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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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かくしてアイドル対決は、阻まれる(中編)

 
前書き
すいません。
話が長くなりすぎて終わりません。
前後編にするつもりが前中後の3話構成になっちゃいました。
まぁ、これはクソ作者の悪いクセですね。
筆が乗るのはいいのですが乗りすぎると文章がくそ長くなるのです。
あれもしたいこれもしたい、そうやってるとあっという間に文字数が3000、4000と増えていきまして。
本当にすいませんね。
それでは、本編どうぞ。 

 
「ダメだ…キリがない!!」

特設ライブ会場からやや離れた場所。
そこでは八百万ソフィーが単騎で生きた屍の大群と戦っていた。
誰よりも早く彼女はライブ会場に迫る悪意の気配に気付き、その場所へと赴いたのだが、倒せど倒せど敵はとめどなく湧いてくる。
厄介な能力を持たず、動きが鈍いのは幸いだがこのままでは数に押しつぶされてしまうだろう。

能力を使い、幻想郷の住人を呼び出すのは今だけはできない。
今呼び出しているのは雷鼓、九十九姉妹の二人。
彼女らはウィステリアのライブで今手が離せないはず。

しかしソフィーは知らない。
生きた屍が攻めてきたのはここだけではないということ、
様々な方向からやってきて、ついにライブの観客に犠牲者が出て大変なことになっているのも、



ライブ会場。
先程まで賑やかだったそこは、今や正反対の悲鳴や叫びで阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
突然押し寄せてきた謎の屍。
呻き声を上げながら手を伸ばし、不安定な足取りでこちらに向かう様はまさにゾンビだ。

「この…ッ!!」

押し寄せてくる無数の屍に対し、あたしと香子は死ぬ気で対抗している。
自分の命は大事だけど、何より避難している観客たちも守らないといけない。
しかしこのままでは数の暴力で押しつぶされる。

なら…!

「葵様!!」

駆ける。
そして屍達の群れに突っ込み、片っ端から殴って蹴って殺していく。
香子が手を伸ばして戻るように訴えかけるも、あたしはそれに視線だけ返す。
すると、

「…わかりました。」

あたしの意図を、理解してくれたみたいだ。

「ー限り有れば 薄墨衣 浅けれど」

それは恨みと哀しみに満ちた歌。
悲運を歌ったその歌はたちまち呪詛となり、対象を呪い蝕み滅びを招く。
それが妖の類なら尚更。

「涙ぞ袖を 淵となしける」

あたしが突っ込んだのは的になるため。
より多くの屍を一箇所に集め、まとめて消し去るつもりだからだ。
そうして歌を詠み終え、香子が筆を持った右手を持ち上げ、宙に五芒星を描いて宝具は完成する。

「…『源氏物語・葵・物の怪(げんじものがたり・あおい・もののけ)』。」

強力な魔性特攻を備えた香子の宝具。
生きた屍達はもう呻き声をあげることも無く、塵となって崩れ落ちていった。
呪いには呪いを。
魔性には香子を。
頭を潰されても活動できる奴らでも、さすがにこれはこたえたらしい。

「…ふぅ。」

詠み終えた香子はほっと胸をなで下ろしている様子。
まぁ、無理もないというかあたしが悪いと言うか…。

「やっぱ効いたね。香子の宝具。」
「葵様!今回は何とかなりましたが思いつきで敵陣に飛び込むのはおやめください!」
「ごめんって。」
「さすがに肝を冷やしましたので…次からはきちんとお伝えくださいね。」

