『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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復讐-にどあることはさんどある-
「へぇ…あれはすごいなぁ。」
上空。
輸送ヘリの中にいる葛城財団技術顧問、丹下は己の研究成果を見下ろしながら自分の作品に感心していた。
海沿いの砂浜、そこで自分の研究結果の山本は最重要危険人物の二人と戦っている。
二対一という不利な状況ながらも彼は互角、いやそれ以上に戦えていた。
「丹下さん、でも…。」
嬉しそうに見下ろしていた丹下の元へ、部下がやってくる。
その顔はどこか不安そうだった。
「ああ、長くは持たないことは分かってるよ。けどあの男は改造する際、それを”根性”だけで乗り切った。さすが昭和生まれ特有の根性論を語るだけはあるね。」
彼が今両腕に付けているのはかつて何かの英霊だった者の腕。
なんの腕だったかは丹下も忘れた。
人間に英霊の腕を付けるのは簡単なことではない。
拒絶反応を起こし、呑まれ、身体が崩壊し苦しみ抜いて死に絶える者だっていた。
今の山本も、身体中を激痛が襲っているはずだ。
さらにサービスとして、背中にサブアームユニットも付けてあげた。
これなら確実に竜胆大和を倒せると言ったら喜んで承諾してくれた。
金属に覆われた4本の腕だが、勿論これも英霊の腕から作られている。
そのまま脊髄にダイレクトに接続されており、自分の手足を動かすように稼働させることは出来る。
ただ、そのデメリットは小さくはない。
「あいつ…山本の身体はとうに限界を超えてましてね。今まで捕らえたマスター達は腕1本交換されただけで死んだのに、あいつは6本移植。長生きできると思います?」
「いえ…。」
脊髄に強引に接続されたため、いずれ弊害は生まれる。
マトモな処置も施されてないため、背中は酷いものになっていた。
「まぁ精々、俺達研究者の為に身体はって死んでくれやって話だよ。」
英霊を1番捕まえたことには感謝している。
なんなら身も心も全て財団に捧げてもらおうじゃないか。
そう、丹下は思うのだった。
⚫
「竜胆大和おおおおオオオオおぉおおおおおお!!!!!」
「うるさいな。」
両腕で武蔵の刀を、サブアームらしきもので俺の刀を受け止め、奴は俺に向かって空気がビリビリと震えるほどに叫ぶ。
「今日こそ!!今日コソは本部へと来てモラう!!そして俺が貴様の為二つくッタ、特別矯正プロぐらムを受けてもらおうか!!」
「…断る。」
強引に弾き返すも、サブアームは計4本。
立て続けに残りの3本が襲いかかってくるので咄嗟に後ろに引いて追撃を回避する。
「何ィ?何といッた?小さい声では聞コエンぞ。大きな声デハキハキ話せと教エタだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「お前はうるさいんだよ。」
さて、サブアームが厄介なことこの上ない。
これを叩かなければあいつに近付けないだろうし、背後からの攻撃も無効。
まさに攻防一体の兵器だ。
「ッ!」
散弾銃を引き抜き、魔力を込めて最大の威力で撃つも、それはサブアームの装甲を僅かにへこませるほどしか出来ない。
「ちっ…!」
メイスで叩こうが、散弾銃で撃ち抜こうが、このサブアームは到底破壊できないことは分かった。
しかし攻略法は掴めない。
こうやって立て続けにやってくるサブアームをはじき返すことくらいしか出来ていない。
そして、
「さァテ女ァ!!貴様は本部に来てモラウぞ!!」
このままでは武蔵が危ない。
「お断りしときます!!」
「女が口答えを、するなァァ!!!」
刀を受け止めていた腕が、動く。
刀を弾き返すと、その握り拳が武蔵の顔面を真っ直ぐとらえた。
「…!!」
しかし武蔵もそれを食らうほどノロマでもない。
僅かに顔をずらして拳を避け、カウンターで再び腕の切断を試みるも、またもや金属音を響かせるだけに終わってしまう。
「この野蛮なクソアマが!!貴様も連帯責任で竜胆と同ジ特別矯正ぷろグラムを受けてもらうぞ!!!」
狙いが、完全に武蔵へと移る。
飛びかかる山本、そして4本のサブアームも襲い掛かる。
「まずハ反省の態度を示すベク丸刈りダ!!貴様も竜胆も!そのふざけた髪型を刈ッテやろウ!!」
本体、サブアーム、
合計6本の腕が同時多角から武蔵へと襲い掛かる。
「次は特別授業!!休ミナんてあると思うナよ!!一日ミッちり俺が教えこんで、1週間で俺の可愛イ理想の部下に仕立てアゲテやろウ!!」
斬る、というより弾く。
6本の腕からなる猛烈なラッシュは武蔵を容赦なく襲うも、二刀でなんとか凌いでいる。
相手は人間、だがあれを人間と呼んでいいのだろうか?
