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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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勇士-れじすたんす-

 
前書き
かいせつ

Q.前々から気になってたけど山本部隊の山本隊長への忠誠心やばくない?怖…。

A.山本隊長の教育の賜物なのです。
どんな反抗的な隊員も、教育熱心な彼の手にかかればたちまち山本隊長の為なら自分の命も惜しくない自己犠牲と奉仕精神に溢れた立派な部下が出来上がります。
まぁ言ってしまえばくそ理不尽なことしまくって心ぶっ壊してます。
よく分からないことで怒鳴りつけたり連帯責任を押し付けたりして対象の心をすり減らし、救いは従うことしかないのだと理解させ、そうして弱ったところを言いくるめられ、信じられるのは山本隊長だけ、山本隊長こそが敬うべき恩師なのだと錯覚させるのです。
ちなみに世界崩壊前、会社に勤務していた時も同様の方法で自分の都合のいい部下を増やしたりしてました。

とまぁ、聞く人が聞いたら滅茶苦茶嫌な思いしそうな話はそこまでにして、本編に行きましょう。 

 
「…。」

何気なく目覚めると、そこは見たことの無い場所だった。
当たりを見渡すと、どうやらここは廃ビルだったようだ。
”ようだ”というのは周りは散乱しておらず、きちんと整理されていること。
ガラスの割られた窓には全てどこからか調達してきたであろう統一性のないカーテンが吊るされており、そよ風に揺られている。

腕に刺さっていた点滴を引き抜き、身体がどこも痛まないことを確認し、ベッドから起き上がった。

あの時、筋肉ダルマと化した山本にいいパンチをもらい、アバラと内臓いくつかがやられた気もするが、特にこれといった痛みや違和感はない。
その前に俺はゾンビ兵の自爆を至近距離で受け、満身創痍となった。
だがこのとおりピンピンしている。
体のどこを探しても傷跡らしい傷跡はない。
考えられることとしては、ここにいる凄腕の医者か医療系サーヴァントに治してもらったんだろうか、

それより、あれから何日経った?
俺はどれくらい寝ていた?武蔵はどこに行った?
ここが葛城財団の支部、ましてや本部でないことは確かだ。
じゃあここはどこだ?

「如何でしょうか?五日ぶりのお目覚めは。」
「!」

ドアの開く音がし、何者かがやってきた。
見た目は…おそらく中年ほどの年齢であろう男だ。
それに、待て。

「五日?」
「はい。貴方は五日ばかり眠っていたのです。」

五日だと…?
俺は…そんな長い時間眠っていたのか?


「ここはどこだ?」
「廃病院…いや、レジスタンス『セイバーオブセイヴァーズ』のアジトと言った方がよろしいでしょう。」
「セイバーオブセイバー?」

レジスタンス?
セイバーオブセイバー?
と、疑問が次から次へと浮かぶ最中、中年の男性は注意する。

「セイ”バー”ではなくセイ”ヴァー”です。私もここに来たばかりの頃、それで何度も賢狼殿に注意されましてね。」
「…賢狼?」
「そう、賢狼。このレジスタンスを率いるリーダー、もとい騎士団長です。」

そう言うと男は「では、早速挨拶をしに行きましょうか」と言い俺についてくるよう言った。
身体はなんの問題もないので、患者衣のまま彼について行く。

「…。」

ついて行きながら辺りを確認する。
廃病院を再利用しているということは本当らしく、他にも様々な病室があり、怪我人の保護だけでなく居住施設となっていたり、様々な用途で使われている。

窓の外に目をやると仲良く遊んでいる子供達。
…おそらく、あのレジスタンスの本拠地にも子供はいたはずだ。
しかし彼らはきっとゾンビ兵に…いや、もう過去のことを思うのはやめよう。
起きてしまったことはどうしたって救えない。
ただ冥福を祈るだけだ。

