『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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窮地-ぜったいぜつめい-
前書き
はんなまー、クソ作者なのだ。
サブタイトルが不穏だし前回のお話が中々にヤバめだけどきっと大丈夫なのだ。
大和と武蔵はつよつよだから何かあったっていつも通り敵を蹴散らして颯爽と馬で逃げていくのだ。
なんてことないのだ。心配ご無用なのだ。
それでは本編、どうぞなのだ。
「…。」
運び屋としての仕事を続けながら、あちこちを転々としている俺達。
今いるのは元は都会だったであろう廃ビルの立ち並ぶゴーストタウン。
亀裂が入っていたり、斜めになったビル達は今にも崩れそうで、それらは世界崩壊時に生えた巨大な植物によってなんとか支えられている感じだ。
今までは海の近くだったり、森林だったりと、自然のありのままの姿を見てきたがこうしてかつて人が住んでいた場所を訪れたのは実に久し振りだ。
そして俺がここを訪れたのは、無論散歩などではない。
「レジスタンス?」
「ああ、ここを隠れ家にしていると聞いた。」
レジスタンス。
意味は…ゲームなりそういった小説や漫画を読んでいるのなら説明は不要だろう。
言葉としては権力に対抗する組織のこと。
ここで権力とは、勿論葛城財団のことを指す。
つまり、打倒葛城財団を掲げるレジスタンスがここにいるのだ。
「まぁ人のサーヴァントを強奪しまくってれば反感は買うわよねぇ、レジスタンスの一つや二つ当たり前にできるというか…。」
武蔵が呆れながらに言う。
彼女の言う通り、葛城財団の目的は不明だが奴らは全国各地に出没し、サーヴァントを集めている。
サーヴァントは今この世界に必要不可欠な存在だ。
見返りとして多額の報酬金や財団の手厚いサポートを受けられると嘘をつかれ、そして誰もがやってしまったことを後悔する
各地を旅し、俺はサーヴァントを渡してしまった者、信じて送り出した者、そして奪われてしまった者達の末路を見てきた。
まるで魂がどこかへいってしまい、もぬけの殻のようになってしまったマスターだった者達を。
そして、そうなった者は皆揃ってあることを言うのだ。
自分のサーヴァント達が、知らない男の名前を叫びながら、嬉々として連れていかれた、と。
奴らに何かをされ、サーヴァント達は豹変するのだという。
自分達に邪険な視線を向け、そして知らない男の名前を連呼して犯してくれだこの身を捧げますだの意味不明なことを言うらしい。
中にはマスターに刃を向けるサーヴァントすらいたらしいが、俺と武蔵はこの光景を未だ見た事がない。
サーヴァントとマスターの絆は強固なものだ。
にわかには信じ難い話だがかつてのマスターを簡単に捨て、知りもしない男に忠誠を誓うなどありえるのだろうか?
「で、お届け物はなんだっけ?」
と、考え事をしていると武蔵がオロバスに積まれた荷物を叩き、尋ねてくる。
多分俺は今難しい顔をしていたんだと思う。
だから話題を振って何とかしようと考えたのだろう。
「支援物資。食料、薬品、爆薬…その他諸々だな。」
「にしてもすっごいわね。これだけの大荷物を背負えちゃうんだから!ありがとうねオロバス。」
と、褒められたオロバスは誇らしげに鼻を鳴らす。
ちなみにオロバスは武蔵の言った通り、大量の物資を抱えている。
こうなると俺達は乗れないので、久し振りに徒歩でやって来た。
依頼主からは五日はかかるかもと言われたが、まぁ頑張って三日でここまで来れた。
オロバスや武蔵にもだいぶ無理させてしまっただろうし、さすがに俺も少し疲れる。
これが終わったら、ちょっと高めのホテルを探してしばらく休もう。
「そろそろだ。」
ポケットから地図を取り出し、物資の受け渡し地点を確認する。
地図に赤いマーカーでバツ印が書かれているのはこの辺なのだが…
「…!」
何かに気付く。
それに次いで武蔵も鯉口に手をかけ、オロバスも落ち着きが無くなった。
「大和くん…。」
「ああ、微かだが漂ってきた。」
いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、分かる。
本当に微かだが風に乗って漂ってきたのだ。
”血の匂い”が。
「大和くん!あれ!!」
武蔵が指さした先、
そこは他の建物と比べてかなりボロボロのビル。
なんだあれは…。
他は時間経過とともに朽ちていった感じだが、あれだけは何故か朽ち方が違う。
まるでそこだけが爆撃にでもあったかのように、ひどいものだったのだ。
「私達が来る前に、戦闘があったってこと?」
「…おそらくだが、ここがレジスタンスの本拠地だったんだろう。見ろ。」
近づいてみるとよく分かる。
壁にぽっかりあいた穴からは建物の様子が確認でき、爆発かなにかのせいでボロボロではあるが、ここで生活していた様子が確認できる。
さらに遊具のある部屋…おそらく子供達の遊び場だっただろう場所もまた、無慈悲に爆発されていた。
「生き残りは…?生きてる人は誰もいないの?」
「探してみよう。どこかに隠れているかもしれない。」
オロバスを外に待機させ、俺と武蔵は生存者の捜索を始める。
今にも崩れそうなボロボロのビルへ足を踏み入れ、俺達は隅々まで探した。
「…ひどいな。」
捜索しているうちに、わかったことがある。
ここは本当にレジスタンスの本拠地であること。
部屋に銃器などの武器があり、さらには作戦会議室のような場所もあった。
そしてここは、居住施設も兼ねていたということ。
上の方はいくつもの部屋があり、ついさっきまで暮らしていたような痕跡があった。
しかし、生存者はおろか死体すら見つからない。
至る所にある爆発痕と、何か関係があるのか…?
