IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第二巻
【第四十八話】
――一組教室――
「シャルル・デュノアです。フランスから来ましたこの国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼する。
――他の皆は彼に呆気にとられているが、俺と美冬は少なくとも……何で幼なじみが今、この一組に、IS学園の制服着て、ここに居てるのかが全くわからない。
――何で昨日会った時に言わなかったんだよ、未来。
「お、男……?」
そう誰かが呟いたのを聞き、俺は転校生の男子に視線を向けると、彼から笑顔で応えられた。
「はい。此方に僕と同じ境遇の方達がいると聞いて本国より転入を――」
――人懐っこそうな顔、礼儀の正しい立ち振舞いと中性的に整った顔立ち。
髪は濃い金髪、それを首の後ろで束ねている。
身長は女子ぐらいにしか見えなく、華奢に見えるスマート、そしてしゅっと伸びた脚。
印象は貴公子。
――だが、声変わりしてないのか高めの声なのが気になるが…まあ直に喉も出るだろう。
「きゃ……」
「はい?」
「きゃああああああああ――――っ!」
「……っ!?またかよっ…!!」
咄嗟に耳を塞ぐ俺、クラスの中心を起点にその歓喜の叫びはあっという間に伝播する。
「男子!三人目の男子!」
「しかもまたうちのクラス!!何で何でっ!?」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「お母さん、産んでくれてありがとうっ!!」
――三人目の男子ってだけでまたこの騒ぎ、四人目五人目が仮に来たとしたらどうなるんだ?
いつかその歓喜の声で窓ガラス割れそうだな…。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
面倒くさそうに織斑先生がぼやいた。
あまり慣れてないのかな?
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
その一言に、次に挨拶する彼女に無意識に視線を送ってしまう。
その視線に気づいた未来は笑顔で此方に手を振ってくる。
それを見た一部の女子が、若干ひそひそ話してるのが気になるが――。
「…なぁヒルト、あの子と知り合いなのか?」
「……追々わかるよ。とりあえず、挨拶を待てよ」
転校生のデュノアと入れ替わるように、未来は前に立って――。
「飯山未来です。まだ学園へは入ったばかりで…この学園の事は何もわからないのですが、皆さんよろしくお願いします。えーと…、趣味はぬいぐるみ集めと買い物かな?あはは…」
あー、緊張してるのが丸わかりだな…。
「飯山さんに質問っ!良いですか?」
――と、俺の左斜め下の席の子が手を上げて。
「ふぇっ!?な、何かな…?」
「さっき、有坂君に手を振ってたのは?二人は知り合い??」
――やっぱりくるよな、その質問。
「え、えーと……――」
「あー、未来に替わって俺が説明した方が早いかな。――織斑先生、山田先生いいですか?」
「は、はいっ」
織斑先生は頷き、山田先生は突然俺にふられたため、少し声が裏返っていた。
「…じゃあ許可も頂いた事だし、簡潔に――飯山未来は俺たち兄妹の幼なじみだ。他の質問なら後で美冬か未来に訊いてくれ」
「あはは…。そういう事なので皆さん改めてよろしくね」
そう一礼した未来、そして直ぐに教室中から拍手が鳴り響いた。
――まあ未来なら直ぐに皆と仲良くなるだろうし、問題ないだろう。
……問題は、質問責めにあって俺の過去を色々話さないかが気になるが。
未来の挨拶が終わると、いよいよ三人目の転校生だ――見た目が変わってるが。
輝くような白に近い銀髪、俺のは青みがかった白銀色だからあまり被らないだろう。
そんな白に近い髪を、腰近くまで長くおろしている。
見ると綺麗ではあるが、整えてはいないので伸ばしっぱなしな印象をうける。
そして左目に眼帯、医療用でもなく、ガチな黒の眼帯…。
そして開いている方の右目は赤、これまた俺と同じ瞳の色をしているのだが、その温度は限りなくゼロに近い。
印象はまんま軍人。
身長はデュノアや未来に比べても明らかに小さいが、放つ鋭い気配のせいか、少し大きく見える気がする。
――こう比べてもデュノアって小さいな、156ぐらい?にしか見えんが……。
「…………」
当の本人は未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子達を下らなそうに見ている。
