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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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手組-ふほんい-

 
前書き
どうもこんにちは、クソ作者です。
今回は敵側の話になります 

 
「…。」
「…。」

痛ましいほどの沈黙。
そこは葛城財団本部最上階。
すなわち、代表のいる部屋である。
そこにいるのは代表葛城恋。そして最強の傭兵と呼ばれていた置鮎とそのサーヴァント、ランスロットの三人だ。

「置鮎。」

沈黙を破ったのは代表から。
それに対し置鮎とランスロットは片膝をつき、深々と頭を下げることしか出来なかった。

「最近、調子が悪いみたいだな。」
「いえ…本当に申し訳ありません。代表。」

代表が話し始めたのは、置鮎の最近の出来事だ。
彼とランスロットはその界隈でもかなり名の知れた、凄腕の傭兵。
依頼を失敗したことなどなく、ありとあらゆる要人やサーヴァントを葬り去って来た。
そしてその実績を買われ、葛城財団代表からなんと直々にスカウト。
それから彼は噂以上の仕事ぶりで財団に貢献していった。


あの二人に、会うまでは。

「それにその顔どうした?」
「…奴らの足である馬に蹴られ…。」


竜胆大和、宮本武蔵。
この2人の始末を頼まれてから、彼の歯車は狂いだした。
順風満帆な傭兵生活のはずだった。
こいつらさえいなければ、あんなことさえ無ければ自分達は未だ負け知らずの傭兵。最強のセイバーだったのだ。


さて、1度は許されたかもしれない。
しかし葛城財団において失敗は死あるのみ。
これまで何度も失敗を重ねてきた置鮎も、それは避けられない。
任務に赴くもサーヴァントを一騎も捕えられず、おめおめと逃げ帰ってきた隊員がどういった末路を辿るのかは嫌という程見てきている。
自分も、その仲間入りを果たすということだ。

さぁ何が来る?剣か?槍か?はたまた呪いか?
代表のお気に入りのどのサーヴァントが自分を殺すか、覚悟を決めながら予想していた置鮎だが、

「まぁ、そういうこともあるもんな。」

待っていたのは、自分の肩に手を置いた代表だった。

「代表…?」
「殺されるかと思ったか?お前ほど財団に貢献してきた奴をそう簡単には殺さねぇな。それによ…」

予想外の答え。
汚い歯を覗かせニッと笑ってみせる代表。
彼は…またもや自分の失敗を咎めることも無く、そして殺さなかった。

「俺とお前、似てるだろ?だからつい情けをかけたくなるんだよ。」
「…。」
「お互い使えねぇ弟を持った仲だ。そりゃあ、さぞかし苦労したろうなと思ってな。」

と、置鮎を励ますように最後に肩をポンポンと叩いて代表はどこかへと向かった。

「ああ、そうだ。」
「…?」

と、部屋を去る直前、代表が止まり声をかける。

「技術顧問の丹下が呼んでたぞ。ゾンビ兵の礼に、次の作戦でお前に協力したいってな。」
「…はい。」

そう言って、代表は去った。







「…。」
「なぁ、おい。」

場所は変わり、ここは葛城財団本部にある大食堂。
実働部隊の隊員や研究員達は主にここで食事を摂る。
その中のテーブルの1つ、そこにいる二人組がある話をしていた。

「なんだよ…。」
「1度ならず2度までも、さすがに不思議じゃないですか?」
「いいだろ。そのお陰で俺達も助かってるんだし。」
「なんでそこまで…」

付き添いの1人はまだ日は浅く、財団の状況をよく知らない。
しかし、失敗こそは死だということは知っている。
そうして同期達は皆死んだからだ。
だが自分が配属された上司である置鮎だけは、代表は失敗を見逃す。
確かに置鮎とランスロットというとても貴重な戦力を簡単に失うのは惜しい。
この財団で彼の部隊は、サーヴァント捕獲率二位を誇っているし活動を妨害する者を屠る”掃除係”としても大活躍している。

