IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第三十八話】
時は流れ、既に五月。
ゴールデンウィークは、家に戻りたかったのだが戻れず、訓練の日々。
ISを使わないときは周辺視野を鍛えるトレーニングを中心にやっていた。
お陰で、少しだけ速読が出来るように――。
――速読じゃダメじゃん…。
――と、そんなことよりも織斑と凰の関係が日々悪化している。
事情の知らない俺や美冬、セシリアにとっては困惑するしかない――。
「お兄ちゃん、来週からはいよいよクラス対抗戦だね」
「えぇ、アリーナは試合用の設定に調整されますから、実質特訓は本日で最後ですわね」
「あぁ、後はイメトレとか色々IS使わずに出来る訓練メインでやらないとな」
現在は授業も終わり、放課後。
空が橙色に染まり、ゆっくりと水平線上に夕日が飲み込まれていく。
そしていつもながら特訓のために第三アリーナへと向かう。
向かうメンツは、俺、織斑、篠ノ之、セシリア、美冬だ。
――織斑は、俺の特訓を一緒にするために付いてきて、篠ノ之はそのお供みたいな感じだ。
――未だに篠ノ之からは睨まれるのは、距離が縮まっていないからだろう。
美冬も話しかけたりしているのだが、なかなか仲良くなれないって嘆いてたな。
「一夏も有坂も、IS操縦ようやく様になってきた――」
「まあ、わたくしが訓練に付き合っているんですもの。ヒルトさん、織斑さんもこのくらい出来て当然ですわ」
「ふん。中距離射撃型の戦闘法が役に立つものか。第一、一夏のISには射撃装備がない」
「あら?わたくしはヒルトさんに教えて差し上げてますから、ヒルトさんにはお役に立ちますわ」
――篠ノ之にとっては、俺はどうでもいいようだ、構わないが。
織斑のISには射撃装備が一切無いらしい――。
普通、ISは機体事に専用装備を持っている。
『初期装備(プリセット)』だけでは足りないので、『後付装備(イコライザ)』というものがある。
セシリアのISの初期装備は自律機動兵器の『ブルー・ティアーズ』。
後付装備に狙撃銃と近接ナイフが装備されているという感じだ。
そして、ISというのはこの後付装備のために『拡張領域(パススロット)』が設けられている。
そして、装備できる量は各機のスペックによるが、最低でも二つは後付け出来るようになっているのが一般的なISだ。
――だが、織斑のISは特殊なようで、拡張領域ゼロ。
初期装備も書き換えられないらしく、近接ブレードのみということだ。
「――ではヒルトさん、本日は昨日の『無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)』のおさらいから始めましょうか」
「え?でも復習って意味で基礎をおさらいの方がお兄ちゃんにはよくない?」
「なら、えーと…無反動旋回?のおさらい後に基礎だな」
三人で会話をしつつ、先導していた織斑が第三アリーナのAピットのドアセンサーに手を触れた。
指紋・静脈認証によって解放許可が下りたドアは、バシュッと音を立てて開いていく――。
開いた先には人の姿が見えた、その相手は――。
「待ってたわよ、一夏!」
――二組の凰鈴音だった。
腕を組み、不敵な笑みを浮かべていた。
「貴様、どうやってここに入った。関係者以外は立ち入り禁止の筈だぞ!」
――篠ノ之と凰は、相性が悪いのか?