「ええ、私も写真で拝見させて頂きましたが悲惨でしたね。財団の新兵器、ゾンビ兵でしたっけ?」
「…!」

と、前を歩いている男は振り向きもせず、まるで俺の心を読んでいるかのようにそう答えたのだ。

「ああ、あなたの思ってる通りです。私、人の心が少し読めるのですよ。」
「…?」
「それと、自己紹介がまだでしたね。私は柏原。このセイバーオブセイヴァーズの協力者です。」
「…。」

人の心が読める、とこいつは言った。
嘘っぱちか何かだと思うことは無い。
第一こんな世界だ。心が読める人がいても不思議じゃない。
それに、

「あなた自身が、いちばん不思議だと。」
「…ああ、そうだ。」

死の淵から蘇り、魔力を使いこなし、さらに人間離れした身体能力を手に入れた自分が1番不思議だからだ。

「大抵の事は驚かなさそうで。」
「色々見てきたからな。別に心が読めるからどうとかは思わないさ。」
「なるほど、」

そう言って柏原と言った男はしばらく歩き、ある場所で止まる。
ある扉の前。
そこには『騎士団長室』と書かれた板が貼り付けられており、ここにその賢狼がいることは分かった。
そうして柏原がドアをノックする。

「…柏原です。武蔵のマスターがお目覚めになられました。」

ドア越しに俺が起きたことを伝えると、少ししてから「入れ。」という声。
聞き取りやすいハキハキとした女性の声だ。
それから柏原がドアを開き、俺を中へと案内する。

「大和くん…!」
「武蔵。」

まずいたのは武蔵。
どうやらここで何か話していたらしい。

そして彼女の前にいる女性。
メガネをかけた切れ長の目。一目見てリーダーという品格があることが伺える。
ただしかし、

「キミが武蔵のマスター、竜胆大和くんだね。我が名は紺碧の賢狼。このレジスタンス、セイバーオブセイヴァーのリーダーもとい騎士団長を務めている者だ。」

格好はまるでファンタジーから飛び出してきたような見た目だった。
たなびく真っ白なマント。
手足や胴は取り外しの簡単そうな甲冑をつけ、腰にはレイピアを携えている。
なんなら一瞬サーヴァントかと思った。

「そしてこちらが私のパートナー、かの十二勇士を率いロマン溢れる冒険譚を築いた英霊、セイバーシャルルマーニュだ。」
「カッコ良い紹介ありがとうマスター。ってなわけでよろしくな。武蔵のマスター。」

と、手を挙げ軽く挨拶をしたのはこの紺碧の賢狼のサーヴァントだというシャルルマーニュだ。

シャルルマーニュ…?
彼はFGOには出ていなかった気がしたのだが…多分俺の知らないところで実装されていたんだろう。

「ところで武蔵から聞いたぜ!!」
「なんだ?」
「胸躍るカッコ良い冒険の話だ!葛城財団の追っ手を時には躱し、時には蹴散らし!阻むもうものなら容赦なく爽快に斬り捨てる!」
「…。」

と、シャルルマーニュは目を輝かせて俺にそう言ってくる。
後ろに視線を向けると苦笑いしている武蔵。
なるほど、おそらく俺が来るまでに色々話していた、というよりかは話されたと推測する。

「武蔵はあの伊吹童子と剣を交えたと聞いた!アンタはあの岡田以蔵とやり合ったって聞いたぜ!人間がサーヴァントと互角に戦えるのはヤバい!というよりかはカッコ良いぜアンタ!」
「そうか。」
「ここまでの経緯も聞いてる!武蔵の背中を守るため、隣に立てる相応しいマスターになるために強くなることを選んだってな!先の戦いもそうだ!絶対的不利な状況、それでも戦い続ける2人はマジでカッコ良い以外の言葉が見つからねぇ!!なぁ!一体どこまでカッコ良いんだ!?」
「そうか。」

