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崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?

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ほんへ
始まりの章-世界は終わった、しかし物語はここから始まる-
  奇妙なS/悪徳政治家を追え

元ラブホテル、プリンセスロードキャッスル。
ここに居を構えてはや二週間が経とうとしていた。

いろーんな依頼を解決し、この姫路町でも俺の評判はうなぎのぼり。
最早この街の顔といっても過言ではないほど有名にはなっていた。

隣町と協力関係を結び、街はどんどん発展していく。
で、そんななんでもないある日のことだ。

「…。」

パソコンとにらめっこしながら、俺はキーボードに文字を打ち込んでいく。
実はこの前、おっきーがこのニノマエ探偵事務所のホームページを作成してくれたのだ。
そこで簡単な質問に答えられる一問一答コーナーを設けたんだが、まぁ質問が山のように来る。
内容は様々だ。
サーヴァント関係の悩みや金銭面や人間関係のちょっとしたお悩み相談とかだ。

「……。」
「まーちゃーん。」

どんな答えをしてやろうかと悩んでいる中、俺の後ろから甘えた猫なで声が聞こえた。

おっきーだ。んでこの声は魔力供給しようというやつだ。

「無理。」
「なんで!!まだ何も言ってないじゃん!!」
「どうせえっちしようよ〜とかそんなんだろ。」
「まぁそうだけど。」

否定しないんだ…。

「とりあえず俺は質問返答で忙しいの。欲求不満なら一人で済ましてくれ。」
「えーこっち見てよー。まーちゃんは仕事と姫どっちが大事なのー。」

めんどくせぇ彼女みてぇなこと言うなこいつ。
これ以上かまってくるのもめんどくせぇ事この上ないので渋々振り向いてやる。
すると、

「…!」

縮んでた。
背が。

「何それ…。」
「小さくなってみました。まーちゃんメスガキは好き?」
「嫌いだよバカ。興奮しねーし今すぐ戻れ。」

振り向いた先にいたのはロリになったおっきー。
逸話によると、刑部姫っていうのは変化を得意とした妖怪である。
噂によれば見目麗しい女性やそらおそろしいに化けたり、クソでかいババアに化けて偉いお坊さんを蹴り殺した逸話もある。

まぁ変化に関しては高いランクを誇ってるってこと。
んで何を思ったのかロリに化けやがった。
俺ロリ嫌いなんだよ。ロリに性的興奮するロリコンも反吐が出るほど嫌い。

「じゃあこれを機に新たな性癖開いちゃう?魔力供給にも新たなバリエーション生まれるよ。」
「開かねーよ。」
「ざーこざーこ♡ざこちんちん♡いじったらすぐだしちゃうくそざこそーろーちんぽ♡♡♡」
「ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

キレた、もうキレた。
地雷踏み抜く上に禁句言うとかお前もう終わりだな。

「ま、まーちゃん?ロリには興奮しないんじゃ…?」
「メスガキには〝理解らせ〟ってのがつきもんだろ?」

キレた俺はロリおっきーを押し倒し、両手を抑えて動けなくさせる。
小さくなったせいなのか、おっきーは力が弱まり藻掻くもなんともない。

「わーやめてー。早漏ざこちんぽに犯されちゃうー。」
「あーもうキレた。もうやめろっつってもやめねぇから。」

ベルトを外し、腕を拘束する。
そうして上着を破り、さてまずはどうしてやろうかなと思ったその時だ。

「…。」

視線を感じた。
冷たい視線。ゴミでも見るみてーな痛い視線。
ゆっくり顔を上げ、ドアの方を見てみると。

「……」
「…何してんの。」

そこにはお客さんだろう。見たこともない人が。
あれは…狐耳かな?

