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『外伝:青』崩壊した世界に来たけど僕はここでもお栄ちゃんにいじめられる

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やっぱりフォーリナーはおそろしい話

 
前書き
前回までのあらすじ
夢の中で出会ったのは3人目のフォーリナー、その名も楊貴妃。
世界三大美女の一人と言われる傾国の乙女、彼女は舞くんの夢にやってきて何をするかと思えばなんと舞くんを赤子同然に戻し、甘やかして我がものにすることだった!
しかしそんなことは舞くんの飼い主、お栄ちゃんが許さない。
とはいっても楊貴妃の作戦は失敗しており、助けに来た時には理性と記憶を焼却され、しかし体に刻み込まれた犬としての自分だけは覚えていた舞くんが楊貴妃を襲っていた。
それから2人仲良くおしおきされ、今回の騒動は幕を閉じる。

はずだった。 

 
「…。」

カーテンの開けられた窓から陽の光が差し込み、僕は目を覚ます。
昨日のことは…まぁ覚えている。
夢の中で楊貴妃…ユゥユゥと出会い、
本当になんやかんやあって大変なことになった。
しかし、助けに来てくれたお栄ちゃんのおかげで僕はこうして目覚め、現実へと帰還できたんだ。

さて、朝ごはんを作らなきゃ。

「…っ。」

不自然にふくらんだ布団。
ときどきもぞもぞと動き、さらにおちんちんをいじられてる感覚を覚える。

どうせお栄ちゃんだ。
眠気覚ましに金玉空っぽにしてやるヨとか言ってくるに違いない。
やれやれと思いつつも布団をめくりあげた。

「もうお栄ちゃ……。」

もうお栄ちゃんってばしょうがないなぁ…
と、僕も満更ではない感じで言おうとした言葉は途中で止まる。
何故ならば、そこにお栄ちゃんはいなかったから。
じゃあ代わりに誰がいたか?

「あ、おはようマイマイ。幼なじみらしく起こしに来たんだけど…”コッチ”はもう起きてたみたいだから…ちょっと抜いてあげようかなーって。」
「」

フォーリナー楊貴妃。
ユゥユゥが、僕の布団の中にいた。






「知ってたの!?」
「あぁ、気がついたらいた。」

それから朝食。
いつもはお栄ちゃんと僕、そしてとと様の二人と一匹でいただくのだけれど、今日は少しだけ賑やかになった。

「でも良かったわ。私も舞さんの作った朝ごはん食べてみたかったの!これがジパングの朝食なのね!」

1人はアビー。
この崩壊世界には前々から来たかったらしいけど、自分一人では来ることがほぼ不可能だったとのこと。

なんか女神?がフィルターを張ってて、外側からの脅威は入れないようになってるんだって。
アビーはそれに認定されちゃったけど、僕と仮契約を結んだことでこうして夢の世界ではなく、現実に現界できるようになったとのこと。

にしても仮契約…?
いつしたっけ?
それはそれとしてもう1人なんだけど

「おいしいねマイマイ!白米ももっちりつやつやしてて、きゅうりの浅漬けもすごくいい塩梅で、何よりたくさんのおかず!どれも最高だよ!」

ユゥユゥこと、フォーリナー楊貴妃。
ついこの前夢の世界で知り合った…というよりかはほぼ誘拐みたいなことをされた。

あんなことがあって平然とここに来たのは疑問だ。

「うん。それはありがとうなんだけど…。」
「なんだけど?」
「なんでここにいるの?」

そう聞くと、ユゥユゥは手を止め、箸を置くと両手を頬に当て、僕から視線を逸らす。

「だって…あんなことされたら責任とって欲しいな、って…。」
「え…?」

頬を赤くして何を恥ずかしそうに言うんだろう。
あんなこと?僕はあの時何した?

