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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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かくしてアイドル対決は、阻まれる(後編①)

 
前書き
どうも、クソ作者です。
ええ、分かっております分かっておりますとも。
読者の皆様が何を言いたいのかこのクソ作者、しかと理解しておりますとも。
そうです。終われなかったのです。
いや、終われたことには終われたのですが文字数がクソ長くなった結果、こうして後編①、後編②と分けることにしました。
書くだけ書いて後は無駄な文章とか余計な文章は省いたりとかそういった引き算が出来ないんすよね、私。
そのせいでこのザマですよ、ええ。
そんなわけでついにアイドル対決編、フィナーレでございます。
それでは、本編どうぞ。 

 
「具合はどうかしら、紫式部?」
「ええ、なんとか…。」

葵様とソフィー様が元凶を倒しに向かってから早三十分。
香子はへカP様に連れられステージ裏にあるそふぁに寝かさせてもらっていました。

「思ったより呪いの進行が早いわね…。」
「はい…これでも進行を遅くするのがやっとで…。」

呪いは未だに香子の体を蝕みつつあり、その侵食は予想以上に早い。
油断していた、
まさか探知しようとしたら複雑かつ強力な呪いをかけられるなどという考えはなかったから。

晴明様に教わり、陰陽術の心得があるものの、せめてできることはほんの基本的なこと。
応用や複雑な術は使えず、さらにこの呪いは熟練の陰陽師によるものでしょう。
だって対魔力のあるサーヴァントですら呪い、こうして地獄の女神であるへカP様をも困らせているのですから。






「これならどうだ!!白蓮様!射命丸!力を借ります!!」

瞬間、ソフィーがすさまじい速度でチェルノボーグに迫る。
超高速からなる速さと重さを備えた超速連撃。
しかしチェルノボーグは少し仰け反る程度でまともにダメージが入ったとは思えない。

「こ…のぉッ!!!」

全体重を乗せ、かかと落としをおみまいするも受け止められる。
悪神チェルノボーグはその四つ目と、肩にはめられた左右の頭骨の目を赤く光らせ、荒ぶる。

「…っ!!」

振るった槍は豪風を巻き起こし、災厄を振りまく。
一撃一撃が地面をえぐり、掠っただけでも致命傷になりえた。

「くそ…このままじゃ葵ちゃんが…!」

ちらりと目を横に向けると、そこにはこの事件の首謀者、森川真誉と戦う葵の姿が。

「なんで…こんなことを!!」
「さっき言ったじゃん。楽しいからだよ。」

戦う、とは言っても真誉はただ歩くだけ。
葵を殺そうとするのは彼女の周囲に展開する黒い鞭。
それは振るうだけでコンクリを砕き、どれほどの威力かは嫌でもわかる。
葵はそれをギリギリで躱し、あるいは殴って相殺し防戦一方に陥っていた。
このままじゃいけない。
しかしその前に悪神チェルノボーグを始末しなければならない。
とはいえこの森川真誉という女は何者なのか?
陰陽師を自称してはいるが鞭や人影を創造する謎の術や大量の屍を操り、さらにはスラヴ神話に伝わる死神、冥府の神や黒き神と恐れられるあのチェルノボーグを喚んだ。
どう見てもただものでは無い。

「ふざけんなッ!!」

葵の回し蹴りが黒い鞭にヒットし、跳ね返る。
あまりにも勢いのある攻撃だったのだろう。跳ね返ったそれは守るはずの主の頬を、僅かに掠めた。

「…?」

小さな切り傷が出来、つぅっと血が垂れると真誉はそれを手で触れて確かめる。

「わぁ…。」

頬を触った手を見れば、血。
それを見るなり彼女は笑った。

「私、怪我したんだぁ…。」
「だからなに?」

攻撃が止まる。

「今の私…すっごくかわいそう?かわいそうじゃない?ねぇ?」
「どの面下げて、可哀想って言えるんだよ!!」

葵はその隙を逃さない。
顔の前に両腕を持ってくるボクシングスタイルをとると、そのまま一気に急接近する。
攻撃するのなら今がチャンス。
なにか来る前にその腹に一撃を叩き込んでやる。

そう思い、女性だろうが関係なくボディブローをぶちこんだ。

「え…。」

動揺する葵。
だって無理もない。
相手は、真誉は見えていたにもかかわらず信じられないくらいに無抵抗で、何もしなかったのだ。
葵の接近速度は速いが、なんらかの対処法は取れたはずだ。

