『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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邂逅-うんめい-
九州にあるどこかの会社。
どういったものなのかはわざわざ教える必要はないだろう。
だって誰も知りたくはないし。
まぁそんなどこにでもありそうなやや黒っぽい会社で俺は働いている。
「キミさぁ、ホンットミス多いよねぇ…。」
「すいません…。」
さて、
ここでハゲ頭の上司に怒られ、頭をペコペコと下げているいかにも冴えない会社員がこの俺、竜胆 大和だ。
この会社に勤めて早五年。
給料はちっともあがらず労働環境もまったく良くならない。
いやむしろ悪くなる一方だ。
仕事が出来るようになればなるほど上はもっと押し付けてくるし、偉くなれば楽できるんじゃないかと思っていたがそれはどうやら夢物語のようだ。
「なにそれクマ?寝不足?でもそれを仕事のミスにすんの甘えだから。それともあれ?僕可哀想ですっていう悲劇の主人公気取り?」
寝不足なのは確かだ。
ここ一ヶ月、ロクに眠れていない気がする。
というかさぁ眠るぞと寝ようとしても中々寝つけない。
もしかしてストレスから来る不眠症とかだろうか。
こういうねちねちした上司がいるからなぁ…。そりゃあストレスもたまるよ。
「すいません…。」
「竜胆君、キミさっきからそればっかだね?すいません言うだけだったらロボットにも出来るから。分かる?今のキミロボット以下だよ? 」
「すいません…。」
ああ、早くこの説教を終わらせたい。
何かないだろうか。
例えばそう、町中にゾンビが溢れただとか、世界がいきなり大変なことになったりだとか。
いかんいかん。
なにいい年こいて中高生みたいなことを考えてるんだ。
そんなことあるわけが
「!!!」
と考えていた時である。
ビルが一度、大きく揺れた。
「なんだ!?」
「地震!?」
同じオフィス内にいた人達が仕事の手を止め、辺りを見回す。
「おい!あれ!」
すると一人の男性が窓の外を指差した。
釣られて目をそちらに向けてみるとそこには
「…うそだろ。」
あり得ない。
そうとしか言えない光景が目の前に広がっていたのである。
アスファルトの地面、コンクリートのジャングル。
そんな都会な風景の中に、"怪物"がいた。
ドラゴン、ラミア、キメラ。
どれもこれも本でしか見たことのないような架空の怪物。
それらがこの町を練り歩いているのだ。
そして、
「あれは…食ってるのか?」
逃げ惑う人々。
そして怪物達はそれらに襲いかかり、人間達にかぶりつく。
ありえない。
今外はどうなっている?
これは夢か?
違う、夢じゃない。
れっきとした現実だ。
今からそれを、嫌でも理解させられた。
「うわっ!」
突然、窓ガラスが割れる。
咄嗟に両手で顔を守るも、さっきまで偉そうにデスクに座り俺を怒っていた上司はモロにガラスの雨を浴びた。
そして、
「な、なんだこいつ!?」
割れた窓ガラスから入り込んできた怪物が、その手で易々と上司の頭を掴んで持ち上げた。
大きな身体、禍々しい角。蝙蝠のような羽根。
そいつは言うならば"デーモン"だろう。
見た目がFGOに登場する敵、"デーモン"に非常によく似ているからだ。
いや、むしろ同じなんじゃないか?そう思うほどに酷似している。
「ひ、た、たすけ」
助けを求める前に、上司はその頭を握りつぶされた。
ほとばしる鮮血、それをスイッチにオフィス内はパニック状態となった。
逃げ惑う同期、後輩、先輩。
泣き叫ぶ者、腰が抜けて動けぬもの、我先にと階段やエレベーターに駆け込むもの。
俺もまた、血を浴びて我に返り情けない悲鳴をあげながら一目散に逃げた。
デーモンは逃げ出す俺を見る。
そして、もう片方の手をフッと上げると、
「!!」
デスクにあったパソコンが爆散した。
光る弾を飛ばしたのだ。
それはギリギリ俺の横を通り、パソコンに命中。
もし俺に当たっていたらと思うと、ゾッとした。
「なんだ…なんなんだよあれ…!!」
エレベーターは満員で重量オーバーのブザーが鳴り、お前が降りろだのと仲間割れが始まっている。
そんな人とは違い、賢い人は階段から逃げている。
俺もそれにならい、階段をかけ降りようと思ったのだが、
「…!!」
ふいに、後ろを振り向いた。
するとそこには
「い、いや…!」
腰が抜けて立てなくなったであろうOL。