そう、思った時だ。
「大和くん!!」
武蔵の声。
その方向へ向かうとそこには武蔵と、
「うぅ…アンタらは…運び屋か?」
生存者がいた。
「しっかりしろ。何があった!?」
生存者とはいっても、無事ではない。
壁によりかかっている彼は片足がちぎれて無くなっており、腹部にも穴があいている。
長くは持たないだろう。
それに、俺達ではどうすることも出来ない。
「奴らだ…葛城…ざい…だんが…。」
「来たのね…。」
「きをつけ…ろ…。」
もう死がすぐそこまで迫っている。
だがレジスタンスのメンバーであろうその男は生に縋るのではなく、生きる俺達に警告した。
「ぞん…へ…に、きを、つけろ…。」
「ぞん?なんだ?なんて言ったんだ!!おい!!」
それだけ言うと、男は首をがくりと下げて動かなくなった。
気をつけろ、
何に気をつけろと言った?
彼の掠れて小さな声は、残念なことに俺達には届かなかった。
とはいっても、せめてこの人を弔ってやらねば。
そう思った時だ。
「出てこい!!宮本武蔵!!」
「…!」
噂をすればなんとやら。
葛城財団のお出ましだ。
「お呼びだぞ武蔵。」
「私に用があるってことは…あいつね…。」
外から聞こえる拡声器の怒声に嫌そうな顔をする武蔵。
壁にあいた穴から僅かに顔を出して覗かせると、やはりそこには奴らの姿があった。
「逃げようなどと考えるなよ!お前達は包囲されているし何より馬は捕らえている!!大人しく出てきて、置鮎隊長のセイバーと勝負をしろ!!」
隊員の一人がそう怒鳴り散らす。
わかった。素直に出る。だからそう急かすな。
「…。」
「いつも通りさ。軽く蹴散らしていけ。」
互いに見合い、頷くと俺達はそのまま爆発によって空いた穴から飛び降りる。
6階くらいなら、別になんの問題もなく着地できる。
サーヴァントに着地を任せる必要は無い。
「…。」
「嘘だろ…こいつら何階から…!」
着地すると、周囲にいた隊員達が驚いている。
しかし、俺を前にしてそんな悠長なことをしていられる暇はないぞ。
「隙だらけだ。飛び降りる最中に撃てばよかったろうに。」
刀を抜き、まずは目の前にいる2人をまとめて斬り捨てる。
奴らは自分が死んだことも、斬られたことも気付かず何もわからぬまま絶命した。
「コイツ…!!」
「待て。」
他のやつが銃をかまえる。
しかし、すぐに隣のヤツが手で遮って制止したのだ。
「竜胆大和の始末は”あっちの部隊”だ。俺達は手を出すなと言われただろう。」
「でも!そんなこといちいち気にしてら…」
敵を前に何を話し出したかは知らないが、斬らせてもらう。
撃たないのであればこちらからいく。
奴らの会話を途中で文字通りぶった斬り、俺は駆けた。
「露払いは任せろ。武蔵はランスロットだ。」
「ええ!」
俺の言葉を合図に武蔵も駆ける。
目指すは真っ直ぐ。その直線上にいる置鮎とランスロットだ。
「来たな宮本武蔵!!今日こそ貴様を倒し!最強の名をセイバーのものにしてやるぞ!!」
「やれるもんならどうぞ!!」
対するランスロットも駆ける。
ぶつかり合う刀と剣。
もう何度目かわからない、剣豪と円卓最強の激突。
速すぎて見えない太刀筋、ぶつかりあっていくつもの火花が散る。
さて、横槍を入れないよう俺も頑張るとしよう。
「返してもらうぞ。」
手綱を引っ張り、オロバスを無理矢理輸送車に乗せようとしている奴ら目掛けて散弾銃を抜く。
迷うことなく引き金を引き、拡散する魔力の弾丸は数人の隊員の命を一度で奪った。
当然、無差別に拡散するのでオロバスにも被弾する。
