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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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いかにしてあたしは、どう生きるか。

 
前書き
どうも、クソ作者です。
FGOは5周年ですね。
私的に一番気になるのはやはり今年の夏イベでして、
紫式部…来ますよね?
気になってしかたがないんですよ。
それでは本編どうぞ。
 

 
最初に言おう。

「香子!!無事!? 」
「なんとか…!!」

今あたし達はピンチである。
住宅街だったところに入り、生存者を探していたのだがやはりもいうかなんというか一人もいなかった。
ただ、人間はいた。

「このっ!近寄んなっ!」

死んでいるけれど。
グール、とでも言うのだろうか。
死んでいながら生きており、彼らはあたしを仲間入りさせようとじわじわと集団で近付いてくる。
噛まれれば、そこで終わり。
あたしは香子に援護してもらいながらグール達を蹴飛ばし、この住宅街を抜けることを最優先に考えた。

しかし助かった。

「一気に片付けましょう…!」

魔性特効のある香子にとって、このグールは非常に相性がいい。
ゲームで散々お世話になった魔性特効。
大奥でも大活躍してもらった。
その効果を付与し、描かれた梵字がグール達を撃ち抜いていく。
だけど、いかんせん数が多すぎる。

「…このままじゃ埒があかない…!」
「道を開けたとしても…また塞がれてしまいます!」

一体一体倒しているだけではジリ貧だ。
ここは一気に殲滅できるような必殺技みたいなものがあればいいのに…。
いや、ある!

「香子!宝具を!」

宝具を使えば今ここにいるやつ全員は倒せなくとも、逃げ切れるだけの道を開かせることは可能なはず…。
そう、思ったのだが…

「…!」

ドクンと、心臓が強く脈打つ。

「なに…これ?」

また、ちくりとした痛みが心に走る。
なんだこれ…あたしはどうなっている?
なに…もったいない…?
全員、自分で殺せ…?

「葵様!」
「…!」

香子の声で我に返る。
だが気付いた時には既に、あたしの目の前には口を開いたおぞましいグールが

やられる…!
そう思ったとき…

「ヒィーーーハァーーーー!!!!!」

耳を裂くような叫び声と共に、そのグールの胸から突然刃が生えた。
違う、こいつは後ろから刺されたんだ。

「哭けェ!『人間無骨』ゥ!!」

チェーンソーのような音がし、その生えた刃は一気に上へと切り上げられる。
腰から上を真っ二つに両断されたグールはどさりと膝を付き、鮮血を撒き散らしながらあたしの前に倒れた。
そして、そのグールを斬ったのは

「おい、大丈夫か。」

サーヴァントだ。
血にまみれた鎧を着込み、くぐもった声であたしに無事かどうか確認する。

「だ、大丈夫…です。」
「よし!ならいいな!だったら残りもまとめてブチ殺してやるぜぇぇーッ!!」

あたしの安否を確認するとそのサーヴァントは嬉々とした声をあげてグール達を殺し回っていく。
あの狂いっぷりは間違いなくバーサーカーだ。
そして先程言った宝具、すなわち得物の名前からして

「森 長可…?」
「そう、森くんだよ。」
「!?」

振り向けば香子と知らない人が。
おそらく高校生くらいの、髪を肩の辺りで切り揃えた綺麗な女性だ。

「助けてもらって…あ、ありがとうございます…えーと」
「近野のどか。森くんのマスターです。」

彼のマスターは近野のどかと名乗った。
サーヴァントとは対照的に大人しく、落ち着き払ったような話し方だ。

「それじゃあ森くん。適当に殺して回ったら帰ってきてね。」
「おうよマスター!別にこいつら、全部殺しちまってもかまわねぇんだろ?」
「うん。それは森くんの判断に任せる。」

そういい、近野さんは私達についてきてと言ってどこかへ連れていく。

「この辺はグールが多いから、あまり通らないように警告の看板は先輩がしたはずなんだけどな…。」
「先輩…?」
「あ、はい。先輩がいるんですけど、私と同じでサーヴァントを持ってて二人で人命救助をしてるんです。」