なのによけもせず、防ぎもせず、
手についた血を眺めて笑ったまま、彼女は攻撃を受けた。

「…ッ!」

なにか来る。
そう思い咄嗟に身を引いたものの、彼女は何もしない、
ただゆっくりと顔を上げ…。

「ああ、かわいそう。殴られた私は本当にかわいそうだね。」

ただ自分に対してかわいそう、かわいそうと微笑みながら呟くだけだった。

「今だっ!」

しかし、彼女が受けたダメージは確か。
そのせいでチェルノボーグの動きが少しだけ鈍り、隙が生まれた。
ソフィーはそれを逃さず、そこに全力を叩き込む。

「夢想…封印ッ!!」

彼女が唱えたのは、幻想郷にて数多の妖怪や神を撃退した必殺のスペル。
周囲に色とりどりの球が浮かび、それらが立て続けにチェルノボーグへと殺到する。
着弾するなり大爆発を起こし、立て続けに大ダメージを与えられたチェルノボーグは体を維持することが難しくなったのか、膝をつき、ドロドロと溶けていく。

「これは効いたみたいだね…さぁ!次は君の番だ!!」
「へぇ…そうやって私をいじめるんだ。」


御札を持つソフィー。
対する真誉もまた、その手に御札を持っていた。

「いじめる?いいや違うね。虐めているというのならキミの方だ。魂を屍に縛り付けていることも、それらを使い人々を恐怖させているのも、どれもがキミが起こしたいじめだ。」

いじめられている。
そう言った真誉にソフィーは容赦なく反論する。

「さっきからかわいそうとかいじめられてるとか、自分で言って恥ずかしくないのか!キミがどういった境遇だったかは知らない!ただ、この世界が崩壊してからキミと同じくらい…いや、それ以上に可哀想で辛い思いをしてきた人が沢山いる!君だけが悲劇のヒロインだとは思わないことだ!!!」

立て続けに反論をぶち込むソフィー。
熱心に語る彼女の目は、まぎれもなく本物であった。
それを見て葵は、瞬時に理解する。
ああ、この人もまた、酷く辛い思いをしてきたのだろうと。

「悲劇のヒロイン…じゃない?」
「ああ、そうだよ。」

ソフィーの言葉に、真誉の顔が歪む。
先程までの笑顔から一転、彼女の顔は喜びから悲しみの表情へと変わった。

「なんで…そんなこと言うの?」

ゾクリとした寒気。
何か嫌なものが背筋を駆け抜け、二人の第六感が警笛を鳴らす。

「ひどい、ひどい、ひどい、私はかわいそうなのに…。ねぇそうでしょ!?桜ちゃん!!」

脇に抱えていた人形を両手で持ち、語りかける。
人形は喋らない、感情もない。生きてもいない。
だが彼女はまるで友達かのように話しかける。

「ねぇ?そうだよね?そうだよね?私は悲劇のヒロインだ。桜ちゃんみたいな…かわいそうな悲劇のヒロインなんだ!ほら!!桜ちゃんもそう言ってる!」

少しボロボロのそれは何も言ってはいない。
必死の形相で彼女はそう訴えかけるも、ソフィーと葵は不気味さしか感じなかった。

「桜ちゃんみたいになりたいんだ!かわいそうで、たくさん嫌な目にあって!みんなに嫌われて…それから、それから…!!」
「葵ちゃん。あの子はかなりイカれてる。」
「見ればわかるよ。」

残念だがこれ以上悲劇のヒロインの解説に付き合っているつもりは無い。
こちらには時間が無いのだ。
だから、すぐに終わらせる。

「アンタが悲劇のヒロインだとかそういうのはどうでもいいんだよ。とっととこの屍の群れを引かせて、紫式部の呪いを解け。」
「…。」

ずるりと、彼女の周囲に人型の影が複数現れる。
つまりは、抵抗するつもりらしい。

そして葵とソフィーが動くのと、影が腕を鞭のように振るって攻撃するのはほぼ同時だった。

目標を失った鞭が床をえぐり、コンクリートをはじけさせる。
葵は駆け、ソフィーは飛んだ。

「キミが自分を悲劇のヒロインと思い込むのなら!その座から降りてもらうよ!!」

ソフィーが御札を投げる。
周りにいた影により叩き落とされるが、それはあくまでカムフラージュ。
本来の目的は

「今だ!!葵ちゃん!!」
「ッ!!」

葵の拳が、真誉の頬にヒットする。
予想だにしなかった攻撃。
注目を空に上がったソフィーに集め、葵は陸から影達の間を縫うように走り抜け、こうして懐まで潜り込んだのだ。

さっきも言ったが女だろうが容赦しない。せっかく綺麗に整ったその顔も、遠慮なく殴らせてもらった。

「…!」

殴られ、吹き飛ぶ真誉。
それに対し葵は走り、さらに追撃をかける。
起き上がろうとした彼女の胸ぐらを掴み、強引に立たせてあげた。

「けふ…ひどいよ葵ちゃん。顔殴るんだね。」
「関係ない。今すぐ紫式部の呪いを解け。そうすればこれ以上酷いことはしない。」
「ふふ、やーだよ♪」

鼻血を垂らしながら、彼女は笑顔で答えた。
この瞬間、怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。

