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『外伝:青』崩壊した世界に来たけど僕はここでもお栄ちゃんにいじめられる

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馬鹿にするやつは許さない話

 
前書き
どうもこんにちは、クソ作者です。
シリアスな話はここで終わりになります。
時々舞くんの口から語られる過去のお話ですがいつかまとめて投稿したいと思ってます。
この世界に来る前の話とか、己の身一つで崩壊世界を生き抜いてきた話とか、彼の波乱万丈な半生を知りたい人もそこそこいるのではないかと思うので。 

 
「おそくなっちゃった…!」

街の自警団の蘭陵王くんとお話していたらつい日が暮れてしまった。
葛城財団がうろついてるから気をつけてと伝えるだけだったのに、気が付けば世間話をしててついでに彼に女装を薦めてしまっていた。
我ながら馬鹿だなぁと思いつつ、街を出て郊外の自宅へと走る。

「よし、こんなときはこれだ。」

そこで僕は妙案を思いつく。
ペンを取り、また空中にものを描いていく。
今回は武器じゃない。生き物だ。
とはいっても幻獣の類で、いるかいないかよくわからない曖昧な境界の生き物。

その名も

「ヒポグリフ・リリィ!!」

描きあげ、その名を呼ぶとこの世ならざる幻馬を真似た生き物は実体化した。

「ぴぃ!」
「よしよし。今日もお願いね。」

本物のそれよりひとまわり小さいそれは確かにヒポグリフだ。
鷲の上半身に馬の下半身。
これで立派な大人だが、小さいので僕はリリィと付け足している。
擦り寄ってくるこの子の頭を撫でると、元気よく鳴いた。

「よし…!」

跨り、頭をとんとんと叩くとヒポグリフ・リリィは鳴いてふわりと飛ぶ。
一瞬の浮遊感の後、一気に加速して姫路城が過ぎていく。

本来のヒポグリフはその出自故に次元跳躍が出来るが、この子はできない。
しかしそれをとっても本物とそう変わらないすごいスピードを備えているんだ。
僕とお栄ちゃんはこの子をよく、遠出の手段として重宝する。

それに、この子に乗ってるといつか本物に乗せてもらったあの日のこともよく思い出す。



「街が…あんなに小さく…!?」
「すごいだろう?ボクの宝具!もっと褒めてもいいんだぜ?」

前の世界。
彼の背中がやたらとかっこよく見えたあの日の夜。

「…ありがとう。」
「え?」
「助けてくれたお礼!!」
「お礼なんていらないよ。お姫様を助けるのは騎士として当然の役目さ。」
「お、お姫様ぁ!?」

シャルルマーニュ十二勇士の彼は、騎士としての務めを果たしただけと笑いながら答える。
そうだ…確かこの時は貌のないスフィンクスにやられそうになって、ギリギリのところで助けに来てくれたんだ。

「それじゃあもうひと仕事だ!!しっかり掴まっててねお姫様。あ、後ろからぎゅーって抱きしめてもいいよ!」
「しないよそんなこと!!!!」

ヒポグリフはそのまま急降下。
下にいるのは戦っているお栄ちゃんとその仲間達。そして相手は顔の部分が割れ、中には宇宙が広がっている貌の無いスフィンクス。
ヒポグリフはスフィンクスから放たれる圧倒的密度の対空迎撃レーザーを次元跳躍でかわし、

「キミの真の力を見せてみろ!『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!!!」

そのままスフィンクスに突っ込み、崩壊させた。


それから、
様々な困難と対面しつつもお栄ちゃんと乗り切り、あいつの魔の手に堕ちかけたお栄ちゃんを救ったり、仲間達と協力して街で起こり続ける怪事件を解決したりしていた。

