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真・恋姫無双~徐晃の道~

作者:Rabbit
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第9話 無理っす

今、俺は混乱の極みにあると言っていい。
俺の目の前には、真剣な顔をした関羽の姿が。

まずは、こうなった理由を話すとしよう。





遡ること1時間程前。

関羽と共に商人のオッサンの馬車に揺られ、1つ目の目的地へと向かっていた。

聞けば、おっさんはいろんな村や町を周って食糧やその他を売っている、行商人のようなものらしい。

「徐晃殿は、どこであれほどの技を?」
「俺は母上に学んだ。関羽は?」
「はっ。私も母や、同郷の者から教えを受けました」

へー。やっぱり、この世界では女性の方が強いんだな。となると、やっぱり俺はイレギュラーか。

というか、数少ない同じ男である原作の主人公はどうなるんだ。

来るなら来るでいいんだが、俺が狙いを付けている原作キャラを狙うようだったら……。

「徐晃殿、すごい悪い笑みを浮かべてらっしゃいますが」
「えっ?まあ、気にするな。関羽は、武を学んでどれくらいだ?」
「……1年ほどです」

関羽の表情が一気に曇る。あれ、地雷踏んだか?

…話題を変えよう。

「関羽の髪って、綺麗だよな」
「えぇっ!?き、急に何ですか!」

話題が飛びすぎたか?だが、すでに言ってしまったからには、このまま行くしかねぇ。

「さっきから思ってたんだ」
「そ、そうですか…。ありがとうございます。ですが、こう長いと鍛錬の時に邪魔になって仕方ありません」

確かに。原作では髪を結ってポニテ?っぽくしてたが、今はしてない。

髪を下ろしてる状態だ。いや、だが、これはこれで良いな。

「そろそろ切ろうかと思って」

!? 何だと…!?

「関羽よ。それはダメだ。それはいけない。絶対にダメだ」
「えっ?は、はぁ……」

…引かれた。自分が思っている以上に、勢いが強かったようだ。

自重しよう。

そこからは大したことを話すことも無く、俺は空を眺めながらボーッとしていた。関羽から何か視線を受けていたような気もするが、気のせいでしょう。

だって俺、十人並の容姿だしなー。自分で言って悲しい……。




それから半刻、1時間程走ると村が見えてきた。

あれが目的地か?

「ちょっといいかな、2人とも。この村で俺は2・3日商売をする。その間は、好きにしてくれ。これは2人分の宿の金だ。じゃあな」

そう言い残し、商人のオッサンは荷物を持って行ってしまった。

どうするかな。鍛錬でもするか。

「関羽。これ、宿代だそうだ。俺もその辺歩いてくるから」
「あっ、はい」

俺は受け取った金の半分を関羽に渡すと、鍛錬できそうな場所を探してフラフラと歩く。

10分ほど歩くと、村から少し離れたところに広い敷地を見つけた。ここでいいか。

俺は巨大な木に【閃月】と二刀一対を置くと、手甲を装備すると全身から力を抜く。

手甲したけど、俺は基本的には蹴りが主体なんだよな。だって、殴ったら痛いじゃん?そのための手甲かもしんないけどさ。

とにかく、蹴りが主体です。手は使わなくても、肘とか掌底とかは使います。俺の構えは、自然体。

構えは取らず、ただ立つ。そして、氣を脚に集中させる。

言い忘れていたが、氣はサイボーグ母が習得していた。習得と言っても、氣を使って身体能力を上げるくらいだった。

そこからは、我流で頑張った。氣を全身や一部に行き渡らせることで、威力の向上を図った。

だが、全身に行き渡らせるのはそうでもないが、一部に集中させると疲労感が倍になり、すぐに集中が切れてしまっていた。

これは単純に一部に集中させるのが難しいのか、それとも氣の総量というか、氣の体力?って言ったらいいのか?