だが、その目覚しい活躍があるからにしても、置鮎にだけ優しすぎるのでは?
と、この実働部隊の新入りは思ったのだ。

「はぁ…知らねぇなら教えてやるよ。」

もう片方は古参。
財団設立当時からいたベテランであり上司の事情は割とよく知っている。
彼はスプーンを皿に置き、嫌々ながらも話を始めた。

「俺も聞いた話だがな、世界がこうなる前置鮎さんは大企業のの御曹司だったそうだ。」
「おっ!?御曹司!?」
「バカ!声がデカい!」

と、古参の隊員が新入りの頭をひっぱたいた。
幸い、周りが騒がしかったため周囲の者達は気付かないでいる。
というのも、置鮎が御曹司ということは本人もなるべく伏せておきたいことらしい。
だから、それを知る者はごく小数だ。

「御曹司って、マジですか?」
「ああ、でもラクなもんじゃないらしくてな。幼少の頃から親父の跡を継ぐため、とんでもないスパルタ教育をされたらしい。」
「へー…。」

誰でも知っているような有名企業だと言うが、やはり世界崩壊の際潰れて無くなったらしい。

「じゃああの優雅な立ち振る舞いは教育のおかげってやつなんですね。」
「ああ、もう雰囲気からしてこの人は富裕層だなって思ったよ。」
「ノブレス・オブリージュってやつっすね。」
「…そこはよくわからん。」

そうして世界が崩壊するまで、置鮎の人生は順風満帆なものであったらしい。
だが、ここで邪魔な者がいた。

「あとな、ここからが本題なんだが弟がいたんだ。」
「弟、ですか。」
「ああ、兄弟ってのは似るもんだが、どうやらその弟、置鮎さんとは違って本当に出来ないヤツだったらしいぞ。」
「へー。」

置鮎啓には一つ下の弟がいた。
才能に恵まれず、英才教育にも嫌気が差し、我が身一つで家から逃げ出した弟がいたのだ。

「いわゆる、落ちこぼれってやつっすか?」
「だろうな。置鮎さんはそんな弟が気に入らなかったらしいぞ。」

「で、その弟関係なんだが…」と古参が話を変える。

「代表にも弟がいるのは…知ってるよな。」
「ああ知ってますよ。見つけ次第絶対に捕まえろって何度も言われてますし。」

代表の弟。
名前は葛城 舞。
実働部隊は入隊時、この男は優先して捕まえるようにと何度も言われ一通りの情報と写真を渡される。
なので顔、名前は誰でも知っているのだ。

そして彼を捕まえれば、代表から多額の報奨金と代表の”おさがり”ではなく、新品のサーヴァントを三騎貰えるというのだ。
そんな破格の条件を出してまで、彼は代表にとって重要人物らしい。

「その代表の弟も、いわゆる”出来損ない”的な?」
「ほう、お前にしては珍しく勘がいいじゃないか。」

新入りの言った通り、代表から聞いた話では彼の弟もとことんできないやつだったとか。
代表は葛城財団を設立する前、医者を目指していたとのこと。
いずれは父の持つ病院を受け継ぐことを約束された超エリートだった。

「父親は有名な外科医。母親は国会議員。父親のコネを使えばなんだって出来たし母親を頼れば不都合なことはなんとかしてくれた。そんな代表はエリート中のエリートだったわけさ。」
「”だった”…?」
「そう。”だった”んだよ。」

エリートだったという過去形なことに新入りが疑問符を浮かべる。
そうして古参はなるべく声を小さくし、顔を近付けて答えた。

「滅茶苦茶にされたのさ、そのできない弟に。」
「へー…。」
「絵を描くことしかできない弟に人生を滅茶苦茶にされた。大学受験にも失敗した。家族関係もひどいものになったそうな。」
「…。」

その後、代表は弟に復讐するべくあれこれ企てたらしいがそれはまた別の話。
ともかく、置鮎と代表の共通点として2人は元エリート。そして自分達とは正反対の出来損ないの弟がいることが分かった。

「代表はよく言ってたよ。置鮎はどことなく俺様に似てる。だから昔の自分と重なっちまってついつい情けをかけたくなるってな。」
「あんな人に似てるなんて言われたら俺自殺しますけどね。」
「…あまり言うなよそういうこと。」