と、次々とあれやこれや聞かれる。
武蔵もこんな風に聞かれたのだろう。
そしてこれはいつも通りなのだろう。
柏本といった男もまた、愛想笑いでこちらを見ていた。

「…シャル。」
「おっとすまねぇマスター。あまりにもカッコ良すぎてつい…。」

と、マスターの注意でやっと引いた。
紺碧の賢狼…と言ったか、
シャルルマーニュのマスターは1度咳払いをし、俺と武蔵に事の経緯を話し始めた。

「こほん。まず説明したいのだが…キミ達が物資を届けようとしたレジスタンスは、既に壊滅していた。」
「そうか。」

紺碧の賢狼から話されたのは俺と武蔵が訪れたレジスタンスのアジトの話。

「君達は物資補給の命を受けて来た。そして私達は同盟を結ぶべく、たまたま来ていたのだ。」
「つまり助けてくれたのは偶然と?」

俺の問いに賢狼は頷く。

「お前たちも見たであろうあの惨状は葛城財団の新兵器、『ゾンビ兵』によるもので間違いない。あれには私達も少々手を焼いているのだ。」
「…。」

ゾンビ兵。
コストもかからず、そしていざと言う時には特攻兵器になる。
多少の欠点を抱えているものの、あれは紛れもなく脅威となる。

「他にも同盟を結んでいるレジスタンスもあれにやられた。我らと誓いを共にしたレジスタンスは先週まで14あったが、今ではたったの3つだ。」

と、酷い有様らしい。

「人から奪ったサーヴァントを使い潰した挙句、あんな最期を迎えさせる葛城財団…カッコ悪いの極みみたいなもんだ…!」

隣にいるシャルルマーニュも怒りに震え、拳を握って行き場のないそれを抑えている。
その気持ちは、分かる。
あの研究者は言っていた。

サーヴァントを奪い、性処理の奴隷として酷使され、飽きたら廃棄処分させられる。
さらにそれをリサイクルと称して、あんな風にした。
そんなもの、あんまりだ。

「賢狼殿。」

と、そんなとき柏原が口を開く。

「どうした?」
「例の箱についてお話した方がよいかと。」

ああそうだったなと言い、賢狼は何かを持ってくる。
それは、あの時砂浜で俺達が見つけたもの。
葛城財団と記された例の箱だ。

「武蔵殿の許可を得て開封させてもらった。これが中々頑丈でな、手伝ってもらったガウェイン卿も少し苦戦していたよ。」

彼女の言うとおり、その箱は上部が開いている
そうだ。あれを手に入れてから何かと忙しく、開ける暇もなかった。
中に何が入っているかも分からないし、迂闊に斬ってあけたりしたらどうなるか分からなかったのでそのまま持っていたんだ。
で、気になるのはその中身だ。

「中には何が入っていたんだ?」
「フ…時として竜胆大和。少し問題を出そうか。」
「…?」

俺は中身が知りたいのだが。
そう思っていると、横から柏原が「付き合ってあげてください」とそっと耳打ちした。

「キミは戦いにおいて、何が一番大事と思っている?」
「強さだ。」
「ほう。即答か。その迷いのなさもある意味一種の強さだろう。感銘を受けたよ。」

腕を組み、うんうんと頷く賢狼。
しかしメガネを押し上げると

「残念だが、それは正解ではない。」

そう言った。

「一騎当千の強さ。固く揺るがないチームワーク、そのどれもが正解であり不正解だ。なら武器か?何でも斬れる剣、どんなに遠くからでも必ず撃ち抜ける銃、それもまた違う。」

そうして長々と回りくどい説明をしたあと、彼女は箱に入っていたものを取り出し、机に広げて俺達に見せた。

「”情報”だ。」

中に入っていたのは大量の書類、写真の束。
『実験記録』や『機密事項』と書かれたディスク達。

「何故かは知らないが、キミ達が持ってきた箱には葛城財団に関する数々の重要なデータが入っていた。おそらく内部告発をしようと企んだ者がいたんだろうが…海に流れ着いていた辺りこれをまとめた人物はおそらく…いや、よそうか。」

