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装者達が勘違いしている件について

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閑話①キャロル

 
前書き
従者一同『やってくれた候…………』 

 
…………真琴誠治郎が経営する会社『キッチンズ』。

安易すぎる呼び名とは裏腹に、全国どころか全世界のトップシェアを誇る料理店を核とする総合商社。

料理店・料理の商品化、材料の流通などを担う一流ブランドである。

なぜこのような島国の少年が起こした企業が、全世界の料理関連事業のトップに立てたのか…………

「当番組では、食料を原料から製造し、商品にして流通させている当企業の様々な試みの一部をこの番組限定で教えてもらいました~!」

(…………ああ、あの番組か)

勿論放映前に確認してはいるが、一応の再度の内容の確認のため、液晶テレビから流れる番組を耳だけで流し聞きながら、手は全く止めない。

そう、珍しく誠治郎は、『本気で』料理していた。

ラフな普段着とは対照的に、タイまで締めた純白のコック服で目の前の材料を、『料理』へと変えていく。

刻み、焼き、成形し、徐々に明らかになる、完成形の料理。

普段のふざけた態度はなりを潜め、正確にかつ、素早く調理をする彼の手は、まるで魔法使いのように無駄な工程を省き、かつ丁寧に調理を行っていく。

『寝かせた』パイ生地二枚に、両手で同時に、其々別のフルーツを並べていく。

左右対照的にかつバランスを考えて盛り付けられる、百花繚乱のような色とりどりのフルーツ。

更に、上からこれまた別の材料を流し入れた後、蓋となる生地を乗せ、数秒でそれを閉じる。

パイはまるで、元から閉じていたと言わんばかりに、歪み一つなく閉じていった。

そして、事前に用意した大きなピザ焼き用の木ベラに一つづつ、崩れないように乗っけていく。

そして、直ぐに特製の木炭釜に滑りこむように入れ、焼き上げていった。

同時に、先程まで丁寧に練っていたホイップクリームとカスタードを急速に冷やすために専用の冷蔵庫に入れた。

彼が丁寧に料理をしている理由は一つ。

この企業を支える『屋形骨』の一人(プラス従者)を迎えるためである。

そうして調理を重ね数十分。

最後の料理を完成させたと同時に、彼女は来た。

美しい少女である。

豪奢な金髪を乱雑にまとめ、纏めきれない髪をお下げにして垂らしている少女。

コスプレのような黒い三角帽子に黒いローブ。

それだけ不審な格好をしていても、彼女の整った顔立ちが全てを覆し、総合的に見ると『ちょっと変わった格好をした美少女』という感想で終わる。

(美人は得だな…………)

彼女が到着する一分前にちょうど焼きあがるように設定した釜から、自動的に出てきた焼きたてのパイ。

その焼き上がりを確認して、誠治郎は幼女にしか見えない女性に、綺麗な一礼を返した。

「ようこそいらっしゃいました、キャロル様」

「…………ふん、オレを失望させるなよ、セージ」

さらりと一礼を返す青年と、偉そうにふんぞりかえる幼女。

端から観れば、奇妙な構図である。

しかし、当人にとっては欠片も問題にならない。

何故なら、敬意を示す彼、誠治郎はこの少女キャロル・マールス・ディーンハイムに返しきれない恩があるのだから。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

彼と彼女の関係は、彼が小さなリストランテで厨房を任されるようになった15歳の頃に遡る。

彼が修行していた、おおらかな人柄の店長がいるそのリストランテで、下ごしらえや目利きなどの一通り学び、合格ラインをこした彼は、時折厨房を任されていた。

その日は雨で、確か店長が早めのシェスタ(昼寝)をした日だったか。

カランカランとドアのベルが鳴り、来たのは一人の少女。

その格好といい、見た目の年齢といい、とても一人でリストランテに入れるような人には見えなかった。

だからだろうか。

女将は旦那である店長を起こそうとせずに、言った。

「セージ、あんたが作って、おまけしてやりな!」

つまりは、料理長が作らない代わりに、値段をおまけしてあげろ、って事らしい。

その答えに、少々安堵しながら、誠治郎は注文に向かった。

…………ダサいと言わないでほしい。

これでも既に料理人としてある程度貰っていたので、彼女が本当に困っていれば立て替えることは出来た。

だが、不必要な出費としては、このレストランの会計はきつい。

…………ちなみに、彼が勤めていたリストランテは、語源になった高級レストランとまではいかないが、ある程度の歴史のあるイタリアのリストランテで、日本円にすると、ディナーフルコースで万札1枚、プラスお酒という価格である。