だがオロバスは丈夫だ。
たかが強化された散弾程度では傷はつかない。
こうして開放されたオロバスは、そばにいて運良く被弾を免れた隊員を蹴り飛ばし、とどめに輸送車も蹴って横転させた。
「…。」
武蔵の方にちらりと視線をやる。
勝負は未だ互角。
こちらが斬ろうと思えば、あちらは即座に反応し受け流す。
逆にあちらの嵐のような攻撃も、武蔵は受け流し咄嗟に反撃に応じる。
一進一退の攻防だが、心配する必要はなさそうだ。
「追加のゾンビ兵は!?山本部隊はまだ来ないのか!?」
「装備の調整が思った以上に手間がかかると…いえ、もう来ます!!」
その時だった。
複数台の輸送車が向こうからやって来た。
急ブレーキで強引に止まると、ドアが開いて追加の隊員がゾロゾロとやってくる。
「おかわりか。頼んではないんだがな。」
精鋭とはいえ所詮は人。
いくら来ようが俺一人で蹴散らせる。
そう、
人なら。
「山本部隊!ただいま到着しました!!」
「遅いぞ!!すぐにゾンビ兵を放て!!」
到着した隊員がそう報告し、元々いた隊員から何やら不穏なワードが飛び出た。
ゾンビ兵?なんだそれは?
「ゾンビ兵を出すぞーッ!!総員退避いぃー!!!!」
そんな疑問が頭の中に浮かぶ中、隊員の一人が叫んだ。
同時に開け放たれる複数の装甲車。
そこにいたのは
「な…!?」
中から出てきたのは、服とは到底呼べないボロ布をまとい、頭も雑に刈られ、人間的な扱いは受けていないだろう女性達だった。
皆フラフラと歩き、にやにやと不気味な笑みを浮かべながら、どこでもない場所を見つめている。
なるほど、確かにゾンビだ。
そう納得した時、ゾンビ兵の一人がこちらに振り向き、俺を認知する。
すると…
「てき…てきだ。」
「れんさまのてき…たおせば…ごほうび…ふふふ」
「またおかしてもらえる…また、おきにいりにもどれる…!」
「「「「「あいつをころせえええええええええええーーーーーーっ!!!!!!!!!!」」」」」
ブツブツと囁いたと思えば、口が裂けそうな程に大口を開けて悲鳴に近い声を上げ、一斉に俺目掛けて走り出した。
「れんさまああ!!!!れんさまあああああああ!!」
「なんだこいつ…!!!」
一番乗りでやって来たゾンビ兵をすれ違いざまに斬る。
「…!」
何かがおかしい。
確かなことは言えないが、斬った際今までとは違うものを感じた。
「れんさまあああああああ!!!」
「こいつ…!!」
斬り捨てたはずのゾンビ兵が、すぐさま立ち上がり接近してくる。
おかしい。
違和感もそうだが、確かに俺は殺すつもりで斬った。
なのになぜ死なない?
それだけじゃない。
「ころす!ころすころすころすころす!!」
「きけんじんぶつ、れんさまのてき!!たおせば、ごほうび!!!!!」
ありえない速さで真っ直ぐかけてくる者、壁を伝い、まるで忍者な如く縦横無尽に飛び回り襲いかかる者。
飛びかかってきたやつをメイスで滅多打ちにしても、散弾銃で撃ち抜いたとしても、それでも血まみれになりながら笑顔で俺に襲い来る。
まさかこいつら…人間ではない?
とすると…まさか…!
「サーヴァントですよ。彼女らは。」
「!!」
声がし、とっさに上を見上げる。
廃ビルの屋上にいたのは白衣を着た複数の男達。
あれはおそらく、葛城財団の研究員だ。
「サーヴァントだと…!?」
「ええ。代表が使い古し、隊員共がお下がりとして利用し尽くし、もう使いようの無くなった”ゴミ”ですが。」
「…。」
こいつ…今なんて言った?