しかし、これでかなりの数は減らせたはず。
とりあえずは観客たちをいつまでもここにいさせておく訳には行かないし、逃げ道くらいは確保しないと…。

「…。」
「香子?」

と思っていると、今度は香子が目を瞑って何かをしている。

「逆探知です。」
「逆探知?」
「ええ。呪いをかけられ傀儡となったならば、それを操る者、術者がいるはずです。」

しゃがみこみ、地面に積もった屍の塵を拾い上げてふぅ、と息を吹きかける。

それはどこかへと飛んでいく…
そして…

「見え…っ!?」

香子が突然、胸を抑えた。

「か…けほっ、けほっ…!」
「香子!!」

咳き込むと、彼女の足元にパタパタと血が滴り落ちた。

肩に手を置き、顔を見てみればなんと吐血している。
一体何があったのか。

「…探知されぬようぷろてくとのようなものを掛けたのでしょう…場所は突き止めましたが妨害されてしまい…。」
「…。」

彼女のことは心配だ。
しかし、キリのない屍の群れは大元を叩かなければ止まることは無いし増え続けるだろう。

「香子はここにいて。」

だから、自分が行く。

「葵様…」
「突き止めたんだよね?場所教えて。あたしが行くから。」
「…!?葵様!それは危険過ぎます!!」

そう叫んだ直後、また咳き込み吐血する。

「あいつらだって無限では無いかもしれないけど、際限なく湧いてくるんだ。そのうち押し切られる。だからあたしが行ってそいつを止める。」
「…場所は分かってはおります。ですが相手の詳細は分からないままなのです。どのような能力を持っているかも分からぬまま飛び込むのは得策ではありません!」

「いいえ、得策よん」

行こうとするあたしと止めようとする香子。
その間に割って入った者が一人。

「へカP様…!?そ、それは!?」

へカPだ。
そしてなぜか血まみれになっている。
とはいってもそれは全て返り血であり、彼女は無傷のままだ。

「紫式部。あなた見たところ呪いをかけられてるわね?」
「…貴方様に隠し事は出来ないですね。はい、逆探知を仕掛けたところ返り討ちに…。」
「呪い!?」

香子は吐血していた。
しかし、それが呪いによるものだとは聞いていない。
まさか…黙ってやり過ごそうとした?


「本当なの香子!?」
「申し訳ありません葵様。これは私のわがままと言いますか…ただ、あなたに心配をかけさせたくはなく…。」
「相変わらずお互いをよく思ってるのね。ただ苦しい時は正直に言った方がいいわよん。」
「…。」

と、申し訳なさそうにして頭を下げる香子。
別に怒ってはいないけど呪わせてしまった自分に少し腹が立った。
しかし自分を責めたとしても今こうしている間に香子の身体は蝕まれているというわけになる。
だとしたらいち早くその犯人を見つけ、叩かねば。

しかし、サーヴァントであり陰陽術もある程度心得ている香子に呪いをかける者となると、相手は相当なやり手かもしれない。
それこそ、あたし一人で行けば返り討ちになるくらいの…。

「心配そうな顔ね。安心なさい葵。ソフィーが同行してくれるから。」
「ソフィーが?」

そう話していると噂をすればなんとやら、
たん、とあたし達の傍にソフィーが着地した。

「おかえりソフィー。」
「ただいまへカーティア。奴らを倒しに行こうとしたんだけど…だめだ。こいつら何人も湧いてくる。」
「そう。だから大元を葵と倒しに行って頂戴。」

ソフィーもまた返り血にまみれており、どうやら知らないところで屍の行く手を阻んでいてくれた様子だ。
そうして彼女はへカPからあたしと一緒に犯人を倒しに行くことを伝えられたが、彼女は迷うことなく頷いた。

「それなら安心でしょう?紫式部。」
「はい…ですがお気をつけ下さい。相手の力は未知数。少なくとも、これだけの屍を操れるのですからサーヴァントの可能性もあります。」
「大丈夫。ボク、サーヴァントは何回か倒したことあるから。それに葵ちゃんもいれば全然平気だよ。」

胸を張ってそう答えるソフィー。
ならば、

「よし、行こう。」

そうと決まれば行くしかない。
香子の身体も、ここもいつまでもつか分からない。
折角皆が楽しんでいるこの場所に、生きた屍を放り込んだやつの顔をぶん殴りに行こう。

「ステージとお客さんはこっちに任せなさいな。あっちの2人もうまくやれてるみたいだしね。」
「あっち…?」

と、ステージの方に目をやるとそこにはいつの間にかエリザベートと麻美の2人が立っていた。

「ゾンビ?それが何よ!たかがそれくらいでアタシ達のライブを止められると思って?冗談じゃないわ!!そんなもので諦める程、アイドルって生易しくはないのよ!!」
「「「いえーーーーーーー!!!!!!」」」