まあ原因は明らかに織斑だが。
そんな篠ノ之を見た凰は、挑発的な笑いとともに――。
「あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」
「うーん、でも俺関係ではないよな?」
俺の発言を聞き、目尻をつり上げて此方を睨み付ける凰。
「あんたは関係ないんだから引っ込んでてよ」
「――既にこの場にいてる以上、関係ないとはいえないさ。とにかく、要件を言ってくれないか?」
「……そうね。あんたの言う通りかもね。――で、一夏。反省した?」
「へ?なにが?」
織斑の返答に、こめかみをひくひくと引くつかせている凰。
原因がわからない以上、俺や美冬、セシリアは見ているしか出来ない。
痴話喧嘩なら他所でやってほしいのだがな、これが。
「だ・か・らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」
「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」
「あんたねぇ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ!?」
「おう」
――その一言に、俺は絶句した。
だって有り得ないだろ、理由は解らないが自分が原因で相手が怒っているんだ。
普通、その言動や行動を思い直して此方が言ってはいけないことや、やってはいけないことをしたのなら普段は避けられても相手の家に行くとかして謝るだろう。
そう考えてる間にも、織斑と凰の口論は続く。
「なんか変か?」
「変かって……ああ、もうっ!」
焦れたように声を荒げ、頭をかく凰。
「謝りなさいよ!」
――普通、ここまで怒らせるというのは、余程酷いことを言ったとか、約束破ったとかだろう。
所詮は俺の推測、真実は全くわからないが。
「だから、なんでだよ!約束覚えてただろうが!」
「あっきれた。まだそんな寝言言ってんの!?約束の意味が違うのよ、意味が!」
約束――この約束が肝か、内容まではわからないから何とも言えないが、明らかに織斑が悪いとしか言えん。
「あったまきた。どうあっても謝らないっていう訳ね!?」
「だから、説明してくれりゃ謝るっつーの!」
「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが!」
――仲裁しても意味がなさそうだな、両方ともヒートアップし過ぎだ。
「じゃあこうしましょう!来週のクラス対抗戦が終わった後、アリーナで勝負して勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられるって事でいいわね!?」
「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな!」
既に売り言葉に買い言葉。
互いの意地と意地のぶつかり合い。
――織斑も大人しく下りれば問題も解決するのに、どうせカッコつけてるのだろう。
男がそう簡単に言葉を取り消せるかって――俺には理解できないが。
「せ、説明は、その……」
指を織斑に向け、指したまま顔が赤くなる凰。
「なんだ?やめるならやめてもいいぞ?」
――怒っている相手にその言葉は逆効果だな、頭に血がのぼっていたら冷静には考えられないのだろうが。
「誰がやめるのよ!あんたこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」
「何でだよ、馬鹿」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは!この朴念仁!間抜け!アホ!馬鹿はアンタよ!」
――既にガキの口喧嘩だな、だが煽る織斑が悪い。
俺にでもわかる。
彼女は引かない、強情な性格で、こういった事になると素直に引けなくなるということが。
――今の凰の文句にムカついたのか、織斑は凰を怒らせる一言を言った――。
「うるさい、貧乳」
――その一言に、凰は完全に頭に来たようだ。
爆発音がアリーナに鳴り響き、咄嗟に美冬とセシリアを庇うように二人を衝撃波から守った。
「二人とも、大丈夫か?」
「う、うん。お兄ちゃん、ありがとう」
「えぇ、わたくしも大丈夫ですわ。ヒルトさん、ありがとうございます」
「篠ノ之は大丈夫か?悪い、距離が離れすぎて庇えなかった」
「無論だ、貴様に助けられるまでもない。――だ、だが、気遣いには…感謝…する」
――見る限りだと、三人とも無事なようだ。
そして、再度二人の方を見ると、凰の右腕は指先から肩まで、IS装甲化していた。
「い、言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわね!」
拳を握りしめる凰のISアーマーから紫電が走った。
「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」
「今の『は』!?今の『も』よ!いつだってアンタが悪いのよ!」
「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……。いいわよ、希望通りにしてあげる。――全力で、叩きのめしてあげる」
そういい告げると、凰は鋭い視線を織斑に送って、俺の隣を通り抜けるその瞬間――。
「……っ!!」
涙を堪えきれなかった彼女の姿を、俺は見てしまった――。
ピットのドアが閉まり、アリーナ全体が静まり返っている、空気が重い。
「……織斑、俺には何で喧嘩してたのか理由はわからない。――だが引けるときに引かないお前が馬鹿だということだな」
「そうだね。織斑君は、人の気持ちを考えられないんだね…」
美冬からも痛烈な批判が飛ぶ、美冬自身、そういうことは言わない性格なのだが、流石に許せなかったのだろう。
そして、壁を見ると約三十センチ程のクレーターが出来ていた。
アリーナの壁は特殊合金製だ。
それをへこまず威力が、凰のISにはあるのだろう。
「……織斑、今謝っても遅いが後で絶対謝れよ」
「…………」
正直、俺はこいつを殴り飛ばしたい。
幾らなんでも、さっきのは酷すぎるからだ。
俺は殴るのは嫌いだが――それ以上にこんなバカはもっと嫌いだ――。
手をぐっと握り、殴るのを我慢すると俺は空を眺めた――。
後書き
アンチ一夏では無いが、馬鹿とは思ってる
――まあこんな主人公が作者にとっては完璧な主人公らしいが
……完璧な主人公なんてものは存在しないと、著者的には思ったりするけどな
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