そして、今向かっているところがその人命救助で助かった人達が住む集落なのだという。

「ほら、着きましたよ。」

前方には高いものの粗末な出来の壁。
そこにある小さな扉を開け、あたしと香子はその集落へと招かれた。
招かれたのだが

「近野さん!引っ張って!!」
「お、お願いします!もう少し優しく!!優しくです!!」

横幅があまりにせまく、あたしと近野さんは難なく通れそうだったのだが香子の胸が大きく、扉に引っ掛かってしまうという事態が発生。

「石鹸とか使います?こう、ヌルッて感じで抜けられるんじゃないかと!」
「私は指輪じゃないんですよ!!」
「早くしないとあたしが通れないの!!石鹸でも油でもいいから何でもお願いします!!!」
「葵様!?」

その後、集落の人達をも巻き込む大救出劇が始まり結局壁の一部を取り去る形でなんとかなった。
その後、この集落にはある教訓が出来た。

『胸が大きい人やサーヴァントの為、出入り口は大きくしておこう。』
と。



「おっぱいの大きいサーヴァントがつっかえちゃったって聞いたけどほんと?」
「あ、先輩おかえりなさい。」

集落に招かれ少しすると、ヘシアン・ロボにまたがりさっそうと帰ってきたとあるマスターがあたし達を尋ねてきた。

「紹介します。この集落の長、そして私の先輩の田所 浩美先輩です。」
「たどちゃんでいいよ。よろしくぅ!」

と、軽いノリの女性。
自称田所さんの後輩である近野さんはおしとやかな印象を受けるが、対照的に田所さんはボーイッシュで活発な、それでいてしっかりとした大人の魅力を感じさせた。
いわゆるかっこいいタイプの女性だ。

そして、

「葵様。」
「うん。分かるよ。」

この近野という女性、田所さんに対して異様にベタベタしている。

「先輩がみんなを助けようって言って、私もそれに同意したんです。やっぱり先輩はすごくて、私にはこんなこと到底出来なくて…。」
「何いってんのさ。まぁ人助けは私の趣味みたいなもんだし、今やってんのはあくまでそれの延長。別にそんなすごいことでもないって。」
「先輩ってばもう…もう少し胸はって誇っていいんですよ!」

先輩はおそらく"普通"だ。
だがこの後輩、従えているサーヴァントは男性だが、
彼女は間違いなくこちら側の人間、あたしと"同類"だ。

「おうマスター!帰ったぜ!!」
「おかえり森くん。」

そうして話していると小さな扉をさっき会った森長可が屈んで潜ってきているところだった。
全身が血塗れなのと満面な笑みを浮かべている辺り、おそらくグールを全員倒したのだろう。

「って森くん!その血どっかで洗い流してきてよ。このままじゃ子供によろしくないって。」
「お、そうだな。この前ガキ共に泣かれちまったからな!」

そういい、うははと笑いながら彼は集落のはずれにある水場へと歩いていった。

「それじゃあ、森くんが鎧を洗い終わったらお茶でも出しますよ。彼のお茶、ほんとに絶品なんで。」
「い、いやいや、助けてもらった上にお茶もなんて…!」

世話になりっぱなしなのもよくないので断ろうとするが

「まぁまぁいいじゃないの!」
「ったぁ!?」

背中を思い切りバシッと叩かれる。
何事かと思えばその近野さんの先輩、田所先輩だった。

「困ったときはお互い様。お世話になったならどこかでそれを返せばいいじゃない!さぁ上がった上がった!」

無理矢理田所先輩に連れられ、あたしと香子はふたりの家へと招かれる。
簡素なつくりだが他のものより大きく、大人数でも充分なスペースのある部屋だ。

「よっこらしょ。」

部屋に入るなり田所先輩はあぐらをかいて座り込む。
ちなみに彼女のサーヴァントであるヘシアン・ロボは集落の外にいる。
やはり人間のにおいというものが嫌いなようで、見張りという役割も兼ねて外に置いているのだとか。