そして、そんな動けない彼女にゆっくりと近寄るデーモンの姿が見えた。
片手に上司だったものを掴み、怯えるOLにじわじわと迫る。
ああ、どうして振り向いてしまったんだろう。
振り向かなければ、
「くそっ!」
こうして助けようとも思わなかったのに。
「この野郎!!」
走ってきた道を戻り、隅に置いてあった消火器を手に取る。
「これでもくらえ!!」
ピンを抜き、ホースを向けてデーモンに噴射。
こちらに向いたデーモンの顔めがけ、思い切りぶちまけてやった。
「…!!」
「早く逃げろ!!」
なにも言わずOLは立ち上がり、泣きながら逃げ出す。
これで逃がせた。と安心した次の瞬間、
「が」
消化粉の中から伸びてきたデーモンの腕が、情け容赦なく俺の腹を貫いた。
「うそ…だろ。」
人助けをした報いが…これか。
痛い、すごく痛い。
血だってものすごく出ている。
やばい、どのみち死ぬ、
このままじゃ、俺は死ぬ。
こんな訳のわからない怪物に、殺される。
「ちく…しょう!」
ぞぶり、と俺の腹からデーモンの腕が引き抜かれる。
力なく倒れた俺を確認するとそいつは、もう興味はないと言わんばかりに俺に背を向けて歩き出した。
「おい!!来たぞ!!」
「やめろ!お前が階段から逃げろよ!! 」
未だにエレベーターで仲間割れしている人達に向けて。
「…。」
死んだとみなされた俺は、もう指一本動かすことすら難しい。
腹に風穴を開けられ、もう痛いとかそういうレベルじゃない。
というか、次第に痛くなくなってきてる。
寒気もしてきた。
そうか、これが"死ぬ"ってことなんだ…。
「…?」
そんな時だ。
狭まる視界に、ふと誰かが映った。
かぶいた格好をした人が、デーモンに立ち向かっている。
なんだろうあれは、和服?もしかしてコスプレか?それに何よりも目立つのはその銀色の髪。
腰に携えていた刀を抜くと、その人はデーモンに斬りかかる。
あれは日本刀?
なんなんだあの人…。
よく見ようとしてもさっきやられた時に眼鏡を落としてしまい、視界がぼやけてしまう。
「…!」
デーモンと対峙しているコスプレの人が、ふとこちらに気付いて振り向く。
すると彼女は表情が一変。慌てたような表情になると、一瞬でデーモンを斬り伏せこちらに駆け寄ってきた。
「マス…!マ…ター!」
え、なに?鱒?
なんだかもう耳もよく聞こえない。
もうじき死ぬんだろう。
でも、
最後にこんなとっても綺麗な女性に看取られるのも、悪くはないかも。
いい加減社畜人生とはオサラバしたかったんだ。
社会人になって、いつか趣味とかそういったものもするヒマなくなって、ただ仕事場とオンボロアパートを往復するだけだった毎日。
死ぬのは嫌だけど、これでもう仕事しなくていいし上司にも怒られやしないからいいや。
にしても、このコスプレの人、FGOの武蔵ちゃんにとってもよく似てるな…。
FGOかぁ…
仕事が忙しすぎてもう半年くらいはログインしてないや。
武蔵ちゃん、二部のロシア以降ストーリーに関わってきた?水着は実装された?
いや、誰に聞いてるんだか。
どうせ死ぬ。そんなこともういいや。
さよなら人生。
後悔なんてないな。
いや、あるな…。
ただ一つだけ。
女性とは無縁だった25年の人生。
せめて、
人並みの恋がしてみたかった…。
⚫
「っ!?」
がばっと、夢から醒める。
気付けばそこは廃墟ビル。
ボロボロの部屋の中で、硬い床に毛布をしいて俺は寝ていた。
ここはどこだ?
確実にさっきまでいた会社じゃない。
痛む背中に顔をしかめて上半身を起こし、毎朝起きた時のように眼鏡を手に取ろうとするが、ない。
無くしてしまったのだろうか?困るな…眼鏡がないとほとんど見えないのに…。
「…。」
割れている窓からはダイレクトに風が吹き込み、電気のついていない部屋は薄暗く、どこか重い空気だった。
俺はどうしてここにいるんだろう。
さっきまで会社にいて、上司に怒られて、そしたら地震が起きて…。
そうだ。なんか大変なことになったんだ。
外が明らかにやばくなって、モンスターが襲ってて、
そしたら会社にも来て…。
そして俺は
「死んだ…はずだよな?」
貫かれたはずの腹部を見ても、そこには怪我どころか傷跡一つ見当たらなかった。
痛みもない。
ともかく、ここがどこだか確認しなければ。
そう思って立ち上がり、窓から外を覗いてみる。
「なんだよこれ…?」
あの怪我は夢だろうか?
しかし、今この目の前に広がる景色は夢か?