怪しい義手を付けられ、背中のサブアームによって人型のシルエットから逸脱し、サーヴァントの一撃にも余裕で耐えうる。
さっきも言ったがあいつは人間じゃない。悪魔だ。
武蔵は今、かつての上司の形をした悪魔と戦っている。
「ほらホラどうシタドウしたァ!!サーヴァントとかいうやつにモゆとリ世代ってものがあルノかぁ!?」
「ほんっと、部下も上司もうるさいったらありゃしないわね!!こんなのと毎日仕事してたの!?」
「…ああ、そうだ。」
俺も加勢する。
メイスから刀を引き抜き、背後から斬り掛かる。
「効かんなァ!!」
「…。」
やはりというか案の定というか、どれだけスピードを速くしたとしても弾かれる。
「その次ハ宴会芸だ!みっちり仕込んで俺ノ可愛い部下達を笑わせテヤッテくれよォ!」
「…。」
「無視ヲぉ、するなァァァァァァーッ!!!!!」
サブアームの先端が開き、俺を掴もうとする。
だが俺はここで野球のバントのように、襲い来るそれを刀で受け止めた。
そして
「!!」
力を込めると、刀に魔力が溜まって紅く煌めく。
そこから流れるのは電流だ。
俺の身体から刀へ、刀からサブアームへ、そしてサブアームから
「…。」
「んん?何をしたんだ?」
やつの身体へと流れるはずだった。
流したのはだいぶ強力な電撃。
人体に流れればひとたまりもないくらいのものだし、何よりこのサブアームの機械をダメにするつもりで流した。
なのに、やつ自身もサブアームもピンピンしている。
「昔に言ったはずだぞぉ…竜胆大和ォ…」
「しまっ…」
「過去の失敗から学べナイ奴は、ゴキブリ以下だッテナぁあ!!!!」
別のサブアームが、俺の脚をがっちりと掴む。
食い込む爪。痛みに顔をしかめるが、そんな暇はない。
これで倒せると油断した俺は見事に宙吊りになり、そのまま高く掲げられてしまった
「耐電仕様か…!」
「貴様が何故か電気ヲ流セルのは以前の時から知ってイル。だから徹底的に対策したンダヨ!!」
「…。」
山本の言うことは聞いていない。
刀をうちつけ、関節に突き刺し、なんとか脱出しようとしていたが、
「上司に対シテは、はいと返事をシロと教えたダロウがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
振り回される。
至る所に叩きつけられ、頭を思う存分揺さぶられる。
意識を手放しそうになるのをグッと堪え、刀が手から離れないようしっかりと握りしめる。
「大和くんを離しなさい!!」
俺を救うべく武蔵が山本に挑みかかるが
「あア!言われなくともなァ!!」
また、叩きつけられる。
今度は地面にでは無い、
「武蔵…!」
武蔵にだ。
「くたばれェェェェェェ!!!!!」
サブアームの攻撃なら普通に弾くか斬るかすればいい
しかし俺がいる。
武蔵はそれに一瞬戸惑ってしまう。
それがいけなかった
轟音。
俺は見事に武蔵に激突。
周囲の砂浜が舞い上がり、視覚が遮られるも奴のうるさい笑い声が聞こえた。
「ははハハハハははは!!!見たか!!思い知ッタカ!これが俺の実力だ!!所詮は使エナイ部下が自惚れ調子に乗って楯突くカらそうなルノだ!!」
頭が揺さぶられる。
ぐらつく意識でなんとか立ち上がると、下敷きになっていた武蔵もゆっくりと立つ。
「自惚れ?それはあなたでしょ。」
「何…?」
「その訳分からない義手とロボットの腕のおかげだろう。お前の実力じゃない。」
