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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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馬-わがはいはうまである-

吾輩は馬である。
名前はオロバス。
意味はよく知らぬ。主人にそう名付けられたから私はオロバスなのだ。

私は京都のとある牧場にて生まれた。
荒くれ者の両親から生まれたらしいが私は聞き分けがよく、頭も良く、そして速く長く走る馬だと言われた。

確かにそうだと自負はしている。
私は人語を理解出来るし、他の馬と比べて知恵もあるし主人の言うことを忠実に聞く。
走る距離も他の奴らより長く、そして速く走れる。
そんな私を見て牧場主の人間は

「これだとあの”セキトバ”より凄いんじゃないか?」
「言えてる。でもこいつの場合”アオトバ”だろ。」
「あー言えてる。」

そう言っていた。
言葉の意味はよく分からないが、とにかく私は褒められていることは理解出来た。

で、ある日のことだ。

「お前さんにこいつをやるよ。」
「…いいのか?」

私の前に、男が現れた。
数々の人間を見てきたが、特に変わった風貌の男だった。

「ただ、とんでもねぇ暴れ馬だがな。今まで誰一人として乗りこなせた者はいない。」
「それを渡すのか。」
「きっとアンタなら乗りこなせる。伊吹童子様がそう仰ってたからな。」

と、男の赤い目が真っ直ぐ私を見据える。
かつて乗ろうとした人間共のように上から威張るようではなく、さらに恐れをなして媚びへつらうわけでもなく、
あくまでこの男は、対等に私と見合っていた。
おまけに睨みつけてやったら睨み返してきたのだ。
この男、ただものでは無いな。

「…。」
「今日からお前の飼い主になる竜胆大和だ。よろしく頼む。」

どことなく面白い男だ。気に入った。

「…!」
「頭を下げたぞ…!?」
「不安だったが…やはり伊吹童子様は正しかったのか。」

周囲がざわめく。
なんだ、私がこうやって頭を垂れることがそんなに珍しいのか。
気に入った。ただそれだけだ。
存分に乗せてやるとしよう。

「おい、こいつの名前は?」
「付いてないが?」
「そうか…。」

そう言うと男は少し考え、言った。

「オロバス。」
「オロバス?オロバスってソロモン72柱の…」
「特に意味は無い。かっこいいからつけた。それじゃあ今日からお前はオロバスだ。よろしく頼むぞ。」

と、私の主となった男は手を差し伸べた。
それが、私と主人の出会いである。




私は馬。なら走るのが役目である。
今日も今日とて主のヤマト、そしてムサシを背中に乗せて広大なこの世界を駆け抜けるのだ。

「いいぞオロバス。このままなら予定よりもずっと早くつけそうだ。」

私の健脚を舐めないでいただきたい。
牧場でも褒められたこの脚は、どんな悪路でもへっちゃらなのだ。

「ほんと、すごい馬ね。」
「ああ、こんな馬を貰って本当に良かったんだろうか。」

この世界には、サーヴァントと呼ばれる人間のパートナーがいる。
やや難しい関係であるらしいが、特にこのムサシはよく分からない。

変な態度をとったり、ついこの前までは私の背中に乗ることを拒んだりした。
馬が嫌いという訳では無いらしく、どうやら彼に密着するのが小っ恥ずかしいそうだ。
なんで知っているかと言えば、前に休憩している時に主人のいない間に私にそう言ったからだ。

馬だからといって人語が理解できないと思っているのか、残念。きちんと分かっている。
そして人間というのは難しい。
子を成すことに大分面倒な過程があるらしいというのはわかっている。
それは大層難しく、そしてまた面倒臭いものなのだとか。

好きなら好きでとっととおっぱじめて子を成せばいいものを。
ちなみに私は人間で言う女だ。牧場で私を夢中にさせる男はいなかった。
貧弱者ばかりだったからな。


「荷物を届けに来た。それと厩舎はあるだろうか?」


ある小さな町にたどり着き、主人は仕事をこなす。
主人は物を届ける仕事をする。
前は自分の足でやっていたらしいが、私という馬を手に入れてからはぐっと仕事の効率が上がったと褒めた。

