崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?
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始まりの章-世界は終わった、しかし物語はここから始まる-
お姉ちゃんとショタと兄との約束
前書き
鈴鹿御前とそのマスターの弟、田村 将くんのお話、通称『おねショタ編』もいよいよ大詰めです。
悪いやつを懲らしめていくぞ!!
「まぁ…そんな感じかな…。」
「ど"う"し"て"だ"よ"お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!"!"」
鈴鹿御前から話を聞き、泣き叫ぶ俺。
「まーちゃんが藤原〇也みたいになっちゃった。」
「だって…だっでよぉ…!!」
悲しいにも程がある。
俺は自他ともに認めるゲス野郎だが、そんなきったねぇ心の持ち主である俺にも征とやらの兄弟愛や鈴鹿御前を大切にしようという気持ちに心打たれたのだ。
「…んで?兄は死んじゃったけどその橋本とかいうやつも死んだ。俺達は弟に真実を伝える手伝いをすりゃいいの?」
「その…違うんだよね。」
さて、こうなると鈴鹿御前は何を俺達に依頼してきたのかが気になる。
兄はもういない。だとしたら嘘をつき続けてきた弟に真実を打ち明けることだろうか?
しかし、彼女はここで首を振ってさらなる事実を明かす
「生きてるんだ。その橋本ってやつ。」
「はぁ!?」
なんと、そのクソ議員は生きているとのことだ。
「えぇちょっと待ってよ!その議員さんお兄さんと死んだんだよね!?」
「うん。そのはず。征と一緒に崖に落ちてくのはきちんと見てた。でもね、あいつはのうのうと生きてる。」
おっきーが疑問をぶつけると、鈴鹿御前はスマホを取り出し、俺達にとあるニュースサイトの記事を見せた。
「こいつが橋本。この前テレビにも出てた。」
「うっわ…スケベそうで憎たらしい顔してんなぁ…。」
そこに映るのは痩せ型で禿げかかった男。
見出しには『今の日本をリビルドする。明るい希望への第一歩』とかなんかそんな大層なことが書いてある。
そして、
「あー!!姫見たことある!!」
「まじで!?」
おっきーも知っていた。
「なんかテレビでインタビュー受けてて頑張って徒歩で東京目指してますって語ってた!!他にもなんか偉そうなこと言ってた気もするよ!」
「うん、そうなの。」
鈴鹿御前達もまた、そのテレビの取材で見たのだという。
テレビにこわいおじちゃんがうつってるよ。
将にそう言われ、旅の最中泊まっていたホテルのロビーに取り付けられたテレビに目をやると奴が映っていた。
じゃあおにいちゃんはどこだろうと聞かれ焦ったものの、そこはなんとか誤魔化すが鈴鹿御前の心にはふつふつと怒りが込み上げてきていた。
マスターは死んだ。橋本を殺すために。
しかし、なぜこいつが生きているのか?