「いや…これは…。」

さて、今の俺の状況を見れば第三者はどう言った感想を抱くだろうか、

ロリを縛り上げ、服を奪い取り、上から覆いかぶさっている。
どう見ても犯罪者だ。

「……。」
「待て!!おい待てコラ!!」

無言で狐耳のお客さんはスマホを取り出し、どこかへ連絡しようとする。
ともかくこのままではやばい。
俺は慌ててその客を止めに入った。



数分後…

「あーそういうプレイだったのね…ったく紛らわしいことこの上ないし!」
「すいません…。」

それから変化を解いたおっきーと共に誤解をとき、客をソファーに座らせた。
その狐耳は玉藻前に対抗するために生やしたものであり、別に狐のサーヴァントという訳では無い。
制服に身を包み、自らを『JKサーヴァント』と名乗る彼女は鈴鹿御前。
この探偵事務所に依頼があってやってきたサーヴァントだ。

「んじゃあ改めまして、ニノマエ探偵事務所にようこそ。俺が探偵の一 誠だ。」
「同じく敏腕秘書の刑部姫でーす。」

挨拶をすると隣にいたおっきーがメガネを押し上げ、決め顔で名乗る。
てかなんだそれは、何でスカートスーツバッチリ着こなしてんだおめーは。
ちゃっかり狐耳尻尾も生やしてやがる。対抗してんのかな?

「私は鈴鹿御前。少し高くつくけど受けた依頼は必ず解決するって評判を聞いてここに来たの。」

あー、そんな評判いいんだ俺ら。
いやー俺も有名になったもんだなぁ。

「で、その依頼は?」
「うん…人探しっちゃあ人探し…かな?」

そう言うと鈴鹿御前は後ろを向いて、扉に向かって声をかける。

「将、入っておいで。」

優しそうな声でそう呼ぶと、ドアがほんの少しだけ開く。
そこから俺達を覗き込んでいるのは、まだ小さい男の子であった。

え…まさか…
あのショタがこいつのマスター?

「…し、しつれいします。」

そのショタは礼儀正しく一礼し、部屋の中へてとてとと歩いてくる。
そして俺達にまた一礼し、鈴鹿御前の隣に座ると、迷うことなく俺達に答えた。

「ぼくのおにいさんを、さがしてください。」





ショタの名前は、田村 将(たむら しょう)
まだ10歳になったばかりの小さな少年だ。
そんなショタが鈴鹿御前のマスターか?そんな若い頃からFGOやってたら性癖どえらいことになるぞ。と言いたいところだが、彼は鈴鹿御前のマスターでは無い。
何より、手の甲に令呪はない。

鈴鹿御前のマスターは別にいる。
それが依頼の内容でもある

「お兄さんを探す…?」
「そ。私のマスター、田村 征を探して欲しいの。」

兄だ。

「人探しか。手がかりは…?」
「ここから少し離れたところ。そこで野宿して寝てたらいなくなってたの。それ以外はわかんない。」
「どれくらい前?」
「1週間前…。」

範囲が分かれば前回の弓張町のモンスターの生息地を割り出す時のように、おっきーの折り紙に捜索させれば良い。
しかし、いなくなったのが1週間も前となると…少し厳しくないかこれ。

「おっきー。」
「…?」

隣にいるおっきーに小声で話しかける。

「こいつの兄貴の捜索、出来るか?」
「うん。まぁいけるけど。1週間前となるとお兄さんはだいぶ遠くに行っちゃってるかも。だから探すのに時間は掛かるかなぁ…。」
「そう、だよな。」

とりあえず、探すことには探そう。
少し考え、俺は鈴鹿御前とショタの2人に依頼は請け負うことを伝えた。

「依頼は受ける。ただ時間は少しかかると思う。それでもいいか?」
「うん。征が見つかるならどんなにかかってもいい。そうだよね?将。」

鈴鹿御前がそう聞くと、ショタは元気よく頷いた。
そうして依頼は成立。
俺達は兄貴の捜索に取り掛かる。

「よし、じゃあおっきー。そっちは頼んだ。」
「おっけー。」

おっきーが蝙蝠で広域を探すのなら、俺は足を使う。
もしかしたらこの姫路町に訪れているかもしれない。
そう思い俺は鈴鹿御前と将とかいうショタを連れ、街へ出て聞き込みを開始する。