そうしてそんな物語が、終焉を迎えつつある時のこと、


「えへへ…ボクってば、相変わらず弱いなぁ。」
「…うそだ…。」

全ての元凶、『這いよる混沌』との戦いで、彼は命を落とすことになる。

やられそうになった僕を突き飛ばし、彼は僕の代わりにその胸を貫かれた。

「なんだ、かばったのか。つまらない。」

燃える三つ目で見下ろしながら、巨大な影の『這いよる混沌』がそう言いながら触手を抜く。
支えを失った彼は力無く倒れるも、ギリギリのところで僕が受け止めた。

「そんな…どうして…!!」
「前にも、言ったろう?お姫様をたすけるのは…きしとして、とうぜんの…」
「もういい!!喋らなくていいよ!!」

致命傷を受けたのは確か。
霊核だって確実に砕かれている。
焦りながらもペンを手に取り、修復しようとするももう遅かった。

「僕の…僕のせいだ…!!」
「舞くん…。」

涙が止まらない。
あんなに鬱陶しくて、邪魔で、早くどっか行って欲しかった人なのに、
それなのに、いざ居なくなるとしたらどうしてこんなに悲しいんだろう。寂しいんだろう。
こんなに胸が締め付けられて、痛くなるんだろう。

「キミは、悪くない。」
「…。」
「自分を責めたりしないで、キミは、キミらしく。」

座への返還が始まった。
足先から光の粒子となって消えてゆくも、彼は必死に言葉を紡いで僕に何かを伝えようとする。

「ダメだ!死んじゃダメだ!!全員で勝って帰ろうって約束したじゃないか!!」
「ごめん…約束守れなかったね。」
「そうだよ!!しようよデート!女装デートしよう!!二人で女の子の格好して、たくさん遊ぶんだ!!お栄ちゃんだってきっと喜ぶよ!!」
「…。」

彼の手が、僕の頬に添えられる。
その指先が涙を拭い、彼は笑ってみせた。

「ごめんね、舞くん。」
「…うそだ。どうして…なんで…っ!!」
「でも…ボクの最後の約束、聞いて欲しいな。」

消えゆく直前、彼は僕にこう言った。

「勝てよ、絶対に。這いよる混沌にも、キミの兄貴にも勝って、自分らしく自由に生きるんだ。」

その言葉は今でも僕の心に残っている。
だから僕は、自分らしく、そして自由に生きることを選択した。

「はははっ、死んだねぇ。彼はああ言っていたが要は君のせいだよ。黄衣の王。」
「…うるさい。」

立ち上がり、僕は『這いよる混沌』を睨みつける。

「…お栄ちゃん。絶対倒そう。」
「おう。あいつの為にもだ。弱音は吐いてられねぇナ!」

隣で見守っていたお栄ちゃんも、一緒に戦ってくれる。
負けられない。負ける訳にはいかない。

「さぁ来たまえよ。美しい自己犠牲とかいう三文芝居を見せられてイライラしてるんだ。足掻いてみろ!!黄衣の王!!」






結局のところ、多大な犠牲を払いつつも僕達は『這いよる混沌』を退けることには成功した。
そう、あくまで退けただけ。
完全に倒しきることは困難であり、やつは今もどこかで人間の醜さを見たいがために何かを企んでいるに違いない。

さて、ヒポグリフに乗って昔のことを思い出して感傷に浸っていたが、家までもうすぐだ。

「行くよヒポグリフ・リリィ。スピードアップだ。」
「ぴぃ!!」

リリィのスピードが上がる。
このまま家まで直進だ。
きっとお栄ちゃんの事だ。
遅くなったら遅くなったらで「いつもより帰りが遅いナァ。そうだ、今日はその遅くなった分かける十分で寸止めしてやろうかい?」とか言い出すに違いない。

そうしてもっとスピードをあげようとした時、

「!!あぶない!!」

茂みから突然、人影が。
このままではぶつかる。そう思いヒポグリフ・リリィを止めようとした次の瞬間

「ぴ…」
「な…っ!?」

鮮血が舞う。
なんとヒポグリフ・リリィの翼が、切り裂かれた。

「ぐっ!?」

飛行能力を失い、ヒポグリフ・リリィはそのまま落ち、投げ出された僕は派手に転がって土汚れまみれとなった。

「いたた…。」

身体中が痛むも、折れてはいない。
そしてすぐさま立ち上がり、僕はやって来た人影を見やる。
ぶつかる直前、きらりと光るものが一瞬見えたんだ。
間違いない。刀だ。

出会ったのは偶然じゃない
奴は、最初から斬るつもりで来たんだ。

「誰!?」

叫ぶも、応答はない。
街灯もなく、ただ暗いこの辺りは人の顔は確認しづらい。
かろうじて見えるのは三度笠をかぶった和服の男。
間違いない、こいつらはサーヴァントだ。

「おまんが、葛城舞じゃな?」
「…」
「とぼけても無駄じゃ。情報は出回っとる。」

そうして三度笠の男は、僕の写真を見せた。
そうか、こいつも僕を…!