「覚えてねぇのかい?楊貴妃ともあろうお方にケツでイクこと覚えさせちまったのを。」
「ほ、北斎さん!!言わないでってばぁ!!」
「犬になったマイにケツ犯されまくっててナァ。そりゃ驚いた。おかげでケツでしかいけなくなったらどうすんだい?責任取れってことサ。」
「えぇ…。」

確かに僕は、ユゥユゥに甘やかされ、記憶と理性を焼却されてしまい赤ん坊同然にされたと聞く。
ところがどっこい、僕は人間の赤ちゃんではなく”犬の赤ちゃん”となってしまった。

しかも理性は無いのでただ本能の赴くままに行動するものだからユゥユゥを犯し、泣くまでヤり続けたという。
とまぁ…その時に…。

「お尻に入れられて、すごく気持ち悪かったんだよ?でも、マイマイに何十回…ううん、何百回かな?そうやって何千回も犯されて…だんだん気持ちよくなって…クセになっちゃったかもしれなくて…♡」
「…。」

何も言えない。
じゃあ僕はどうしたらいいんだ。

「心配ないわ。舞さんだっておちんちんよりもお尻でイク方が多いもの。」
「そういう問題じゃないよ!!」

アビーがお茶を飲み、なんだかよく分からないフォローをする。

「それじゃあごちそうさま。舞さん。とても美味しかったわ。」
「うん。お粗末さまでした。」
「おれもごちそうさん。」

そう言ってお栄ちゃんはスっと立ち上がる。
肩を回しながら仕事場へそのまま直行。
うん。1人で集中したい時だ。あまり話しかけない方がいいかな。

「よし。」

僕も膝を叩いて立ち上がり、家事に取り掛かる。




「〜♪」

鼻歌を歌いながら、お皿を洗う。
今回は二名増えたので、当然お皿を洗う量も増えるわけだけどなんてことない。
逆に、大人数で食べてくれるのは嬉しいし。

と、そんなときだ。

「マーイマイ♡」
「…!」

後ろから抱きつかれ、背中に感じる柔らかな2つの感触。
甘い声の主は...勿論ユゥユゥだった。

「ユゥユゥ?」

振り向くとニッコリ微笑む彼女。
その見るもの全てを魅了しそうな純粋な笑顔とは対照的に、彼女の手は僕の股間へと伸びており…

「えへへ…北斎さんもお仕事中だし、朝の続きしようよ。」
「そ、そんなこと言ったって今お皿洗ってるさいちゅ…ひゃ!?」

股間へと伸びていた手は進路変更。
両手は上へと移動し、脇から通して僕の乳首を服の上から優しく撫で始めた。

「ユゥ…ユゥっ!今はダメだからぁ…っ♡」
「そんなこと言ってぇ...身体はとっても正直なのにね。あたし知ってるよ?マイマイは乳首いじめられるの、だーいすきなんだよね?」
「ちが…あっああああっ!?」

優しく撫でていたのがうってかわり、ギュウと思い切りつままれる。
他の人からしたら痛いくらいの力だけど、僕くらいになると気持ちよくなって変な声が出てしまう。

「北斎さんにも、アビーちゃんにも、いろーんなフォーリナーからいじめられて開発されたマイマイの乳首。ねぇ、ユゥユゥもいじめていい?」
「そんな…の…っ♡ダメに決まっ」
「い い よ ね ♡」

身をかがめてしまい、届かなかった耳にユゥユゥが息を吹きかけるように囁く。
もうこうなってしまってはだめだ。

「あー♡マイマイってば勃起してる♡おちんちんなんて全然触ってないのにー♡」

一切手を触れていないのにも関わらず、正直者なそれは着物の裾からはみ出し、エプロンを押し上げる。
カリカリと爪で乳首をいじめていた指は、そこから離れるとエプロン越しにがしっと掴む…

「そこまでよ!!!!!」
「!?」

ことはなかった。

「何してるの楊貴妃さん!?」
「ア、アビーちゃん!?帰ったんじゃ…!?」

触手がどこからともなく生え、僕からユゥユゥを引き剥がすアビー。
先程の小悪魔的な雰囲気から一気に変わり、「うえーん」と泣いて離すようにユゥユゥはアビーにお願いするも

「おねがいアビーちゃん…離してよぉ!」
「だめ。また離したら舞さんに何するか分からないもの。」
「何もしない!何もしないから!!」
「何を言おうがだめ。いい?舞さんはお栄さんの所有物(モノ)なの!」

そう言ってアビーはあまり気味の袖をまくり、僕の隣に立った。

「舞さん。私も手伝うわ!」
「あ、でも…僕一人で大丈夫だよ。」
「ううん。せっかくあんな美味しいご飯を頂いたんですもの。最後まできっちり責任をもってお皿を洗わないといけないわ!」

