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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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あたしと香子は、アイドルになる

「それでは葵様、次のれっすんへ参りましょう。」
「いや、ちょっと待って…。」

アイドル勝負をふっかけられてから三日経った日のこと。
ダンスにボーカルと、仕事の合間に様々なレッスンをこなしてきたはいいものの…

「どうか…いたしましたか?」
「ごめん…休憩…。」

慣れないことをするととても疲れる。
運動は人並み以上にできる自信はあり、ダンスは特に問題もなくやれた。
なのだがあたしは音痴だ。ボイストレーニングもやったけど上手くなった気がしない。

それになにより…

「葵様、笑顔です。」
「こ、こう…?」
「まだぎこちないと思います。もっと自然な笑顔で…。」

アイドルらしくする事こそ、あたしが最も苦手とするものだ。
愛想を振りまく?できっこない。
吊り目気味の三白眼というあたしの目はそもそもアイドルには向いていない。
今思えば、ほぼ出来レースな勝負を受けてしまったものだ。

「香子…。」
「どうされました?」
「もうさ…荷物、まとめる?」

諦め。
そんなネガティブな考えが湧き、勝負で惨めに負ける前にさっさとここを引き渡してしまおうと考えてしまう。
図書館なら、別の場所を見つけてやり直せばいいじゃないか。
なんなら、最初から開け渡せばよかったのに…。
そう、思っていた時だ。

「いいえ、諦めるのはまだ早いわよん。」
「この声は…!」

ついこの前聞いたことがあるような声。
その主はどこかと香子と一緒に辺りを見回していると

「おはよう、崩壊世界のレズカップルさん。地獄の女神様へカーティア・ラピスラズリ。ここに見参よ。」

いた。
いつの間にか後ろにいた。
さらに

「僕もいるよ。勝手にお邪魔してごめんね。」

八百万ソフィー。
数日前に取材に行った神社の同類(レズカップル)

「なんの用?今取り込み中なんだけど…。」
「話は聞いてるわ。なんでもアイドルになりたいそうね。」
「いや、だいぶはしょられ」
「いいの、みなまで言わなくても。私には分かる、分かるわ。何か面白いことするのよね?」
「いや、面白いものなにも真面目に」
「いいわ!手伝いましょうよ!ねぇソフィー!!」

と、話しはどこで聞いたか知らないがなぜだか強引に丸め込まれてしまった。

「というわけでソフィー。あなた、お手伝いなさいな。」
「え、いきなりそんな…神社のこととか」
「その辺はエミヤに任せとけばいいでしょ。ほら、この前の取材のお詫びっていうことで、ね?」

勝手にどんどん話を進めていく自称地獄の女神様。
ほら見なよ。香子なんか完全に置いていかれてよく分からなくなってるじゃん。
それにソフィーの反応。これきっと地獄の女神様が今決めたんだよね?その場のノリで決めたんだよね?

「そうと決まればソフィー!今この場に必要な人達を呼んで頂戴な。」
「へカーティアがそういうのなら…うん。分かった。」

と、へカーティアさんの強引な言動により皆が流されてしまい、ソフィーが何故かあたし達のアイドルレッスンを手伝うこととなった。
まず何をするのかと思えば、彼女はその場で片膝をつき、両手を握り合わせて何か祈り始めたのだ。

「あの…なにしてるの?」
「ごめん。集中するから後で。ボーカルレッスンなら…この子達だ…!」

目を瞑り、より一層強く祈るソフィー。
するとどうだろう、上から光の柱みたいなものが降り立ち、ソフィーの傍に誰かが立っていた。
3つの人影…それは

「ミスティア・ローレライ!」
「幽谷 響子《かそだに きょうこ》!」
「「私達は『鳥獣戯画』!!」」

知らない人だ…。
あと、

「何故この2人に私の組み合わせなのかな?ソフィー。」
「リズムを取るのなら、雷鼓がいいかなって。」
「なるほど。キミの頼みなら仕方ない。ではあらためて堀川 雷鼓(ほりかわ らいこ)。八百万ソフィーの名を受け召喚に応じたよ。」

と、先に現れた2人とは対照的に落ち着いた雰囲気の赤い髪の女性はそう言った。

「えっと…これは?」
「ソフィーの能力よん。絆を深めた…もとい縁の繋がった幻想郷の住人を崩壊世界(こちら側)に三人まで呼び出せるの。」

と、へカーティアはそう説明する。
彼女の能力によって、幻想郷というところから縁のある人達を召喚する…。
それじゃまるで

「似てるでしょ?あなた達マスターやサーヴァントの関係性と。」

そう。英霊召喚みたいだ。
縁の繋がったサーヴァントを召喚することが出来る
そのシステムはソフィーのものとまるで同じだ。

「そんなわけでソフィーは今あなたにピッタリな住人達を喚んでくれたの。どの子達も歌のプロフェッショナルよん。」

「私は歌というよりかは楽器なんだけどなぁ。」

へカーティアの後ろで赤い髪の女性…堀川雷鼓といった人がそう愚痴を漏らすが、満更でも無さそうだ。
おそらくソフィーに喚ばれたのが嬉しいのかもしれない。

【とは言っているが、久しぶりに頼りにされて嬉しいのだ。冷静さを装っているものの心は躍っていることに変わりはない。】
「えっ、雷鼓さんなんか出てます!フキダシみたいなのが!!」
「ああっ!泰山解説祭が…!ももも申し訳ありません!!」