その内心を押し隠し、彼は笑顔でその少女に問いかけた。

「それで、何か食べたいものはあるかい、レディ?」

それが、キャロルと誠治郎の最初の出会い。

え、一目で原作のキャロルと分からなかったのかって?

いや、言い訳になるが本や画面で見るのと三次元で見るとは又違うし。

そもそもお客様としてきた幼女に絡んだら事案である(失礼)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

…………まあ、下らない自分の過去を振り返るのは後にしよう。

問題はそこではない。

「このケーキは十点満点中七点、酸味が強すぎて俺様向きじゃない。このシャーベットは良いじゃないか、八点やろう」

え、○次元ポケット?と言わんばかりに、彼女は信じられない早さで、回りのケーキを消費している。

その度に、彼は冷蔵庫からケーキに合うアイスカフェラテを出したり、じっくり煮出した暖かい紅茶を出したり、ひっきりなしに彼女の面倒を見る。

半日かけて作ったケーキ、ミルフィーユやフルーツババロア、オペラケーキにショートケーキ。

『その全て』を食べ尽くした後、彼女は満足げに呟いた。

「ふん、流石は私が見いだした料理人だな、誉めてやろう!」

満足げ首肯くキャロルに、真面目な表情を崩さずに誠治郎は言った。

「はい、キャロル様の錬金術で安定した高品質の材料を卸していただいているお陰です」

「そうだろう!」

うんうん、と満足げにキャロルは首肯した。

そう、それが誠治郎の会社の秘密。

食品会社、しかも大規模の会社を立ち上げる際、一番大事なものは何か。

勿論、それは人によって様々ではあるが、恐らく多くの人間はこう答えるだろう。

『高品質な原料を安価で仕入れること』と。

そして当然のごとく、多くのルートは既得権益を持つ古くからの会社が握っている。

つまりは、このハードルをクリアしない限り、大して利益をあげられない→成長に歯止めがかかるのだ。

ちなみに、これは小さな定食屋から大きなチェーン店まで共通しており、ここを押さえるか押さえないかで、利益率に大きな差ができる…………

話がずれた。

つまりは『提携』である。

四大元素すら操る彼女にかかれば、土の質を上げたり、品種改良を促進したりは朝飯前である。

つまりは、元手がほぼ掛からないで土壌改良、果実や野菜の成長促進、虫除けなどが可能!なのである。

誠治郎は、そこに目をつけた。

…………え?世界全部に干渉できる術士が側にいるのに、やることがセコい?

なんか才能の無駄遣いのように聞こえる?

そもそも、世界全部に干渉できる術式とか見せられても、その…………困る。

こちとら料理人である。

好意で○オナズンとか、エターナル○ォースブリザードとか覚えさせて貰っても、どんな料理に使うの(マジレス)?

元手ほぼかからない土壌改良などを、誰も買わない土地買った後に施して、品質上げて値段も上げて、土地周辺の価値も上がって皆ハッピー、自分もハッピー。

これが自分にはベスト。

え、そんな『ズル』して良いのかって?

多くの人間に迷惑がかからないのかって?