「上司にナンテ礼儀知らずなことを!!やはハリ再教育してやラネバ…!!」
晴れる砂煙。
さて、やつの事はだいたい分かった。
無敵の義手。
そして攻防一体最強のサブアーム
それがあればこちらは一太刀も浴びせられない。
だが、無敵という訳では無い。
「武蔵。提案がある。」
「気が合うわね、私も丁度いいこと思い付いたの。」
腰のベルトに固定されているメイス、散弾銃を捨てる。
重さを少しでも軽くする為だ。
そして、
「なら、俺のしたいこともして欲しいことも分かるな。」
僅かに横を見ると武蔵は頷き、同時に駆け出した。
「何ヲ企もウガ…無駄ダァ!!!!」
襲い来るサブアーム。
それをかわすと俺は右、武蔵は左へと駆ける。
「ぬぅぅ!!ぬぅウウウウ…!!!」
サブアームの追撃。
それを刀で弾き、また走り出す。
走り、弾き、また走り、また弾く。
それを続ける。目にも止まらぬ早さで山本を翻弄し続けた。
そして山本は勿論、目で俺達を追うも身体はついていけず、サブアームに任せてその場でキョロキョロと右往左往している。
ダメージは与えられていない。サブアームの追撃は衰えることは無い。
だがそれでいい
いや、そうでなくてはいけない。
「ううウううウウ!!!イライラさせるな!!竜胆!!お前ハ仕事の時モソうダ!!俺をいちイチイライラさせる!!」
そうか、ならよかった。
「ならそのまま、憤死してくれないか?」
「いいヤ!お前ヲこの手デ始末し、矯正させルまでは死ンデモ死にきれんなぁ!!!!」
そうしてやつの攻撃をかわしながら軽口を叩いてみせる。
休む間もなく襲いかかるサブアーム。
いいぞ、追え。逃げ回る俺と武蔵を存分に追え。
「はははっ!!どうシタ?逃げてばカリではどうにもならないと昔教えたはずなンダガなぁ?」
走り、跳び、たまに挑発するかのようにすぐ横を通りかかったり上を飛び越えてみせる。
にしても随分と高性能なサブアームだ。
山本本人は動き回る俺達を追えてはいないが、こいつはしっかりと追尾し攻撃してくる。
だがその追従性、高性能さがアダとなるぞ。
「ぬ…!?」
そうしていると、山本が違和感を覚えたらしい。
「なんだ、コレは…動きが鈍ク…!?」
サブアームの調子が悪い。
いや、動きが明らかに遅くなったのだ。
そして
「あ、あァ!!!??なんだ!?ナンナンだこれはァ!?熱い!!熱い!!焼けルゾォ!?」
両手を背中に回し、必死に掻きむしっている。
いや違う、熱さの根源を取り外そうとしている。
後頭部から腰まで、ちょうど脊髄の上から取り付けられたソレ。
そう、サブアームの機械を外そうとしている。
さらに熱くなった原因としては
「血が滲み、膿も出ていたからな。取り付け方はかなり大雑把と見た。おそらく付けるだけ付けただけの、試作中も試作中のモノだろうと予想していたが…。」
「!!」
やつの目の前で、動きを止める。
目の前にいる俺と武蔵を見て、山本はサブアームを伸ばそうとするがそれはもう動かない。
フル稼働を続け、機械自体が熱を帯び、熱くなりすぎて機能が停止したのだ。
いわゆるオーバーヒート。
俺と武蔵はそれを狙ったんだ。
「冷却装置も付けられていない。その腕も副作用を顧みず付けられたのだろうな。お前大丈夫か?葛城財団で人間として扱ってもらえているのか?」
「うる…サイ、貴様ごときが俺を見下…グアぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