いや違う。現実だ。
外はモンスターが闊歩し、街は瓦礫の廃墟と化している。
まるで世界が滅んでしまったみたいだ。
逃げないと、
その言葉が心の中にあった。
いつまでもここにいてはきっと俺も奴等の餌食にされてしまうだろう。
そのへんに置いてあったネクタイと背広を広い、廃ビルから急ぎ足で出ていく。
外はやはりモンスターがうようよしているが、瓦礫の陰に隠れるなりしてやり過ごせばなんとかなりそうだ。
にしても、今日はよく見える。
眼鏡をしていないにも関わらず遠くの方の看板の文字までハッキリと見える。
さらには溜まった疲れのせいで重くなった身体もどこか軽い。
走るとどこまでも全速力で駆け抜けられそうなくらいだ。
ともかく都合のいいことに身体が絶好調なのだ。
これなら逃げ切れる。いやでもどこへ?
ともかく安全な場所だ。
でもこうなってしまった世界に安全な場所なんてあるのか?
そもそもさっきの場所の方がよほど安全なのでは?
そして、あそこまで俺はどうやって来たんだ?
「…。」
色々な疑問が次々と浮かんでくるがともかくそれは頭のはしっこに追いやるとする。
ともかく考えるだけじゃなく足を動かさないと。
ここでじっとしていてはダメだ。
モンスターの目をかいくぐり、瓦礫をうまく使ってやり過ごしていく。
だがここで俺は大事なことを忘れていた。
動物でもそうだ。
生き物というのは獲物を探す際、視角のみに頼るのではない。
嗅覚にも頼るのだ。
だからこうして隠れてやりすごしていようとも
(あいつら…近づいてきてないか?)
隠しきれない人間のニオイは俺はここだと伝えてしまう。
遠くにいたモンスター、FGOのムシュフシュに酷似したモンスターが段々とこちらに近づいてきているのだ。
鼻をすんすんと鳴らし、あちこちを向きながら確実に俺の方へと来ている。
今さらニオイなどどうすることもできない。
じゃあ走って逃げるか?だとしても他のモンスターに見つかってしまう危険性も出てくる。
じゃあ戦うか?確かに身体の調子はものすごくいいが無理だ。漫画や小説の主人公じゃあるまいし。
と、どうするか悩んでいるその時だ
「Gyaoooooooo!!」
「…!?」
隠れてやり過ごす。
だがそれは上から見れば丸見えだった。
「ウソだろ…?」
大空を滑空するモノにとって俺は間抜けに見えたことだろう。
ご存知ワイバーンだ。
もうこの世界は俺の知ってる世界じゃない。
安全な場所なんてない、人間は一気に弱者へと成り下がったんだ。
「くっそぉ!!」
もう見つかってしまいやけくそ気味に瓦礫の陰から飛び出し、走る。
ムシュフシュ達も視界に俺をとらえ、皆走り出した。
陸からムシュフシュ、空からワイバーン。絶体絶命の俺。
なんでだろうな、あんなに死にたいって思ってたのに…どうして今は死にたくないと思ってるんだろう。
必死に逃げる意味なんてないのに、そもそもあの時、死ねたと思ったのに、
どうして俺は今生きている?こうして生きようと必死になっている?
答えてくれるものなんていない。
そう、思ってた。
「!!」
突然目の前に人影が立ちはだかる。
銀色の髪をしたその女性は
「あのときの…!」
間違いない。
デーモンに襲われた夢に出てきた、あの武蔵ソックリなコスプレの人だった。
「危険だ!逃げろ!!」
その場で仁王立ちする彼女に警告するが、彼女は動かない。
するとどうだろうか、
腰に携えていた二本の刀を抜き、彼女は駆けた。
「え…?」
すれ違う俺と彼女。
彼女はそのまま襲いくるムシュフシュに立ち向かうと、一刀の元に切り捨てた。
仲間の一匹が瞬殺され、戸惑うムシュフシュ。
だが彼女はそんな時間など与えないとでも言いたげに二匹、三匹と次々に斬っていった。
速い。
僅か数秒のうちにムシュフシュは全滅し、今度はワイバーンの始末にとりかかる。
「Gyaooo!!」
その鋭い脚の爪で彼女を引き裂かんと急降下するワイバーン。
だが同時に彼女も跳び、すれ違い様に翼を切断。
空を舞う資格を瞬時に奪い去ったのだ。
そしてワイバーンの興味は完全に彼女に向く。
蚊帳の外状態となった俺は今のうちにどこかに逃げよう。
そう思ったが
「…!」
おそらくトドメを刺し損ねたのだろうか、
瀕死のムシュフシュがその毒のある尻尾をゆっくり持ち上げる。
上にはワイバーンをまとめて斬り裂く彼女。
このまま何も知らずに着地すれば、彼女は毒の餌食となる。
「化け物の癖に着地狩りとかするなよ…!」
そう愚痴をこぼすもまず俺には何も出来ない。
いや、出来ないじゃない。
何かないか探すんだ。
助けてもらいっぱなしなんだ。
ここはせめて男を見せてこちらも危機を救うべきでは?