人間に体力があるように、氣にも体力が存在しており、それが切れることで集中が切れるってことか。

どっちかな。……どっちにしろ、鍛錬するしかないか。ってことで、それからは俺の1日に氣の鍛錬が追加されたのだ。

そして習得したのが、【内氣攻】である。【外氣功】は習得していない。多分、才能が無いんでしょ。

まあ、欲張り過ぎは良くない。【内氣功】が習得出来ただけでも充分だ。

一通り、漫画や本、ゲームで見た格闘術をなぞっていると、不意に後ろから視線を感じる。

ストーカー!?いや、これは俺に惚れた村娘か!?

……無いな。絶対無いな。どっちも無いわ。

振り返るとそこには、関羽が立っていた。

「関羽?どうした」
「ご相談があって探していたのですが、鍛錬をしていたようでしたので」

ってことは、それなりに前から見られてた?ハズい!…最近は言わないかな。

俺は手甲を外すと額から流れる汗を拭い、すっかり伸びた髪をかきあげる。

俺はバッサリと切りたいんだけどさぁ、母が切るなって言うんだよ。…暑いのにさ~。でも、サイボーグ母には逆らえん。

それより、関羽の相談事だな。

「相談事って何だ」
「鍛錬はよろしいのですか?」
「丁度良いから、休憩だ」

俺は置いておいた【閃月】に掛けていた手拭いで汗を拭きながら、木の下に腰を降ろす。風が涼しい…。

関羽も俺の隣に女の子座りで腰を下ろした。ハの字じゃなくて、両足を同じ場所・方向にして座っている。

「それで?」
「はい。その…私に、鍛錬を付けてくださいませんか?」

………。

これで冒頭に戻るわけだが、あの関羽に俺が手ほどきをするだと!?

いやいやいや……。今は俺の方が上かもしれませんが、すぐに俺なんか追い抜かれるでしょ。

どうするかな。そうだ!……何か上手い言い訳をして逃れよう。

「俺はまだ鍛練中の身だ。教えれることは無い」
「いえ、そんなことはありません!徐晃殿に比べて、私は……」
「いや、俺もまだ未熟だ。上には上がいる。驕りは敗北への一歩だ」
「驕りは、敗北への一歩……」

あっ!何か語っちゃったっよ!!話をそらそう。

「関羽には、何か夢とかあるのか?」
「夢、ですか?」
「ああ」
「そう、ですね……。…私は、誰もが笑って過ごせる世界になればいいと思います。そのために、私は自分の力を揮いたい」

誰もが、ね……。

「関羽」
「はい?」
「誰もが笑って過ごせる世界。それは絶対に無理だ」
「どういうことですか」

関羽の声に若干の怒気が含まれる。怖いっす。

「さっき現れた、野盗。お前は1人殺した。その時点で、『誰もが笑って過ごせる世界』に当てはまっていない」
「ですが!奴らは悪です!自分たちの欲望のために、誰かを犠牲にすることを何とも思わない連中です!!」
「その通りだ」
「えっ?」

何だ、肯定されるとは思ってなかったのか。

お前の言うことが正しいに決まっているだろう。少なくとも、俺はそう思う。

「人を殺す、誰かを犠牲に自分が豊かになる。それに何も思わない連中に、意味など無い。説得という選択肢もあるだろうが、本当に改心したかどうかなんて判るはずが無い。俺たちは超…妖術師じゃないんだ」
「……」
「人間は嘘を吐くんだ。自分のためなら、いくらでも嘘を吐く。命が関わっているなら尚更だ。改心したと判断して見逃したとしても、どこかでまた悪事を働くかもしれない。誰かを殺すかもしれない。それは、見逃した人間の罪だと俺は思う」

だからこそ、俺は可能性のある人間は殺すべきだ。自分の価値観に従って、俺は人を殺す。

初めて人を殺した時とは大違いだな、まったく。

「だが、悪を犯した人間でもこの国に住む人間だ。『誰もが笑って過ごせる世界』を掲げるお前に、人を斬る資格は無い」

俺は置いていた【閃月】と二刀一対を手にすると、関羽を置いて歩いて行く。

宿の部屋に入り刀を置き、布団に腰を下ろす。徐々に自分が言った言葉を思い出す。

「俺何言ってんだよ!まだまだ未熟の俺が何で説教してんだよ!意味分からねぇ!本当に何言ってんだろ!」

………はぁ、記憶消したい。
 
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