そうして街の見張りと会話を交わしたあと、私は手綱を引っ張られ厩舎へと連れられる。
主人と離れるのは心寂しいが、馬には馬の場所、人間には人間の場所がある。仕方がないのだ。

「…。」
「どうだ?オロバス。」

それから私は主人とムサシに身体を洗ってもらう。
主人はよく、私に話しかける。
私は人語を理解できるが人語を交わすことはできない。
それなのに主人はあたかも人間と話すかのように私に言葉を投げかけるのだ。

「ぶるるっ!」
「きもちよさそうでなにより。明日もよろしくねオロバス!」

ムサシもだ。




ムサシと主人。
2人は恋仲である。
子は成さないが、とても親密な仲だ。
よく2人で景色を見たり、私の背中で揺られながら他愛もない話をしている。
主人はあまり感情を表に出さない人間ではあるが、ムサシと話すのはかなり楽しいそうだ。

で、そんな仲を邪魔する奴がいる。
恋路は思ったよりも悪路というか、前途多難というか

「止まれ。宮本武蔵。」
「チッ…。」

主人があからさまに聞こえるよう舌打ちをした。
走る私を阻んだのは数台の大きな車と白いスーツの男。

私はこいつを知っている。
あれから何度も邪魔をしてきた白い男だ。
こいつもサーヴァントを連れており、強さに絶対の自信をもっているそうだが生憎私はそうは思わない。

「何の用だ。」
「なんだその顔は。名前を覚えてもらっただけ有難いと思っていただきたいのだがね。」

偉そうな白い男は何やら難しいことを自慢げに述べ始めた。
私はそういったものはよく分からないし嫌いだ。

「怖気付いたのかな?まぁ無理もない。私のセイバーは唯一にして最強。かの宮本武蔵が至ろうとした空にさえも、簡単に手が届くほどの実力の持ち主。だろう?」
「ええ、お褒めいただき光栄です。マスター。」

白い男の後ろにいたこれまた白い騎士がそう言って頷く。
なんだかいけ好かない顔のヤツだ。
なんとなくだがこの白い騎士、忠誠を誓った主を裏切りそうな顔をしている。
私の偏見だ。気にしないで欲しい。

「バカにしたのか?武蔵を。」

と、ここで主人の悪い癖が出た。

「武蔵が至ろうとした”空”はそう簡単に届くものじゃない。そう易々と語るな。」
「簡単に届くものだろう?何せ産廃が至れるならランスロットでも至れる。そう思ったのだがね。」

私から降り、続けてムサシも降りる。
主はムサシをバカにされるといてもたってもいられない性分なのだ。
普段は無表情で冷静沈着なようにも見受けられるのだが、なんというべきか…無表情だが表情豊かなのだ。

「武蔵。蹴散らせ。あいつに現実を分からせてやりたい。」
「任せて。」

サーヴァントにはサーヴァントで戦う。
主は強いがさすがにサーヴァントには敵わない。だから主はムサシを信じて見守るのみ。
しかし、

「撃て!!」

歩き始めたムサシを見て白い男が叫ぶ。
周りにいたやつの手下は皆武器をかまえて撃ち始めた。
まだ勝負も始まっていないというのに、あの白い男は平気で不意打ちをした。

一対一の勝負ではなかったのか?
少なくとも、我々獣の世界において決闘は一対一で行うもの。
私は馬だ。人間のルールはよく分からないがこれは反則なのではないか。
しかし安心して欲しい。
そういった邪魔は主が取り払ってくれる。

「相変わらずだな置鮎。逆に清々しいぞ。」

ムサシを狙う卑怯者を片っ端から斬っていく。
これでムサシは、あの白い騎士との一騎打ちに思う存分集中出来る。

「ええい何をしている!!人質だ!!人質を取れ!!」

白い男は相変わらず叫んでいる。
なるほど、人質か。
主をとらえ、ムサシの自由を奪って一方的に斬るつもりだな?