マスターとの接続はとっくに切れているため、もしかしたら生きてる…ということはない。
しかし、こいつだけがのうのうと生き、政治家を目指そうとしている。
生かしてはおけない、いや、生かしちゃいけない。
自分達のような被害者を出す前に、殺さないといけない。
「将に真実を伝えるのはその後、今まずやらなきゃいけないことは…」
そうして、彼女の本来の依頼は
「奴は支持者を増やすためにこの街に来るって聞いた。だからね、2人にはなんとかしてあいつを孤立させるようにして欲しいの。」
「孤立…?そしたらどうすんだよ。」
「きまってるじゃん。征の敵討ち。私が殺すの。」
敵討ち。殺しの手伝いだ。
⚫
3日後。
鈴鹿御前の情報通り、橋本という男はやってきた。
「壊れた日本をリビルドする、明るい未来への第1歩を、みなさん、はしもと哲也、はしもと哲也をどうかよろしくお願い致します。」
拡声器を通し、街ゆく人々にそう呼び掛けながらアピールしている。
朝っぱらからうるせーことこの上ねぇが
で、俺達はと言うと
「どうだおっきー。」
「うん。見張りもいるけどみーんな疲れきってる。うわーブラックだねー。まーちゃんもああはなりたくないでしょ。」
「なりたくねーけどそうじゃねーよ。」
折り紙蝙蝠を通して、奴を監視していた。
「でもマキさんの情報通りだな。」
「うん、そうだね。きっとあの子たちも使い捨てられるんだろうね。なーにが若者達への明るい未来って感じ。自分が楽して暮らしたいだけでしょ。」
マキさんの情報通りとは、実は事前に俺はBARに赴き、やつに関することをマキさんから聞いてきたのだ。
BARは様々な情報が行き来する場所、無論マキさんは知っていた。
橋本哲也、52歳
関西の方で議員をやっていたらしいが汚職とパワハラがバレて政界から身を引く。
しかしこうして世界が崩壊し有耶無耶になった今、どさくさに紛れて議員として再起。
国や国民の暮らしのためじゃない。自分が楽するためだ。
会う者達には自分は熱心な政治家だと語り、惑わし、己の手足にする。
やがて本性を現し、人をパシリにする、女性にはセクハラをするなど当たり前。
ネチネチ小言を言ったり「これだから若いモンは」と文句を垂れる。
反抗したものは刺殺したり寝込みを襲って絞殺したり、あるいは縛ってモンスターの囮に使って殺した。
自分のために若者達が犠牲になったのでは無い。
我欲のために若者達を犠牲に捧げたのだ。
じゃあ逃げればいいのでは?と思うがこんな世界、己の身一つで逃げられるもんか。
嫌な思いしながら死んだように生きるか。
いっそのこと奴から逃げて死んで楽になるか
若いやつはそうやって、ある意味究極の選択を強いられてたんだろう。
とまぁ、マキさんはありとあらゆる情報を網羅してくれていたわけだ。
それと、話は変わるが俺はゲス野郎だ。
なので鈴鹿御前がやつを殺したいと言った時には別に『復讐は何も生まない!!やめるんだ!!』とか偽善だらけの正義マンが言いそうなことは何も言わず、逆に応援した。
復讐ってのはやらないよりやった方が気持ちいいしな。
「時としてまーちゃん。お高く止まった人が落ちてく姿を見るのが好きなんだっけ?」
「さすが俺のサーヴァント。マスターをよくわかってるぜ。特に自分はそうなりませーんって絶対の自信を持ってるバカとかな。」
それにああいったやつをドン底に落とすのであれば、俺は喜んで協力した。
⚫
夕刻。
アピールを終え、部下達にホテルを予約しておけと命令したあと、私はこの街で評判のいいBARへ赴くことにした。
時刻は夕方4時。
ここは6時オープンだが多少早めに来てもなんの問題もないだろう。
そうして、私がドアを開けるとまずはカウンターでグラスを磨く初老の男性が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。ご予約の橋本様だネ?」
「いかにも。」
部下達に予約させ、他の客が入らないように無茶言わせたためここは私の貸切というわけだ。