と、アビーのおかげで窮地を脱した。
後ろで楊貴妃がもがく中、僕とアビーは微笑ましく談笑しながらお皿を洗った。





「夜のお仕事…?」
「そ。僕の主な収入源。」

時刻は夕方。
準備をしている僕を不思議そうな目で見てきたアビーはどこに行くのか?と聞いてきた。

「舞さん…夜のお仕事って…!」
「吉原の時みたいなことはしてないよ。ただお客さんとお酒飲みながら、楽しく話すだけ。」
「そうなのね。」

そうして準備を終え、立ち上がる。
あれだけアプローチしまくっていたユゥユゥが静かなのは気になるけど、まぁいいか。

「じゃあアビー。お栄ちゃんの邪魔にならないよういい子にしててね。」
「またそんな風に言って!私はもうそんなお子様じゃないのよ!」
「うん。ごめんごめん。それじゃあ行ってくるね。あとご飯はちゃんと食べさせてね。お栄ちゃん、仕事に熱中すると食べないから!」

玄関からお栄ちゃんとユゥユゥに行ってきますと声を掛け、外へ出る。
お栄ちゃんは「おーう」と言ってくれたけどユゥユゥの返事はなかった。
帰っちゃったのかな?







と、思っていた。

「新人のユゥユゥでーす♡新しく入ってまだ分からないことたくさんあるんでマイマイに色々教えてもらいまーす!!」

まず、『蜘蛛の糸』に入ると出迎えてくれたのはモリアーティさんでもマスターの京子さんでもなく、

「…ユゥユゥ?」

楊貴妃、ユゥユゥだった。

「この子、マキくんの知り合いだからここに入れてくれと強引に入って来たんだケド…知ってるかね?」
「いえぼくしらないです。」(即答)
「マイマイ!?!?!? 」

困り顔のモリアーティさん。
怪しさしかないので追い払おうとしたけど、面白いからいいじゃないのと言う京子さんの提案で今日はいいらしい。

「人手が足りないのよ。最近お客さん多いし、それに今日蘭ちゃんおやすみでしょ?」
「あー、ここのところ何かと物騒らしいですし…しょうがないですよね。」

蘭ちゃんとは、サーヴァントの蘭陵王のことだ。
彼のマスターがここで働くよう命令したらしく、昼は自警団、夜はこのBARでスタッフとして働いている。

しかし、先日僕が襲われた岡田以蔵の事件を筆頭に、ここ姫路町では最近きな臭い事件や葛城財団職員の目撃情報がたびたび報告される。

というわけで蘭陵王くんは自警団としての仕事を夜でも続けないといけなくなり、ここに来られなくなったわけだ。

街の治安がどうなろうが何故かここはいそがしい。
ここで飲むカクテルが好き。僕が好き、危険な雰囲気が好き。
そういった様々な趣味嗜好の人達が立て続けに訪れるんだ。

というわけで、今この『蜘蛛の糸』は猫の手も借りたい状況。
なので仕方なく、

「傾国の乙女の手を借りると…?」
「その呼び方やめてよぉ!!!!」

彼女を雇わざるを得なかったらしい。
もうこうなったからには仕方がない。

「分かった。色々教えてあげる。」
「マイマイ!」
「だけど仕事中僕にちょっかいかけるのはダメだからね!あと人を貶めるのも禁止。」
「しないしない!あたしそんなことしないもん。」

と、笑顔でそうは言っているもののなにか怪しい。
お栄ちゃんやアビー、そういったフォーリナー達はみんな揃って僕をからかうのが好きな人達だったからだ。
ましてやユゥユゥは皿洗い中にしてきた前科もある。
とりあえず気をつけとかないと…。





「えー!ユゥユゥちゃんフリーのサーヴァントなのー?」

結果から伝えよう。
この子は予想以上にデキる子だった。

「そうなんですよー。とりあえず今は同棲中の彼氏と仮契約中…みたいな?」
「えーどうしよっかなー?それって本契約はまだってことだから…おじさんユゥユゥちゃんのマスターになっちゃおっかなー?」
「やだもーおじさまってばぁ♡」

お酒を飲みながら会話は弾み、基本的に否定的な意見は言わない。
お客の話や意見に全て肯定し、武勇伝は褒めちぎり悲しい話は同情して一緒に悲しんであげる。
さらにお酒を飲みすぎてしまったといい、どさくさに軽いボディタッチをしてしまえばお客さん達はもう既にユゥユゥの虜となる。
あと仮契約中の彼氏って…もしかして僕?