「いやーつかれたつかれた。あ、なんもないけど自由にくつろいでいいからね。」
「あ、はい…。」

流されるままあたしは床に座る。
椅子もテーブルも、家具らしきものは何もない。
とりあえず雨風がしのげるだけの家を作るので精一杯だったんだろう。
そして、

「田所様…お一つ聞きたいことが…。
「あーいいよいよ。たどちゃんでいいって。にしてもすごいねー?紫式部?滅茶苦茶強いやつじゃん!」

ま、私のロボも負けないくらい強いけどねー!と笑い飛ばし、田所先輩は話を戻す。

「話の腰折っちゃってごめんね。んでなに?かおるっち。」
「か、かお…!?」

会って早々変なニックネームを付けられ動揺を隠せない香子。
かおるっちね、よくライバル扱いされるあの子に付けられたやつだよね。

「と、ともかく…!この集落にはあなたがたのサーヴァント以外いるのか聞きたく…!」
「あー、いないよ?」
「やはり…そうですか。」

森長可、そしてヘシアン・ロボ
どれも強力なサーヴァントだし戦闘面においてはなんの問題もないだろう。
ただ、戦闘ではだ。

「集落を囲う壁、何度か修復した後がありました。」
「おっぱいで壊したやつ?」
「そうではなく!!」

胸が引っ掛かって一部を外しただけなのにいつの間にか壁をおっぱいで壊したことになってる。

「あの壁、やはり何度か魔物や物の怪の被害を受けているものと見ました。」
「うーん、そうなんだよねぇ…。」

頭をかく田所先輩。

「私もこんちゃんも警備とか人命救助とかででかけると、どうにも手薄になっちゃってさ、」
「男性の方々がなんとか守ってくれていますが、怪我も絶えないみたいで…。」
「なるほど…。 」

戦闘ならなんの問題もないが拠点を守るためのサーヴァントがいない。
こうしている内はロボが見張ってくれてはいるが、やはり24時間見張り続けてくれるのは無理だろう。
この世界は強ければなんとかなるゲームの世界じゃない。
れっきとした現実なのだから。

「サーヴァントも探してるんだけど中々見つかんなくってさ。」
「…では。」

そういい、香子がゆっくりと立ち上がる。

「田所様、先程困ったときはお互い様、お世話になればどこかでそれを返せばいいと申しましたね?」
「ああ、言ったね。」
「では、先のご恩…今ここで返しましょう。」

小物入れから取り出したのは数十枚のお札。
それを投げあげると、お札はどこかへと飛んでいく。

「え!?なにそれ!?陰陽師みたい!!」

田所先輩はテンションが上がり、さらにお札の行く末を知るべく外へ出ていく。

「香子…さっきのは?」
「物の怪を寄せ付けぬまじないの札です。この集落の壁一帯に貼り付けました。」
「へぇ…。」

香子が使ったのはモンスターをこの集落に近づけさせないお札。
陰陽術はそんなに使えないとは言っていたが、彼女のやっていることは田所先輩のいった通りまさに陰陽師だ。

「一月はもちます。どうかその間に強固な壁をお作りになるか、それとも拠点防衛に特化したサーヴァントを見つけるのも自由です。」

そういって香子は近野さんに予備の分のお札を渡す。

「これって…」
「お世話になった分を返します。それとお詫びも兼ねてです。」
「お詫びって、あなた達は別に何も悪いこと…」
「その…壁を…。」
「あっ」

それから数日後…。

香子のお陰で周囲にモンスターは寄り付かなくなり、よって防衛していた男達は建築の仕事に手が回るようになった。
さらに、

「外での探索の際はこれを肌身離さず持ち歩いてください。」

集落の男達も外へ探索をするようになり、香子は壁に張り付けたお札と同等の効果を持つ、魔除けのお守りを配布。
集落は日に日に大きくなり、先週とは比べ物にならないほどの成長を遂げた。
さらにいいことはそれだけじゃない。

「ってことは…ここに住むってことでいいんですか!?」
「いいだろう、住んでやる。それに怪我人もいくらかいる。患者は一列に並べ、すぐにだ。」

新たなサーヴァントとしてアスクレピオスが加わったのだ。
拠点防衛には向かないにしろ、医療施設の充実、そしてサーヴァントが増えるということ自体それだけでいいものなのだ。

いつ襲われるかわからない集落だったここ。
もろい壁もいつしか分厚いものとなり、さらには魔除けの効果もあってモンスターはほとんど寄り付かなくなった。
集落内部は建築作業が進み、家々もどんどん建てられていく。
資源の確保、安全な住まい、
最初はただ住めればいいだけで、明日をも知れぬ生活だったのだが今では大分余裕もできた。