突然叫び声をあげる山本。
白目を向き、口が裂けそうな程開け、唾を撒き散らし悶絶する。
「あぁぁぁぁぁ!!!あつい!!!あついアツいあツイアつイアツイあついあついいいいいいいいいっ!!!!!!」
「…。」
砂浜でのたうち回り、背中の機械を取りたいと掻きむしる。
その度に血と膿が飛び散り、やつが暴れる周囲の砂浜は汚れた。
「…。」
刀を逆手に持ち、やつの眉間目掛け突き刺す。
ビクビクと強く痙攣はしたが、すぐに動かなくなった。
情け、という訳では無い。
ただただ見苦しいだけだ。
「…。」
「次はいいものを付けてもらえ。冷却装置もちゃんとついて、アフターケアも万全にな。まぁ…。」
「”次なんてないんだけどな”。でしょ?」
「ああ、そうだ。」
動かなくなった山本を一瞥し、上を見上げる。
鷹のように俺達の上を旋回している輸送ヘリ。あれは葛城財団のものだろう。
しかし着陸せず、こちらの様子を伺う限り敵意はないのか、どうなのか。
「撃ったりして来ないのかしら?」
「あくまで山本を運ぶためのものだったのかもしれない。武装は積んでおらず、降りてこないということは中にいるのも非戦闘員の可能性も高い。今のうちだ。逃げるぞ」
例の丈夫そうな箱を小脇に抱え、指笛を吹く。
そうすると嘶き、やってくるオロバス。
砂浜だろうがその健脚はなんの問題も無さそうだ。
「今のうちに行こう。応援を呼ばれないうちにな。」
「そうね。もうこんな厄介男、こりごりだもの。」
オロバスにまたがり、なるべく全速力でそこから逃げ出す。
「…。」
「大和くん?」
「どうした?」
「いや、難しい顔してるなーって。」
山本は確かに死んだ。
しかし、何故か不安が拭いきれない。
死に様も確認した。何より俺がトドメを指した。
眉間を貫いた。頭部をメッタ刺しにされて生きてられる人間なんていない。
だから何の心配もいらないというのに。
「いや、なんでもない。」
どういい方向に考えてもぬぐい去ることが出来ない不安を脳の隅っこに追いやり、俺は手綱を握り直した。
後書き
報告書
今回の試作型自動四腕機の実験になりますが結果から言わせてもらうのなら”成功”と言えるでしょう。
充分な結果は出すことができましたので『英霊兵』のデータにフィードバックできそうです。
さらに被検体なのですが発見当時は脳に損傷があり、脊髄は焼け焦げボロボロでしたがかろうじて生きておりました。
被検体の根性と言うのでしょうか、やはり目を見張るものがあります。
このままだと彼は植物状態まっしぐらではありますが被検体としてはまだまだ利用価値があります。
それに何より、本人が竜胆大和という危険人物に対する復讐心に燃えており、意識を取り戻すなりすぐに彼の名を叫んでいました。
やる気は充分にあります。後は私達が彼の彼岸を達成させるべく、手伝ってあげるだけです。
それと『英霊兵』量産計画の他に、新しいプランがあります。
置鮎様から教えていただいたものなのですが、代表が性処理に使い、廃棄していた通称”おさがり”に関して、
あれのいい使い道がみつかりましたので今度是非研究室にいらしてご検討お願い致します。
それでは、葛城財団に永遠の繁栄と輝かしい栄光を。
丹下真教
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