「ユゥユゥちゃーん、こっちこっちー!」
「あ、ちょっとまっててね!」
「ユゥユゥちゃーん!俺んとこにもお酒ちょーだーい!」
「ばっきゃろうてめぇ俺が先だ!俺がユゥユゥちゃんの注いでくれたお酒飲むの!!」
「うるせぇバカタレ!!俺が先だ!!」
「ああもう喧嘩しないで!!みんな仲良し!でないとユゥユゥ、みんなのこと嫌いになっちゃうゾ♡」
「「「えへへごめんなさ〜い」」」

接客はパーフェクトだった。
さすがは数々の男をダメにした傾国の乙女ではある。

「すごいなぁ…。」
「全く…新しいスタッフに皆夢中だ。ついこの前までマキさんにお酒をついでもらいたいとか言っていたくせに…。なんて薄情なんだろうか。しかし僕は最初から最後までマキさん一筋なわけなんだけどね!!そんなキミの隠れた瞳に乾杯。」
「はい、かんぱい。」

そして僕は常連さんや僕に熱心な海賊さんの相手をしつつ、『蜘蛛の糸』での時間はあっという間に過ぎていった。





「それじゃあお先に失礼します。お疲れ様でしたー!」
「明日もよろしくお願いしまーす!」

深夜二時。
酔っ払い達を無事見送り、『蜘蛛の糸』は無事閉店。
一通りの後片付けを終えて僕達は帰路に着いた。

「楽しかったねマイマイ!」
「うん…ってなにそれ。」
「あーこれ?お客さんからもらったの!」

と、両手に紙袋を持ったユゥユゥ。
なんでも新人歓迎だと言って貰ったらしい。
僕もプレゼントを貰うことはあるが、ここまでは無かった。
中身は…まぁすごい。ものすごく高い高級品ばかりだとだけ言っておこう。

「僕持つよ。」
「え、いいよいいよ。」
「女の子にそんな重いもの持たせて、僕だけ手ぶらはよくないから。」

断るユゥユゥから強引に荷物を取り上げ、持ってあげる。

「マイマイは、忙しいね。」
「え?」

と、少しの間無言で歩いていると、ユゥユゥが腕を絡ませそう話しかけてきた。

「だって、お家に帰ったら家事全般こなして、それからこうやって仕事に行くんでしょ?」
「うん。まぁ。」
「…ちょっと、キツくない?」
「そんなことないよ。」

確かに忙しいと感じる時はある。
でも、キツイなんて思ったことは無かった。

「家に帰れば、お栄ちゃんがいる。こうしてお栄ちゃんと一緒に毎日暮らせてる。それだけで僕は満足なんだ。」
「…そっか。そうなんだね。マイマイの中では、北斎さんは本当に大事な存在なんだ。」

迷いなく、頷く。
この崩壊世界にやって来た際、僕とお栄ちゃんは離れ離れだった。
もう会えない。
そういう思いが何度も過ぎりながら僕は必死に生きた。
お栄ちゃんを見つけるため、葛城財団の追っ手から逃れるため。
しばらくここに身を置こうと決め、そうして何ヶ月か過ぎた頃だ。

探偵さんが、連れてきてくれた。
もう会えないと諦めかけていたお栄ちゃんを。
だからもう、絶対離れないと決めた。
何がなんでも僕は、お栄ちゃんのそばに居る。
それが幸せなんだ。
それに、

「それにね、家族も二人増えたから、毎日がもっと楽しくなるよ!」
「二人?」
「そ。キミとアビー。これから一緒に暮らすでしょ?」
「マイマイ…!」

ユゥユゥの顔が一気に綻ぶ。
涙が目にたまり、ぶわっと決壊したダムのように溢れ頬を伝った。

「マイマイ!!」
「わっ!」

抱きつかれ、転びそうになるもなんとか持ちこたえる。

「ありがとうマイマイ!!あんなに冷たかったのに!やっぱりあたしのこと好きなんだね!!」
「ま、まぁうん…おしりの責任も…あるし?」
「今はそれ言わないでよ!雰囲気台無しだよ!!」

と、2人仲良く笑う。
ユゥユゥも最初は怪しい子だなぁとは思ってたけど、こうやって時間を共にしてみればそんなことは無かった。
さぁ、早く帰ろう。
アビーがいてくれるから大丈夫だろうけど、きっとお栄ちゃんはまたご飯も食べずに仕事を続けているだろうから!