馬鹿げている。何が一対一の一騎討ちだ。
そういうわけなので

「ヒィイイイイイン!!!!」
「うわっ!?」

思い切り嘶き、立ち上がってみる。
周囲にいた手下は思わず驚き、さらにやつらに対して私は後ろを向くと

「馬程度にビビるな!ともかく奴をひとじぐぶぇっ!?」

思い切り蹴りを入れた。

「オロバス…!」

あの白い2人組は気に入らない。
なので、私も主と共に暴れさせてもらうことにした。

「面白いな。」

主の頬が僅かに緩む。
そして私は駆け、手下を蹴飛ばし、踏み付け、縦横無尽に駆け回る。

「輸送車が…!!」
「馬のくせにこいつ!!くらえぇ!!」

奴らが持っている武器、そう、銃といったか。
車を横転させてやったら怒って撃ってきたが、その程度で私の肌を傷つけることは出来ない。

「ウソだろ…」
「この馬バケモンか!?」

乱射し、私には一切効いてないことを悟ると手下の顔は絶望に染った。
挨拶代わりだ。お前の顔面にもひづめの跡を残してやろう。

さて、主も主で相変わらず大活躍だ。
人を斬り、輸送車をボコボコにし、奴らをどんどん殺していく。
私も、そろそろやろうか。

「…!!」

駆け、ムサシと白い騎士の横を通り私が目指すのは

「な、なんだ…!!」

いけ好かない白い男だ。

「来るな!!やめろ!!セイバー!!」
「…!!」
「はいだーめ。あなたの相手は私でしょ?」

白い騎士が急いで向かおうとするが決闘相手のムサシに阻まれる。
あれだけ卑怯な真似をしたんだ。
これくらい許して欲しいものだ。

「来るな!!来るんじゃない!止まれ!!止まれェ!止まれと言っ…」

両手を突き出し止まれとジェスチャーしているが、私は主の言うことしか聞かないのだ。
さぁ、主とムサシを卑怯な手を使って貶めようとした罰だ。
そのムカつく顔に、とびきりの蹴りをくらわせてやった。


「ごぼぉ!!!」
「!マスター!!」

白い騎士が叫び、駆け寄る。
白い男は鼻骨が折れたのだろう。鼻から大量の血を流し、そのスーツを存分に汚しながら吹っ飛んだ。

「ぶっ、ぎ、ぎざま”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!!」
「よくやったオロバス。逃げるぞ。」

白い男が何か言っているが一切聞かず、主とムサシは私に飛び乗り、手綱を握って走れと指示する。

「残念だったな。今回も武蔵の勝ちだ!」
「それを言うなら私と”オロバス”の勝ちじゃない?ねぇ、オロバス?」

そう捨て台詞を残し、走り去った。
その後だいぶスカッとした。ありがとうと主とムサシに褒められた。
なんてことはない。ただ私もあいつが気に入らなかっただけなのだからな。
それに、人間の言葉にこんなものがあるそうじゃないか。

『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ』と。




葛城財団。
それが、主とムサシが敵対する群れの名前なのだと言う。
人間共の大切なパートナーであるサーヴァントを捕まえてまわっているという、人間からすればとても極悪非道な群れなのだと主から教わった。

それと、その葛城財団なのだが、

「見つけたぞぉぉぉ!!!!山本隊長の仇だぁぁぁぁ!!!」

しつこいことこの上ない。
広大な荒地を駆けていたところ、いきなり複数の装甲車がやってきた。
主とヤマトを乗せた私を囲むと、奴らは大声で叫びながら車の上についている大きな銃を私に向ける。