が、

「うーん、知らないなぁ。」

鈴鹿御前のスマホに兄の写真があったため、それを見せてまわりこの顔に見覚えはないかと聞くが誰一人として思い当たる者はいなかった。

さらに、

「ごめんなさい探偵さん。僕もこの人は見たことがないです。」

あの情報通であるマキさんも知らないというのだ。
誰も見た事がない。さらにいなくなったのは1週間も前…

ここで俺はあるひとつの最悪の結果がよぎるのだが、言わないでおく。
だってこの最悪の結果はあの二人も何度も思った事だろうから。
わざわざ口に出して絶望にたたき落とすなんてクソみてーな事はしたくない。


さて、それからだ。
日が暮れるまで捜索してもなんの進展もなく、とりあえず捜査はまた明日にしようと伝えて鈴鹿御前と将にホテルの部屋を提供して泊め、俺は事務所兼自室へと戻る。

部屋にはタブレット端末をいじるおっきー。
難しい顔のまま固まってるってことはどうやらこっちも進展が無かったみたいだな。

「どうだよ?こっちは手がかりなしだ。」
「姫もだよ。ちょっと遠くに飛ばしてみたけどいるのはモンスターばっかだね。あと判別がわかんなくなった腐乱死体がちらほら。」
「…。」

端末に送られてくる情報を整理しながら、俺を見ずにおっきーはそういった。

「なぁ、おっきー。」

ソファーに腰掛けた彼女のすぐ隣に座り、俺は少し気になったことを彼女へ打ち明ける。

「なぁに?」
「兄貴は実は死んでましたなんていったら、どうなると思う?」
「…ショックは…受けると思うよ。」
「だよ…な。」

おっきーは相変わらず端末をいじり、立て続けに折り紙蝙蝠から送られてくる情報を整理している。
しかし、ここで彼女の指が止まった。

「もう〝いない〟。まーちゃんの中の結論は、そういうこと?」
「…違うっつったら、嘘になる。」

もしかしたら遠くへ行ったかもしれない。
だが、鈴鹿御前の証言では自分のマスターは足となる乗り物は無いし免許も持ってない。
何より、大切な弟とサーヴァントを置いて、1人でどこかへ消えてしまうような人ではない。
と、そう聞いている。