書類を手に取り見てみる。
そこには財団にて行われているだろう非道な行いが事細かに記されていた。
写真もそうだ。
連行されるサーヴァント。マスターを撃ち殺す実働部隊。

そして…

「こいつが…!!」

裏側に『財団代表 葛城恋』とマジックで書かれている一枚の写真。
つまり、そこに写っているのが葛城財団のトップだ。

「かつらぎ…れん。と読むのか?」

脂ぎったボサボサの髪。
醜く肥え太った身体。
まるで人間の抱く嫌悪感そのものを合わせてできあがったような、清潔感の欠片も無いオトコ
こいつが…こんなやつが…人のサーヴァントを奪い尽くしているのか。

「ああ、おそらくな。ゾンビ兵が皆狂ったように”れんさま”と言っていただろう?」

確かに賢狼の言った通りだ。
彼女らはその名前を連呼していた。

「それだけじゃない。大和くん。これ読んで欲しいの。」
「…?」

と、武蔵がまた別の書類を渡してきた。
そこに記されているのは…『洗脳弾』?

「!!」

読んでいくとそれがどれほど恐ろしいものなのか理解した。

洗脳弾とは、文字通り洗脳する弾丸。
撃ち込まれたサーヴァントは霊基を汚染され、代表に忠誠を誓い身体を捧げるようになる。

その過程も、製造方法も全て丁寧に書かれている。

「かつてのマスターの事も全て忘れる…霊基(きおく)は書き換えられ洗脳された者にあるのは代表のみ。代表の従順な駒となる…。」

書類を握る手に自然と力が籠り、思わず握ってグシャグシャにしてしまいそうになる。

ふざけた弾丸だ。
目的も、それに製造方法も、
何もかもふざけている…!!

「キミ達の財団に対する恨みもかなりあると聞いた。武蔵と二人で支部を壊滅して回っていて、財団の間でもちょっとした有名人なんだそうじゃないか。」
「ああ…見つけ次第優先して始末するよう言われてるくらいにはな。」

ぐしゃりと書類を握り潰す。
大事な書類ではあるが、それに対して賢狼もシャルルマーニュも、柏原や武蔵は何も言わなかった。

「私達もそうだ。ここにいる構成員は皆、財団によって何らかの被害を受けた者達の集まり。私は夫と妹を殺されている。」
「…そうなのか。」
「ああ、そうなんだ。」

と言って、賢狼は懐から一枚の写真を取り出す。
そこに映っているのは、おそらく世界崩壊後に撮られたものなのだろう。荒れた背景をバックに賢狼であろう眼鏡をかけた女性が、隣にいるほぼ瓜二つの似た女性と笑顔で仲睦まじくしている。
その隣には男が立っており、そんな2人を微笑ましく見ているというものだった。

「双子の妹がいてな。引っ込み思案な子だったが、私よりかはずっと優秀だった。夫もそうだ。聡明で自分よりも他人を優先するよくできた人間だ。私が妻では釣り合わないくらいのな。ともかく二人とも、死んでいい人間ではなかったのだ…!」
「奴らに…殺されたんだな。」
「そうだ。私のいない間に財団のゲス共に夫は惨たらしく殺され、妹は慰みものにされ、ゴミのように捨てられてたよ。」
「…。」