「止まれ。」
「…?」

と、男の声が僕らの会話を遮った。

「誰…?」
「葛城 舞だな?大人しく我々についてきてもらおう。」

目の前に現れたのは夜間戦闘用だろう黒い迷彩服に包まれた男。
手には拳銃。

「葛城財団…だね?」
「答える義理はない。さぁ、黙って俺達に着いてこい。拒否権は、ない。」

銃口は勿論、僕に向いている。

「…ッ!」
「おおっと、逃げようなんて考えない方がいいぜ?」

ユゥユゥを手でかばい、後ずさるとまた別の方向から声。
辺りを見渡すと周りには何人もの財団職員達が。

さらに目をこらすと、少し遠くから暗闇に紛れ様子を伺う者達も何名かいる。

「自警団は…!?」
「あぁ、あの雑魚共か。俺達特殊部隊にかかりゃ赤子同然よ。ちょいと眠ってもらったぜ。」
「特殊部隊…?」

別の男が自慢げにそう言い放った。
特殊部隊…?なんだそれは?

「教えてやろうか?俺達は葛城 舞及び葛飾北斎捕獲の為だけに編成されたエリート中のエリート!代表直属の特殊部隊さ!!」

確かに彼らの言う通り、エリート中のエリートを集めて作られたんだろう。
まず雰囲気が違う。
戦場慣れしてるみたいな、誰一人として息を乱していない。
拳銃のトリガーを引くのだって躊躇しないタイプの人達だろう。

「さぁ、葛城 舞。代表の元へ来てもらおう。断れば我々はこの街の住人を皆殺しにする。」
「…!!」

表情の見えないガスマスクからは、何も読み取れない。
冷徹な印象を受ける特殊部隊は、その気なら本気でやりかねない危険さは感じた。

確かにこの姫路町の住人はタダではやられないだろう。
しかし彼らは戦闘のプロ。
卑怯な手は平気で使うだろうし、きっと作戦次第ではサーヴァントにだって深手を負わせるかもしれない。

僕は、街を人質にとられてしまった。
なら…


「随分と、面白くもない冗談を長々と話すのですね。」
「…!?」

大人しく連行されよう。
そう思った時、冷たい声が響き、それとは対照的に背後が一気に熱くなった。

「これなら、酔った殿方様から出る品のない話の方が、余程笑えるというもの。」
「な、なんだお前!?」
「データにない…?確か葛城 舞のサーヴァントは葛飾北斎のみだったはず…!!」

振り返ってみれば、そこにはユゥユゥ。
青い炎ゆらめく第三再臨の姿の、傾国の乙女としての姿がそこにあった。

「舞様を、さらう?ふふっ、冗談にも限度というものがあります。身の丈に合わない大層な冗談はあまり言わない方が…」
「うるせぇ!!」

特殊部隊の一人が、消音装置の付けられた拳銃を発砲する。
ものすごく小さな音がし、弾丸は発射される。
しかし、

「これは、なんですか?」

弾丸を掴むユゥユゥ。
手のひらを広げてそれを見せた直後、弾丸は灰となって一瞬で消えた。

「こいつ…!!」
「相手はサーヴァント一騎だ。フォーメーションを乱すな!各員指示に従え!!」
「まぁ…まぁまぁ…うふふ…♡」

ユゥユゥが、一人の男を見る。
その青い目が、輝かしくも妖しさを秘めたその目が真っ直ぐ男を見据える。

「あ、あ、あ…」

そうして見られた男は、魅入られた。

「ああああああああああああああああぁぁぁ!!!」
「どうした!?」

突然錯乱し、手に持っていた銃を乱射する男。
別の隊員が声をかけ肩に手を置いて揺さぶるも、

「さわるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うぐぅ!」

突き飛ばし、さらに追い打ちに何度も発砲する。

「おいどうした!?」
「仲間割れか!?止めさせろ!!」

男が数人係で止められるも、男は一切落ち着かない。
分かる。
この男は、発狂している。
そうしてユゥユゥは満足気に頷いてから振り向くと、やや怯えている男に目を向けた。

「…。」
「…ひっ!」

怯えていれば、恐怖している。
恐怖しているならば、そこに付け込まれる。
付け込まれたならば、もう彼は狂気から逃れられない。

「あっ、あっ、あぁああ!」
「くそっ!!」

特殊部隊の隊長らしき人物はすかさず発狂した者達の頭を撃ち抜く。
冷酷かもしれないが、ここでは正常な判断かもしれない。

「おや、同族殺しですか?」
「足手まといにしかならん。それにお前、フォーリナーだろ?発狂させたのはお前だろうによく言う。」
「そうですね。あなたは随分とお強い方のようで。」

隊長は冷静に拳銃をかまえ、ユゥユゥから目を離さない。
確かに彼は強い。肉体的にも精神的にも。
ユゥユゥが見ても精神は正常であり、男は揺るがなかった。
しかし、

「なのであなた以外、私に魅入ってしまわれたようです。」

周りはどうだろうか?