いつの間にか始まっている彼女達のライブ。
しかし、ゾンビは相変わらず殺到している。
このままでは観客がやられる、そう思ったが

「ごめんなさいね、参加無料だけどあなたはお呼びでないの。」

背中からはドラゴンの翼を生やし、観客達を飛び越え迫る屍の目の前に着地する。
しっぽで薙ぎ払うわソニックブレスで一網打尽にする屍達はエリザベートの前で次々と木っ端微塵になって消えた。

戦うことをライブの中に組み込んでエンターテインメントに昇華する。
長年アイドルをやってきて彼女だからこそ出来る技術。
頂点を自称するだけのことはあるなとは思った。

「まな板!!」

キレそうになるもそんな場合ではないと踏みとどまる。
腹の立つあだ名でエリザベートはあたしを呼ぶと、叫んだ。

「事情は大体わかったわ!!ここはアタシ達に任せて、邪魔者をやっつけて来なさい!!」
「言われなくとも…そうするよ!」

ここは任せろ、そう言われあたしとソフィーは走る。


屍を操る者の場所なのだが、以前貰った通信式のイヤリングで香子がリアルタイムで場所を教えてくれる。
走ってる最中も時節彼女の咳き込む声が聞こえる。
あまり時間はない。急がないと。

「葵ちゃん!捕まって!」
「えっ、」

そうして走ると、ソフィーがあたしの手を掴む。
するとどうだろうか

「わっ、えっ!?」

駆けている足は地面を離れ、なんと宙を浮いた。

「これって…!?」
「今更だけど、ボクは空を飛べるんだ。今それを手を介してキミにも分け与えてる。だから落ちないよう絶対に離さないでね。」
「あ、ああ、うん。」

手をしっかりと握り返すと、ソフィーは一気に高度を上げた。

これなら、走るより断然速い。
いちいち屍を相手せず、このまま真っ直ぐ犯人の場所へ直行できる。

「紫式部!場所は!?」
『東の廃ビル…そこに、人の気配が…。』
「うん。ひしひしと感じるよ。おぞましい気配が。」

香子はここから東に少し離れた廃ビルに人の気配、すなわちこの生きた屍達の司令官がいるという。
その言葉にソフィーは頷いた。
どうやら間違いないみたいだ。

「それじゃあ飛ばすよ!!」

ソフィーもまたそいつの居場所が分かったらしい。
一気にスピードアップし、例の廃ビルへと急接近する。
すると、

「いた…!!」

いた。
いたのだが…

「何を…してるんだ?」

まだ距離は遠い、けど廃ビルに誰かがいて、何かをしてるのは分かった。
犯人らしき人は女性、スキップしたり、くるくると回っている。
要は、踊っているのだ。

そして驚くのはそれだけじゃない。
段々近くなるにつれ分かる、犯人の顔。
その顔はとても見覚えのあるものだった。
いや、そう簡単に忘れられない印象を残していったんだ、
記憶にずっと残っている。
あの時、森川真誉と名乗った少女がそこにいた。

「…あの子!?」
「知ってるの?」

さらにソフィーもどうやら知っている様子。
どうして知ってるのか話は聞きたいがそんなの後だ。
彼女が犯人だとは信じ難いが、それは本人に直接聞いてみれば分かること。
そうしてあたし達は、彼女の踊る屋上という名のダンスホールへと着地した。




おぞましいものを感じた。
邪気とか、憎悪とか、悲しみとか。
そんなマイナスの感情が合わさってできた、全てを呪い殺せそうなものを。

それは廃ビルの上にいた。
先日会ったあの子だった。
彼女がこの生きた屍を操っていたんだ。

「動くな!!」

葵ちゃんと着地し、お祓い棒をかまえる。
ボクの声に応じ、ダンスの最中だった彼女はぴたりと止まった。

そして

「あ、来たんだぁ。」

ゆっくりと振り向き、こちらに笑顔を向ける。

「葵ちゃん久し振り〜。」
「森川…真誉。」
「そうそう。ちゃんと覚えててくれたんだね。」

緊迫した空気の中、彼女だけが能天気に話している。
しかし油断ならない。
いったい彼女がどんな力を秘めているのか全くの未知数だからだ。

「この生きた屍。アンタが操ってるの?」
「あ、こいつらのこと?」

疑いが捨てられないのか、葵ちゃんは恐る恐る尋ねる。
彼女は笑ったままの表情で、さも当然のように答えてみせた。

「そうだよ。集めるの大変だったんだ〜。」
「…!!」
「ほら見てよ。100は超えてるよ。2週間くらい前からせっせこせっせこ集めたの。みーんな私を襲おうとした悪い子だったけど、今ではもう私の言うことを聞くいい子になったの!すごいでしょ?」
「なんで…そんなことを…!?」

