IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第十六話】
日曜日は更識先輩の都合が合わず、丸1日気分転換も兼ねての休息で鋭気を養い――と思いきや、幼なじみからのメールや男友達のメール返信をやっていて結局あまり休めず…。
そして現在、次の日の月曜――セシリアとの対決の日だ。
「お兄ちゃん、土日の訓練どうだった?」
「土曜日は大丈夫だったが、日曜日は先輩の都合が合わなくてな、これが――てか昨日言っただろ?」
「ん~?そういや言ってたような…?」
適当に訊いてたな、こいつ。
若干ジト目気味に見ていると、美冬が――。
「まあまあ、私も疲れてたから、ごめんねお兄ちゃん♪」
にこっと笑みを浮かべる美冬を見て、釣られて笑みを浮かべた――。
と、向こう側から慌ただしい声が聞こえてきた。
「あ、有坂くん有坂くん有坂くんっ!」
呼ばれた方へと振り向くと、第三アリーナ・Aピットに駆け足でやってきたのは副担任の山田先生。
俺のISは実はまだ到着していない。
美冬が母さんから貰った連絡によると第三世代兵装の調整に手間取っていたらしい…。
そして、俺の方に連絡が来ないのは、ただ単純に俺に心配させたくないからだとか。
妹に訊いたら解るんだけどな。
改めて山田先生の方へと顔を向けると、本気で転びそうな足取りで此方もハラハラしてしまいそうになる。
「先生、落ち着いてください、慌てなくても大丈夫ですから」
「あ、慌てますよっ!」
はぁはぁと息を荒げ、深く深呼吸して整える山田先生。
その後ろからコツコツと靴音を鳴らしながらやってきたのは織斑先生だ。
「山田先生、落ち着いたら有坂に――」
「そ、そうでしたっ!来ました!有坂くんの専用IS!」
思い出したかのように山田先生が口を開いた、織斑先生がまだ言ってる途中だったようだが…。
そんな山田先生の様子を、後ろでやれやれと溜め息を漏らして見る織斑先生。
そしてその口から直ぐに言葉が紡がれる。
「有坂、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
ぶっつけ本番……慣らし運転無しってやつか。
若干不安な気持ちに駆られながらも、美冬が強気に声をかけた。
「お兄ちゃん、オルコットさんと勝負しながら慣れていくしかないよっ!」
む、無茶を言うなよ…。
そう思ったのだが、弱気はダメだな。
一週間練習したんだ、何とかやらねば……。
そんな風に思っていると、急かすように三人が――。
「「「早く!!!」」」
山田先生、織斑先生、そして妹の声が重なった。
やはり女尊男卑だからかな、強めに言うのは――。
ゴゴンッ……。
鈍い音がピット内に響き渡り、ピット搬入口が開いていく。
斜めに噛み合うタイプの防壁扉は重く、重厚な駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく――。
そこにあったのは、【黒】と【白】…。
「ん……?二機?」
思わず声を出す俺――まさか二機もあるとは思わなかったので――。
「……織斑先生、俺のはどちらですか?」
「左の黒い方だ」
黒……見た感じは黒ではあるが、優しい感じがする…。
全ての光を吸収するような漆黒のISが、装甲を解放して操縦者を待っているように感じた。
白い方のISも見てみると、装甲を解放している。
「……此方のISは?」
「そちらは明日、転入予定の転校生用だ」
そう言ったのは織斑先生、しかしこの入学式があって一週間ぐらいで転校生が来るとは……。
まあ今は転校生を気にやんでも仕方ないか。
考えるのを止め、俺は再び漆黒のISへと目を向ける。
「このISが…」
「はい!有坂くんの専用IS【村雲・弍式】です!」
光を全て吸収しそうな真っ黒なIS。
何となく…何となくだが俺を待っていたように見える。
「体を動かせ。直ぐにISを装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦やれ」
「……了解です」
そう返事をし、言われるがまま、その【黒いIS】そっと手を触れる――。
「……っ!」
触れた瞬間、軽く神経に電撃が走るような感覚に襲われるが、直ぐに落ち着き、その触っている手から感じるようにISが俺に馴染んでいくのがわかる。
「有坂、背中を預けるようにゆっくり。――ああそうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化をする」
「わかりました」
織斑先生の言葉通りに、俺は村雲に体を任せる。
そして、IS自身が俺を受け止め、体に合わせて装甲が閉じていく。
カシュッ、カシュッと空気を抜く音のみがピット内に響く。
村雲に身体を預けてみてわかる。
借りた訓練機とは違い、ISと俺が繋がる…融和と言うのか適合というのかはわからないが、ただ……そこに感じるのは…ISとの一体感だ。
そして解像度を上げたかのようなクリアーな感覚が視界を中心に広がって、それが全身に行き渡る。
「……ぁ」
俺は小さく声をあげた。
――戦闘待機状態のISを感知。
操縦者セシリア・オルコット。
ISネーム『ブルー・ティアーズ』。
戦闘タイプ中距離射撃型。
特殊装備有り――。
頭に響く音声と、直接映し出されるデータに困惑しつつも、情報を確認していく。
打鉄やラファール・リヴァイヴとかじゃ、ここまで情報が出なかったからな……。
「どうやらISのハイパーセンサーは問題なく動いているようだな」
「はい、問題は特に感じません」
織斑先生の言葉が先程よりクリアに聞こえてきた。
これもハイパーセンサーのおかげか…?
専用機だから打鉄よりも聞こえるのか……。
目を閉じてもわかる…視界が広がっている感覚が。
再度目を開くと、さっきまでは気にしていなかった――というより集中してたから気にも留めなかったが、視界が360度全方位が見えている。
打鉄の時も見えていた筈だが、やはり気にも留めなかったって事かな。
ふと、意識を妹の美冬に向けると心配そうに此方を見ていた。
「美冬」
そう声をかけると、びくっと反応し、ゆっくり見上げる様に俺を見つめてきた。
「な、何…?」
「行ってくるよ」
一言、俺はそれだけを美冬に言うと、柔らかな笑みを浮かべて美冬が口を開いた。
「うん。……頑張ってね、お兄ちゃん」
ズンッ…とピット内に響く鈍い音、相変わらず空は飛べないが…何とかするしかないな、これが。
ピット・ゲートへと進みつつ、その間では村雲が膨大な情報量を処理している。
映し出されるデータの端の方では凄まじい速さで数値が変化していく――。
俺に合わせて最適化処理及び前段階の初期化を行っていると、確かIS取り扱いの本に書いてたな…。
だが、今はISの情報に意識を向けている場合ではない。
ゲートが開くその向こう側にいてる対戦相手が待っているのだから――。
こういう時は敵と言うのかもしれない、だがクラスメイトを敵とは思えない。
向こうが俺を嫌っていたとしてもだ……これがな。
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