「うぐっ!?お、お前ら!!」

仲間達が、隊長に群がる。
笑いながら、泣きながら、言葉を呟きながら、失禁しながら、
手は首へと伸び、息の根を止めようと殺到する。

「おいやめろ!!おい!!ふざけるな!!正気を保て!!相手はサーヴァント一騎だぞ!!」
「…では。」

ユゥユゥが琵琶を持ち、ひとつ音を鳴らした。
立ち上る巨大な青い火柱。
それは特殊部隊を包み込み、一瞬で灰燼へと帰してしまう。

「…さて。」

夜の静寂が戻る。
しかしユゥユゥは目を閉じると、また琵琶を弾いた。
軽やかな旋律。彼女の周りに現れるのは何体もの火の精霊。
それらは優雅にユゥユゥの周りを回ると、ある場所めがけ真っ直ぐ飛び込んだ。

するとそこには

「ひっ、やめろ!!離せ!!あつい!!あづいいい!!」

生き残りがいた。
火の精霊達に四肢を掴まれ、焼かれながらユゥユゥの元まで連行される。
そして、

「あなたには少しあることをしてもらいます。いいですね?」
「お、おれは…!」
「い い で す ね ?」

火傷を織った足は逃げることを許さない。
ユゥユゥの目を見てしまった彼は、彼女の虜となってしまった。







「は?姫路町にはいない?」

同時刻。
葛城財団本部、代表室。
そこには豪華な革のソファにふんぞり返り、誰かと電話をしている代表の姿があった。
その顔はいかにも不機嫌そうである。

『かつらぎまいは…ひめじちょうに、いません。やつは、べつのまちへいった…のです。』
「ボソボソ喋んな。はっきり喋れクソが。」

電話の相手は特殊部隊。
葛城 恋との直接の通話が許されているのは名を挙げた各部隊の隊長ぐらいだが、直属の特殊部隊は全員が代表への通話を例外に許されている。

「もう、いません。いません。いません。うひ、うひひひひひひひひひ…!!」
「おい!ふざけてんのか!?ぶっ殺すぞ!!」

特殊部隊の様子が何やらおかしい。
怒鳴ろうが笑いだし、気持ち悪さすら感じ始めた。

「いあ…いあ…んがあ・ぐあ、えへっ、へへへへ、へへへへへへ…!」
「ちっくしょうが!!」

叩きつけるように受話器を電話に戻す。
葛城舞は既に姫路町にはいない。
特殊部隊からの連絡はそうだった。

他の部隊の捜索により、実の弟である舞は姫路町にいると突き止めたばかりなのに。
先読みされて逃げられたか、
ともかく、また振り出しに戻ってしまったことになる。
しかし、

「まぁこんな時のための秘密兵器だ。なぁ?」
「はい、マスター様。」

こちらも、葛城舞用の秘密兵器がある。

「雑魚でクズの、絵描きで穀潰しのてめぇを使ってやるんだ。頑張ってあのクソガイジを俺様の元へ連れてこい。いいな?」
「はい…使われることが、サーヴァントの幸せ。役に立てることが、使えない私の何よりの幸福ですから。うふふ、えへへ…。」

と、代表の後ろで薄気味悪い笑みを浮かべているのは紛うことなきサーヴァント。
彼女は他のマスターから取り上げたものでは無い。葛城恋が召喚した、ちゃんとしたサーヴァントだった。

「フォーリナーがてめぇだけのもんだと思うなよクソガイジ。必ずてめぇを俺様の前に引きずり出し、てめぇの前であのゲロマンコを奪ってやるからなァ…!」


薄汚い笑みを浮かべながら、代表はそう呟いた。




 
 

 
後書き
最後に代表が連れていたフォーリナーのサーヴァント…
一体何者なんだ…? 
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