IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第二十九話】
前書き
オリジナル最後の帰宅編です
えー…THE駄文ですので読むのが苦痛でしたらスルーで
それでも読んでくれたかたは最後までありがとうございました
次の話は原作通りに進みます
――電車内――
あの後、俺は二人の買い物に付き合い、荷物持ちとして色々な店を回ったり、ウインドウショッピングを楽しんだりした。
最初の二人の一触即発な雰囲気は何処へやら、帰り際にはもう仲が凄く良くなっていた。
でも、互いにライバルで、どちらが勝っても恨みっこなし――とか言ってたな。
その事について、俺は二人に聞いてみたのだが――。
『内緒♪ヒルトは鈍感だから、今はわからないよ』
『そうですわね。鈍感ですから』
――と、どうやら俺は二人の中で鈍感男認定された。
――まあ、色々気づかないことも多々あるよ、俺は。
そして現在、本来はセシリアは車で来ていたようなのだが、せっかくだからということで俺と一緒の電車に乗って学園へ帰っている途中だ。
そして、肝心のセシリアはというと――。
「すぅ……すぅ……」
隣で見事に俺の肩に頭を乗せて寝ている。
疲れているからだろう、だが――これは明らかに他の人が見たら恋人同士に見えてしまう。
――いや、セシリアが仮に俺の彼女だとして俺に不満はないが、セシリアは多分嫌がるだろう……。
一方の未来は、荷物に関しては未来のお母さんが車で迎えに来るって携帯で連絡とっていたから問題無いだろう。
帰り際に――。
『ヒルト、ちゃんとメールの返事を返しなさいよっ!待ってるんだから、私』
――可能な限りは未来に返すようにしなければ。
そういや、男友達のメールも貯まってたな。
内容は――学園の子と合コン出来るように主催しろ、紹介しろ、羨ましいぞバカヤローコノヤロー等々――。
……こんな内容ばかりだと、返す気がなくなってしまう。
――何気なく俺は電車の窓から外を眺めた。
水平線上を、ゆっくりと夕日が沈み、空は徐々に薄暗くなっていく。
――親父や母さんは元気かな……。
俺は何となく、不意に親父と母さんの事を思い出していた。
一年に数回しか帰って来ないからな、俺も美冬も最初は寂しかったが――。
――少し感慨深くなってしまったな。
隣のセシリアを再度見ると、まだ規則正しく寝息をたてていた。
――これが俺以外の男なら、絶対寝てる間に軽く悪戯されたり、キスされたりするぞ。
――何て思い、一瞬セシリアの唇に視線が移ると、顔に熱を帯びるのを感じ、俺は思わず顔を反らした。
はぁっ……早くセシリア起きてくれないかな……。
そんな虚しい願いをしつつも、揺れる電車で起きないようにセシリアに気を使い続けた。
――学園への帰路――
本当に疲れているのか、駅へ着いてもセシリアは眠っていた。
流石に置いていく訳にはいかず、セシリアをおぶり、荷物が全て手提げ袋だったので手に持ちながら学園への道を歩いていく。
俺の荷物は、駅のロッカーに入れておいた、後日取りに行けば問題ないしな、これが。
「んん……ん…っ。 ――あら……わたくし……」
「おっ? 起きたか、セシリア?」