と、冗談交じりに笑いながら古参の男は立ち上がる。

「そろそろ行くぞ。」
「えぇ!?俺まだ全然食ってない!!」
「ったく。飯は食えるうちにさっさと食っとけ。」






一方その頃。

「どうか!よろしくお願いします!!!」

技術顧問の丹下に呼ばれ、研究室までやってきた置鮎。
そこにいたのは1列に並び自分を待っていた実働部隊達。
キビキビとした動き、大きな声、個性を奪った坊主頭からして、彼らは山本部隊の隊員だった。

「あなたと山本隊長はあまり馬が合わないことは存じております!!ですが!!ここは山本隊長の為に是非!手を組んでいただきたいのです!!」

と、一同が深々と頭を下げた。

「どうします?置鮎さん。彼らの誠意を無碍にする程、冷酷な人間でもないでしょう?」
「…。」

隣にいた丹下が覗き込むようにして聞いてくる。
置鮎が何を頼まれているのか、それは主に大和と武蔵に関することだ。

「山本さんの指揮能力とあなたのランスロットの戦闘力。そして互いの洗練された部下達が合わさればあの二人を捕えられる。そういうことですよ。」

武蔵、そして大和を捕らえるために山本と手を組め。
丹下はそう言っているのだ。
そして山本の部下達もまた、これ以上失敗を重ねるわけにもいかないため丹下の提案を飲み、隊長の代わりにこうして部下一同で頼み込みに来た。
しかし、

「断る。」

置鮎は首を縦には振らない。

「どうしてです?その方が確実では?」
「私のセイバーの最強を証明する為だ。奴らの協力などなくとも、セイバーは武蔵を倒す。」

彼はランスロットで武蔵を倒すことにこだわる。
部下に横槍入れさせたり罠はらせたりずるしてるじゃないかと言いたいが、彼にとってそれは別だ。
ともかくとして、武蔵を倒したという実績を、山本に横取りされたくないだけなのだ。

「…。」(三度も負けてよくもまぁ大口を叩けんなハナクソが。頭キマッてんなオイ。馬に蹴られたらしいがそれがトドメになったのか?)
「何か言いたそうだな?丹下。」
「いえなにも。」

と、丹下は引き下がる。

「では後のお話はあなたがたでつけてください。もし手を組むのであれば、私からプランをいくつか提供いたしましょう。では。」

と、丹下は白衣を翻し去っていく。
そうして丹下が別室に消え、少しの沈黙が流れると

「お願いします!!」
「どうか!!どうか山本隊長の為にも!!」

部下達がまた懇願してくる。
今度は頭を下げるばかりではなく、一斉に土下座もし始めた。

「どうか!!どうかお慈悲を!!」
「山本隊長は…自らの身体を犠牲にしてまであの憎き竜胆大和と戦うことを選びました!!」
「もうあの山本隊長は…飲食の出来ない身体なのです!!我々とも…もう飲み交わせないのです…!!」
「最後のお願いです…!!私達は…山本隊長にせめてもの勝利をプレゼントしたいのです!!」

両腕を切断され、最前線で戦うことはもう無理だと言われた山本。
しかし、サーヴァントの腕を無理矢理移植してまた復帰した。
激痛の伴うものだったが、彼は執念だけで耐えた。
竜胆大和を倒す。
今の彼にはそれしかない。
2度目の戦いで頭を串刺しにされていても、脊髄が焼け焦げたとしても、根性で一命を取り留めたのだ。
無論、竜胆大和を倒すためという執念のみで。

彼は今専用の機械に繋がれ、何本ものチューブを体に通されて培養液に浸されとりあえず生きている。
しかし、目覚めるなり彼はこう言って動き出すだろう。

竜胆大和。
あいつだけは必ず殺すと。

「お願いします!!!」

そんな山本隊長の無念と覚悟を背負い、実働部隊達は頭を地面へ擦り付けて懇願する。
断ろう。
そう思った置鮎だが、あることに気付いた。

「竜胆大和を殺す。そう、言ったのだな?」
「…え?」
「質問に答えろ。山本は竜胆大和を殺すと言ったのだな?」

また断られる。
そう思った部下の耳に入ったのは予想外の言葉。
ゆっくりと顔を上げる一同。
そして、このチャンスを逃す訳にはいかない。

「はい。隊長はいつも竜胆大和を仕留めると、そう言っておられました。」
「そうか…では宮本武蔵にはなんの興味もないと?」
「ま、まぁ…彼女に関しては一言も言及しておらず…。」
「なるほど、そうか、そうか…。」