そんなこんなで、一ヶ月が過ぎた頃だ。

「ここも…あたし達が来たときとはだいぶ変わったね。」
「そうですね。」

あたしと香子はこの集落…いや、この町の景色を見渡す。
ついこの前まではいつ来るか分からないモンスターの襲撃に怯えていた子供達だが、今では外に出て元気にサッカーをしてる。
大人達も暮らしやすくするため建設作業に勤しみ、協力しあう、笑顔の絶えない町となった。
成り行きでここにいたが、もうあたし達はこの町の立派な住人だ。

「ここに住んじゃおうかな。」
「それも良いと思います。ここならおそらく、危険な目にはまず遭わないかと。」

この前みたいにグールに襲われるのはもうごめんだ。
確かにここなら、命の危機に晒されることもないだろう。

「おねーちゃーん、ボールけってー!」
「あ、」

ベンチに腰かけているあたしの足にサッカーボールがこつんと当たる。
遠くには手を振る子供。きっと間違って明後日の方向に蹴ってしまったのだろう。

「しょうがないな…よっ!」

立ち上がり、軽く蹴ってやる。
帰ってきたボールをキャッチすると子供達は「ありがとー!」と言いサッカーを再開した。

「いいコントロールじゃん。みなもっち。」

すると後ろから声をかけられる。
振り向けばそこにはこの町のリーダーである田所先輩がいた。
ちなみにみなもっちはあたしのニックネームだ。
ここに住んでる内に勝手に名付けられた。

「ここは気に入った?」
「ええまぁ、そういえばそれは?」

田所先輩の手にグシャグシャになったビラみたいなものが握られていることに気付く。

「あーこれ?宗教勧誘。さっき来てホントしつこくってさぁ。あん時ロボが痺れを切らして来なきゃ多分あいつら日が暮れてもいたよ…。」
「宗教勧誘…ちょっと見せてもらっていいですか?」

宗教…か。
歴史においても宗教というのは重要な役割を持つことが多い。
苦しい生活に希望を見出だせる唯一の光になれるのだから。
それに今はこんな世界だ。
そういったものにすがらないとやっていけない気持ちも分からなくはない。
特に、サーヴァントを持たない普通の人間なら尚更だ。

「人間…同盟?」

ぐしゃぐしゃにされたビラを広げ直してみると、そこには人間同盟と書かれていた。
おそらくそれが宗教の名前なのだろう。

「皆さん…とてもいい笑顔をしてますね。」
「うん…なんかその分怖いけど。」

ビラの一面には白い建物をバックに、老若男女様々な人が手を繋いで横一列になって眩しい笑顔をしている。
そして下の方には活動内容やこの宗教が出来たワケなど、長々と書かれているのだが

「…!?」
「葵様?」

目がいったのはそこじゃない。
一面の写真だ。
手を繋いでる人達の中、その中には見覚えのある人物がいた。

「どしたのみなもっち。鳩がバズーカ食らったような顔してんね。」
「…母さん、父さんがいる…!」
「え?」

見間違えるはずがない。
そこに映っている人達の中には、あたしの両親がいたのだ。

連絡もとれず、逆に携帯にも何も来なかったので死んでしまったのかもしれないと思っていた。
だが生きてる。
この宗教の人たちにまじり、笑顔を浮かべている男女二人。
間違いなく、その二人は父親と母親だったのだ。
 
 

 
後書き
登場人物紹介

⚫田所 浩美(たどころ ひろみ)

集落もとい町を作り上げみんなを引っ張っていく頼もしいリーダー、23歳
近野のどかとは学生時代、水泳部にて先輩後輩関係であり、彼女は尊敬の念を込めて今でも『先輩』と呼んでいる。
そのためか、町の住人からも『田所先輩』と呼ばれ皆から親しまれている様子。
サーヴァントはヘシアン・ロボ
人間を嫌っているがマスターの彼女だけは特別なようで割りと懐いている。
名字が田所で先輩で水泳部所属だったけど例のあの人を思い出してはいけない。(戒め)

⚫近野のどか
田所浩美の後輩。この町をまとめる副リーダー的な役割を担っている。
大人しく物静かな女性。しかし彼女もまた同性愛者であり先輩の田所に対して尊敬の他に恋愛じみた感情も持っている。
契約しているサーヴァントは森長可。
レズなのだがゲーム内では彼の他に土方さんや金時、アステリオスやカリギュラ等のバーサーカー男子を大切にしていた模様。
葵は彼女がレズであることを見抜いたが近野もまた見抜いていた。
レズ同士は惹かれ合うのだ。 
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