IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第三十四話】
――一組教室――
「お前のせいだ!」
そんな言葉が教室中に響いた。
現在昼休み。
声がした方へ振り向くと、篠ノ之が織斑に文句を言っていた。
午前中の授業だけで山田先生に注意三回、織斑先生に二回頭を出席簿で叩かれていた。
「まあ、話なら飯食いながら聞くから。とりあえず箒、学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」
腕を組み、満更でもなさそうに頷く篠ノ之。
そして織斑が俺の方を向いて口を開いた。
「ヒルトも一緒に食べないか?」
「んー? 構わんぞ、美冬とセシリアも構わないか? 一緒に食べる約束しててな、これが」
「そうだね、たまには皆で食べるのもいいかも」
「えぇ、わたくしも構いませんわ。たまには皆さんと食事をするのも良いものですし」
美冬、セシリアが頷くと、善は急げと言わんばかりにぞろぞろと学食に移動した。
――食堂、券売機前――
織斑、篠ノ之と券売機で券を購入した後、俺の番が回ってきた。
「えーと、これとこれと――」
ピッ、ピッ、と券売機のボタンを押し、どんどんと券を購入していく。
「お、おいおいヒルト、そんなに食えるのか?」
「ん? 別に食えるが?」
「な、ならいいんだけどさ」
そう言って前に向き直す織斑。
そんなに食べ過ぎだろうか…?
「……今日の昼はこんなもんかな」
「相変わらずお兄ちゃん、よく食べるよね?」
「え、えぇ。わたくしも最初はビックリいたしましたわ」
そう二人が口々に、若干呆れつつも俺を見てきた。
「ん~、まあ子供の頃からよく食ってたからな」
「それでいてお兄ちゃん、全く太らないんだもん。羨ましすぎる」
「油断しますと直ぐに……。食べても太らないなんて、羨ましいですわ」
美冬、セシリア共に口々に羨ましい等々、そんな声が聞こえてくる。
前にいた篠ノ之も、俺がどれだけ券を買ったのか気になるのかチラチラと見てきた。
「待ってたわよ、一夏!」
何事かと思い、前の方を覗いてみたら織斑の前に立ち塞がっていたのは朝から噂の転入生。
二組の代表候補生さんだ。
名前覚えてねぇ……。
織斑は何かランかリンって言ってた気がするが……。
「まあ、とりあえずそこ退いてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」
うーん……織斑に用があるならとりあえず、食事の時にしてほしいものだ。
ただでさえ俺が食券買うのに並ばせてたのに、後ろを見たら更に並んでいる……。
「のびるぞ」
「わ、わかってるわよ!大体、アンタを待ってたんでしょうが!何で早く来ないのよ!」
「……なああんた、そんな無茶言うなよ」
「誰よ、アンタ!?」
キッと、睨んでくる二組の代表候補生、女子は皆こんななのかと勘違いしそうになる。
「一組男子、有坂だ。一応行っておくが世界は君を中心で回ってる訳じゃないんだ。此方にも用意とかあるんだし、織斑に用事があったなら昼休み直ぐに来たらよかったんじゃないのか?」
「……あ」
まさか思い付かなかったとかいうオチなのだろうか?
「まあまあヒルト。――それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
「あ…、げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ……」
怪我病気希望とか確かにわけわからんな。
てか早く飯取れよ……。
「あー、ゴホンゴホン!」
「織斑、早く鯖の塩焼き取りな。後がつっかえてるんだ」
「あ、わりぃわりぃ」
そう伝えると、織斑は出されていた鯖の塩焼きを取り――。
「向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ」
「悪い。先に行っといて、量が量だけに何度か往復しないといけないからな」
俺はそう伝えると、端の受け渡し口へと移動した。
そこから少し離れた、約十人近くが座れるテーブルに移動した織斑や篠ノ之、二組の転入生。
その隣のテーブルにセシリアや妹、他に着いてきた女子たちが座った。
「はい、有坂くんおまちどおさま」
「いつもすいません、おばちゃん」
「いいんだよ、おばちゃん達も作ったかいがあるってもんさ。他のも出来上がったら呼んであげるから、先に食べておいで?」
そう促され、出された御盆をフルに持てる限り持ち、妹たちがいてるテーブルへとついた。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
ついた瞬間、篠ノ之が織斑にあの子との関係を問いただしていた。
「篠ノ之、普通に考えたら友達だろ? それか付き合ってた、又は現在も付き合ってるとか」
持ってきた料理を、空いたテーブルの上にどんどんと置いていき、美冬の隣へと座る俺。
「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」
「そうだぞヒルト。何でそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」
「ふーん、いただきまーす」
織斑の幼なじみね、まあそんな所だと思ったが。
「……………」
「……? 何睨んでるんだ?」
「何でもないわよっ!」
箸を進め、どんどんと料理を平らげていく俺をよそに、話は進んでいく。
「幼なじみ……?」
そんな怪訝そうな声と表情で聞き返していたのは篠ノ之だった。
モシャモシャと口いっぱいにご飯を平らげる俺は、黙ってその様子を見ていた。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」
篠ノ之に説明する織斑、二組の子も篠ノ之も、互いに不機嫌に見える。
そんな中、俺の頼んだ料理は、どんどんと空になっていき――。
「す、凄いですわね。あれだけあった料理が……」
「むぐむぐ……。そんな凄いことか?」
ひょいひょいと箸を進め、餃子を一気に平らげ――。
「ふぅ、残りの頼んだの取ってくる」
「ま、まだ食べますの?」
「はあぁ……。有坂くん凄いねぇ……」
感心しているのか呆れているのか、ただただ俺が食べ終えた皿を見ている女子たち。
セシリアも何度か見ていても、やはりいつも驚いているようだった。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」
篠ノ之も織斑の幼なじみ。
てか、二人とも幼なじみなのか……?
