ。

「で、ですが…。」
「出会って間もないけど僕、ゴッホちゃんに”お兄様”って呼ばれてすごく嬉しかった。」
「え…。」
「それにね、僕もなんか…ゴッホちゃんが妹みたいに思えてきてさ。」
「ゴッホが…舞様の?」

一度離れ、彼女の小さな肩に両手を置く。

「だからさ…どうかな?」
「…何が、でしょうか?」
「こうして会ったのも何かの縁。僕達、”兄妹”にならない?」

目を見開き、有り得ないものを見たような驚愕の表情を浮かべたゴッホ。
震える顔、そして目からは溜まった涙がぽろぽろとこぼれ、

「ゴッホなんかで…いいんですか?」
「自分を下卑しないで。ゴッホちゃんはきっと、もっとすごいサーヴァントなんだから。」
「舞様…」
「なぁに?ゴッホちゃん。」

そうして、僕とゴッホちゃんは兄妹としての契りを結んだ。
かつて弟だった僕は”兄”となり、
かつて兄だった彼女は”妹”となった。
なんともおかしな関係で、なんとも奇妙な縁。
それでも、僕達は立派な兄妹だ。

「だとしたらこれからは…わたしは、舞様をお兄様と呼んでも?」
「うん。いいよ。」

僕が兄、ゴッホちゃんが妹。
彼女が僕をお兄様と呼び、多少震え声だけどえへへと笑ってみせる。

「ゴッホちゃん。」
「な、なんでしょうお兄様…。」

スケッチブックを一旦地面に置き、妹となった彼女を優しく抱きしめる。
小さくて、細くて、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうな繊細な身体。
抱き上げるとびっくりするくらい軽くて、またご飯を作ってあげようと思えた。

「これからよろしくね。」
「はい…こちらこそ、喜んで。」

彼女の不器用な笑み。
僕にとってそれは、とてもかけがえのないもので、とても可愛く見えた。

のどかな場所で、気ままに過ごす。
僕の思い描いていた理想の生活はここに実現し、時間いっぱいまで毎日ゴッホちゃんと楽しんだ。

一緒にご飯を食べたり、夢の中なのにお昼寝したり、変わらないひまわり畑の中を一緒に散歩したり、

長い間一緒にいたわけじゃないのに、何故か彼女から感じる親近感。
いるはずのない妹が出来たみたいで、とても楽しく感じられた。




場所は変わり、葛城財団本部。

「で、状況は?」
「はい、マスター様…無事に彼の夢と繋がることに成功しました。」

昼過ぎ頃。
寝起きの性行為を楽しんでいる葛城財団代表、葛城恋。
そんな彼に対してひざまづき、作戦結果を報告している者がいた。

「ほう…で?」
「夢で彼を殺せば、現実でも死に絶えます。彼が私を信用しきって油断したその瞬間、私が殺すといった手順です。」
「回りくどい。もう少しサクッとできねぇのか?」

サーヴァントを犯しながら代表はやや怒りを込めて返事をした。
彼は怒っている。
そう感じとり、オロオロしだす彼女。

「そ、それは…。」
「おい。俺様のサーバントに相応しい仕事ぶり見せろ。分かってんのか?絵ぇ描く事しか能のねぇ穀潰しがよ。」

そう、彼女はサーヴァント。
葛城恋の持つ歪な聖杯によって呼び出されたフォーリナー。
弟が三騎ものフォーリナーを連れているということを聞き、いてもたってもいられなくなった彼はこうして自分だけのフォーリナーを召喚したのだ。
弟が持っていて、兄が持っていないのはおかしいからだ。

「…。」
「いいか?俺様の命令は絶対。遅くとも1週間以内に必ずあのクソガイジを殺せ。出来なかったら…分かるな?」

そして代表は召喚したフォーリナーに葛城舞の暗殺を命じた。
そんな彼の殺害命令を受けたフォーリナーの名は。

「はい…マスター様。あなたの願いは…このゴッホが…クリュティエ=ヴァン・ゴッホが必ず成し遂げてみせます…!」

フォーリナー、ゴッホ。
舞が夢の中で出会った、あのゴッホであった。





 
 

 
後書き
かいせつ

⚫舞くんがゴッホを妹のように感じたワケ
霊基的なものとか運命的なものではなく、その親近感の正体は2人の持つ旧支配者の神性にあります。
舞くんはかつて、黄衣の王と繋がったこともあり、風の神性を宿しています。
そしてゴッホちゃんを創造した旧支配者はヴルトゥームと言われていますが、そのヴルトゥームはクトゥルフやハスターの弟にあたるそうです。
つまりきょうだい。ヴルトゥームの気配を感じ取った舞くんはそれを”兄弟のような親近感”と錯覚し、ゴッホを妹のように可愛がります。
ゴッホもまた舞くんから黄衣の王の気配を感じとり、同じような錯覚を起こして彼を”お兄様”と呼び慕うようになりました。
一方は弟から兄へ、
そしてもう一方は兄から妹へ、
そうしてここになんとも不思議かつ、歪な兄妹関係が出来上がったということなのです。
 
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