やっぱりそうだった。





数時間前…。

「ここまで来ればだいじょぶっしょ。」

森川真誉は数人の男達に安全な場所へ案内してあげると言われ、ついていくことにした。
そうしてやって来たのがどこかの廃墟。
元はBARか何かだったのだろうが、もうかつての面影はほとんど残っていない。
そしてここは、男達の拠点でもあった。

「おしゃれだねー。」
「あ、キミもそう思う?元々ここBARだったみたいでさ、もっと俺たち流にアレンジてみよっかなーって。」

気さくに話す男性。
しかしその優しそうな笑顔の裏側には、どす黒い欲望が渦巻いている。

「じゃ、はい。」
「?」

男が、彼女に手のひらを差し出す。

「?」
「ちげぇよ。金だよ金。」

首を傾げながら握手をしようとその手を握ると、乱暴に振り払われてしまう。
握手がしたいわけじゃない、彼らは金銭を要求していた。

「等価交換って言葉、分かる?助けてやったんだからさ。その分金払ってもらわねぇと困るんだよね。」
「そーそー。俺達慈善事業じゃねーからさ。」

周囲に座っていた男達が次々と立ち上がり、彼女にどんどん近付いて逃げ場を無くしていく。

そう、情で助けたんじゃない。

「お金、ないよ?」
「あっそ。じゃあ身体で払ってもらおっか。」

己のエゴ。欲望に従って彼女を助けた。
もとい連れ込んだのだ。
困っている女性を助けるフリをし、連れ込む。
それがこの半グレ集団のやり口だった。
これまでに何人もの罪もない女性達が犠牲となったのだが、

「はい。じゃあこれあげる。」

それも、これまでだ。

「は?」

彼女が人形のファスナーをあけ、取り出したのは御札。
男はそれを受け取るが、お金でもないし一種の気味悪さを覚えたので

「んなもんいらねぇから!」

両手で持ち、縦に破り捨てた。
するとどうだろう。

「ぶゅぎぇえ!?」
「………は?」

後ろから妙な声が聞こえたと思い振り返れば、そこには真っ二つに別れたかつて友人だったものが。
そう、
ちょうど御札を縦に裂いたのと同じ死に方であった。

「は?え?な、なにが」

頭の処理が追いつかないまま、男の頭部は胴体に別れを告げた。
黒い鞭のようなものがしなり、首を切断。
それは一本だけではない。何本も地面から現れ、周囲の男達をも切り裂いていく。

「うわぁ!!うわぁあああああああ!!!!」

数人が錯乱して出口に殺到するも、その前に真っ黒な"何か"が立ちはだかり通せんぼしてしまう。
人型のそれは腕を振るい、逃げてきた男達を片っ端から刺し殺していく。

「…終わっちゃった。」

そうして、この空間で動くものは森川真誉一人だけとなった。

「一分と持ちませんでしたな、なんと根性の無い。」

違う。
もう一人、いやもう一騎いた。

「おかえり道満。」
「ええ、ただいま帰りました。元いた場所におりませんでしたので、拙僧、ほんの少し焦りましたぞ。」

奇抜な見た目の彼は、まごうことなきサーヴァント。
道満と呼ばれた彼はまさに、この森川真誉の契約するそれである。

「あれ?道満何持ってるの?」

そうして帰ってきた道満が何か紙のようなものを持っていることに気付く真誉。
彼はそのまま渡すと、そこにはこう書かれていた。

「ふむふむ…一週間後にライブ開催だって!」
「騒がしい竜の娘がそれを配っておりましたので、一枚拝借致しました。」

騒がしい竜の娘とは、エリザベートのことだ。
そのライブとはまさに、あのエリザベートと葵の行うアイドル対決のこと。
そして蘆屋道満がこれを手に取り、マスターに教えた理由は共にライブを見に行く訳では無い。

「真誉殿。いかがですかな?」

道満が、にんまりと笑う。
その笑みにつられ、彼女もにんまりと笑った。

「うん。いいね。ちょうど"この子達"の使い道も考えてたとこだし。ここにしようよ。」
「ンンンンンンン流石は拙僧のマスタァ!!期待通りの返事をなさる!!」

何かをすることを決めた。
人形のファスナーから数枚の御札を取り、投げる。
それぞれ一枚がそこら中に転がる死体にぺたりと張り付くと、動かないはずのそれはビクビクと痙攣し始めた。

「面白いことをしよう。たくさんやって、滅茶苦茶にして、いっぱい殺していっぱい死んで…そうして私はもっともっと可哀想な、桜ちゃんみたいな悲劇のヒロインになれる…!ふふ、ふふふ!あはははははははは!!!!」
「ええなれますとも。真誉殿ならばこの世で最も悲劇的なヒロインになれるでしょうぞ。嗚呼、今から楽しみで仕方がない!!ンンン!ンンフフハハハハハ!!!!!!」