それよりもまず、聞きたいことがある。
「使い古すとは…お下がりとはなんのことだ!?」
サーヴァントを使い古す、そして隊員がお下がりとして使う。
俺はその言葉に、最悪の予想が浮かび上がり一抹の不安と怒りを覚えた。
そしてやつは答える。
模範解答のように、さも当たり前のように、
俺が予想していたことを見事に言い放つ。
「オナホですよ、オ・ナ・ホ」
「…。」
「代表はもの好きでしてね。捕らえたサーヴァントを集めて性奴隷とし、まるで道具のように扱う。で、飽きたものはお下がりとして部下達に好きにするように言うんですよ。」
得意げに話す研究員。
自然と、刀を握る手に力がこもる。
「それで職員達も使わなくなったサーヴァントは廃棄され、地下へ投棄されるのですがそれをどうにかして再利用できないかと思いましてね。それであっ!と閃いたわけです。」
手のひらに握りこぶしをポンと乗せ、閃いた素振りをする男。
もういい、腹が立つ。
「前の技術顧問は非人道的だなんだといってあえてやらなかったそうですが、笑っちゃいますよねぇ?サーヴァントなんかに人権もクソも」
「 黙 れ 。」
迸る稲妻。
周囲のゾンビ兵を蹴散らし、俺はビルを垂直に駆け登る。
その間1秒未満。
そして俺は一瞬にして、研究員の目の前までやってきた。
狙うはやつの首。
おそらくこいつが研究員の中で一番偉いのだろう。
なら、こいつを殺せばゾンビ兵という有り得てはならない兵器の開発も止まるはずだ。
「…。」
目の前に現れ、刀を振るうもやつは余裕の笑みを浮かべている。
そして、
「あなたの相手は私ではありません。あとはよろしく頼みますよ、”山本”さん。」
「!!」
突然、横からの衝撃。
何事かと思えばでかい図体の男が跳び上がり、俺の脇腹にタックルをしかけたのだ。
「…!!」
「ははは!!!ここで会ったが百年目ってなぁ!!みつけたぞ竜胆おおおおおおおおッ!!!!」
タックルをした男、
忘れるはずもない。いや、忘れることなどできない。
もう何度目かは忘れたあの山本だ。
「…っ!」
苦し紛れにやつの背中に刀を突き立てるが、それは金属音を立て、刃が貫くことは無かった。
「これは…!」
「お前の軟弱な攻撃など、俺に通るわけが…ないだろうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!」
やつの手が俺の頭を掴む。
そのまま重力に従い、落下。
数メートル下のアスファルトに頭から叩きつけられた。
「ぐ…うっ!」
「気絶などさせるものか!まだ終わらせんぞ竜胆!!」
そのまま持ち上げられ、ビルめがけ投げつけられる。
脳を揺さぶられるもそこはなんとかグッとこらえ、空中で姿勢を整える。
ビルへ激突はせず、そのまま壁を蹴って俺は急接近した。
「どれだけ殺せば死んでくれるんだ…この化け物!!」
「化け物?ハハッ!あれだけの高さから頭を打ち付けられて無傷なお前も、十分化け物だがなぁ!!!」
刀を振るい、やつは拳を突き出して迎え撃つ。
ぶつかり合い、紅い雷を伴った衝撃が辺りへ拡散する。
「!!」
それから間髪入れず、次の一撃を叩き込む。
しかしやはり効かない。
全てその両腕で受け止められ火花を散らして弾き返される。
斬った感覚も、まるで分厚い鋼を斬るときのようだ。
「やれやれだ…今度はどんなビックリドッキリな仕掛けがあるんだ?」
「軽口を叩くなよ。数分後にはお前とサーヴァントが、泣きながら俺に土下座するビジョンが見えているぞ?」
未来予知の機能でも搭載されたのか?
じゃあ研究員に言っておこう。欠陥だとな。
「言っておくが、俺は死んでもお前にだけは土下座しない。」
「口答えをするなァ!!」
やつの拳が顔面めがけ飛んでくる。
刀で弾き返し、反撃に転じようとしたが
「!!」
何かに気付く。
嫌な予感がし、俺は咄嗟に横へ跳んだ。
「うあああああ!!」
直後に聞こえる雄叫び。その声の主はゾンビ兵
ゾンビ兵が俺目掛け背後から忍び寄っていたのだ。
「なっ!?やめろ触るな女!!汚らしい!!」
飛びかかろうとしたのだろう。
ターゲットを失った彼女は勢いのまま前へ転びそうになり、誤って山本へと抱きついてしまう。
「おい!!離せ!!俺は葛城財団の山本だ!!!」
「ころす!!ころす!!れんさまのてき!!!」
「敵味方の区別もつかんのか!!この欠陥ひ…」
そのときだ。
山本がゾンビ兵を引き剥がそうと、前髪を引っ張ったその時
「…!!」
ゾンビ兵が、一瞬眩く光る。
何かと思った直後、ボコボコと膨れ上がり、
「れんさまああああ!!!あいしてま」
”爆発した”
「ぐっ…!!」
何が起きたかわからなかった。
咄嗟の爆風。凄まじい衝撃波に刀を突き立て、なんとかその場に留まる。
今のは…なんだ?