「わしと来い。それとおまんのサーヴァントも一緒にじゃ。」
「断る。」
「ほう、なら…。」

僅かな光、月明かりに照らされ血に濡れた刀が光る
斬られたヒポグリフ・リリィは…どこかに行ってしまった。
逃げる術はない。
家に着く前に、きっと僕はこいつにおいつかれてしまう。
なら、

「その手足、貰っておこうかのぉ!!!」

戦うしかない!!

カリゴランテの剣を描き、手に取る。
刃は分離し、鞭のように振るって三度笠の男に攻撃を試みる。
相手もまさか剣が伸びるなんて思わなかったのだろう。
想定外の攻撃範囲に彼は思わず足を止め、やってきたカリゴランテの剣の剣の攻撃を間一髪で躱す。
しかし、攻撃は頭部をかすり、被っていた三度笠を吹き飛ばした。
そうして明らかになる、やつの顔

「岡田以蔵…暗殺にはもってこいのサーヴァント…。」
「ほぉ、顔を見られたからには生かして帰す訳にはいかんのぉ。」

岡田以蔵は不敵に笑い、刀を握り直してこちらに突っ込んでくる。
また剣を振るって迎撃を試みようとするも

「おまんも阿呆じゃ。この岡田以蔵に”剣”で挑むなんぞ。」

受け止めた。
刀に絡みつくカリゴランテの剣、岡田以蔵はそれを

「そんな小細工、もう見切ったァ!!」

そのまま強引に引き寄せた。

「!!」

そのまま引っ張られ、以蔵の方へと引き寄せられる。
無防備な僕、それを待ち構えるのはもう片方の手で二本目を抜いた以蔵。

「その腕、もらった…!」

瞬間、僕はもうひとつの武器を描く。
一瞬のうちにそれを描き終え、僕はそれを地面に突き立てた。

「なっ…!」

ライダーのアストルフォが持つ武器、馬上槍の『触れれば転倒!(トラップオブアルガリア)』だ。
それで自分の体を固定し、僕は反撃に出る。

「引っ張られるのはそっちだ!」
「ふん…!膂力でわしらサーヴァントにかなうとでも」
「ああ!かなうさ!!僕ならね!!」

槍を手放し、再びペンを手に取る。
今度は描かない。自分の腕をなぞり、叫ぶ。

「卑弥呼パワァァァーっ!!!!」
「!!」

腕に宿ったのは邪馬台国の女王、卑弥呼の超人的パワー。
僕は思いきり力を込め、カリゴランテの剣を引っ張った。

「な、なんじゃああああ!!!!???」

予想しなかっただろう壮絶な力で引っ張られ、以蔵は宙へと投げ出される。

無防備になった以蔵。
今ならこれだ!

「な…!!」

次に以蔵の目が僕を映した時、
そこに見えたのは巴御前の大弓を構えた僕。
番えているのは輝く炎の矢ではなく、『触れれば転倒!(トラップオブアルガリア)』だ。

「これで…!」

弓を引き、以蔵を貫こうとした時だ。

パン!という乾いた音。
それと同時に、足に走る激痛。
僕は膝をがくんと付き、武器はその場に落としてしまった。

「…っ!」

痛みに顔をしかめながら視線を下に移すと、腿からは血が滴っている。

「動くな。」
「なっ…マスター!?」

そして目の前に現れたのは未だ硝煙の立ち上る拳銃をこちらに向けた、女の子。
ボロボロのマントを羽織り、ニット帽を目深に被って顔はよく見えないが、声からしてこの子は女の子だ。
そして以蔵がマスターと呼んだように、どうやらこの子が彼のマスターのようだ。

「何をしちょる!ここはわしだけでやると言ったじゃろ!!」
「後がない。だったら確実に捉えるため私だってやるよ。その為に学んだ殺しの技術だ。」
「…!」

そういい、女の子はもう片方の足に躊躇なく鉛玉を撃ち込んだ。

「あ…ぐっ…!」
「もう立てないだろう。少し手間どったがこれでまた財団の傭兵に返り咲ける。」
「ざい…だん…?」

そうか…この人達も…!