「ッ!!」

殴る。
殴る、殴る、
胸ぐらを掴んでいるため吹き飛べず、真誉はただ殴られるままだ。
影は主を助けに葵へと襲いかかるが、それはソフィーが許さない。

「この…ッ!!」

そうして真誉の顔を陥没させようとするほどの渾身の力を込めて思いっきりぶん殴ってやろうと拳を振り上げた時だった。

「そこまで。」

拳が、後ろから何者かに掴まれる。
振りほどこうと動かすも、びくともしない。
後ろを振り返れば。

「さぁ、真誉殿を掴むその手を離してはいただけませぬか?拙僧、自らのマスターが痛めつけられるのはさすがに心苦しいので…。」

そこにいたのは、自分の拳を掴んでいたのはサーヴァント。
平安の陰陽師。あの安倍晴明と並んで語られる程の実力を持った男、

「蘆屋道満…?」

蘆屋道満がそこにいた。

「お話は伺っております。さぁ葵殿。その拳を収めては頂けないでしょうか?」
「呪いを解け。紫式部に掛かったあの呪い…アンタのだろ。」

何故ここに蘆屋道満が?
そして彼は真誉を”自らのマスター”と言った。
じゃあこいつは真誉のサーヴァント。
だが彼女に令呪はない。
しかしそんな疑問はどうでもいい。
今は1秒でも早く、香子にかかった呪いを解かなければならない。

「…ッ!!」

拘束をふりほどく。
振り返って蹴りをおみまいするのと、ソフィーが空中から攻撃を仕掛けるのは同時だった。

「おぉっとこれは危ない!」

しかしあたしの蹴りは外れる。
蘆屋道満は距離をとるも、まだソフィーの追撃が残っていた。

「蘆屋道満…何が目的だ!!」
「目的…?拙僧に目的などなく。強いて言うなればただマスタァの為に尽くすのみ。」
「何が尽くすだ!!悪事を助長しているだけの分際で!!」

彼女から放たれるのはいくつもの御札と光の弾。
それらが圧倒的な密度で蘆屋道満に襲いかかるも、彼はそれに対して驚くこともなければ眉ひとつ動かさず

「真誉殿の願いを、1人の少女の純粋な願いを”悪”と決めつけるのは良くありませぬぞ。八百万ソフィー。」

指を鳴らす。
するとソフィーの放った弾幕は、全て弾け飛んだ

「なら…!恋符『マスター…」
「…。」

無効化されたとしても攻撃の手は緩めない。
ソフィーは幻想郷の住人の能力を用い、さらなる反撃にうってでようとするも

「実に面白い。異世界からの力を借りるとはなんとも面妖な。」
「なっ…!」

攻撃する自分に対し、蘆屋道満は避けたり逃げたりするのではなく、地を蹴ってソフィーのところまで急接近したのだ。

「しかし使役する者がこの程度とは、使われる者達への申し訳が立たぬというもの!!」

彼女の顔面が、蘆屋道満の手のひらにがっしりと掴まれる。
そのまま重力に任せ落下する二人。

「死ねぇいッ!!」

渾身の力を込め、ソフィーはそのままコンクリートに顔面を押し付けられた。
陥没し、屋上全体にヒビが入る。
彼女がどれほどの力で叩きつけられたのかは嫌という程わかった。

「ンンン…なんと呆気ない。」

倒れたままのソフィーは開放されるも、ぴくりとも動かない。
死んだ…いや、気絶している。
あれほどの衝撃をくらったんだ。強いとはいえ脳は有り得ないほど揺さぶられた。意識が投げ出されるのも無理はない
そして、次にやられるのは自分だと確信する葵。

蘆屋道満はこちらにゆっくりと近付いてきており、隣にいる彼のマスターは服が汚れるのも気にせず鼻血を垂らし、こちらに笑顔を向けている。

やられる、このままでは。
どうするべきか、


そう、思った時だ。

【変わりなよ。バトンタッチだ。】
「…!」

目の前に現れたのは泰山解説祭。
これは誰かの心情を文章化するものだが、今あるのは違う。

「菫…?」
【時間が無いんだろう?それにこの状況、ボクなら打破できる。】

自分の心の奥底にいる菫の言葉だ。

「…、」

このままではやられる
そして香子の呪いを解くため。
心底気に入らないけど、選んでいられる暇なんて…ない。

「分かった…不本意だけどあたしの身体、”貸すよ”!」




 
 

 
後書き
後編②に続く…。 
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