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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第一巻
  【第三十話】

――第一グラウンド――


 家に戻ったあの日から時は流れ、既に四月の下旬。

 遅咲きの桜も、その花びらを全て散らせ、葉桜になった頃――。

 俺たちIS学園の生徒は織斑先生の授業を受けていた。


「ではこれよりISの基本的飛行操縦を実践してもらう。 有坂、織斑、オルコット。 試しに飛んでみせろ」

「……………」


 ――織斑先生も無茶を言う……俺が飛べない事を知ってる筈なのに。


「早くしろ。 熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

「り、了解!」


 織斑先生にせかされ、俺たちは意識を集中し始める。

 ISは一度フィッティングすると、ずっと操縦者の体にアクセサリーの形状で待機しているのが特徴だ。

 セシリアは左耳のイヤーカフス、織斑は右腕のガントレット。

 そして俺は首の黒いチョーカーだ……。


「有坂、織斑、集中しろ」


 ――集中してはいるんだけど、なかなか慣れないんだよな……。

 自然体で――眼を閉じ、息を吸い込んでは吐き出す――そして。


「村く――」


 そう言葉を口にすると、織斑先生の出席簿が俺の頭に一撃を与えた。


「いてぇっ!?」

「有坂! いつも叫ぶなと言っているだろう!!」


 叩かれて、頭を擦っていると、クスクスとクラスメイトの笑い声が聞こえてきた。


「す、すみません…」


 頭を擦りながら、俺は再度集中するため、眼を閉じ――。

 そして、眼を開くと同時に心の中で自分のISの名を――『村雲・弍式』――その名を呼んだ。

 その一瞬で、首のチョーカーから光を放ち、全身に薄い膜が広がっていくのを感じる。

 俺の全身から光の粒子が解放され、それが溢れていった。

 そして、その光が再集結するように全身にまとまると、IS本体として形成される。

 各種センサーが意識に接続されると、視界から見える世界の解像度が上がった。

 例えるなら急に視力が良くなった感じ――下手な例えだが。

 そして、俺の体はIS『村雲・弍式』を装備した状態で地面を立っていた。

 織斑、そしてセシリアも共にIS『白式』、『ブルー・ティアーズ』をその身に纏っていた。

 俺と違う点は、二人は浮遊し、俺は地に足をつけている。

 そしてセシリアのISを見ると、破壊した自律機動兵器は完全に修復が終わっていた。


「よし、飛べ」


 織斑先生に言われてからのセシリアの行動は早かった。

 急上昇し、既に遥か上空で静止していた。

 織斑も遅れて後に続き、そして俺は――。


「有坂、何をやっている!?」

「いや、飛べない俺には――」「つべこべ言わずに飛べ! そのISに装備された背中や各種装甲についたブースターやスラスターは飾りか?」


 ――飾りじゃないけど、燃料持たないんだよな。

 ――皆から少し離れた位置に移動する。

 ブースターの点火による熱を、皆に巻き込まないためだ。

 ――システムオンライン、ブースター及びスラスターを点火します――

 そう女性の機械音声が頭に鳴り響くと、各種スラスター及びブースターが点火され、装着されたプロペラントタンクの燃料配分の調整を行う。

 そして――起動――。

 起動すると、轟音が鳴り響き――体を持ち上げる感覚が広がるのを感じるとその場から跳躍した。

勢いそのまま、ブースターとスラスターによる加速力でISを無理矢理飛ばせた。

 本来のISの急上昇及び急降下は、『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』らしいが、そんなもん展開したことないからわからん。


「ヒルトさん、掴まってくださいな」

「わ、わりぃな。 迷惑かけるよ」


 加速力の凄まじさからか、気付くと俺は織斑を追い抜いていたようだ。

 差し伸べられたセシリアの手を取ると、そのまま持ち上げられ、セシリアの肩を借りる。

 密着した状態だからか、セシリアの頬が紅潮していくのが見える。

 ――正直俺も、心臓の鼓動が速くなるのを感じ、非常に落ち着かなくなる。

 ――後、織斑も来ないと、セシリアの負担が大きいからそういった意味でも早く来てほしいと切に願った。


「こほん……。 織斑さん、イメージは所詮イメージですわ。 自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ…」