死体だったものが呻き声を上げながらゆらりと起き上がり、よたよたと歩き出す。
半グレ集団が拠点としていた寂れた地下のBARからは、いつまでも2人の愉快な笑い声がこだましていた。




「…どう?」
「いいよ。才能はある。筋も良い。音痴だって言ってたのに全然上手いじゃないか。」
「そこまでベタ褒めされると…少し照れるんだけど…。」

現在。
図書館のレッスンルームにてボイストレーニングを行うあたしと香子。
苦戦するかと思いきや、思いのほか順調に進んでいた。

「声の出し方もすぐにマスターしちゃいましたし、もしかして私達鳥獣戯画ってもう教えることないのでは?」
「シャウトもバッチリだしねー。」
「いやいや、そんなことないって。」

鳥の羽が生えた子、ミスティアが残念そうな顔をしながらそういうもあたし自身はまだまだ教えてもらいたいことはたくさんある。
しかし、

「良かったら休憩ついでにお茶しない?色々話してみたいんだあたし。」
「残念だが気持ちだけ受け取っておくよ。名残惜しいが時間切れだ。」
「え?」

喚びだされた住人の一人、堀川雷鼓がそう言った直後、彼女ら3人は足から光の粒子になって消えていく。

「え…なにこれ。」
「一時間。僕の能力だとこの子達がこの崩壊世界にいられるのは一時間が限界なんだ。」

よくわからない事態にソフィーはそう説明してくれた。
たった一時間。それだけだったけど、とても為になる時間だったし、長くも感じた。
それにだ

「そっか…ありがとう。ミスティア、響子、雷鼓さん。だいぶうまくなったよ。」

音痴だったあたしが、自信を持って歌えるようになるくらいには上達できた。
きっとあの子達は、すごい子達だ。

「よし、次だ。」

そうしてまたソフィーは祈り始める。
ボイストレーニングだけじゃない。残り一週間という期限の中、あたしはよりアイドルらしくなる為に少しでも多くのことを学ばないといけない。

「ふふ…。」
「何?紫式部。」

と思っていると、香子があたしの顔を見て笑った。
なにかついているのかとレッスンルームにある鏡を見るが、何もついていない。

「いえ、幻想郷の方々とれっすんをこなしている内に、随分と自然な笑顔をするようになられましたね。」
「…?」

振り返ってもう一度鏡を見るも、そこにはいつも通りのあたしの顔。
初見であまりいい印象を与えなさそうな、見慣れた顔が映っているだけだ。

「歌っている時、とっても楽しそうだったよ。」

と、隣にいたソフィーがそう言った。

「歌ってる時?」
「そう。とっても自然な、アイドルみたいな笑顔だった。これならアイドル対決に絶対勝てるよ。」
「そんな事言われても…。」

もう一度笑顔の練習をしてみるも、やはりぎこちない笑顔しか出ない。
そうしていると、背後からポンと肩を叩かれる。

「笑顔の練習か?奇遇だな。私もそれの真っ最中なんだ。」

振り返ればそこには新しい幻想郷の住人が。
無表情で、能面を頭に飾って…こう、なんとも個性的なスカートをはいた子だった。

「じゃあレッスンよろしく、こころちゃん。」
「任せろ。感情を表に出すのは苦手だが、やってやるさ。」

彼女の名は秦こころ。
能面の付喪神みたいなもので、感情の出し方があまり得意ではないそうだ。

「同じ目標を持ってた方が、トレーニングもやりやすいかなって。」
「なるほど。」

そんなわけで、一時間限定の講師付きトレーニングがまた始まる。

「源葵、そのサーヴァントの紫式部…だな。覚えたぞ。私は秦こころ。共に笑顔の練習をしよう。」

人差し指で口角を持ち上げ、擬似的な笑顔を作ってこころはそう言った。

 
 

 
後書き
かいせつ

⚫ソフィーの能力
彼女は幻想郷の住人であるため、特有の能力を持っている。
それが『喚び出す程度の能力』と『祈る程度の能力』。
前者は劇中の通り、幻想郷に住む者達を自分の元へ召喚すること。
後者はその喚び出した仲間を強化したりする為のもの。
なお、縁の繋がったものや両者の合意がなくては喚ぶことができない。
これは英霊召喚にとてもよく似ているが、ソフィーの関係性とは全くの不明。
喚び出すにあたって身体的なデメリットはないらしく、一時間というリミットを除けば破格の能力を持っており、場合によってはサーヴァントと渡り合えるもしくは凌駕する猛者もいるので敵としてはそれは充分驚異になり得る。

⚫幻想郷の住人について
分からない人がいるのでは?という質問があるかもしれませんがその辺は受け付けないっす。
だってこの子とコラボするに当たって東方Projectのキャラクターを出すことは避けられないようなもんですから!
いちいちそのキャラクターの解説挟むと文章量エグくなっちゃうし、気になった人はぜひ調べて見てね! 
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