「武蔵、任せた。」
「ええ、任されまし、た!!」

しかし、大きな銃が火を噴く前に、ムサシが私から飛び去り、その車へと飛び移る。

「山本隊長のために負けるかあぁぁぁぁ!!!!」

何か意気込んではいるが、気合いだけではどうにもならない。
奴は大きな銃ごと真っ二つに斬られ静かになる。
それから次から次へとムサシは車へ飛び移り、どんどん無力化していく。
武器のなくなった車は何をするかと思えばこちらに幅を寄せてきたでは無いか。
なるほど、ぶつかるつもりか。

「オロバス。もっと速く走れるか?」

誰にものを言っている。
これより早く走るなど、造作もない。
横から私に体当たりをしようとした装甲車をかわし、推し潰そうとして新たにやってきた左右の車もなんなく走り抜ける。

「よいしょ。」

そうしてムサシが戻ってきたことを確認し、私はさらにスピードを上げた。

「飛ぶぞ。」

主がそう言った通り、目の前は大地に亀裂が走り崖となっている。
その間はかなり長い。普通に飛び越えるのなら不可能だろう。
だがしかし、私はオロバスだ。
主とムサシ。たかが二人程度を乗せてほんの四、五メートル飛び越えることなど造作もない。

そうして私達は、追っ手を振り切る。
奴らは止まるのが間に合わなかったのか、はたまた馬ができるのなら車でもとタカをくくったのか、無様に崖へと真っ逆さまに落ちていった。
落ちる際、奴らの「ヤマモト隊長ーーーー!!!」とかいうまたあの訳分からん雄叫びが聞こえてきた。


「…。」

崖を飛び越えたあと、振り返り奴らの無様な姿を見下ろしてやる。
滑稽なことこの上ない。
鼻で笑ってやり、私は主の思うがままに駆け抜けて行った。







「すまない。今晩は野宿だな。」

と、草を食む私にそう言うが別に構わない。
厩舎で至れり尽くせりなのも良いがこれもまた良い。

「野宿なんてだいぶ久し振りじゃない?」
「ああ、そうだな。」

焚き火の勢いを調整しながら、主はムサシと他愛ない話をする。
私の背中に乗っている時もずーっと話をしているが、飽きないのだろうか?
いや、確かにお互い好いているのは私でも知っている。
でもさすがにそこまで話していると飽きたりはしないのだろうか?

やはり、人間はよく分からない。

そうしていると、ムサシは主に寄り添う。
私を除き、二人以外誰もいないとムサシはそうなるのだ。

いわゆる、”女の顔”をするというやつだな。
普段は男にも負けぬ気の強い女だが、この時ばかりは女になる。
人間というのは、よく分からない上に奇妙な生き物だ。

「…。」
「…。」

沈黙が流れ、ムサシの手が主の手と重なり、指と指が絡み合う。
これはあれだ。”おっぱじめる”つもりだ。
人間は家の中でやるものだと聞いたがまさか外でやり出すとは思わなかった。

「…。」
「…見ろ。オロバスも空気を読んでくれたぞ。」

勘違いしないで欲しい、主。
2人の空気を壊したくないから遠ざかったのではない。
私が気まずいから離れたのだ。
見張りも兼ねて散歩に行っといてやろう。
一、二時間ばかりここら辺をウロウロしていれば、そのうち疲れ果て眠るだろう。


私の束の間の休息。
あの二人の足となってからは、毎日が忙しいものだ。
とはいえ嫌いではない。むしろ好きだ。
退屈な牧場から私を連れ去ってくれた2人には感謝している。
刺激的な毎日。思う存分走れる毎日。
目に映る物が毎度新しく、飽きの来ない外の世界。
こんな毎日を過ごさせてもらっているせめてもの礼だ。

せいぜいこの命が果て、脚が動かなくなるその時まで、主とムサシをどこまでも運んでやろうではないか。

なぜなら吾輩は馬であるからだ。
名はオロバス。主に付けてもらった大切な名である。
そして私は、リンドウ ヤマトとミヤモト ムサシの忠実な馬だ。

 
 

 
後書き
とまぁ、オロバス視点のお話でした。
 
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