しかし、ここまで来ると『死亡』の二文字がいやでも浮かんでくる。

俺の答えに黙るおっきー。
そしてしばらくの沈黙が流れるが、その静寂を破ったのは意外な人物であった。

「うん…死んでるんだよ。」
「!!」

鈴鹿御前だ。
振り向けばそこには彼女。そしていつの間にか開いているドア。

「あーいや、悪い。ただ死んでるかもって話をしただけであって悪気は」
「ううん、ごめん。嘘ついてた。アンタたちの言う通り…もうとっくに死んでるの。」

深刻な面持ちで、彼女はそう言い放ったのだ。

「おい待て…そりゃどう言うことだよ…!」
「騙すような形になってマジでごめん。ただ…将の前では生きてるってことにしておきたかったの…。」

問い詰めようとソファーから立ち上がろうとするも、おっきーに止められる。
そして鈴鹿御前は申し訳なさそうな顔でそう言い、頭を下げたのだった。

しかし、俺は怒ってるわけじゃない。

「説明…してくれ。あんたが頼みたい依頼は兄貴探しじゃない。だとしたら…なんだ?」

兄貴はもういない、だとしたら、この鈴鹿御前は何かがあって俺達に依頼しに来た。

「いいよ、ここ座って。」
「うん、ありがと…。」

おっきーが鈴鹿御前を来客用のソファーに座らせる
それから鈴鹿御前は少し戸惑いつつも、何かを決心したように頷き、ゆっくりと話し始めた。






数ヶ月前…

「だいぶ歩いたな…。」

リュックを背負い、額の汗を拭って丘から眼前に広がる景色を眺める青年が一人、
彼こそ、鈴鹿御前の本来のマスター、田村 征(たむら せい)だ。

「おーい、鈴鹿!将!」
「はいはい、ったくちょっとくらいは私達に合わせて欲しいし。ね?将。」
「ううん、だいじょぶ。」

後から着いてきたのは鈴鹿御前と弟の田村 将。
世界が崩壊し、肉親は弟のみとなった兄。
この子だけは絶対に守りぬくと誓ったその日の夜、彼の元へ現れたのがこの鈴鹿御前だ。
今では2人の大切な弟なのだ。

「将、見てみろ。絶景だぞ。」

駆け寄る将にそう言い、兄は弟を抱え上げてその景色を自分の目線から見させる。

生い茂る木々。まるで都会とジャングルが合わさったような異様な光景。
もう、ここは自分達が住んでいた日本ではないということがいやでも分かったが、兄の言う通りそれは息を飲むほどの良い景色だったのだ。

「すごい…。」
「疲れなんて吹き飛んじゃうだろ。」
「征と同じだと思わないでよ。将はまだ子供なんだし、趣味で山登りなんかしてないんだから!」

と、我先にどんどん進んでいったマスターを叱る鈴鹿御前。
本人は笑ったまま「悪い悪い」と言って後頭部をかいていた。

「もう!絶対悪いって思ってないし!」
「思ってる思ってる!今度はみんなにあわせてゆっくり行くよ。」
「そういう問題じゃないし!!わざわざ高いところ選んで登るのをやめろって言ってるの!!」

と、怒ってはいるものの鈴鹿御前はニコニコしている。
兄が笑い、それに釣られて鈴鹿御前も笑う。
将はこの光景がたまらなく好きだった。
父さん母さん、そして祖父母もいなくなり、唯一の肉親は兄のみ。
沢山泣いて、現実を受け入れて、兄と一緒に生きると決意した。
そんな兄が、こうして笑っているのが幸せだった。
よく分からないけど突然現れたお姉ちゃんも悪い人じゃないらしく、すぐに仲良くなれた。

兄がいて、鈴鹿御前がいて、自分がいる。
それだけで良かった。
豪華な暮らしやおもちゃなんていらない、
それ以上の幸福は求めなかった。
しかし、
幸せというのは長く続かないものなのだ。



「私も東京をめざしているんだ。良かったら一緒に行かないか?」

ある日のこと、征達は1人の中年男性と出会った。
高そうなスーツを着ているが所々ボロボロで、これまでたくさんの災難にあってきたのだろうというのが伺える。
男はこちらに気付くなり、そう説明した。

「分かりました。目的は同じですし一緒に行きましょう。」
「……。」
「ほら、将、隠れてないでちゃんと挨拶しないと。」

気難しそうな顔をしていて、どこか怖いおじさんだなと将は思ったが兄に人を見た目で判断するのは良くないと言われていたので、そういったことは心に閉まっておくことにした。
だけど、そこで言えばよかったかもしれない。
兄がもう少し、用心深ければ良かったかもしれない
そこから彼らの日々は壊れていくのだから。

中年男性は橋本と名乗った。
なんでも関西あたりではわりと有名な議員だったそうでここまでたくさんの部下達と共にやってきたとの事。

しかし部下達はどこにもいない。
部下達は、橋本が必ずこの崩壊した日本を変えてくれると信じ、未来を託し己を犠牲にして逝ったのだという。

そう、
来る途中部下は皆モンスターに立ち向かい、死んだのだ。
この人なら必ずこの日本を変えてくれる。
そういった部下達の思いもあるから、自分は絶対に東京へ辿り着いて議員になり、この日本を変えるのだと、焚き火を囲んでいる時はいつもそう熱弁していた。