篠ノ之は、まあ何とかわかるが、転校生は違うような。
その理論でいくと、俺の幼なじみは100人以上いることになるがな、これが。
「ふぅん、そうなんだ」
転校生が、じろじろと篠ノ之を見ている中、俺はまた受け取り口まで用意されていた料理を取りに行った。
そして、またテーブルへと戻ると、何故か今度はセシリアと対立していた。
「わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
最初の方は遠くて聞こえなかった、俺は持ってきた残りの料理を更にテーブルに置いていく。
転校生の凰鈴音は、セシリアを一瞥したあと――。
「……誰?」
その一言を聞いた、セシリアの顔が段々と赤くなっていきながら――。
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
言葉に詰まりながら、セシリアの顔は怒りで赤くなっていく。
俺は二人にたいして余計な一言は言わずに、また料理を食べ始めた。
「い、い、言っておきますけど、わたくし貴女のような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
ふふんと、胸を張る凰鈴音。 張るほどの胸が無いのが残念にしか思えなかった、けして本人には言えないが。
「……………」
「い、言ってくれますわね……」
「まあまあ、セシリア落ち着いて落ち着いて」
そう宥めたのは隣にいる美冬だ。
黙って頼んだ料理を食べ終えて、織斑たちの様子を見ていたようだ。
「セシリア、落ち着きなって。彼女が強いって言うならいいじゃん。勝負する機会があれば、その時にセシリアの実力見せればいいんだし」
「……そ、そうですわね。ヒルトさん、美冬さん、お見苦しい所をお見せしてごめんなさい」
「気にするなって」
怒りの沸点が下がったのか、落ち着きを取り戻したセシリア。
そんな俺たちの様子を無視し、凰鈴音は織斑の名を呼んだ。
「一夏」
ラーメンをすすっていた凰鈴音は、どんぶりを置き、身を乗り出して――。
「アンタ、クラス代表なんだって?」
「っ!? ゴホッゴホッ!!」
「はあ? なあ鈴、誰から聞いたんだ?」
思わず、目を見開き咳き込む俺。
いつの間に織斑が代表になったんだよ…。
「え? 二組ではアンタが代表って聞いたけど?就任パーティー開いたって――」
「凰さん。残念だけど織斑くんは代表じゃないんだよ。お兄ちゃんが、一組代表なんだ」
「はあっ!?……アンタが…?」
「……ああ、悪かったな、織斑じゃなくて」
此方をまじまじ見たあと、すぐに織斑の方へと顔を向け直す凰。
「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
凰は織斑に言うと顔をそらし、視線は織斑に向けていた。
言葉は歯切れが悪そうに聞こえた。
「そりゃ助か――」
織斑の言葉を遮るように、テーブルを叩く音が食堂に響いた。
叩いた張本人は、篠ノ之だ。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ。それに…敵の施しは受けぬ」
「……別にいいんじゃねぇか、篠ノ之?」
「なんだとっ!?」
俺がそう言うと、篠ノ之は此方を睨み付けてきた。
睨み付けるの好きだな、篠ノ之って。
「篠ノ之がどうこう決めることじゃない、織斑自身が決めることだからな」
「うっ……」
「へぇ……。アンタ良いこと言うわね」
押し黙る篠ノ之に、感心したように頷く凰。
「凰、別にあんたに味方した訳じゃない。決めるのは織斑自身だからな」
「お、俺がか?」
「当たり前だろ? お前自身の問題だからな――さて、飯も食ったし教室に戻ってうだうだするかな、これが」
そう織斑たちに告げると、俺は食べ終えた大量の料理の皿をまとめ始める。
「そうですわね、そろそろ教室に戻って次の授業の準備をしませんと」
セシリアも賛同するように頷き、自身が食べていた洋食ランチの皿を持って返却口へと向かった。
「あー、そうだね。私も授業の準備しなくちゃ。――じゃあ織斑くん、篠ノ之さん、凰さんお先に」
美冬も同じように皿を片付けに行った。
「じゃあな、三人とも。よく話し合えよ~」
俺はそう言い残し、皿を返却口へと持っていった。
正直、誰が織斑のコーチをするとか聞いてられないのが現状だ。
人のことより出遅れてる自分の事が重要だ。
食堂を出てすぐそこに、セシリアがいた。
「あ、ヒルトさん」
「よぅ、待っててくれたのか?」
「えぇ。美冬さんは訓練機の申請と許可を受けに行きましたわ」
「そっか。――悪いなセシリア、いつも訓練に付き合ってもらってさ」
「い、いえ。わたくしで良ければいつでも言ってくださいまし」
「あぁ。遠慮なく頼ませてもらうさ、これが」
そう俺は口にすると、口元に手を当てて微笑むセシリア。
最初にあった頃から考えると信じられないな、こうやってセシリアと話をしあえるのって……。
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