ひどい。
その3文字しか出てこない。
サーヴァントだけに飽き足らず、一般人にまで手をかけていたのか。

「そうして我々は、極悪非道の葛城財団を倒すべく、こうして日々活動している。」

と、賢狼が俺に手を差し伸べてきた。

「簡潔に言おう竜胆大和。我々『セイバーオブセイヴァーズ』へと入ってくれ。お前の実力は武蔵から聞いた。是非ともその腕をここで存分に発揮してもらいたい。」
「…。」

振り返り、武蔵を見る。
彼女の表情は考え込んではいるが、おそらく最後の決断は俺に任せるだろう。
葛城財団を倒すため。
ならば是非とも加わりたい。
しかし、

「すまない。少し時間をくれないか?…武蔵と2人きりになれる場所が欲しい。」

少しだけ考える時間が欲しかった。

「ふむ、いいだろう。柏原。」
「はい。」

柏原は呼ばれると、「では元いた病室まで案内します」と言い部屋のドアを開けた。

「迷うことは誰にでもある。ゆっくり考えていい答えを持ってきてくれよ!」

去り際にシャルルマーニュにそう言われ、俺達は部屋を出ていく。



そうして俺と武蔵は柏原に案内され、俺が眠っていたあの部屋まで戻ってきた。

「私は部屋の前で待機しております。防音完備ですので事が済んだらノックしてお伝えください。」
「助かる。」
「とはいえ、いきなりあのような選択を迫られるのは厳しいですね。」

と、柏原が心配そうな表情でそう言った。

「…心を読んだのか?」
「いえ、ただの気遣いです。」
「…そうか。」
「ただ、覚えていて欲しいのです。」

部屋に入り、ドアを閉める直前。柏原は一つだけ言った。

「賢狼殿も日々悲しみと憎しみを背負い、いち早くこの戦いが終わることを誰よりも願っているのです。良き選択を、待っておりますよ。」
「ああ、分かった。」


バタンと扉を閉め、2人きりになる。
その瞬間だ。

「…!」

誰もいない病室。
そこで武蔵は俺の胸に抱きついた。

「…武蔵。」
「大和くん…五日間ずっと眠ってたのよ…死んじゃったかと思った…!もう起きなかったら…どうしようって…!!」
「…すまない。心配をかけた。」

先の戦い。
俺は山本に殴られてから記憶はないが、凄惨なものだったんだろう。
だって

「守りきれなくて…ごめん…っ!」

武蔵が泣いているのだから。

「私…ダメだ…サーヴァント失格だ…。」
「…。」
「あの人達が助けに来なかったら…本当にやられてた。大和くんはいなくなって…私は財団の玩具になってた…!!」

何も言わず、背中にそっと手を回してトントンと叩く。
気にしなくていい。
本来ならマスターは後ろで指示するものだ。
前に出たがったのも、最初の頃の俺のワガママだ。
言ってしまえば自業自得。悪いのは…俺だ。

「あまり…自分を責めるな。」
「…。」

聞こえるのは彼女の嗚咽。
時折肩がびくんと上がり、泣いているのが分かった。

「でも…生きてて本当に良かった…!」
「安心しろ。俺はしぶといさ。」

生きていたから、なんとかなった。
もし、俺が死んでいたらどうなっていたか。
そう考えるとゾッとした。
連帯責任だなんだと言われ、山本にはとんでもないことをされるだろう。
それだけじゃない。
書類や写真にあったように、武蔵は強姦され、代表の玩具に加わり、飽きられれば部下達に渡され、そしてそこでも捨てられればあれらと同じくゾンビ兵となる。
そんなの、ごめんだ。

「しばらく…このままでいさせて。」
「…ああ。」

壁によりかかり、そのまま時間が過ぎていくのを待つ。
武蔵の暖かさ。それが、生きているという実感をくれた。

彼女にこんな思いは、もう二度とさせたくない。
しかし、それと同時に俺は武蔵の背中を守りたいと思っている。

戦いに出れば、また重症を負うような出来事はいくつもあるだろう。
だが、そんな事くらいでへばってはいられない。

もっと強くならなければ。

それが、俺の中にあるただ一つの答えだった。





時は遡り、
レジスタンス跡地での戦いから数時間後のこと。


「うわー、これはひどい…。」

戦いの跡地。
山本の爆発により廃ビルが立ち並んでいたそこは中心に大きなクレーターのある、ただの荒野と化していた。

山本は爆発した。
もう何もないとは思うが、念の為と葛城財団の研究員達はデータ収集のため戻ってきていた。

「丹下さん。やっぱり何も残ってませんよ…。」
「そうですねぇ…何かデータが取れればいいものと思…」

ヘリコプターから跡地を見渡せど、本当に何も残っていない。
山本にスパルタクスの霊基を入れてみたのは良かったものの、まさかこんなことに繋がるとは思ってもいなかった。