「私が議員になった暁にはお前達も東京へ入れてやろう。命の恩人だからな。」
「ええ、ありがとうございます。」
「それとそうだな…お前は特別に秘書にしてやろう。どうだ?」

と、橋本は鈴鹿御前を舐めるような視線で見つめながら言った。

「いや、私は遠慮しておくし。東京に行けば私なんかよりずっと優秀な人いるだろうし。」
「はは、フラレてしまったなぁ。」

将はこの橋本がどうしても苦手だったが、鈴鹿御前もそうであった。
彼と同行して数日、鈴鹿御前はマスターの征に不満をぶちまけたことだってある。

「ねぇ、征。」
「うん?」
「あいつ、追い出さない?」

ある日、食料調達のため釣りをしていた征の隣に座り込み、打ち明ける鈴鹿御前。

「どうしてそんなことを言うんだ?橋本さんは熱心な議員さんじゃないか。」
「いや、視線が嫌っていうかさ…無理だよ。あのスケベオヤジ。」
「…?」

こうやって東京を目指す最中、鈴鹿御前は橋本の視線を何度も感じてきた。
スカートや胸、奴は隙あらばだいたいそこら辺を見ている。
更にそれだけじゃない。

あいつと縁を切り、私と来ないかとすら言われた。
東京につけばお前の好きな物なんだって買ってやると言われ、とどめにこれは前金だと札束を渡されたりもしたのだ。

「あの人が…そんなことを?」
「うん。これ貰ったやつ。」

そうして鈴鹿御前が懐から取り出したのはそこそこの厚みがある札束。
100万、200万、いや、500万はあるだろうか?
数えていないがだいたいそれくらいはあるんじゃないかと思えた。

人のサーヴァントを性的な目で見、さらにはマスターを裏切らせ金で奪おうとする。
控えめに言ってクズである。
それは征でも理解出来た。
しかし、

「いや、でも連れて行くよ。」
「はぁ!?」

征は優し過ぎた。

「現に私が被害被ってんのに!?おかしいよ征!!」
「だからと言って守る術を持たない人をほっぽり出すのはどうかと思う。東京までもう少しなんだ。辛いのは俺だってわかってる。でも、それまで辛抱して欲しい…。」
「……。」

マスターの言うことなら仕方ない。
溢れそうな感情をなんとか無理やり抑え込み、鈴鹿御前はその場にもらった札束を投げ捨てて去っていった。

しかし、
ここで征は選択を誤った。
心を鬼にし、橋本という寄生虫を追い出せば、
あんなことにはならなかったのだから。

それから橋本は、本性を露にする。


「ええええええん!!!うわあああああああ!!!!」
「おい!このうるさいガキを黙らせろ!!化け物が寄ってきたらどうする!?」

夜。
少ない非常食を貪りながら橋本が怒鳴る。
隣にいるのは将。
涙を流して大声で泣いていた。

「ああ、すいません!!」
「ったく…だからガキは嫌いなんだ。」

急いで歩み寄り、征は将を抱きしめ背中をポンポンと叩く。

「ほら将、泣いたらダメだぞ。」
「うぅ…だって!だっておじちゃんが…!!」
「そうだよ征!!私見てたよ!!」

泣きじゃくる将を励ます征。
しかしここで鈴鹿御前が声を荒らげた。

「なんだ?」
「アンタ!将のご飯取ったでしょ!?何!?議員とかいうお偉いさんなら子供のご飯奪っていいワケ!?」
「ちっ…」

男が舌打ちをし、将の為に用意していた非常食の乾パンを口に放り込む。

「お前達が悪いんだろうが。マトモな食料も確保出来ないくせに。第一大人が子供と同じ量で満足できるか。そんなことも分からんのか?これだから最近の若いモンは…。」
「こいつ…!!」

