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艶やかな天使の血族

作者:翔田美琴
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3部 公人と私人
  16話 迫るカウントダウン

 いよいよジオン公国が開戦の為のカウントダウンに入った。
 私も今は各部隊にMS-06S型の配備の為に自らの足で受け渡しをしている。
 今日はドズル閣下直属の部隊に受け渡しを行う。特に念入りに調整するのは、赤い彗星、シャア・アズナブル大尉の機体。彼のMS-06S型のセッティングを私が担当する事になっている。
 今はその作業をしている。傍らにはその赤い彗星本人がパイロットシートに座り、私はその横で決めのセッティングを出している。手元にはタブレット端末を持ち、各パイロットの決めのセッティングデータを入れておいた。これが私の公人としての仕事だ。
 ここ数時間もの間、数字ばかり見ている。それぞれのパイロット達には癖があり、それは1人一人全員違う。その為に決めのセッティングを出さないとならない。それに伴いフットペダルの重さや計器類の細かい設定も同時にする。
 そんな最中にマスコミが来て、赤い彗星に取材を申し出てきた。ついでに私もそこにいるから、写真に赤い彗星と写る事になる。まあ私は、ずっと計器類に目をやっていたからな。数字を打ち込む作業をしているから別に気にならない。
 このマスコミ達は要はプロパガンダの為に赤い彗星と私の姿を写真に収めている。赤い彗星は細かく私に確認をしている。フットペダルをもっと軽く、照準センサーはもっと早く。私もそのリクエストに答えながら、数字を打ち込む。
 この赤い彗星は恐らく、とんでもないモビルスーツの操縦をするだろう。細かいリミッター解除もする。

「すいません。お二人ともこちらのレンズを見て下さい」

 マスコミ達は私達を写真に収める為にレンズに注目するように言われる。記念撮影という訳か。
 赤い彗星と私は2人揃って、1枚の写真に収められる。赤い彗星はさすがにこういう事に慣れているね。決めポーズのように敬礼してカメラに撮られていたよ。私はタブレット端末を片手に軽くレンズを見て、口元はどうだったか、わからなかった。
 
「ありがとうございました」

 マスコミの御礼の言葉が終わり、私はまたセッティングに戻る。

「エリオット少佐に決めのセッティングを出して貰えるとは嬉しく思うよ」
「私も君のザクのセッティングを出来るのは嬉しいね。こういうのはメイ・カーウィン君の方が得意分野だけど、このMS-06S型は私がセッティングしろと軍から命令されてね」
「やはりどのパイロットにも決めのセッティングはあるのですか?」
「あるよ。君のこのセッティングも100通り以上あるパターンで君しか使いこなせないセッティングだよ。このモビルスーツに関してはメイ君より私の方が詳しいからね」

 昨日はキシリア閣下直属の部隊の指揮官用ザクIIのセッティングをしていた。黒い三連星はもちろん、他の名だたるパイロットのセッティングに追われた。
 錚々たる顔ぶれのパイロットのセッティングをしたな。
 黒い三連星、真紅の稲妻ジョニー・ライデン。ロバート・ギリアム。ギャビー・ハザード。挙げるとキリがないね。それぞれが個性的なセッティングの持ち主で、注文も多い。それに応えるのが技術屋の仕事だから楽しいよ。彼らが生き残ってくれるならどんなセッティングだって出してあげるのが技術屋だ。それぞれにズバリと当てはまるセッティングを導くと嬉しく思う。私はやはり技術屋の人間なのだとわかる。
 私から願う事は1つ。
 生き残って欲しい。それだけ。生き残って、私のモビルスーツで戦って欲しい。君達にふさわしいモビルスーツを魂に賭けて作るから、生き残って欲しい。
 大体のセッティングはこれでできたな。後は細かな微調整だ。赤い彗星の機体は徹底的に微調整しないと。
 
「所で、あのマスコミ。何処のマスコミだったのかな?」
「恐らくズムシティタイムズかと」
「明日の朝刊に載るのかな?私達の写真」
「1面を飾るのでは?プロパガンダを兼ねて」
「戦意高揚ね。やる気満々だね」
 
 細かいデータをタブレット端末で観ながら、ため息をついたよ。思わず。そして計器類に目をいかせて、数字を打ち込む。
  
「まあ…今からそうでもしないと、国民はやってられないのだろうな。世間的には国力はジオン公国の30倍だ。競馬に例えるなら万馬券に賭けるような気分だね」
「でも……エリオット少佐は、その万馬券に賭けたと言えるのでは?モビルスーツの開発者たる、あなたからすれば」
「そうだね…。そっちに私は生命のチップを賭けたイメージだよ。当たれば万馬券、外れれば命はない。命がけの博打だね」
「その割には楽しそうですな」
「命がけの博打なんて、そうそうできないからね。死ぬか生きるかの瀬戸際なんて面白いじゃないか」
「エリオット少佐は意外なギャンブラーかも知れませんな」
「褒め言葉として受け取るよ。これで大体はセッティングは出来た。どうだ?」
「後、もう少し、細かい調整を頼みます」

 そうして、この日はほぼ赤い彗星の機体のセッティングに時間を充てて、1日を終えた。
 
 翌日。赤い彗星の言った通り、ズムシティタイムズにシャア・アズナブル大尉と私の写真が大きく1面を飾っていたそうで、アネットも驚いたようだ。
 
「ねぇ、ママ!パパが新聞に載ってる!」
「随分と大々的に扱われているわね。赤い彗星の機体のセッティングを担当ねえ…」
「エリオットさん、やっぱり仕事の顔はかっこいいです」 

 そんな世間の噂など気にする必要もない私は、今日はギレン・ザビ閣下直属の部隊へとMS-06S型の受け渡しに赴いた。
 ここでも名だたる名パイロットのセッティングを担当したよ。
 エリック・マンスフィールド少佐とか、もちろん、あのブレニフ・オグス少佐の機体もやった。
 後、少しで、宇宙世紀0078年も終わる。
 運命の日までのカウントダウンは始まった。
 開戦すれば、私は陣頭指揮で現場の生産の指揮をとらないとならない。
 まだ、私は知らないでいた。
 そこは、機械と油と血が香る、地獄となる事に。
 眼前の世界が赤く染まる事を、まだ知らない。いつまでも残る、血の赤に染まる事に。
  
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