「みんな僕にゾッコンなんだね。人気者は辛いや。」

ちょっと前のアイツらも僕を狙っていた。
というより、葛城舞という名の僕と僕のお栄ちゃんを見つけるなり、彼らは目の色を変えて死に物狂いで襲ってくる。
あいつのことだ、
捕まえたら何かすごい報酬でもあげるんだろう。
そう、そうするほどまでに、あいつは僕とお栄ちゃんを捕まえたがってるということだ。

「あいつの所に行くつもりなんかないよ。」
「お前は用はなくとも代表がお前に用がある。それに、私達の信用を取り戻す道具にもなってもらう。」

彼女の銃の照準はブレない。
その銃口は真っ直ぐ僕を捉えていた。
隙を見て武器を描き起こし、反撃しようかと思ったがこれではその手を射抜かれるだろう。
そうしたら本当に何も出来なくなる。それだけは避けたい。

「連れていくぞ。以蔵。」
「おう。だが余計な抵抗されちゃ困る。代表は最悪生きておれば問題ないと言ってたからのぉ。」

そうすると以蔵は、僕に近付くと刀を振り上げる。

「その両手は、邪魔じゃア!!!」

振り下ろされる刀。
何かをしようにも、とうに万策尽きている。
逃げ出せない、戦えない。
ただ避けようのない痛みに覚悟を決めることしか出来ない。
そう、思ったが…

「ぐぅっ!?」

以蔵が刀を落とす。
予想外の痛みに何事かと思えば

「な、なんじゃあ!?」

手の甲に筆が突き刺さっていた。
そして

「どきナ!!」
「!?」

後ろから、大筆を振りかざして現れたのは僕のサーヴァント。
筆を振るえば大波が襲い、以蔵を大きく吹き飛ばす。

「んのぉっ!!」

体勢を立て直し、なんとかとどまる以蔵。

「ほぉ…おまんがこいつのサーヴァントか。」
「あぁいかにも。おれがマイのさあばんと、葛飾北斎だ。」

大筆をくるりと回し、地面にトンと突いて現れたのは僕のサーヴァントの葛飾北斎。お栄ちゃんだ。

「お栄ちゃん!?」
「随分と帰りが遅いもんでナ。思わず迎えに来ちまったヨ。」

思わぬ助けにほっと安堵するも、どうして僕の居場所が分かったのか、
答えは簡単だった。

「ぴぃ!」
「こいつが大慌てで家に飛んできてナ。そんで後を追ってみりゃこれだ。」

お栄ちゃんの横に降り立ったのはあのヒポグリフ・リリィだ。
以蔵に羽を切られた際、どこかへ行ってしまったのだと思ったけどそれは違う。
この子は怪我なんか気にせず、僕の危機をお栄ちゃんに知らせるために頑張ってくれたんだ。

「そっか…助けを呼んでくれたんだね。」
「ぴぃ」

そうして、役目を終えたヒポグリフ・リリィは消え去る。
色が消え、線も消え、宙に描いた絵だったものは風に紛れて消えていった。

「マイ、その怪我は…!」

と、僕の両足の怪我を見るなりお栄ちゃんは敵そっちのけで気にし始める。

「ごめん…ちょっと撃たれちゃって。」
「撃たれたァ!?こんっな艶やかなおみ足に血ィ流させる不逞な輩はどこのどいつだい?アンタか?」

と、銃を構えていた以蔵のマスターを見るなりお栄ちゃんは怒りを露わにする。

「私だ。そいつは我らが代表の元へ差し出す。その為に撃った。そして貴様もだ葛飾北斎。大人しく私達と財団本部へ来てもらおう。」
「はぁ…やっぱり財団絡みかい…。」

いい加減にしてくれといった感じでお栄ちゃんは大筆を肩に担ぐ。
呆れてはいるがその目は本気であり、やってきたこの2人を冗談抜きで殺すつもりだ。

「マイを傷つけたんだ。その代償は命二つでも足りはしねぇヨ?」
「はっ!返せん借金なぞ踏み倒すまで。それにおまんがわしの命をとる?絵描き風情が冗談も休み休みー」

以蔵の言葉が、中断させられる。
お栄ちゃんが瞬時に目の前に迫り、筆で殴って黙らせたからだ。

「ぐほぉっ!」

頬を思い切り引っぱたかれ、何が何だか分からぬまま吹っ飛び転がる以蔵。

「なっ、なにが」
「立て。」

慌てて起き上がろうとするも、無防備な横っ腹をお栄ちゃんに蹴飛ばされ、また転がる。
お栄ちゃんは、容赦しない。
特に財団絡みなら。
そして、僕に怪我をさせたと言うのなら。