鈴鹿御前が刀を持つ。
しかしそれは振り上げられることはなく、

「やめろ鈴鹿御前!!」
「やめてよ征!!こいつ殺せないじゃん!!」

マスターに羽交い締めにされてしまった。

「ここは抑えてくれ!頼む!!」
「それ何度目!?私も将もたくさん我慢してきたよ!?もう耐えらんないの!こいつの傍若無人ぶりに!!」

必死に抑える征。

「まったく、最近の若いモンは苦労ってものを知らないらしい。ここは我慢して耐え忍ぶってもんだ。ふー…。」

しかしそんな2人を目の前に、橋本のは食事後のタバコを吹かしていた。



それから数日

鈴鹿御前の我慢はとうに限界を過ぎていた。
出される食事には必ず文句を言い、ことある事にネチネチと「最近の若いモンは…」と小言を征にぶつけ、
東京はまだかと事ある毎に尋ね、まだと答えればこちらにわざと聞こえるようにため息をつく。

そしてトドメには、将がターゲットにされていること。
力がないのをいいことに、八つ当たりするのだ。

それにより将は引っ込み思案であまり話さない性格へと変わり、人の顔色を伺うようになり最初の年相応の明るくて元気な姿はもうどこにもなかった。

これは、もう征も看過することはできないと思ったのだろう。


「橋本さん。お話があります。」

早朝。
若いものは我慢しろと将から取り上げた毛布を剥ぎ取り、眠っている橋本を強引に起こす。

「うん…なんだ?まだ朝早いじゃないか…。」

薄暗い辺りを見回し、寝ぼけ眼を擦りながら橋本は呑気にそうぼやく。
しかしここで、鈴鹿御前は強引に掴んで奴を立ち上がらせた。

「征が起きろっつってんの。さっさと立てよ!!」
「!!」

いつもは征が止める。
だが、今回は止めなかった。

「おいやめろ!!触るな!!おいお前!止めろ!!」
「……」
「離せ!!おい聞いてるのか!?止めさせろ!!」
「止めませんよ。橋本さん。」

征の目が、明らかに怒りの籠った目が橋本を睨みつける。

「な、なんだその目は…!?」
「橋本さん。東京までもう少しです。ここを真っ直ぐ行けば無事につけます。」
「た、確かにそうだが…それがどうした?」

もっと早くこうするべきだったのかもしれない。
征はそう後悔しながら、冷たく言い放った。

「ご同行できるのはここまで。あとはあなた一人で行ってください。」
「は……?」

最初は何を言っているのか理解できなかった。

「あなたの言動はもう看過できない。共に行動はできない。僕達は別ルートを使いますので、あなたは将と鈴鹿に謝ってさっさと行ってください。」
「な、なにを…貴様 」

しかし、脳が段々と言葉の意味を分かってくると、

「はぁ…。」

もう聞き飽きた何度目かのため息をついた。

「なんですか?」
「これだから最近の若いモンは…責任をすぐに投げ出す…。」

そういうと奴はゆらりと征に近付き、

「……」
「……」

胸にトンとぶつかる。
傍から見れば力の無いタックル。
しかし橋本の手には

「……!?」
「征!!」

真っ赤になった果物ナイフが握られていた。

「そん…な、」

糸の切れた人形のように、どさりと倒れる征。
胸は真っ赤に染っており、それはどんどん広がっていく。

「征!!嘘でしょ!?ねぇ征ってば!!」

橋本のことなど気にせず、鈴鹿御前は征に呼びかける。

「あーあ。黙って従ってりゃ…こうならずに済んだのによ。」

次に懐から取りだしたのは、何かの薬瓶。
蓋を開け、1錠のカプセルを取り出すと涙を流し声をかけ続ける鈴鹿御前にゆっくりと近付く。

「さーて、こいつを飲ませりゃ、お前は私のモンだ…。」
「すず…か…。」

近寄る橋本。
征はそれを知らせるべく鈴鹿御前に声をかけるが、彼女は気付いていない。

「やめろ…くる、な。」
「前々から欲しかったんだよ。そのサーヴァントってやつが、そいつさえ手に入ればお前達は用済みだ。」
「……!」
「死ぬのが怖いか?でも安心しろよ。後で弟にもちゃんと会わせてやるから。勿論あの世でな。」