しかし、それも僅かの事で、今はもう視線を織斑先生にだけ向けていた。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
いきなり佇まいを直して素直に返事をする転校生に、クラス一同がぽかんとする。
対して、異国の敬礼を向けられた織斑先生はさっきとはまた違った面倒くさそうな顔をした。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答える転校生はぴっと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばしている。
――あの動きは軍人だな、まあ軍施設関係者かもだが。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「「「…………」」」
クラスメイト達の沈黙。
そのあとに続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたらまた貝のように口を閉ざしてしまった。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
空気にいたたまれなくなった山田先生が出来る限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だった。
……空気が悪くなったなぁ、もうちょいどうにかならないのかね。
そんな風に考えていると、突然――。
「!貴様が――」
そう転校生のボーデヴィッヒが織斑を見て、近づいてくる。
その動きを見、手を振り上げるのを咄嗟に見た俺は――。
「おっと、流石に理不尽な暴力を見逃すわけにはいかないさ、これがな」
「っ!?」
振り下ろす前に素早く立ち上がり、転校生の腕を掴んだ。
「よう、織斑が何したか知らないが流石にその挨拶は無いんじゃないか?」
「……っ!貴様、邪魔をするな!」
「おいおい、転校初日から『そんなんじゃ、皆と仲良く出来ないぞ?もっと笑顔でニカッて笑いな』、ボーデヴィッヒ?」
「…!!貴様、貴様が何故『あの人』と同じ言葉を!」
――あの人?
誰だあの人って?
「くっ……私は認めない――」
俺に腕を掴まれたまま、織斑の方へと向いたボーデヴィッヒは言葉を続ける。
「――貴様があの人の――教官の弟であるなど、認めるものか」
――よくわからんが、織斑を毛嫌いしてるようだな、この子は。
そして、気づいたらクラス中が此方に注目している。
「貴様…いい加減放せっ!」
「ん?あぁ、ボーデヴィッヒが織斑を殴らないなら放すよ」
「……ふん」
無理矢理掴んだ手を離すと、ボーデヴィッヒはそのまま立ち去り、空いた席へ座ると腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。
……ドイツの人はこうなのか?
いや、親父から聞いた話じゃ、結構気さくな人が多かったと聞いたが。
――親父は小さい頃に仕事でドイツに何年間かいたって話を中学ぐらいに聞いたことがあるんだが……。
「あー……ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
パンパンと手を叩いて織斑先生が行動を促す。
「セシリア、美冬。悪いが未来の事任せるぞ?」
「え、えぇ。未来さん、此方へどうぞ」
「うん。セシリアさん、美冬ちゃん、これからよろしくね?」
「うん。みぃちゃんと同じクラスか♪――てか私にも内緒にしてたなんて――」
――とりあえず未来は二人に任せたとして、早く移動しないと変態扱いされてしまう。
――まあ一緒に着替えたくないわけではないが、変態レッテル貼られたら一生そう呼ばれそうで…。
確か今日は第二アリーナの更衣室が空いてるんだったかな?
「おい有坂。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だし、織斑よりも先に入学してるんだ。それにクラス代表だろ」
「了解、クラス代表として面倒見ますよ。織斑、準備出来たか?」
「あ、あぁ…さっきはサンキューな、ヒルト」
「あぁ、気にするな。俺は理不尽な暴力が許せないだけなんだし」
織斑にそういうと、俺は準備を整える。
荷物を持つと、デュノアの元へと移動する。
「君が有坂君で、彼が織斑君だね?初めまして。僕は――」
「おぉ、挨拶は後回しにして移動するぞ?――男に手を繋がれるのは嫌だろうが、今だけは我慢しろよ。走りながら説明するから」
デュノアの手を取ると、織斑と一緒に教室を出た。
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