「ホラどうした?立てヨ。ご覧の通りおれァまだピンピンしてる。」
「こんのぉ…!!絵描きごときにィ…!」

刀を拾い上げ、立ち上がる以蔵。

「ちぇぇりゃあああああああーッ!!!!!」

雄叫びを上げ、刀を振りあげお栄ちゃんに切りかかろうとするもそれは何も無い空を切る。

「当たってねぇ、ぞっ!」

少しだけ身体をずらし、最低限の動きでかわしたお栄ちゃんは筆で奴をかち上げる。

「さァて、幕末にその名を轟かせた四大人斬りの一人だ、せめて派手に描いてやらァ!」

宙に投げ出され、無防備となった以蔵にお栄ちゃんは追い打ちをかける。
両手、その両指に挟んだ小筆で、以蔵に何十発もの攻撃という名の手を加えこんでいく。

僕のお栄ちゃんは、強い。
そんじょそこらのサーヴァントに負けないくらいに。
僕を守るという思いがあるのなら、尚更だ。

「ぐお…っ!!」

ありったけの攻撃をくらい、以蔵は地面にどさりと落ちる。
ボロボロにやられた彼は、もう動かない。

「以蔵!!」

マスターが僕らのことも気にせず、彼の元へと駆け寄った。

「まだじゃ…まだ…終わっとらん…!!」
「ああ、そうだ…まだ終わってない!私達はここで…終わってなんかいられない!!」

肩を組み、なんとか以蔵を立ち上がらせるマスター。
どう見ても以蔵は満身創痍。戦える力なんて残ってないはず。
何が彼らをここまでさせるのか?

「まだやんのかい?そのつもりなら次は勢い余って殺しちまうかもだ。」
「はっ、絵描き如きが…天才のわしにかなうか…。」

実際勝ってしまってはいるが。以蔵はまだ負けていないつもりたのだろうか。

「わしは天才…わしは剣の天才じゃア!!そんなわしが…絵描きと”三流英霊”の武器を使うけったいな阿呆に負けてたまるかァ!!!」


…。

こいつ、今、
なんて言った?

「…。」
「マイ…?」

立ち上がる。
痛みは…もうない。
傷口からは弾丸が零れ落ち、しゅうしゅうと音を立てながら塞がっていく。

頬に感じるは、風。
そよ風程度のそれは次第に強くなり。

「以蔵!これは!?」

暴風とも呼べるそれは僕の周囲に吹き荒れる。

「岡田以蔵…今、なんて言ったんだ。」
「な、何がじゃ!!けったいな阿呆っちゅうのが余程頭に来たんか!?ええ!?」

違う、そこじゃない。
別に僕がけったいでも阿呆でも心底どうでもいい。
問題はその前だ。

「”これ”が、何だって?」

拾い上げたのは馬上槍。
ライダーの彼が使うそれだ。

「それがなんじゃ!そんな三流英霊の武器でわしを倒せるわけが」
「以蔵!!やめろ!!!」

マスターが何かに気付く。
けど、もう遅い。
言うならば以蔵は、とうに地雷を踏み抜いているのだから。

「馬鹿に…したな?僕の大事な人を…!」

確かに彼は弱いかもしれない。
他の英霊より、武芸に秀でていないかもしれない。
天才でもなければ無双の強さも誇らない。
だったとしても彼は、
僕を救った最高の騎士だ。