その時だった。

「ぐ…っあああああああああ!!!!!!!!」
「征!?」

倒れていた征が跳ね起きたのだ。

「なっ、何をす…!?」

最後の力を振り絞り、征は橋本に全力で体当たりをかます。
思いもしない反撃に橋本は仰け反り、そのまま後ろへと後ずさった。

「やめろ…!!弟には…将には指一本触れさせないぞ…!!」
「ガキ1人どうなろうが知ったことか!!もう何千何万と死んでんだぞ!!」
「うるさい!!!将は将だ!!誰にも代われない、俺と鈴鹿の大切な弟だ!!」

そうして征は血痕を残しながらどんどん前進していく。
彼の進む先、そこにあるのは地面の亀裂。すなわち崖。

「征!!」
「鈴鹿…俺が間違ってた。悪かったよ。本当にごめん。」
「謝んなくていい!!そいつは私が殺すから征は…!!」
「いや、いい。俺はここで、こんな結果を招いた責任を果たすよ。」

征の胸の傷は深く、血もかなり流している。
近くに病院なんてない。そんな深い傷を治せるものもどこにもいない。
自分は長くは無いと悟り、征はこういう結果を招き、鈴鹿御前と弟の将に嫌な思いをさせた責任を取るために、ケジメをつけるために。
奴を道連れにしようとしていた。

「心底嫌だけど、あの世に行くのは俺と将じゃない。俺とお前だ!!」
「この!!やめろ!!やめろやめろやめろ!!!」

もう崖はすぐそこにまで迫っている。
死にたくないと懇願する橋本。
何度も何度も征の脇腹にナイフを突き刺し抵抗するも、彼は力を緩めることはせず、抱きついたまま前進する。

そして、

「鈴鹿。」
「…!!」
「全ての令呪を以て命ずる…『将を…立派な男になるまで守ってやってくれ』。」

最後にそう命令し、彼と橋本は崖へと落ちていった。

「…あ、ああ…!!!」

伸ばしかけていた手が、止まる。
守れなかった。自分はマスターを守るためのサーヴァントなのに。
逆に、守られてしまった。

「…?」

そうしていると、テントからガサゴソと音がし、将が顔を覗かせてきた。

「すずかおねえちゃん…?」
「…!」

呼ばれ、ふと我に返る。
そうだ。
自分はマスターに命令された。託された。

「こわいおじちゃんは?おにいちゃんは?」
「…うん、どこいったんだろうね。」

この子を守ってくれと。
立派になるまで守ってやって欲しいと、
マスターを守れなかった分、
全力で彼を守らなければいけない。

「大丈夫。大丈夫だから。」

鈴鹿御前のどこか悲しそうな表情を読み取って不安になって出てくる将。
しかし彼女はそんな将を安心させるべく、駆け寄ってきた彼をぎゅっと抱きしめた。

「おねえちゃん…。」
「…もう少ししたら、お兄ちゃん探しに行こっか。」

抱きしめ、涙が流れているのを見られないよう、鈴鹿御前はこうして嘘をついた。

兄が唯一の肉親であった弟。
家族を失い、さらに兄まで失った事実を知ればどうなる?
耐え難い真実を、まだ年端も行かない子供は受け入れられるかだろうか?
答えはノーだ。だから鈴鹿御前は隠した。優しい嘘をついた。

兄は自分たちに何も言わずどこかへ行ってしまった。
だから探しに行こうと。

これが、
今回の事の顛末である。






 
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