「…おや?」

ここで、丹下の動きが止まる。
窓に張り付かんばかりに顔を近づけ、一箇所を見つめている。

「どうしたんですか丹下さ…って、あ、あれは!?」
「えぇ、人です。人がいます。」

言っておくが、ここは先日起きた大爆発により生存者はいない。
そして、木々や動物などの生命体もまだいない。
だが、そこに人がいたのだ。

クレーターのど真ん中に、手足が無く、骨と皮だけの老人がうつ伏せで倒れていたのだ。

「なんだあれ!?」

部下の1人が思わず驚きの声を上げる。
着陸し、そばに駆け寄ると老人はありえない事に生きていた。

「丹下さん!!こいつ生きてます!!」
「驚きですねぇ…。ご老人がダルマ状態でこのような環境で生きられるなど。」

彼らの気配を察知し、その場でもぞもぞともがく老人。
部下2人が駆け寄って仰向けにさせると、必死に口をぱくぱくとさせていた。

が、耳を済ませてよく聞くと

「り……うは…こだ……ど…は…。」

何か言っている。
小声だが、目を見開き、口を大きく開け力を込めて何か言っている。

「…?」

と、丹下が老人の顔に耳を近づけ、何を言っているか聞き取ろうとする。
そして…

「フフ…ははは…っ!」
「た、丹下さん?」

突然笑いだした。

「い、一体どうしたんですか!?」
「ははっ、はははははははは!!!これは凄い!!傑作だ!!生き汚いにも程がある!!いや!むしろ美しさすらかんじますねぇこれは!!」
「…?」

何を言い出すんだと不思議に思い、部下もまた老人の呟きに耳を傾ける。

「…!!」

驚いた。
驚くことしか出来なかった。
だって、その老人は自分達がよく知る者だったから。
それがなぜ分かったか。
答えは、老人の言っている言葉にある。

老人は、

「りんどうは…どこだ?、りんどうは…どこだ…!りんどうは…っ!!どこ、だ…!!」


竜胆はどこだ?

と、繰り返しそう呟いていたからだ。 
 

 
後書き
かいせつ

⚫紺碧の賢狼シャロン
シャルルマーニュのマスター。
本名は木村 良子(きむら りょうこ)。30歳。
”よしこ”と呼ばれることが多々あるため、本人はこの名を忌名と称し、自らを『紺碧の賢狼』もしくは『シャロン』と名乗っている。
詩的な表現と回りくどい言い方を好み、騎士としての優雅な振る舞いを常に心がけている。
一見ふざけているようにも見えるが本人はかなり真面目。
あのように振舞っているのも弱気でうじうじした自分を隠すためであり、シャルルマーニュにカッコ悪いと思われたくないため。

ちなみに甘いものに目がない

⚫少し変わった召喚方法
この崩壊世界において、サーヴァントを召喚した者の共通点として皆FGOをプレイしていたというものがあるが、ごくたまにそれに当てはまらない者がいる。
『紺碧の賢狼』もそうなのだが彼女はFGOはやっていない。
しかし何故召喚できたのかと言えばそれは世界崩壊前にプレイしていたゲームにある。
Fate系列のゲームをプレイしていた者が、サーヴァントを召喚できたという事例がちらほらあるのだ。
彼女の場合、『Fate/extella Link』をやりこんでいたということから、シャルルマーニュを召喚したのではと推測する。
他にも、『Fate/EXTRA』をやりこんでいたから玉藻の前が来たというケースもある。
 
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