IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第一話】
――IS学園一年一組教室――
妹の忘れ物を届けたあの日。
俺が本来辿る筈の運命全てが変わった――。
目まぐるしくIS適正の検査やらIS学園制服の新調、マスコミの取材、日本だけではなく全ての国のマスコミが自宅へと押し掛けてきた。
そちらの対応は、学園関係者やら政府高官やらで色々あったらしいが――。
政治的な話なんて、まだ高校に入学したての俺には少ししかわからない話だ。
それよりも――。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよ―」
黒板の前――というか俺の目の前でにっこりと微笑む女性はこのクラスの女性副担任――山田真耶先生だ。
身体的特徴は――身長がやや平均より低め、他の女子生徒とあまり変わらない。
服のサイズが大きいせいか、その身長は異様に小さく見えてしまう。
かけている黒緑眼鏡も若干ずれ気味だった。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「「「………………」」」
教室の中は、変な緊張感に包まれているせいか、俺を含めたクラスの生徒誰からも反応がなかった。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
狼狽える山田先生も可哀想に見えるが――残念ながら、俺に余裕などない。
正直――この異空間から解放されたい――。
異空間――そう感じるのは周りがクラスメイト。
というより、教師陣も含めて女性ばかりなのだから。
そして何より――嫌でも気づくぐらい、周りからの視線を俺は感じる。
席も何故か――何故か真ん中の最前列。
名前順じゃないのかと思わず突っ込みたくなる。
右隣の席をちらりと見ると――。
『お兄ちゃん、頑張れー』
という口パクした妹からのエールが――多分エールだと思う。
「……くん。有坂緋琉人くんっ」
「うわぁっ!?」
「きゃっ!?」
いきなり声をかけられたせいか、俺は驚いてしまった。
それにびっくりしたのか山田先生は若干涙目になっていた。
正直――俺は女性が若干苦手だ。
中学時代の出来事で――と言っても、流石にグラビア本も読めばエロ本も読む。
性に関しては年相応に興味はあるのだ。
……話は戻すが、女子が苦手と感じたのは中学ぐらいからだ、これがな。
クラス30人居る中で男子は俺だけ――。
他の男子高校生や、俺の友達からすればハーレム万歳って感じだろうが――女子が苦手な俺には地獄だ。
女子は徒党を組んで数の暴力で攻めてくるから――で、出来ればそんな女子がいなければいいのだが、これが。
「あっ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まってもう順番が有坂くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
何度も頭を下げている山田先生を見て、俺は慌てて声をかけた。
このままだと、山田先生はずっと頭を下げていそうなので――。
「だ、大丈夫ですから、じ、自己紹介ちゃんとしますから…。落ち着いてください」
「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。絶対ですよ!」
がばっと顔を上げ、俺の手を取り熱心に詰め寄る山田先生。
その行動にかぁっと頬に熱を帯びるのを感じると共に周りからの注目を浴び、更に右隣の妹からは殺気にも似た気配が――。
とりあえず――挨拶すれば大丈夫なんだよな。
覚悟を決め、俺は黒板の前まで移動した――と言っても直ぐだが。
前まで移動すると、俺は後ろを振り向く――。
目の前に広がる光景は――女子生徒ばかり、ちらほらと外人さんもいる。
そして、その女子生徒の視線が一気に此方に向けられているのを自覚した。
さ、流石にキツいが――自己紹介しないと始まらないので、俺は意を決して挨拶をする……。
「ん、えっと……、あ、有坂緋琉人です。よ、よろしくお願いします」
言うや、ぺこりと頭を下げてから、ゆっくり上げる――。
――と、大半の女子の視線が俺に対してこう訴えかけていた。
『まさか、これで終わりじゃないよね?』
という視線と空気が半端じゃなく感じる。
ほ、他に語ること等――い、いや、趣味でも話せば――ってか、よくよく気づいたら趣味もあまり無いのだが。
「え、えっと……その……」
ちらりと再度妹を見ると、にししって感じに笑っていた。
助け船も出ないのか…妹よ、兄は悲しいぞ?
だが、どうにかしないと――と思ったが、特別特技もない俺がとったのは、一度深呼吸し、俺は思いきって口を開く。
「い、以上です。上手く言えなくて申し訳ないです」
がたたっ。
そんな音を立て、思わずずっこける女子が数名いた。
期待されても――何も出ないってば。
「あ、あのー……」
背後からかけられる山田先生の声。
何故だか、涙声に聞こえる――。
と、不意に別の声が聞こえてくる――。
「全く、最近の男子は自己紹介も満足に出来ないのか、馬鹿者」
その声のある方へと振り向くと、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているが、けして過肉厚ではないボディライン。
組んだ腕に、綺麗だが鋭い吊り目をした美人な女性がいた。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」
先程の涙声は何処へいったのやら、山田先生は若干熱っぽいくらいの声と視線で担任の先生へと応えている。
そして、若干はにかんでいるのも見えた。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜く事だ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
スパルタだ、美人だが鬼がここにいる。
そんな事を思っていると、教室中から黄色い声援が響いた。
「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
きゃいきゃいと騒ぐ女子たちを見て、若干俺は引きながらも織斑先生を見るとかなり鬱陶しそうな顔で見る。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
そんな言葉も裏腹に、更に女子のクラスメイトは――。
「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
凄いな、やはり異空間だよ、ここは。
そう思っていると、織斑先生が――。
「……有坂、いつまでそこにいる?さっさと席へ戻れ」
「あ――は、はい、すみません」
その織斑先生の言葉で、俺は自分の席へと戻った。
正直――体が緊張したせいか痛い。
興奮冷めやらぬ教室内で、右隣の妹の視線を感じた――振り向くと。
『お兄ちゃん、お疲れ様』
という口パク――多分そう言ってると思う。
なんてそんな事を思っていると、チャイムが鳴った。
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
美人だが鬼教官だ。
俺は――ここでやっていけるのかが正直不安になってきた――。
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