そう悩んでいるとき、爪先に何かがこつんと当たった。
「これは…。」
蹴ったのはおそらく学生のものだったであろう、多少血のついている竹刀袋だ。
「…。」
竹刀を握るのは高校以来だが…やるしかない。
紐をほどいて竹刀を取り出す。
両手でしっかりと握りしめて俺はムシュフシュに立ち向かった。
「うおおおおおおーっ!!」
俺の咆哮に瀕死のムシュフシュはゆっくりと振り返る。
「こんのっ!!」
振り上げ、力一杯の一撃を振り返ったムシュフシュの頭におみまいする。
「!」
全力の一撃は彼の脳を大いに揺さぶったことだろう。
ムシュフシュは動かなくなるとふらつき、そのままドサリと倒れた。
倒した?多分違う。気絶しただけだ。
「…。」
そして上からはワイバーンの残骸がボトボトと落ち、コスプレの人も音もなく着地。
その瞳は俺を映し、二人の間に少しの沈黙が流れた。
「あ、あの…。」
気まずくなって先に話したのは俺だ。
女性と目をあわせることすらロクに出来ないので、たまらず話しかけた。
「さっきの、ありがとね。」
「あ、いえ…どういたしまして…。」
女性とうまく話せないことをそのままにしてきたツケが今ここで回ってくるなんて誰が思っただろうか。
「あ、あのー…。」
次になんてきりだそうか。
そう思っていると彼女は一歩、また一歩とこちらに近付いてくる。
「え…?」
その手に持った、刀を振り上げて。
「え、あ、いや!ま、待って!!ごめんなさい!!」
どうしてこっちにいきなり切りかかってくる?
何か悪いことをしたのだろうか?心当たりはないが必死に謝る。
だが彼女は止まらない。
そして
「…!」
俺のすぐ後ろにまで迫っていたムシュフシュを一撃で仕留めた。
そうか…べ、別に俺に斬りかかったわけじゃないんだ。
「ど、どうも…。」
「勝った後でも油断しない。いつどこで狙ってるか分からないんだから。ほら、」
尻もちをつき、どもりながら礼を言う俺。
武蔵…らしき人は要は勝って兜の緒を締めよ的なことを言いつつ、そんな間抜けな俺に手を差し伸べてくれた。
「立てる?」
「だ、大丈夫です…すいません。」
偶然にもあの運命の構図ではあるけど、女の子に起こしてもらうのはさすがにかっこ悪いと思った。
腰を抜かした訳では無いので自力で立ち上がり、土埃のついたお尻をパンパンとはらう。
「まったくびっくりしちゃった。帰ってきたらマスターがいなくなってたから。」
「じゃあ…あれって…。」
廃ビルで寝かされていたのは…つまりこの武蔵みたいな人が連れてきたということなのか?
「覚えてる?マスターが女の子を逃がすために自分に注意を引かせたこと。」
「…!」
あのことを思い出す。
じゃああれは夢じゃなかったんだ。
だがあの時受けた致命傷はどうしたんだろう?
起きた時に見たけど傷跡ひとつなかった。
それに、
「今、俺のこと、なんて…?」
彼女は今俺のことを、なんと呼んだ?
「なんて?ってそりゃあマスターでしょう?セイバー宮本武蔵。マスターの危機に馳せ参じました。」
ニッと笑う自称武蔵の人。
宮本武蔵…それに…俺がマスター?
「こんなことになっちゃったけど私が来たからにはもう安心!というわけで、これから一緒に面白可笑しく過ごさせてね!」
頭が理解できず、処理落ちしそうになる。
しかし目の前にいる彼女は本物なんだろう。
そして今ここで起きていることも、紛れもない現実なのだろう。
こうして俺の社畜人生は唐突に、中高生の妄想のような出来事で終わりを告げた。
後書き
こんにちは。
知ってる人はどうも。知らない人は覚えてね
どうも、クソ作者です。
この話はかつてハーメルンにて連載しておりましたが、それを再編しほぼ別物となっております。
なので以前読んでいた方も、また違った物語で楽しめるかもしれないです。
いえ、楽しめるよう努力します。
それではここから、元社畜が大剣豪と共に崩壊世界を旅する話が始まるわけです。
今回は綺麗サッパリ、気持ちのいい終わり方が出来るようがんばっていきます、
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