いや、そもそもこの世界、ノイズという明確に人間を殺傷する災害のせいで、一次、二次産業の区別なくマンパワーが足りず、このまま人のスピードだけで産業続けてたら、いずれ餓死者続出だし。

機械で全ての工程をオートで行うというのも、現状無理。

残念ながら21世紀の技術では限度があるのだ。

そのため、自分の(ほぼキャロルの功績)の野菜、フルーツなどは人々の豊かな食生活に一役かっている。

だから、セーフ!(再確認)

多少の『ズル』で食料を大量生産して、多くの人間に渡せるなら多少自分の懐と会社に金入れてもセーフではないのかないだろうか!(強調)

うん、まあ自覚はあるからね、多少の募金などはしてます…………

タルトに合う桃や林檎など、出来の良い材料を作った時には、ちゃんと他の料理店にも適正価格で回してます…………

とまあ、という訳で、彼女の頼みを可能な限り聞く代わりに、彼女の技術を(農業など産業)転用して、彼は企業を一代で大きくしたのである。

それにしても…………

「あの、自分にできることならなんでも、が契約なので、もうちょい欲張りでも良いんですよ?」

食事の〆のエスプレッソを淹れながら、彼女にそう問いかけても、彼女はニカっと笑って固辞した。

「良いよ、良いよ。俺様が欲しい時は逐一セージに頼むし、正直、セージの飯以外で特に必要なもんはねえ」

これは彼女の強がりでなく、事実である。

森羅万象に干渉できるマスタークラス魔術師は伊達ではない。

だからこそ誠治郎は不思議であった。

俺の料理、そんな価値あるの?と。

勿論、神のチート込みではあるが、ある程度のレベルにあるのは誠治郎は理解している。

だが、彼女のような人間に誉められると、小心者の誠治郎は思うのだ。

彼女の期待を裏切ってしまうのが怖い。

だから、彼女の期待に答えるために、『料理』だけは頑張らなければ、と。

そのため、彼女の支援を受けたその日から、彼はどんなに忙しくても、厨房に立ち続けている。

彼は知らない。

彼が至っている彼の料理レベルを。

この世界の『神器』の欠片から産み出される超常的な戦闘用スーツである『シンフォギア』

月の落下すら止められる『ソレ』と同等の神秘を、作った料理の美味しさや効能に全てふった誠治郎の調理具一式。

それを使った料理は既に、別世界でいうなら味○やト○コの有名店のシェフが作ったモノに近くなっていた。

しかも、この世界でこれを作れるのは、意図的に『戦闘用でなくした』調理シンフォギアを持つ、彼のみ。

彼女の言葉は、世辞ではなく、真実である。

そして『もう1つ』。

彼には言わない、キャロルだけの秘密があった。

彼と初めてあった日彼女の要望した料理。

『暖かい』料理。

そのオーダーを受けて彼が作った、その時の彼の全力を尽くしたスープは、彼女の記憶にある『暖かい』記憶を甦らせ。

彼女を心から温め、癒した。

だから、彼女は、この世界線では復讐による世界崩壊を『行わない』

なぜなら、彼女は心から感謝してしまったから。

自分の十分の一以下しか生きていない彼の作ったスープが暖かな心を取り戻してくれた事を。

だから、彼女は出来なかった。

昔の自分を取り戻してくれた、彼が懸命に生きる、この世界を崩壊させる事を。

彼女は強情なので、絶対に感謝を素直に口には出さないが。

そして、彼女に人間性が戻ってきたということは、彼女が復讐一筋ではなくなったという事で…………

「セージ、命令だ、風呂で背中を流せ」

「…………あのー、従者の皆は…………」

「適当な指示を出してある、明日まで来れん!」

その返答に、誠治郎は頭を抱えた。

「それ、俺明日怒られる奴じゃん!ヤダー!」

頭を抱えて嘆く誠治郎を、どんな力か、シャツを掴んだまま、ズルズルと引きずっていく、キャロル。

「ふん、俺様の湯あみと伽を手伝えるのだ、当然の対価だろ、ほら行くぞ!」

「ちょっ!?ぬあー!」

キャロルと彼の関係は、そんな感じであった。 
 

 
後書き
有象無象の他企業のエージェントが誠治郎にちょっかい出した場合→キャロル『ボッシュートです(物理)』 
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