確認するかのように、置鮎は何度も頷いた。
そして、

「分かった。不本意ではあるが、合同任務に賛成しよう。」

許可した。

「やった…やった!!」
「これでついに…!!」

サーヴァント捕獲率1位の山本部隊。
危険人物等の後始末、及び殲滅力1位の置鮎部隊。
二つの部隊は幾度も大和と武蔵を追い詰めてきたが、どれも後一歩及ばなかった。

だが、1つでダメなら2つでいけばいい。
その願いがようやく叶ったのだ。

「ただし条件がある。山本含め貴様らは竜胆大和をのみを狙うこと。宮本武蔵には手を出すな。逆に私達置鮎部隊も竜胆大和には手を出さない。狙うのは武蔵のみだ。」
「はい!!ありがとうございます!!!」

彼らはもう何度目か分からない礼をし、1列に並んで踵を返して帰っていく。

おそらく、任務以外で外に出られない山本に報告しに行くのだろう。

「へぇ、これは意外ですねぇ。」

と、別室に行くふりをしてやはり話を聞いていた丹下が戻ってきた。

「あなたの事ですからどうせ断るもんだと思ってましたよ。」
「言っただろう。不本意ではあると。」
「まぁまぁそう言わずに。」

と、丹下は持っていたコーヒーカップを差し出す。

「作戦はもう既に考えてあります。山本部隊も置鮎部隊も、私の出す指示に従えさえすれば簡単にあの2人を捕らえられますよ。ええ。」
「アテにしていいんだな?」
「ええ、もちろん。」

自信満々に答える丹下。
置鮎だが、丹下に対してはどこか不信感を抱いている。
いつもニコニコしているがそれは貼り付けたような薄気味悪い笑みで、腹の中では何を考えているか分からないからだ。
そして研究する者は皆そうなのか、非人道的な事はなんだってやっている。
マッドサイエンティストのサイコパス。
彼を言い表すならばまさにそれだ。
そんな奴が作戦を立案するというのだ。さぞかし残酷極まりないものだろう。

しかし、山本が協力しようが丹下が手伝おうが関係ない。
自分に見えているのは、宮本武蔵のみ。

「次は貴様が膝を着く番だ。待っていろ。宮本武蔵…!!」

復讐に燃えているその目は、窓の外をにらみつけていた。 
 

 
後書き
かいせつ

Q.部下は頼み込みに来たけど山本隊長は?

A.劇中で言った通り培養液で満たされたポッドに入ってるよ。
入ってるというか、出られないの方が正しいですかね。
相当やばい状態で生きてるのはほぼ奇跡みたいなものなんです。
大和くんを倒すって執念だけで生きようとするのはタフというか根性あるというか普通に考えてやばいよねこいつ。

で、山本隊長はあれこれ改造されたり、脳にダメージがあったり脊髄焼け焦げてるわでもう以前のように活動することは不可能になりました。
任務の際には生命維持装置を付けて、時間制限はあるもののなんとか最前線に立てるけど、それ以外ではポッドに入れられてなんとか延命してる感じです。
飲食はできず、必要な栄養はチューブを通して与えられるだけ。
大好きだった酒類も飲めなくなり、部下達と定期的にやっていた飲み会もできなくなり、彼の楽しみというか至福の時間は全て奪われました。
しかしこれも竜胆大和を倒すためです。
しかたがないのです。
あとまだまだ丹下の実験体にさせられるよ。


Q,部隊って山本部隊と置鮎部隊の2つだけ?

A.他にもたくさんいるよ。
数人程度の部隊から数十人の小隊程度まで。
部隊を作るのは基本的に自由です。
誰か実力のある人が部隊を作って、その下に他の隊員が付く感じです。
やはり実力、実績のある者ほど下につきやすいですし隊長にも推薦されます。
まぁ、どれだけ実績があると言っても失敗すれば隊長共々代表にぶっ殺されるからそれまでなんだけどね。 
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