「そう言われてもなぁ。 大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。 ヒルト、肩貸すぜ」

「あぁ、頼むよ」


 空いた左腕で織斑の肩を借り、セシリアの負担を減らした――。


「しかし、飛べないといつまでも不便だな、俺的には。 ――しかし、どうやって浮いてるのか不思議なものだ」


 セシリア、織斑のISを俺は交互に見ると、セシリアが口を開く。


「ヒルトさん、説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

「――確か、反重力力翼は、簡単に言うとISに掛かる重力を無重力にし、流動波干渉はその力で旋回やら加速やらをするとかだったかな……?説明下手で悪いが」

「ふふっ、少しだけ正解ですわね」


 そう言うと、どこか楽しそうに微笑むセシリア。

 前回のセシリアの親の話を聞いてからか、前以上に仲良くなれた気がする。

 後、美冬と一緒に俺のコーチもしてくれている。

 織斑の方は、篠ノ之から教わっているようだが……二人がどんな関係なのか、俺にはわからない。

 少なくとも、俺が篠ノ之に話しかけるとまるで敵を見るような目で睨まれる。

 織斑が良くて俺が駄目――。

 そこから導き出されるのは……まあ単に織斑が好みって事だろう。

――織斑は正直モテる。

 俺よりもISランクが上で、織斑先生の弟という立場からか、色んな女性からアプローチをかけられていた。

 美冬とセシリアは興味が無いのか、普通にクラスメイトとしてしか話をしていないが……。


「ヒルトさん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ」

「あぁ、悪いな。だがセシリアも――」


 ――そう言葉を続けると、隣の織斑が会話に割って入ってきた。


「なあセシリア、俺もヒルトと同じように教えてくれないか?」


 一夏は出会った当初からセシリアを呼び捨てにしている。

 セシリア自身も何度か訂正させたものの、結局折れて好きに呼ばせる事にしたって言ってたな。


「あら? 織斑さんには篠ノ之さんというコーチが――」


 セシリアが話していると、更に割って入るように通信回路が開き――。


「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!」


 ――篠ノ之の怒鳴り声が、俺やセシリア、織斑の耳に響いた。

 少しは俺やセシリアの迷惑も考えてほしいものだが、視野が狭いのか、そんなこと構わずなのか……。

 それはそうと、地上では山田先生がインカムを篠ノ之に奪われておたおたしている。

 何故、俺たち三人が地上の山田先生や篠ノ之、他のクラスメイトが見えるのかというと、ISに備わっているハイパーセンサーによる補正のおかげだ。

 上空二百メートルのこの位置から、クラスメイトの顔や睫毛まで鮮明に見える……。


「ヒルトさん、これでも機能制限がかかっているのでしてよ。 元々ISは宇宙空間での稼働を想定したもの。 何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この距離を鮮明に見えるのは当たり前の事ですわ」

「へぇ…。 でも、そうなると何で武器が必要なのか、スポーツに変わったのかわからんようになるな」

「それは――」


 セシリアが言いかける中、織斑先生が――。


「有坂、織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。 目標は地表から十センチだ」

「……了解です。 ではヒルトさん、織斑さん、お先に。 ――ヒルトさん、無理はなさらないでくださいな」

「あぁ、無理はしないさ、これがな」


そう俺に告げ、俺が返事をするとセシリアは微笑み、そのまま急降下を開始した。

 小さくなっていく姿を見ながら、俺は排熱処理をし、再度ブースターを点火すると、織斑から離れて全スラスターで姿勢制御を行いながら、徐々に重力に引かれていくのか、少しずつ落ちていく。


「次は織斑だろ、行ってこいよ」

「……なあヒルト、こんなときに何だが――そろそろ一夏って呼んでも――」

「悪いな、まだそう呼べるほど親しい仲じゃないだろ? ……織斑が俺をどう呼ぼうが構わないが、俺は俺で好きに呼ばせてもらうだけだ」

「そっか。 ならいつかは呼んでくれよな?」


 そう俺に告げると、そのまま急降下し――激しい轟音をたてながら墜落して、クレーターを作っていた。

 ――俺もああなるのか…。


 ブースターやスラスターを切ると、かろうじてゆっくりと緩やかに降下していたのが、重力に引かれて――一気に加速していく。

 その加速力は、重力に引かれるのも合わせて並の絶叫マシンなんか目じゃないぐらいの恐怖を感じさせた。

 眼前に地上が近づいてくる――。

 再度、ブースターやスラスターを点火し、機体を持ち上げて全力で完全停止?を行うが、重力に引かれすぎて加速のついた状態では間に合うはずもなく――。

 激しい轟音を立てて、クレーターではなく、人形の形とISの形状の形をした穴になった。

 言われるまでもなく、ギャグ漫画みたいな落ち方をした俺、有坂ヒルトの上空二〇〇メートルからの初墜落だった――。 
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