酒を飲むのは久しぶり。なので酔いしれるとしよう。
「おい。」
「何かな?」
「ここで1番高い酒を頼む。金ならいくらでも持ってる。」
「かしこまりました。」
それから程なくして私の前に置かれたのは、緑色のカクテルが注がれたグラス。
「これはなんてカクテルだ?」
「モッキンバードというカクテルでね。貴方にピッタリのものを選ばせてもらったよ。」
「そうか。」
そうしてまずは1杯目をぐいっと飲み干す。
口内に広がるのはミントの香り、後味もサッパリとしていて良い。
「ほら、次だ。私は気が短いんだ。」
「かしこまりました。」
そうして次の酒を待っている時、女が私の隣に座ってきた。
客は入れるなと言ったのだが…と思ったがどうやら子の着物の女性、BARに似つかわしくない格好をしているがここの看板娘らしい。
「マキっていいます。お酒強いんですね。」
「まぁ…弱くは無い。たしなむ程度かな。」
「わーすごーい。」
と、わざとらしく拍手をするマキという店員。
まぁ私の気を良くするためのおもてなしというものだろう。
「そういえば、朝の選挙運動見ましたよ。日本を変えたいって言う熱い気持ちがすごく伝わってきて、ほんとにもう感動しちゃいました!」
「ほぉ、そうかそうか。なら少し語ってやるとしようか?ん?」
と、看板娘は興味津々の様子。
まぁ最近の若いモンっていうのは政治にまるで関心がないが、この子はいい心がけだ。
折角だから熱弁してやるとしよう。
「この国は色々な意味で滅茶苦茶になってしまった。さらにはサーヴァントとかいう訳の分からん生き物までいる。私はそれらと共存し、次の世代、すなわち未来の希望たる若者達の為に日本をリビルドする。その為に私は1票でも多くの票を獲得し、日本のトップに立たねばならんのだ。」
「日本をリビルド…ポスターにも書いてありましたね!」
そう言いながら、身体をくっつけてくる看板娘。
知らず知らずのうちに腕を組んだりなどして、その距離はどんどん近づいてくる。
なんだ?気があるのか?持ち帰ってやろうか?
「その為に、私は何だってする所存なのだよ。」
「へぇ……何でも、ねぇ。」
なんともまぁ艶っぽい視線をこちらに向けてくる
やはり向こうは気がある。
そう、思った時だった、
「自分のためなら殺しだって、しますもんね。」
「……っ!」
笑顔がひきつり、私は椅子を倒して慌てて立ち上がって後退る。
相手はニッコリと笑い、こちらを見上げている。
笑顔の仕方は同じ、だがしかし、先程とはまるで違いとても恐ろしく感じた。
「な、なんだ!?失礼だぞ目上のものに向かってそんな冗談は!!」
「冗談?嘘つかないでくださいよ。ここに来るまでにその未来の希望をたくさん犠牲にして生き残ってきたじゃないですか。」
「ふざけるな!!おい店主!!」
店主を怒鳴るように呼びつけるも、彼はこちらなど一切向かず、何処吹く風と言った具合にグラスを磨いている。
「店主!!おい!!おい!!!」
「ここは静かにお酒を嗜む場所だ。他のお客様にも迷惑になるのであまり騒がないでいただきたいのだが。」
「そんなことはどうでもいい!!今すぐこの女をクビにしろ!!」
他のお客様?バカを言え。
ここにいるのは貴様らと私だけだろうが。
怒鳴りつけてやると、ジジイはわざとらしくため息をついた。
そして、奥からまた新しい女性が出てくる。
「あら、うちのマキさんが何かしましたか?」
「失礼にも程があるぞ!!私が人殺しだと!?ふざけるな!!世が世なら警察を呼んでいるぞ!!」
「あら…だって……
あなたに殺されたって人が、〝周りに沢山いるじゃないですか〟」
「!?」
辺りを見渡すが、そこには案の定何もいない。
何もいない、はずだった
「どうして…?どうして…?」
「苦労は買ってでもするもんだって、言ったくせに。」
「死にたくなかった。なのに…」
聞こえる。
空耳でも気の所為でもない。
確かに聞こえる。
苦しそうに呻き、恨み言を吐く〝死んでいったあいつら〟の声が
まさか……あのジジイが言った〝他のお客様〟って……!