首を振り向けると、思った以上にセシリアの顔が近く、心臓が早鐘を打つぐらいドクンッドクンッと鼓動した。
「ヒルトさん。 わたくし……寝ていましたの…?」
「お、おぅ。 もうびっくりするぐらい大口を開けながら寝てたぜ?」
「えぇっ!? ――わ、わたくし、そんなはしたない寝かたをしていたのですかっ!?」
気恥ずかしさなのか、おぶられてもたれ掛かりながらもセシリアは両手で顔を隠す。
顔は見えないが、思わず俺は笑いを我慢できず――。
「ぷっ。 ――はははっ♪ セシリア、冗談だよ冗談っ♪」
「~~~~っ!? ひ、ヒルトさん! 意地悪ですわっ!?」
ポカポカ――そんな効果音が聞こえてくるような――両手で交互に、痛くないようにセシリアが肩や背中を叩いてきた。
端から見ると微笑ましい――そんな光景だろう。
「いたたっ。 わ、悪かったって」
「もぅっ! 知りませんわ!!」
怒ってるのか拗ねてるのか、俺にはわからなかったが――。
ただ、セシリアもこんな風な一面があるってのに少し驚きつつも、セシリアをおぶりながら歩き続ける。
「あ、あの……ヒルトさん……?」
「……? どうした?」
何だかセシリアの様子が少しおかしい気がする――。
「そ、そろそろ……降ろしていただけませんか?」
……そういや、おぶりっぱなしだったな。
まあ特別セシリアが重いとか思わなかったが――降ろしてほしいというなら断る理由もない。
「了解――」
そう言い、屈むと急にセシリアが――。
「あ――ち、ちょっと待ってくださいな」
その声に反応し、その場で止まって顔をセシリアの方へ向けると――。
「や、やはり……もう少しだけお願いしますわ……」
「……? 了解、ならしっかり掴まってろよ?」
俺はセシリアにそう伝えると、再度セシリアをおぶり直す。
そして、またゆっくりと歩き始めた。
「……こうやって殿方におぶられるのって……久しぶりですわ」
不意にセシリアが呟く、俺は久しぶりという言葉に引っ掛かり、問い直した。
「久しぶりにおぶられるって??」
「あ――い、いえ……何でもありませんわ」
――言いたくないことなのか?
「……まあ無理には聞かないさ、これが」
そうセシリアに伝えると、俺はまた歩き始めた。
「……ヒルトさんには、わたくしの両親の話をしたかしら?」
「ん? いや、聞いてないな」
俺がそう答え、暫くすると重い口調で、セシリアは口を開く。
「……わたくしの父は、いつも母の顔色ばかり伺う人でした」
「……? そうなのか?」
「えぇ、父は名家に婿入りしたのですが……。 それが母に多くの引け目を感じていたのだと思います。 幼少の頃から、わたくしはそんな父を見て育ったのですから」
「……成る程」
相づちをうつように、小さく頷く俺。
そんな俺の反応を見ながらセシリアは言葉を紡いでいく――。
「そして、ISが世界に発表されてからは、父の母に対する態度は益々弱くなっていきましたの……。 そんな母も、どこかそれが鬱陶しそうで、父との会話拒んでいるようでした……」
きゅっと、セシリアの手に力が込められた。
「……母は強い人でした。 女尊男卑社会以前から、女性でありながらいくつもの会社を経営し、成功を収めた人でした……。 そして、厳しい人であり、わたくしの憧れの人でした」
……『でした』?