つまり、ここにいる生きた屍は皆彼女に殺され、無理矢理操られているということだ。
先日会った際、陰陽師を自称していたがこれでは死霊使い、ネクロマンサーだ。

「なんでって、そうした方が楽しいしこの世界を滅茶苦茶にする為だよ。」
「…は?」

ニッコリ笑う彼女だが、口にした言葉はボク達の理解を超えるものだった。
楽しいから?世界を滅茶苦茶にする?
この子は、常軌を逸した異常者。サイコパスだ!

「もういい。喋るな。」

この子にこれ以上話を聞くのは無駄だ。
こんなものを放っておいたら、それこそ彼女は本当にこの世界をめちゃくちゃにする程の異変を起こす。
そんなものは、放っておけない。

「今すぐにあのゾンビ達を退かせるのなら、ボクはキミを殺さない。ただ痛い目には遭ってもらう。」
「えーやだよ。退かせない。」
「…ッ!」

指を口元に当て、考えてもいないのに考えたような素振りをして即答する彼女。
でも助かる。
そうするってことは、遠慮なく始末していいってことなんだから。

「はぁッ!!」

懐から御札を取り出し、投げる。
博麗製のとびっきりの御札は獲物を完全追尾し、そして着弾。
立て続けに御札は森川真誉に襲いかかり、爆風が彼女を飲み込む。

「やったの…?」
「いやまだだ!!」

その直後、ひゅんひゅんという空気をさくような音がして爆風と煙がはらわれる。
そこにいたのは無傷の真誉。
周囲にあるのは地面から生えた謎の黒い鞭。
おそらくアレで直前に弾いたのだろう。
なら、

「こいつで!!」

一気に殲滅する。
ボクは幻想郷の住人を呼び出せるが、憑依させることも出来る。
手のひらを突き出し、そこにエネルギーを溜める。
今憑依させたのは核融合を操る程度の能力を持つ地底の八咫烏、霊烏路空の力。
そう。
未来のエネルギーでこいつを完全に吹き飛ばす。

「爆符『ギガフレア』ァァッ!!!」

超極太の巨大ビームが放たれ、瞬時に彼女を飲み込む。
これをくらって生きていられる生身の人間など、この世には存在しない。
サーヴァントや、妖怪でもない限り。

そうして多少オーバーキルであろうビームの照射を終え、そこには彼女がいた痕跡など…

「あっついなぁ…。」
「な…っ!?」

あった。
それよりも、生きていた。

「あれは…なんだ?」

彼女は黒い何かに包まれていた。
あれは…人?
人を模した影のような巨大な何かが、複数おり、それらが彼女を包むように、円陣を組むような形になって守っていたのだ。

「じゃあ、今度はこっちの番ね。」

そう言うと真誉は足先でトンと地面を叩く。
そこから出来上がったのは黒い沼。
影で出来たそこの見えない恐ろしい沼だ。

「急急如律令…。」

ボクのものとは違う、代わった形の御札を黒い沼目掛け投げる。
そうすると何かの手が沼のふちを掴み、這い出てきた。

「ちぇるのぼぐ!!」

槍を携え、首に蛇が巻かれた金剛力士像のような何か。
真っ黒なそいつはあたかも邪神のように見えたし、そもそもチェルノボーグという悪神の名を冠しているのなら尚更だ。

「巫女さん。あなたの相手はこっちだよ。」

彼女がそう言うと、チェルノボーグが襲いかかって来た。

「ぐぅっ…!!」

槍の一撃をお祓い棒で受け止めるも、その一撃はあまりにも重すぎる。

神様と戦う、もとい弾幕ごっこには興じたことはあるけど、悪神と殺し合いをするのは初めてだ。
それに、

「あなたは私が相手してあげるね。葵ちゃん。」
「…!!」

彼女が、葵ちゃんが心配だ。





 
 

 
後書き
次で終わります。
次で終わりますから。 
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