「マイ!!もういい!!おれがやる!!」
「…いあ、いあ、」

お栄ちゃんが止めようとするけど、やめない。
馬上槍を手放す。それは風の力でふわりとその場に留まる。
風を集める。
槍に集中させる。
狙うは一点。岡田以蔵。

「…行け。」

圧縮された風と共に、馬上槍は信じられない速さで発射される。

以蔵はそれを自慢の剣術でなんとかしてやろうと思ったんだろう。
しかしその驕りが間違いだ。
たかが人間。たかが三流英霊の武器。
でも、それにやられるのはお前だ。

「危ない!!」

しかし、以蔵のマスターがそれをかばった。
以蔵を押しのけ、槍の直撃は免れる。
だが、

「ぐ…あぁっ!!」

槍の一撃はマスターを掠めた。
掠めただけだが、その威力は圧倒的。
風は凶悪な衝撃となって腕を抉りとり、二の腕から先を骨も残さず消滅させた。

直撃しなかった馬上槍はそのまま通り過ぎ、近くにあった瓦礫にぶつかると凄まじい音と共に粉々になって消えた。


「な…!マスター!!」

庇い、代償として腕を失ったマスターに以蔵が駆け寄る。

「無事…か、以蔵。」
「わしはどうでもええ!!おまんの方が心配じゃ!!」

首に巻いていた襟巻をマスターの腕にキツく巻き付け、なんとかして止血を試みる以蔵。
そうして彼はこちらに向き、

「おまんら…覚えとれ。次は必ず殺すからの…!!」

マスターをおぶり、最後にそう言って森へと消えた。

「…。」

そうして、また夜の静寂が訪れる。

「お栄ちゃん…。」
「黄衣の王…だっけか?まだ使えるんだナ。」
「あ…うん。」

よく、分からない。
気が付いたら使ってた。
彼をバカにされたら、急に頭の中があつくなって、そうしたら風が僕に集まって…。

「まぁ今回はあいつのおかげで助かったヨ。その…ひぽぐりふ?だったか。」
「うん。」
「慌ただしくて、ちょいとあいつみたいだったナ。」

と、場を和ませる為かお栄ちゃんが言う。
確かに、そうだったかもしれない。
ヒポグリフ・リリィは僕が描いた存在だけど、少し彼を彷彿とさせるところがあるんだと思う。
人懐っこくて、鳴き声がちょっとうるさくて、そして主の僕を助けるために片翼であるにもかかわらずお栄ちゃんのところまで走って助けを呼んだ。
なんとなくだけど、その忠誠心は騎士らしさを感じさせられたんだ。

「見てるかな…?」
「あいつのことサ。マイのことなんざ四六時中見てるだろうヨ。」


夜空を見上げる。
そこには満天の星空と、かつて彼が理性を取りに行った月があるだけ。
アストルフォは天国に行ったわけじゃない。
ただ、英霊の座に還っただけ。
だから遠くから見守っているというのは有り得ない。
けど、

「うん…そうだね。」

きっとどこかで、見てくれているだろう。
またいつか会いたい。
たくさん謝って、たくさんお礼を言いたい。
そうして今度は、僕から言ってやるんだ

女装デートを、しようって。




 
 

 
後書き
いい終わり方なのか最低な終わり方なのかわかんねぇなコレ。
というわけでシリアスなお話は終わり。
次回はなんと…あのフォーリナーに出会うお話だよ!!
ネタバレすると舞くんが夢の中で新しいフォーリナーと出会い、甘やかされまくって赤ちゃんプレイさせられて堕ちていくよ!
一体何貴妃なんだ…?
それでは解説どうぞ。

かいせつ

⚫黄衣の王
舞くんは前にいた世界で黄衣の王に気に入られ、取り憑かれた過去があります。
その際、予想以上に相性が良く、取り込もうとした黄衣の王が逆に取り込み返され、その力を使われる始末となりました。(こういうのゼパるって言うのかしら…?)
舞くんと黄衣の王の縁。
それは取り憑いた身体から引き剥がされても、別次元の世界に飛ばされても繋がっており、そのおかげで舞くんは黄衣の王から魔力をぶんどり、自分のものとして使えるのです。
ほぼ無限大なので使い放題です。つまり強いのです。
なお、彼はその魔力を口移しでお栄ちゃんに譲渡し、大幅にパワーアップさせるスキル、『波は風を受け、より激しくなる(フィーリング・トランスファー)』が使えます。

北斎は水の旧支配者の力を所持し、舞くんは風の旧支配者の力を所持する。
仲の悪い旧支配者同士で一見相性はとても悪そうですが、スキル名の通り波というものは風を受けてより激しくなるのです。
そう、実はとても相性がいいのです。 
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