「セシリア、でしたって過去形だが、今は……?」
「……三年前に、事故で……」
「……悪い、知らなかったとはいえ、俺なんかが聞ける内容じゃなかったな」
「い、いえ。 わたくしが勝手に話した事ですから。 ヒルトさんは気にしないでくださいな……」
――とは言うものの、俺が聞いたも同然だからな……。
そんな風に考え込んでいると、再度セシリアは口を開いた。
「……そんな父ですが、幼少の時にわたくしが椅子で疲れて寝入ってる時に、おぶってくれたことがありましたの。 ――今、ヒルトさんにおぶられて……その頃の事を今不意に思い出したのですわ」
そのセシリアの声には、何処か寂しげで、懐かしがるような――表現が難しいのだが、そんな感じがした。
「――まあ、俺にはセシリアの両親が互いをどう思っていたのか、よくわからないが。 ――セシリアのお母さんは、本当はお父さんにもっとしっかりしてほしかったんじゃないかな?」
「え……?」
驚いたような声を上げたセシリアを他所に、俺は言葉を続ける――。
「あ、まぁ俺の勝手な想像なんだがな。 名家とか、婿入りとかに縛られずにさ。 自分の夫として、セシリアの父親として――セシリアから見たら、セシリアのお母さんはお父さんを煩わしく思えたかもしれないが、案外……本心は今言った通りなんじゃないのかなって、俺は思うんだよ」
――本当にこれは、俺の勝手な解釈。
本人たちの本心は、今や知るすべが無いのでわからないが――。
「そぅ……だと良いですわね…。 ……ぅっ……ぅっ…」
俺の首筋に、水滴が落ちてきたので雨かと思い、空を見上げたがそんなことはなく――おぶっているセシリアの涙だと気づいた。
「わ、悪い! セシリアの傷に塩を塗り込むような真似をして――」
「い、いえっ……。 な、何だか、ヒルトさん……の言葉で……少し……気持ちが楽になった気がします。 ……ぅっ…ひっく…お、降ろして…ください…っ…」
――涙声になったセシリアを、その場で降ろすと――必死で涙を拭おうとしていた。
「……我慢しなくていいんじゃないかな、セシリア」
「ぅっ……ひっく……ひっく……」
まだ顔を両手で覆い、せめて泣き顔は見せないようにしているセシリアを見ながら、俺は言葉を続ける――。
「……我慢するよりは、思いっきり泣いた方がすっきりするぞ?」
「ひっく……ひ、ヒル……トさん……っ」
――そう伝えるや、セシリアは此方に体を預けるように、俺の服の襟元を掴み、胸の中で泣いた――。
「お父様……っ…、お母様ぁっ……!!」
今まで溜まっていた想いを、吐き捨てるように泣くセシリアを、俺は頭を優しく撫でることしか出来なかった。
元々は、俺が聞いたのが原因なのだが――。
でも――実際俺と同い年で、両親を亡くすというのは、心に深い影を覆うと思う。
それに、セシリアはそう言った話が出来る人は少ないように見える。
両親の遺産を相続した筈だろうし、貴族と言っていたから――金に群がる人間も多かった筈だろう……。
――これも、俺の憶測でしかないから……わからないがな……。
胸の中で泣いているセシリアを優しく撫でるように、落ち着かせるように頭を撫でるしか――今の俺には出来なかった。
――五分後――
少し落ち着いたのか、もうセシリアの眼から涙は流れていなかった。
「み、みっともない所をヒルトさんに見せてしまいましたわね……」
泣いたことによる気恥ずかしさからか、セシリアの頬が赤く染まっている。
……彼女の出会った当初の気丈な振る舞いも、もしかすると父親や母親を亡くした事を忘れる為だったのかもしれない。
既に陽は落ち、街灯の明かりと、夜空の星の光だけが輝いていた。
「いやいや、俺のせいもあったからな。 悪いな、セシリア……」
「いえ……。 わたくしと致しましてもヒルトさんに話せたので……何だかすっきり致しました」
笑顔で微笑むセシリア、表情を見てもある程度吹っ切れたのかもしれない。
――てか、遅くなってしまったな。
「さて、学園へ戻るか」
「あ、はい。 ヒルトさん、エスコートお願いしますわ」
「ま、またエスコートか?」
――と、俺自身苦笑しながらセシリアに聞くと、頬を膨らませたセシリアが。
「もうっ! 女性に恥をかかせないでくださいな……意地悪ですわ、ヒルトさん……」
顔を赤く染め、頬を膨らませたまま上目遣いで見るセシリア。
「わ、わかったって。 ――じ、じゃあお嬢様、どうぞ」
そうセシリアに伝えると、腕を組みやすくする。
するりと――自然に腕を絡ませてきた。
そんなセシリアは、熱っぽい視線を俺に向けながら――。
「うふふ。 で、ではヒルトさん、帰りましょうか?」
「あぁ、遅くなったしな。 腹も減ったしな」
そう伝えると、にこりと微笑んで俺とセシリアは学園へと帰っていった。
――誰かが見たら、勘違いされそうだよな、こう――腕を組んで学園へ帰ってきたら。
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