「ほら、きこえません?」
「うわああああやめろ!!やめろ!!!悪ふざけもここまでにしろ!!訴えるぞ!!」
恨み言を吐き、こちらをじっと見つめる者達。
ここにいることが耐えきれなくなり、ついに私は逃げ出した。
幽霊達を押し退け、私は無我夢中で走り出す
「ひぃ、ひいい!ひいいいーーっ!!!」
情けない悲鳴をあげながら、彼は逃げていった。
「……」
「……」
「……ふふ。」
慌てた様子で逃げ、客がいなくなった沈黙を破ったのは店主の京子さんだ。
それと同時に、幽霊達はボンという音と共に煙を上げ、〝元の姿に〟もどる。
パタパタと忙しなく羽を動かす黒い物体。
幽霊の正体は、折り紙で出来た蝙蝠が化けたものだったのだ。
「とりあえず、探偵さんの指示通りにはやったってことで、ね。」
そういい、モリアーティのマスターでありこの店の店主である彼女は笑顔でそう言って改めて開店の準備に取り掛かる。
悪いやつが来るから協力して欲しい。
探偵にそう頼まれ、とりあえずは指示通りにしてみせた。
お客さんに迷惑はかけたくないなぁと考えてはいたが、本人が店を早く開けろと無茶を言ってくれたのは正直言ってとても助かったのだ。
そうしていると、
「……これは」
「あら?落し物?」
慌てて逃げたからだろう。
マキさんが床に落ちていた薬瓶を拾い上げる。
「そう、みたいです。」
そう言いながら凝視するマキさん。
中には何十錠ものカプセルが入っており、ラベルは貼られていない。
しかしその何の変哲もない薬を見て、彼女は
「少し出てきます。直ぐに戻りますので。」
それだけ言い、まるで逃げていった橋本を追うようにして出て行った。
⚫
「はっ、はっ、はっ!ひい、ひいいいい!!」
姫路町の中を必死の形相で逃げる橋本。
ここは危険だ。自分のした事がバレてしまっている。
公になってしまっては自分が議員に返り咲き、至れり尽くせりの夢の生活が全部水の泡だ。
部下達もとい使い捨てのパシリ共はホテルに泊まらせている。
今すぐにでもここを出る準備をさせよう。
そう思い、彼はこの街の唯一のホテルへと向かったのだった。
しかし、
「何、逃げてんのさ。」
ホテルの前には思わぬお出迎えが
「な、なんだお前!そこを通せ!!」
「忘れたなんて言わせないし。私と将と…アンタに使い潰されたマスターの事…!!」
鈴鹿御前だ。
BARから追い出し、恐らく部下達に予約させたホテルへ向かうだろうと推測し、ここで待ち伏せてもらった。
「誰だお前!!私は面識なんてないぞ!!」
「おー、しらばっくれんのかよ。それともボケたか?」
そうして
「もう逃げられねーぜ。クソハゲ金食い虫。」
「!!」
後ろには、探偵。
「な、なんのつもりだ!?」
「てめぇのくっだらねぇ計画はぜーんぶ丸わかりだ。ここに来るまでにてめぇの言う希望という名の若者を食いつぶしてきたこともな!」
と、挟み撃ちにされてしまった橋本。
前方には鈴鹿御前がいる。
いつの間にか刀を持ち、こちらにじりじりと近寄ってきている。
橋本自身こいつには見覚えがなく、忘れたとは言わせないと言っても何も分からなかった。
このままでは殺られる。
鈴鹿御前の殺気に橋本は嫌でもそれを感じた。
逃げようにも逃げられない。
部下に連絡を取ろうとしてもあちらの方が早いだろう。
何も出来ない、八方塞がり、
そう、思えたが
「おねえちゃん…?」
「っ!!」
ここで思わぬ運命が彼の味方をした。
いや、してしまった。
後書き
かいせつ
⚫モリアーティさんが出したカクテルについて
モリアーティさんが橋本に出したカクテル、『モッキンバード』ですが実はこれにはちょっとしたネタがあります。
実はこのお酒、カクテル言葉なるものがあって『似たもの同士』という意味があるのです。
裏で手を引き、己の手を汚さずあらゆる犯罪を成し遂げた犯罪界のナポレオン。
そして若者にやることをやらせ、自分が犯人の証拠を消してきた。そんなあなたは清廉潔白な政治家などではなく、ある意味自分たちと同じ〝こっち側〟だぞというメッセージなわけです。
まぁ無論カクテル言葉など知らない橋本がそんな意味に気づくことは無かったんですけどね。
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