「不思議そうな顔してますねぇ?分かりませんか?役立たずが役立てる唯一の仕事。所謂”自爆特攻”ですよ。」
「何…?」
ビルの上からの声。
何が起きたかを丁寧に説明してくれる研究員。
自爆特攻だと…?
「サーヴァントに…そんなことをさせるのか…!!」
「ええ。あーちなみに、自爆させてはどうかと提案されたのはそこにいる置鮎さんでしてね。いやぁ、彼も中々面白いことを考える。」
「…!!」
反射的に置鮎を探すが、そこにはいない。
おそらくゾンビ兵の巻き添えを恐れ、輸送車に隠れたのだろう。
「ゴミはゴミでも使えるのならば使わないと。ほら、リサイクルですよリサイクル。サーヴァント達も最後の最後まで使えてもらって本望でしょうに。」
「貴様…ッ!!」
人からサーヴァントを奪い、それを生存奴隷とした挙句、最後には自爆特攻させる。
『非道』
葛城財団の奴らを表すのに、これ程似合う二文字はない。
「ぬぅ…!おい丹下!!改良しろ!!せめて敵味方の区別くらいつけられるようになれェ!!」
「ああすいません。ですが今のあなたにとってそれは蚊に刺された程度でしょう?気にしないでくださいよ。」
と、丹下に気を取られていると爆風で巻き起こった煙から山本が出てくる。
その様子は、全くの無傷。
「さぁて、この恨み、お前で解消してやるとするか。」
「…。」
視線が俺へと戻り、山本は楽しそうな笑顔を浮かべながら指をポキポキと鳴らす。
迫るゾンビ兵。
捕まれば自爆。
それに気をつけながら山本を倒す。
武蔵に助けは…求められない。
彼女もほぼ同じ状況だからだ。
やってきた隊員の量も今までと段違いに多いし、逃げ切るのもかなり厳しい。
そして見るからに置鮎と山本。2人は手を組んできた。
なるほど。
奴らはどうやら本気で俺達を潰すつもりのようだ。
「人に当たるのはお前の昔からの良くない癖だ。治した方がいいぞ。」
「なんだ?上司に口答えか竜胆?随分と偉くなったもんだなぁ?えぇ?」
だがここで潰されるつもりは、ない。
「かかって来いよ木偶の坊。今度こそ確実に殺してやる。」
刀で指し、山本を睨みつけながら俺は強がりの軽口を叩いた。
後書き
かいせつ
⚫ゾンビ兵
本編の『三笠防衛戦』でも猛威を振るった葛城財団の兵器。
マスターから奪い取ったサーヴァントはまず、代表に犯され都合のいい玩具にされる。
その後、飽きたら代表はそのサーヴァントを放棄。通称『お下がり』として今度は部下達、研究員や実働部隊の性玩具となるのだ。
そこでも飽きられれば、地下へ投棄されるのだが、ここでなにか使えないかと技術顧問の丹下は考えた。
前技術顧問、子安 綾女の補佐をしていた頃より丹下はこの『ゾンビ兵』の実装を提案していたがあまりにも非人道的過ぎると言われペーパープランに終わっていた。
しかし、子安がいなくなり自分が技術顧問になることでそれをすぐに実行。
そして置鮎の提案により自爆機能を搭載することが決定。
こうしてコストはかからず後始末にも困らない便利な兵器が完成した。
ちなみに、霊基はズタズタになっておりかつての記憶も己の戦い方も、ましてや武器の使い方も忘れている。
身体能力もかなり落ちてはいるが、腐ってもそこはサーヴァント。
人間相手なら驚異になるし数の暴力で攻めればサーヴァントにも充分通用する。
一見完璧そうに見えるが、そんなゾンビ兵にも一つだけ欠点がある。
それは判断能力が著しく低下していることだ。
彼女達は代表、葛城恋しか見えておらずそれ以外は邪魔者、すなわち敵としか見ていない。
なのでゾンビ兵を投入する際、攻撃や自爆されることを避けるため隊員達は隠れるか逃げるかなどの退避が推奨されている。
かつてのマスターのことを忘れ、偽りのマスターに捨てられた彼女達はまた”お気に入り”に戻れることを夢見て戦う。
それはまやかしで、爆発に終わる儚い未来だとしても。
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